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 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』安彦良和総監督インタビュー

シャア専用ザクの赤に込められた秘密から、視聴者に伝えたいメッセージとは―― 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』安彦良和総監督インタビュー

2018年5月5日より第6話「誕生 赤い彗星」が劇場上映されるアニメ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』。今回はその劇場上映にあわせて、漫画原及び、アニメでは総監督を務める安彦良和氏(註1)にお話を伺う、大変貴重な機会をいただきました。

『THE ORIGIN』映像化プロジェクトが完結を迎える現在の心境から、『機動戦士ガンダム』(ファーストガンダム)を手がけられていた頃の裏話まで、『ガンダム』ファン必読の内容となっているので、是非ともご一読ください。

(註1)漫画家・アニメーター。リアルロボットアニメの金字塔として社会現象も生み出したTVアニメ『機動戦士ガンダム』の生みの親の一人で、キャラクターデザイン・アニメーションディレクターを務めた。後に活動の中心を漫画へと移し、2001年から2011年にかけては、月刊ガンダムエース誌上にて『機動戦士ガンダム』を安彦氏独自の視点でアレンジした漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を連載。累計発行部数は1000万部を越えるヒット作となった。

 

『THE ORIGIN』映像化プロジェクトを終えて

――今作が『THE ORIGIN』映像作品の最後となりますが、ひとまずの完結を迎えた現在の心境はいかかですか?

安彦良和(以下、安彦):長いあいだやっていたので、ひとまずはホッとしたというのが正直な心境です。ご覧になっていただければ分かるかと思いますが、終わったような、終わっていないような……(笑)。ただ、その「終わったような、終わってないような」という感覚が狙いでもあったので、そこに引っかかる部分があったのであれば、こちらとしてはしめしめといったところですね。

――出来上がったフィルムをご覧になられてのご感想は。

安彦:やはり6本目となると積もり積もった疲れが出てきますね。(註2)今回の85分というのは、予定より長くなっているんです。とんでもなく長くなれば、当然なんとかしろという話になるのですが、今回は中途半端に伸びたこともあって、全部やらざるを得なくなり(笑)。これまで(第1話~第5話)はあまりなかったのですが、今回は「もう少し時間があればなぁ」というカットが残ってしまって、量的にも少しキツかったかなというのが感想です。

 
(註2)2015年の第1話上映から年数にして3年。この後の安彦氏のお話から考えると2013年頃に企画がスタートし、2014年に制作が開始されていると思われる。

 

――ラストシーンで挿入される、アムロ・レイの写真のカットがすごく印象的でしたが、やはりあれは安彦さんが描かれたものでしょうか?

安彦:そうです。あれは最後の最後まではめ込みが先送りになっていて、実際に入れてみたのがギリギリのタイミングだったんですね。完成した映像を見ると違和感が強かったので、やっぱり線画にしようかなと言ったんですが、誰も乗ってくれなかったので(笑)、最終的にあの形になりました。

▲アムロ・レイ

▲アムロ・レイ

 

――本作で『THE ORIGIN』映像化プロジェクトはひとまずの完結ということですが、この先のアニメ化は難しいということでしょうか?

安彦:現段階ではそういうことになります。ただ、やはりお客さんや数字あってのものですから、お客さんにたくさん来ていただければ、上映したあとで偉い人達の気持ちが変わる可能性というのはあると思います。もしそうなったら大変なことですから、その時に備えて心の準備だけはしておこうと。

 

漫画原作『THE ORIGIN』で、シャア・セイラ編が描かれた理由

――月刊ガンダムエースで連載されていた頃、アニメ化された「シャア・セイラ編」は、ホワイトベース隊を中心としたエピソードの途中という、少し変わったタイミングでスタートしていたかと思います。これにはどういった経緯があったのでしょうか?

安彦:途中まで書いたところで、このまま連載を続けることはできないなと思ったんです。シャアの生い立ちをしっかり描いておかないと、この先よく分からないキャラクターになってしまうだろうと。

脇道に逸れるというのは、長い長編だとよくあることで、最初は編集部に「すぐに戻ります」と言っていたんですが、これがなかなか戻れなかった(笑)。アニメではまとめて「シャア・セイラ編」として扱っていますが、第3話、第4話は漫画では「開戦編」として分けていて、「シャア・セイラ編」「開戦編」「ルウム編」の3部作という形になっています。

――漫画原作の『THE ORIGIN』は、それまでに存在した設定とのつじつまが非常に合うように緻密に作られていますが、どのように物語を組み立てていったのでしょうか?

