『声優道』とはなにか？　岩田光央さんが語る出版した理由――出版記念インタビュー

　声優の岩田光央さんが、自身初となる書籍『声優道〜死ぬまで声で食う極意〜』（以下、声優道）を出版したことを記念して、2月22日にトークショーとサイン会を開催しました。当日は平日にもかかわらず、大勢のファンがイベントに訪れていました。（レポートはこちら←※リンク※）

　イベント終了後、アニメイトタイムズは岩田光央さんにインタビューを行いました。『声優道』の執筆で苦労した点や読者に伝えたかったことなど、たっぷりお話を伺ってきました！

イベント終了後、『声優道』の著者・岩田光央さんにインタビュー
――岩田光央さんが出版された書籍『声優道』のサイン会を行った感想をお聞かせください。

岩田光央さん（以下、岩田）：自分で作詞したCDを出したときにサイン会はやったことがあったのですが、今回は書籍です。やはり重かったですね。

――「重かった」ですか？

岩田：はい。書籍はCDよりも自分が裸になっている状態だと感じました。この本をみなさんがどのように受け止めてくださったのか、反響を見るまでとても怖かったです。もちろん、いままで50年間生きてくるなかで「声優業」に真摯に向き合ってきた自負はあるけれど、他の人にどう捉えていただけているかは未知の世界でしたからね。

――サイン会ではひとりひとり丁寧に参加者と会話をしていました。どのような方が多かったでしょうか？

岩田：久しぶりに会いに来てくださった方が多かったのが嬉しかったです。なかには20年ぶりに会いに来てくださった方もいました。この本が僕のことを思い出させてくれて、サイン会に足を運ぶ動機づけを作ってくれたんです。

――岩田さんはイベントや舞台など、いろいろ活躍されているのに。なぜ20年ぶりなのでしょうか？

岩田：おそらく最近はアニメとかゲームから離れた生活を送っているからじゃないかなと思います。今回出版させていただいた『声優道』は新書です。書店の一般書籍のコーナーに並べていただける本です。なので、彼らは書店でたまたま僕の名前を見つけてくれて、足を運んでくださったのかもしれません。これは多くの書店に『声優道』を配本してくださった中央公論社さんのチカラだと思います。

――『声優道』の執筆は去年（2016年）の6月からスタートされたそうですが、出版されるまでは長かったですか？　短かったですか？

岩田：長くもあり、短くもありました。最初にお話をいただいてから、それを元に企画を立てていたのですが、そんななかで出版してくださるのが中央公論社さんに決まりました。その知らせを聞いたときはビックリしました。そんな大手の出版社さんから、まさか自分の本を出していただけるなんて思いもしませんでした。

――出版社との仕事で、思い出に残っていることはありますか？

岩田：編集者さんと向き合うときに、試されているような気がしました。ですが、自分の書籍なので背伸びをしても仕方ありません。コンセプトを決めたり章立てを考えたりする作業は緊張しましたが、同時にワクワク感もありました。なので出来上がったときは、本当に感慨深いものがありました。

――『声優道』の内容について伺います。まずは岩田さんの自伝から始まり、声優のお仕事の紹介、声優業の厳しさ。そして最後に若者にエールを送っています。とてもきれいな流れの本だと思いましたが、どなたのアイデアですか？

岩田：アイデアはいしいのりえさんと、中央公論社の編集者の吉岡さんです。吉岡さんは新書を知り尽くしているスペシャリストなので、組み立て方がとても上手いんです。一例を挙げると、『声優道』の最初に載っている文章を書いたとき、僕もいしいのりえさんもエピローグのつもりで書いていたんです。ですが、吉岡さんは文章を見て「これはアタマに持ってきたい」と言うんです。

――それは驚きますね！

岩田：その文章が、出版された『声優道』の最初の2ページです。僕は完成したものを読んで、「これが正解だった。吉岡さんはさすがだな！」と感動しました。

――文章の執筆は楽しかったですか？

岩田：正直に言ってしまえば、僕がすべて書いたのではありません。いしいのりえさんがライターとなって、僕が話したことをまとめてくださいました。それを僕が再度書き直していくという流れで作ってきました。そういう意味では、いしいさんの言葉の選び方に助けられています。僕ひとりだけで作業していたら、きっと出版するまでにあと3年以上はかかっていたと思います（笑）。

