この記事をかいた人
- 石橋悠
- 1989年福岡県生まれ。アニメとゲームと某王国とHip Hopと自炊を愛するアニメイトタイムズの中堅編集者。
『攻殻機動隊』の原点となるストーリーを描いた『攻殻機動隊ARISE』(以下、ARISE)。2013年に劇場上映された本作が、ついにBlu-ray BOXとして、2017年12月22日に発売となります。
シリーズのファンにとって待望の最新作。大いに盛り上がった作品となりましたが、発表当時は声優陣が一新されるということもあり、「一体どうなるのか?」と期待と不安が入り混じった、不思議な心持ちの方も多かったようです。それは声優陣も同じーー。
今回は、Blu-ray BOXの発売を記念して行った、草薙素子役の坂本真綾さんへのインタビューをお届け。約4年越しとなる『ARISE』への想いを紐解いていきましょう。
坂本さんも感じた「声優変わるの!?」
──ちょっと若かったというか。
坂本:でもそのぐらいの気持ちがないとできない仕事だと思います。当時、私はもう30代に入って、今までにやってきたキャラクターとは違うものにどんどん出会っていた時期でした。『ARISE』の素子もその一つ。若い時から役者をやってきたけど、若い時には絶対できなかったタイプのキャラクターです。
そういうものと30歳を過ぎてから出会えるようになってきたことに対して、すごくやりがいを感じていたし、『ARISE』も自分にとっては少し背伸びしたり高めのハードルに挑まなきゃいけない作品でした。そういう事に挑むことが楽しいと思っていた時期でしたね。
今考えれば、色々なタイミングが良かったなと思いますね。これがもう少し何年か前のプロジェクトだったら私ではなかったと思うし。ちょうど私の年齢感、重ねてきたものがありつつ、それでいてまだやったことが無いことに対する、未熟感も『ARISE』の素子にはすごく合っていて。いいタイミングで巡り会えたのかなと思いますね。
──運命を感じますね。
坂本:本当ですね。椅子はひとつなわけですから。そこにたまたま自分が座れたのは、すごく運がよかったと思います。
──お話を聞いていると、タフだなあと思いました。
坂本:タフに見せなきゃいけない場面もすごくあったんです。アフレコは特に大変でした。やはり主役をやる人がオドオドしていたらみんな不安だろうと思って(笑)。
しかも、ものすごい数の関係者が、みんな腕組んで観てるわけですよ(笑)。第一声を発する前というのは、やはり共演者同士もお互いどう出てくるのかなっていう空気がありましたし。みんな緊張していました。みんな「俺でいいのかな……?」とか思いながら現場に来てるし。
そんな中でも、いくらなんでも主役を演じる人があまりにも気弱な感じでやっていたらみんなの士気に関わるので、あえて雰囲気を気取らせないようにしなくてはと思いながらやっていた記憶はありますね(笑)。
──素子を演じながら、強い自分を演じていたんですね。
坂本:第一印象・第一声のインパクトって大きいじゃないですか。そんな緊張が入り交じる中、スタジオで第一声を発した時に自分で思ってたよりも、「あ、こんな感じなんじゃないかな」って思うような響きが出たんですよ(笑)。
それは「出たんですよ」っていうぐらい、意図してというよりも、「思ったより良い感でいったかな」っていう感触(笑)。それでちょっと落ち着いて、「自分の信じた通りにやれば大丈夫」って言い聞かせられるようになりました。
その後ももちろん色々難しいシーンもありましたけど、今思い返すと、いろんな意味で印象的なのはその第一声だったのかなと思いますね。
──確かに緊張しますね。みんな緊張している中で一番最初って、ちょっと可哀想な気がします……(笑)。
坂本:ほんと可哀想ですよ(笑)。あんなに大勢で怖い顔して見てなくてもいいのになって思うくらい!
やっぱり『攻殻機動隊』となると、それはもう一大プロジェクトでしたから、アフレコのスタジオの演出家さんや監督さんがいるお部屋に関係者が集まりすぎて人が入りきらなかったんです。
だからそういう風に、思えば思うほどプレッシャーは嫌でも感じるんですけど、それほどの大作に関われているんだってポジティブに捉えることもできましたね。
今だからわかる『攻殻機動隊』の世界
──『ARISE』に関わってから、ある種一つハードルを越えた感じがありますか?