安彦:「つじつまが合わない」と言われるのは最悪ですから。当然そうならないように作ってはいるのですが、元々『機動戦士ガンダム』という作品はすごくよくできているので、無理しなくてもつじつまが合うんです。(アニメ)『THE ORIGIN』を作りながら、改めて何度も感心しましたね。

 

――シャアの名前が入れ替わるエピソードには(註3)にはかなり驚かされました。

安彦:あれが一番頭を使った部分ですね。(シャアが偽名という)構造は動かせませんから、その上で戦争のエリートを養成する士官学校に入学すると考えると普通はバレますよね。そうなると、きっとシャアという人物は実在していて、何か事情があってすり替わったんだろうと考えたんです。

シャアとキャスバルのエピソードは、TVシリーズでテキサスコロニーが出てきた時、シャアがいきなり馬に乗って出てくるのは唐突な印象を受けていたので、実は以前に住んでいたという理由付けはうまくいったなと思っています。

 

(註3)『THE ORIGIN』では、テキサス・コロニーに移住したキャスバルことエドワウとアルテイシアことセイラの隣人として、キャスバルと瓜二つの容姿をもつ青年「シャア・アズナブル」が登場する。キャスバルはザビ家の目から逃れるため、自身の身代わりとして本物のシャアを謀殺。その後は自身が「シャア・アズナブル」へと成り代わり、ジオン軍への入隊を果たしている。

 

――サンライズやガンダムエース編集部から、こうした設定や要素を入れてくれという要望はなかったのでしょうか?

安彦:とくになかったですね。ブレインストーミングは定期的にやっていましたので、その時に意見や注文が出るということはありましたが、それも横槍を入れられるとかの類ではありませんでしたから。基本は「お好きなように」という形でお任せいただいていたと思います。

――自ら漫画を手がけられると決まった時、TVシリーズから「この部分は変えないといけない」と思った部分はあったのでしょうか?

安彦:それはたくさんありました。具体的にひとつを上げるなら、TVシリーズの中盤で地球に降りたホワイトベースがいろいろな場所に行って迷走しますよね(註4)。個人的にあの部分は意味がないと思っていたので、漫画ではジャブローへと直行させました。

種明かしすると、あの当時というのはシリーズ構成という役柄もあまりなかった時期で、行き当たりばったりやっていますから、大抵1クール過ぎたあたりで「これからどうする?」となるんです。
ファンの人達はそうした部分にも考察して理屈付けをしてくれるのですが、実際にはそんな深い意味はなくて(笑)。僕はそうした当時の現場の雰囲気を知っていましたから、思い切って整理することができました。

 

(註4)TVシリーズでは、北米へと降下したホワイトベースは、連邦軍の本部がある南米のジャブローへと直行せず、太平洋を横断してほぼ地球を一周する遠回りの航路をとっていた。対して『THE ORIGIN』では、北米から直接南下してジャブローに向かうルートを通っており、エピソードの時系列が変更されている。

 

シャア専用ザクの赤に隠された秘密が明かされる!?

――ちょうどTVシリーズの頃の話が出てきたので一度お聞きしてみたかったのですが、TVアニメのシャア専用ザクって、赤というよりピンクに近い色をしていますよね。対して、アニメ『THE ORIGIN』ではそれよりも深い、ワインレッドに近いカラーになっていると感じたのですが。

安彦:当時はカラーチャートがものすごく貧しくて、使える色の種類が70何色くらいしかなく、中間色がほぼ使えないような時代だったんです。実はシャアザクの赤、量産型ザクの緑というのは『ガンダム』の時に頼み込んで入れてもらった新色で、つい嬉しくなって使ったんですね。だからガンダムの時は何色か増えてはいたのですが、それでも80色にも届かないくらいだったと思いますが、サンライズ内のよその班からは「あいつら新しい色を入れやがって」と妬まれていたと思いますよ。(笑)

――シャアザクの色に、そんな秘密があったとは……。

安彦:昔のアニメって、色がケバケバしいですよね?  あれはほぼ原色に近い色しか使えなかったからなのですが、その中でも『宇宙戦艦ヤマト』(註5)の現場だけは別でしたね。グレーだけでも20~30色、全部で300色くらいあって、酷い差だなぁと思ったのを覚えています(笑)。その点、今はデジタルでほぼ無限に色が使えるわけですから、おそろしい時代になりましたよね。

▲シャア専用ザク

▲シャア専用ザク

(註5)1974年に第一作が放送されたTVアニメ。地球へと侵略を開始した謎の異星国家・ガミラス帝国と、遠く離れたイスカンダル星からもたらされた波動エンジンを搭載した宇宙戦艦「ヤマト」の戦いが描かれる。骨太な人間ドラマと本格的なSF設定は、当時子供向けとされていたアニメの常識を覆し、青年から大人までを巻き込んだブームを生み出した。安彦氏は、絵コンテなどで参加。

 

――シャア・アズナブルのデザインは、後の日本のアニメ業界に大きく影響する形になったと思うのですが、最初のデザインに関して富野由悠季(註6)監督から注文などはあったのでしょうか?