一番伝えたかったのは「職業」としての「声優」
――『声優道』のなかには、声優のお給料のことまで赤裸々に書かれています。一般的にお金に関することはあまり触れないと思いますが、書いてしまおうと思った理由はなぜでしょうか？

岩田：なぜ給料の話題はアンタッチャブルなのでしょうね？　僕たち社会人にとって「お金」はとても大事です。僕の職業は声優ですが、仕事をしてお金をいただくという点に関しては、他の職業と同じです。
たとえば大学生が就職活動をするとき、必ず給料・賞与を調べると思います。入社したらいくら貰えるかがわからなければ、その企業には入社しないと思います。

――そうですね。お金がないと生活できませんから。

岩田：なのに声優の給料に関する情報は、ほとんど出ていないんです。これでは声優を目指している若者たちがかわいそうです。声優になったらいくら稼げるのか？　どんな人生をおくれるのか？　職業として「声優」を選ぶからには、そういったところが見えなければファンタジーになってしまいます。

――なるほど。「声優になれればなんでもいい」のではなく、「職業として声優になるべき」ということですね。

岩田：だって声優は職業ですからね。お金のことは避けては通れません。なので僕は声優を目指している若者の指針になったらなと思い、『声優道』のなかで「がんばったらがんばっただけの結果が出る」と書いたのです。こういう本を出すのに、具体的な結果を書かないのは無責任だと思いました。金額もちゃんと言わなきゃいけないし、言うべきだと思います。

――では、『声優道』のなかでもっとも注意して書いたところはどこですか？

岩田：一番わかってほしかったのは、ちょうどいまお話した「職業＝声優」という部分です。卑下して低く伝えたくないし、変に夢物語として伝えたくもありませんでした。事実としての状態を伝えるべきだなと思って、一番気をつけて書きました。

――『声優道』はどんな人に読んでもらいたいですか？

岩田：やはり、いつかは声優になりたいと思って、いま頑張っている人たちです。「声優ってどんな仕事だろう？」とうっすら考えている高校生でもいいですし、本気で声優を目指している専門学校や養成所に通っている人でもいいです。また、声優事務所預かりの立場にいる若者たちにも、読んで参考にしていただきたいですね。

――声優を目指していなくても、アニメ作品が好きな人にも楽しめると思いました。制作の裏側が垣間見れると言いますか。

岩田：ありがとうございます。裏側と言うよりも、その部分もすべて含めて「声優」のお仕事なんです。

――執筆を終えてから、もっと書きたいと思ったことはありますか？

岩田：本を書き終えてから、またいつもの日常生活に戻ったときに「これも書いておけばよかったかな」と思うことが少しずつ出てきました。具体的ではありませんが、部分的にもうちょっとボリュームを増やせばよかったかなとか、補足すべきことがあったかなとか。

――では2冊目も出版してみたいですか？

岩田：それは当分はないです。ですが、今後もしかしたら「もっと伝えたいな」という思いが出てくるかもしれません。そして僕のなかで、その思いが飽和状態になったときに、改めて考えようと思います。

――岩田さんが目指す「声優道」とはなんですか？

岩田：それはシンプルに「職業」です。声優を職業として捉え、プライドを持って続けることです。

――最後にファンのみなさまへメッセージをお願いします。

岩田：おかげさまで、みなさんに僕の「生き様」を書籍というカタチで伝える場をいただき、本当に感謝しております。この本がどこまでみなさんのお役に立てるかわかりませんが、僕のなかでは精一杯の思いを込めて1冊にまとめました。読んでいただければ、きっとなにかみなさんに届くことがあると思います。50年生きてきた「社会人・岩田光央」から、なにかを掴み取っていただければ、これほど幸せなことはありません。ぜひ読んでください。よろしくお願いします。

［取材・文／佐藤ポン］

　
緊急告知！　トーク＆サイン会第二弾が大阪で開催！
　イベントの終了間際に、スタッフからトーク＆サイン会の第二弾が発表されました。次回は3月18日(土)に、大阪で開催されます。秋葉原に来られなかったファンのみなさんは、ぜひ足を運んでください。

【声優：岩田光央著　「声優道〜死ぬまで声で食う極意〜」発売記念トーク&抽選会イベント！ in大阪】
>>https://www.animate.co.jp/event/81789/