坂本:結局自分でやっている以上、本当の意味では客観的にどうだったというのは一生分からないんですよね。だから結果、自分ではその時できることは悔いなくやったなということだけが感触としてはあります。
自分がハードルと思うものは越えたかどうかと言うと、越えたものもあれば超えられなかったものもやっぱりあるし。
でもその姿そのままが『ARISE』の素子とリンクしていて。強すぎない、完璧すぎない、かつての素子というのには自分が選ばれた意味はそこにあったんじゃないかと思います(笑)。
──周囲の反応はどうでしたか?
坂本:この仕事してるといろんな方が声をかけてくださるので、嬉しいです。特に褒められると嬉しいけど、でも「とりあえず半分ぐらいにして聞いとこ」みたいなことをいつも思います。私に直接良いことを言ってくる人というのは、半分は社交辞令みたいなもんだと思ってるから(笑)。
最初のアフレコから「どういう風にどんなダメ出しが来るんだろう」と思っていたんですけど、ほとんど指摘が無いままに最後まで進んでいって。すごく怖いくらいにアフレコがスムーズだったんですよ(笑)。
だからそういう意味では何も言われなさすぎて心配だったり。でも監督は良いって言ってるんだから、信じて進んでいこうと思ったし。良いとも悪いとも製作中にはそんなに大きくは言われなかったかな。
作品を観たみなさんから伝わってくる雰囲気としては「どうなるんだろうと思ったけど、意外に良かった」という感じだったのかな。ちゃんと『攻殻機動隊』だったけど、新しいとか。
シリーズを知っている人がニヤリとする、いろんなモチーフやセリフやエピソードがあって、昔からのファンの人は熱いものを感じながら見られるし、変わったところに関しても、想像していたよりも違和感が無かったりとか、これもありだと感じたみたいです。
それはこの『ARISE』に関して言えば、最大限の賛辞だと思います。だって違和感を感じながら観るのが一番辛いじゃないですか。
でも変わるんだからある程度の違和感はあるんですよね。違和感を最小限に食い止めた上で物語に集中してもらって、作品の全体のテーマに集中してもらえればなと私も思っていました。
だから私なんかのつまらない一言で集中を削ぐようなことはあってはいけない、という思いでしたね。そこが思ったより違和感なく受け止めてくれたのだとしたら、私はすごく嬉しいです。
──確かに『ARISE』は『攻殻機動隊』でした。
坂本:大きな挑戦をした作品でしたよね。きっとすごく勇気が必要だったと思います。でも私だけじゃなくて、他の声優陣も『攻殻機動隊』が大好きという方がいっぱいいて、だからこそイメージを壊したくないと思っていました。
だけど、声優が変わった以上、変わってしまうものもある。その中で自分がただなぞるだけではなくて、何か自分がやる意味とか自分がやる味付けなり、表現みたいなものを出していかなきゃいけません。攻めと守りのさじ加減が一人一人が苦労していたところだとは思います。
アフレコが落ち着いてからは、新しいメンバーの連帯感みたいなものも現場に出来て、すごくクリエイティブに、余計なプレッシャーを感じずに楽しんでやっていた感じがありますね。
──なるほど。新しいことも含めて『ARISE』の何がすごいと思いますか?
坂本:まずあの『攻殻機動隊』のエピソード0をやろうと思ったことがすごい(笑)。それをやるに当たって、これだけ布陣を変えてきたというのも攻めの姿勢だと思います。それが全体的に功を奏していて。
エピソード的には一番古い時代を描いているんですけど、物理的に映像の表現の技術が上がっているので、『攻殻機動隊』の世界観が分かりやすくなったのかなと思います。そういう意味では、時代が追いついたのかも。
私が昔、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』に出演(少女義体の素子役)したのが20年くらい前なので、その時は“電脳”とか“端末”とか“ハック”とか「ネットは広大だわ」って言われても何かよくわからなかったんです。
でも、今の時代にはみんな分かる言葉になったので、理解しやすくなったんですよね。
だからかもしれないけど、電脳会議が空間だったりとか、そういう近未来な世界観が、見た目的にもよく分かりやすいなと思いながら観てました。それは観る側の違いかもしれないですけど、だからこそより入りやすい。難しいことを言ってるんだけど、立体的に見えるのもすごいですよね。
『ARISE』、いつ見ます?
──まだ『ARISE』を見返していないということですが、自分が出演された作品って観ないんですか?
