FFシリーズの作曲家が制作総指揮を務める“観客参加型”FFコンサートツアー『BRA★BRA FINAL FANTASY』東京公演レポ
『ファイナルファンタジー』(以下、「FF」)シリーズの吹奏楽コンサートとして、2015年から開催されている『BRA★BRA FINAL FANTASY』。
FFが30周年を迎える今年、3年目となる『BRA★BRA FINAL FANTASY/BRASS de BRAVO 2017 with Siena Wind Ohchestra』が、2017年4月2日の東京公演を皮切りに19都道府県+台湾の全23公演にて開催中です。制作総指揮を務めるのは、FF音楽の産みの親・植松伸夫さん。MCは声優の山下まみさん。演奏は日本を代表するプロ吹奏楽団シエナ・ウインド・オーケストラです。5月14日(日)に行われた東京文化会館公演(昼公演)のレポートを今回はお届けします。
近年『響け!ユーフォニアム』『ハルチカ ~ハルタとチカは青春する~』など、吹奏楽アニメが話題となっていますが、日本が世界有数の吹奏楽大国として知られていることをご存知でしょうか。一説によると、現役の吹奏楽人口だけでも100万人、OB/OGを含めると24人に1人は吹奏楽経験者と言われています。本コンサートでは、楽器を持っていれば誰でも参加可能曲が用意されているのですが、老若男女、小さな子供まで、楽器をもった来場者の多いこと! クラシックコンサートとは一味違う“観客参加型”になっているところが、このコンサートの魅力のひとつです。
開演前の物販エリアは、物販/CDを求める人はもちろん、楽器を持った参加者、事前のアンケートに記入するかた、特別に設けられた撮影コーナーを楽しむ人もいて、まるでひとつの町のようににぎやかでした。
今回は特別に開場前から楽屋裏にお邪魔させてもらったのですが、舞台裏の話をここで少し。リハーサル直後、主要メンバーが集まり当日の演出について話し合いをされていたのですが、「リハで決めても意味ないんだよねぇ(笑)。もう“寸劇”だから」と植松氏。制作総指揮者でありながら、観客との一体感によって広がりを見せる未知数のステージを誰よりも楽しみにされているのかもしれません。
植松さんの参加されているコンサートでは、開始前に植松さん直々に観客の中から「ブラボー係」を決める、というお馴染みの前説があります。この日ももちろん例外ではなく、「こんにちはー!」と穏やかなムードで植松さんがファンの前へと現れ、アピールしたファンのうち数名にサプライズのノベルティを渡していました。ブラボー係に任命された人は、ここぞというときに「ブラボー!」と声を上げるという、コンサートの盛り上げ役となります。このコーナーやブラボー係が存在することで、ファンの心が一気にほどけていく気がしました。
客席の大きな拍手に迎えられて演者がそれぞれ席に着くと、指揮者の栗田博文さんもスタンバイ。歓声が一際大きくなる中、栗田さんが演台に立ちスティックを一振りすると、『FINAL FANTASY V メインテーマ』のシエナ・ウインド・オーケストラの迫力の熱演がドラマティックに繰り広げられます。個人的には既に涙がこぼれる寸前でしたが(笑)、ノスタルジーにただただ浸るだけではない、現在進行形で挑戦を続けているFFならではのフレッシュさが光っていて、それぞれの思い出に新たな彩りを添えるかのようでした。
観客参加型のコンサートで、前半から大盛り上がり
植松さん、山下さんの挨拶を挟み、スーパーファミコン屈指の名作RPG・FFVIより『ティナのテーマ』そしてPlayStation®で音楽面も劇的な変化を遂げたFFVIII『Ami』をしっとりと響き渡らせます。ここからは一転して、参加型のボディーパッカション曲『ラテン de モーグリ』へ。シエナのモーグリおじさんとモーグリおっちゃんこと、打楽器奏者の荻原松美さんと東 佳樹さんのユーモアあふれる説明には、客席からはもちろん、植松さんと山下さんも大笑い。情熱的なボディーパーカッションで一体となり、最後は勢い余って、モーグリおじさんとおっちゃんが、まさかのキ……と、まさに寸劇に(笑)。
続けても参加型のナンバー『FINAL FANTASY メインテーマ』。リコーダーを持っていれば自由に参加できる曲ですが、その数の多さに植松さんと山下さんも驚いていた様子でした。そして国歌と言っても過言ではないこの名曲を観客と共に紡いでいきます。植松さん、山下さんもステージでリコーダーを一緒に吹かれていました。(HPに譜面が公開されていますhttp://sqex.to/bbff2017)。
リコーダーの音の深みをさらに響かせるかのように、リコーダーとパーカッションで『いつか帰るところ』を。前半ラストは『クレイジーモーターサイクル』『反乱軍のテーマ』を力強く聴かせました。