安彦:いや、ほとんどなかったですね。仮面というのはその時から既にひとつのお約束みたいなものでしたし。考えたのは、スペースオペラチックなモダニズムではなく、クラシカルな方向で攻めようという部分です。

マントは欠かせないけど、長いと今までの悪役になってしまうから短くしたり、四角ではなく切れ目を入れたり……「これでコスプレする奴が現れたら成功だな」と思っていたら、案の定現れたから「しめた」と(笑)。

「赤い彗星」という異名も、色指定した人が赤にしたから後付けでそうなっただけで、割と行き当たりばったりでした。NGを出している暇がなかったからかもしれませんが、富野由悠季とは考えていることが近かったようで、比較的ツーカーで進みましたね。

▲「赤い彗星のシャア」こと、シャア・アズナブル

▲「赤い彗星のシャア」こと、シャア・アズナブル

(註6)『機動戦士ガンダム』の監督・富野由悠季氏。『ガンダム』シリーズの他にも、『無敵超人ザンボット3』『伝説巨神イデオン』など、革新的なロボットアニメを次々と生み出し、後に大きな影響を与えた、日本のアニメーションを代表する監督の一人。

 

――富野監督といえば、『THE ORIGIN』を始めるにあたって、何か相談をされたりもしたのでしょうか?

安彦:これは他のメディアでもお話していることですが、僕が『THE ORIGIN』を引き受ける時の条件のひとつが、「富野由悠季が同意してくれること」だったんです。

連載を始める前に、一度会って話がしたいということで一席設けていただいたのですが、あまり『THE ORIGIN』の話題は出なくて。「読ませてもらうよ」ということは言ってもらいましたが、関係ない話ばかりをしていましたね(笑)。あとはお台場に等身大ガンダムが立った時もお会いしましたが、その時も同じような感じで、『THE ORIGIN』の話はほとんど出ませんでした。

 

イメージががらりと変わる、レビルとデギンの因縁

――アニメ化に関して、キャスティングや漫画原作から変えないで欲しい部分などの希望は何か出されたのでしょうか?

安彦:漫画については、監修の立場で「こうしてくれ」と伝えるのではなく、現場に入ってしまえば話が早いということが途中からわかったので、絵コンテや原画チェックなど、やれることは自分でやった上で、残りはお任せしますという形で進めていました。初期のことは、音楽なんかも全てお任せしていましたね。

――ご自身で漫画原作を手がけられている内に、印象が変わってきたキャラクターはいましたか?

安彦:印象が変わったというより、愛着が湧いたという意味では大勢いますね。とくに過去編では脇役が活躍するので、おじさん・おばさんがその中心なのですが、ランバ・ラルはその筆頭です。もともと憎めない良いキャラクターだと思っていたのですが、ますます好きになりました。物語を進めていて、どういう人生を送ったのかの人物像が見えてくると、他人ごとじゃなくなってきて、だんだんと感情が乗って来るんです。

 

――個人的に第6話では、デギンとレビル(註7)の印象がすごく変わりました。これまではどちらかというとジオン軍側のデギンは悪人、連邦軍側のレビルは善人といったイメージが強かったので。

安彦:言い方は適切ではないかもしれませんが、レビルは結構ずるいんですよね(笑)。風采はあまり上がらなくても、粘り腰でしたたかな人で……意識したのはヤマトの沖田艦長(註8)ですね。似すぎないようにしようと。
沖田艦長というのは完全無欠の年長者ですが、レビルはそこまではいかず、普段は周囲が「大丈夫かな?」と心配になるようなタイプ。それは(テレビ放送の)デザインの時点から意識していました。

『戦争と平和』(註9)では、ナポレオンと戦うクトゥーゾフというロシアの総司令官が出てくるのですが、彼も普段は風采が上がらない将軍で、一度はナポレオンに負けてモスクワを明け渡すんです。
しかしそこから冬の寒さを利用して粘り強く戦い、最終的にはナポレオンに勝つ。初戦は負けても、雪辱を果たすという共通点もあり、それに近いイメージで描いていました。ただ、描いている内にどんどん沖田艦長に寄ってきてマズイなと思ったりもしたんですけど(笑)。