坂本:う〜ん……。一回は必ず観ますよ。それはほとんど仕事の一環で(笑)。自分の確認のためにも見なきゃと思います。でも反省会になっちゃうので、客観的に楽しむことはできないんですよね。
多分『ARISE』は、もっと年をとったり年月が経った時に見返したくなるんだろうなと思います。やっぱりとても大きな自分の代表作の一つだし、自分が挑んだことに、ねぎらいの気持ちを込めていつか見返すだろうなとは思いますね。
──その時に見返すとしたらどう感じると思いますか?
坂本:やっぱり今の私が観ると、どうしても素子の視線で観ちゃうんですよね。年を取った時にはもっと離れたところからこの作品の全体を観たいなーって思います。本当にお客さんの気持ちに近づけるような気がする。
やっぱり好きだったものに関わるというのは、こういう悲しい部分もあって(笑)。ユーザーだったらずっとファンでいられるし、ずっと楽しめるんですけど、自分が関わってしまった以上それはそういう視点ではなくなるんですよね。
だから、このプロジェクトにいた自分ではないくらい年を取った時に観たらもっと違うかもなって(笑)。
──また思い出の一枚が増えたという感じですね。
坂本:そうですね。特別な作品であることは間違いないです。
[インタビュー/石橋悠]
《衣装協力店》IPSE 03-3723-5200
1989年(平成元年)生まれ、福岡県出身。アニメとゲームと某王国とHip Hopと自炊を愛するアニメイトタイムズの中堅編集者兼ナイスガイ。アニメイトタイムズで連載中の『BL塾』の書籍版をライターの阿部裕華さんと執筆など、ジャンルを問わずに活躍中。座右の銘は「明日死ぬか、100年後に死ぬか」。好きな言葉は「俺の意見より嫁の機嫌」。
◇「攻殻機動隊ARISE border:1~4」
◇「攻殻機動隊ARISE PYROPHORIC CULT」 (読み:アライズ パイロフォリック カルト)
◇「攻殻機動隊 新劇場版」 全てを収録!
【アニメイトオンライン】【Blu-ray】攻殻機動隊 ARISE 新劇場版 Blu-ray BOX
【攻殻機動隊ARISE】
士郎正宗原作、黄瀬和哉×冲方丁×コーネリアス×Production I.G制作。2013年6月から2014年9月にかけて全4部作で劇場上映され、2015年4月からはTV版に再編集された『攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE(アライズ オルタナティヴ アーキテクチャ)』が放送された。“公安9課”結成前夜を描く、攻殻機動隊シリーズである。
【攻殻機動隊ARISE PYROPHORIC CULT】
2015年4月からTV放送された、『攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE』にて、新規制作されたオリジナルエピソードが、この『攻殻機動隊ARISE PYROPHORIC CULT』である。 本作では『攻殻機動隊 新劇場版』へと繋がる電脳ウィルス“ファイア・スターター”を巡る衝撃の前日譚が描かれている。
【攻殻機動隊 新劇場版】
攻殻機動隊25周年記念作品として2015年6月から全国107館で劇場公開され、好評を博したシリーズ最新作である。『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』の前日譚という位置づけで、黄瀬和哉×冲方丁×コーネリアス×Production I.G で贈る“攻殻機動隊”結成の物語を描く。
◆商品概要
【発売日/価格/品番】
●2017年12月22日/●¥20,000(税抜)/●BCXA-1314
【特 典】
●特製ブックレット(20P)
【映像特典】
●3DCGショートアニメ
「ロジコマ・ビート」、「ロジコマ・コート」、「ロジコマ・ハート」、「ロジコマ・ルート」、「ロジコマ・ノート」
●株式会社きゅーか
●新劇場版 映像特典
・特報1 ・特報2 ・劇場予告編 ・プロモーション映像 ・TV-CM
【音声特典】
●新劇場版オーディオコメンタリー (出演:黄瀬和哉(総監督・キャラクターデザイン)/田中宏侍(撮影監督)/頂真司(演出)/堀元宣(演出)/河野利幸(演出)/藤津亮太(アニメ評論家))
【仕 様】
●BOX&描き下ろしインナージャケット
【スペック情報】
420分(予)/(本編376分+映像特典44分) ドルビーTrueHD(5.1ch)・リニアPCM(ステレオ)/AVC/BD50G×4枚/16:9/ 日本語・英語・中国語(繁体字)字幕付(ON・OFF可能)
【収録話数】
●ARISE1~4/攻殻機動隊 PYROPHORIC CULT/攻殻機動隊 新劇場版
※特典・仕様等は予告なく変更する場合がございます。
>>公式HP