フロアは一度休憩に入るものの、バックヤードはせわしなく動いていました。事前に来場者が記入したアンケートを植松さんとスタッフがチェックし、山下さんと共に話し合い。第二部で発表されるこのアンケートも“観客参加型”のひとつで、1年目から行われています。休憩時間が終わると、植松さん、山下さんがステージ横に移動。演者たちを見送り『Force Your Way』『グルグ火山』と、静かに燃え上がるようなナンバーが観客の高揚感を煽ります。
少人数編成も含む目まぐるしい後半戦「自分が飽きないようなコンサートにしたい」
ここで植松さんと山下さんがステージへと祭壇し、アンケートを発表します。アンケートのテーマはFF30周年に掛けて「あなたにとっての30歳の自分は?」です。植松さん曰く「大人と子供の分岐点」である30歳。それぞれの夢や目標に、植松さんならではの言葉でエールを送りました。
とあるアンケートの回答に対して、植松さんが「続けることって才能だと思う。自分には音楽の才能はないと思ってるけど、継続は力なりって言葉を小さいころに聞いて、すごいなと思った」と話していたのが、印象に残っています。本公演もまた「継続は力なり」。3年目ならではのアレンジや挑戦が施されていて、後半戦は特にそれを感じました。
意表を突いたというビッグバンドのスタイルで演奏された『親愛なる友へ』。フルートなどの小編成で神秘的に届けた『水の巫女エリア』(まさに30歳の頃作られた楽曲とのこと)。まさかのバラを加えてカスタネットの演奏、さらにはタップダンスまで!? 観客から驚きの声が上がったパーカッション隊による『Vamo' alla Flamenco』。そして「アンコールが実はサイコロで決まる」という突然のサプライズを発表、と怒涛の展開。
「オーケストラのコンサートだと構えてしまう人も多いじゃないですか。そういうコンサートもあっていいと思うんですけど、ゲーム音楽のオーケストラ・コンサートだから、自由に楽しんでもらいたい」「自分が飽きないようなコンサートにしたい」と植松さん。そんな信念が、このコンサートを作っているのでしょう。
本編のクライマックスを飾ったのは、FFVIIより『エアリスのテーマ』『片翼の天使』。繊細な感情の動きまでをも表現した壮大なスケールのサウンドで、観客の心を射貫きました。
「ブラボー!」「ブラボー!」──アンコールを求める歓声、拍手が起こる中、巨大サイコロを持って植松さん、山下さんが登場。サイコロには『The Man with the Machine Gun』
『ビッグブリッヂの死闘』『ハンターチャンス』『シーモアバトル』が書かれており、何もない2面が出たら拍手の大きさで曲を決めるということ。後者2曲は初披露となるだけあって、発表と同時に大きな拍手が沸き起こりました。
注目が集まるなか、指揮者の栗田さんがサイコロを勢いよく転がすと……『The Man with the Machine Gun』が。よく演奏されていた曲だけに、植松さんも「栗田さん、マシンガン出しちゃダメだよ!」と大笑い。とは言え、『The Man with the Machine Gun』は熱い盛り上がりを見せ、間違いなく、この日のハイライトのひとつとなりました。ちなみに、演奏後一度袖に戻ってきた栗田さんはサイコロを無言で振り続けていました(公演後もずっと振られていました・笑)。
そんなお茶目な栗田さんが、まさかの鼻眼鏡で登場したのが、ラストの『マンボ de チョコボ』。楽器を持っている人であれば、だれでもステージにあがることができる曲で、『FINAL FANTASY メインテーマ』と同様に譜面をHPでダウンロードすることができます。この日は多くの楽器に加え、指揮者から邦楽器、物販でもらえるおもちゃの楽器……さらには、FFのドット絵を手掛けた渋谷員子さん、FFや『サガ』シリーズでもお馴染みの河津秋敏さんまでが登場し、FF30周年の祝祭のような状態に。植松さんは昨年の公演で公約したというサックス、山下さんはフルートで参加。色とりどりの楽器の音色とゴキゲンなメロディーで、素晴らしい景色を作り出しました。
残りわずかの公演となっていますが、『BRA★BRA FINAL FANTASY/BRASS de BRAVO 2017 with Siena Wind Ohchestra』は7月まで続きます。ゲーム音楽を楽しむ、この喜びはぜひ生で体感して欲しいな、というのが率直な感想です。CDも3作リリースされているので、ぜひチェックしてみてくださいね。
[取材・文/逆井マリ]
>>BRA BRA FINAL FANTASY BRASS de BRAVO 2017