▲地球連邦宇宙軍総司令官 ヨハン・イブラヒム・レビル

▲地球連邦宇宙軍総司令官 ヨハン・イブラヒム・レビル

(註7)ジオン公国公王であるデギン・ソド・ザビと、地球連邦宇宙軍総司令官であるヨハン・イブラヒム・レビル。第6話では、ルウムでの戦いに負け捕虜となったレビルがジオン本国を脱走し、「ジオンに兵なし」の演説を行うまでのエピソードが描かれている。

(註8)『宇宙戦艦ヤマト』の登場人物で、「ヤマト」の初代艦長を務めた沖田十三。艦長としてクルーから絶対の信頼を寄せられ、遠く離れたイスカンダルまでの航行を成功させた。物語のラストシーンの、病に冒され、余命いくばくもない状態で地球へと帰還した際の「地球か……何もかも皆懐かしい」は、アニメ史に残る名台詞として広く知られている。

(註9)レフ・トルストイによって書かれた大河歴史小説。主人公・ピエール・ベズーホフとナターシャの恋の傍ら、ナポレオンによるロシア遠征とその失敗が、歴史的背景として緻密に描かれている。

 

――デギンの方はどうでしょうか?

安彦:デギンの方は、「デギンが悪人で、毒を盛ってダイクンを殺した」という資料を見た時、「そんな安っぽい設定を天下の富野がするわけないだろ」と思ったんですね(笑)。

『ガンダム』という作品が単純な善悪論ではないというのは何度も言われてきたことですが、ダイクンの死因はただの病死で、周囲が勝手に疑心暗鬼になったことから悲劇に発展したんです。こういう展開は歴史ではよくある話です。その方が奥行きもあってリアリティがあるんですね。

――ラストシーンで、戦争継続を選んだレビルに対し、それまで穏健派だったデギンが怒りのままに寵愛しているガルマに連邦の殲滅を命じたシーンも印象的でした。あれは心から平和を望んでいたからこそ湧き上がって来たものだったのでしょうか?

安彦:ええ、デギンは本気でこの戦争を止めなければならないと思っていましたから。ただ、連邦の視点も含めて客観的に見るとあそこで和平を結ぶのは単なるジオンの勝ち逃げなんですね。レビルや連邦の視点では、それは虫がよすぎるだろうと。

勝ち逃げを許さないというのは駆け引きの常道ですから、裏切られたのはデキン自身の責任で、彼は人が良すぎた。でも、デギンも後でガルマが死んだ時に「どうしてあんなことを言ったのか」と後悔をしたと思います。そういった掛け違い、読み違いがあるというのも『ガンダム』の面白さですよね。

▲ジオン公国公王 デギン・ソド・ザビ

▲ジオン公国公王 デギン・ソド・ザビ

――その後、ア・バオア・クーの戦いでは、終戦交渉に趣いて共に命を落とす(註10)というにも因縁を感じます。

安彦:それはまさに因縁で、あの時とは立場が逆転しているわけですよね。きっと会っていたら、「あの時は申し訳なかった」ということをレビルは言っていたと思います。そういう話をする前に、共に帰らぬ人となってしまうわけですが。

(註10)一年戦争末期のア・バオア・クーの戦いにおいて、デギンは戦争を終結させるためレビルとの交渉に向かった矢先、息子であるギレン・ザビの策略により、レビル共々乗艦を撃沈される。

 

『THE ORIGIN』は、歴史漫画に近い工程で作られた

――「ルウム編」を見て感じたのが、先に起きる出来事というのが決まっていて、その出来事がどのような流れで起きたことなのかの部分を解釈するといった構造になっていることです。これは安彦さんがこれまで描かれてきた歴史漫画に近い作り方だったのではないかと思ったのですが。(註11)

(註11)古事記を元にした『ナムジ』、明治中期の帝国主義への流れを描いた『王道の狗』など、多数の歴史漫画を著書に持っている。

 

安彦:それはその通りです。これは動かせないという要素があって、その上でドラマを組み立てていくのですが、それはそれで結構作っていて面白い部分です。ただ、中には蹴っ飛ばしてもいい裏設定というのもあって、その線引きが難しいですね。

例えば「一年戦争」というのは誰が考えて、どこからどの範囲を一年でくくるのかと。個人的には、一年は短すぎるので、なぜ三年くらいにしなかったのかと物申したいですが(笑)、あそこまで定着してしまうと実際の歴史と同じで、今更動かせないですよね。だからコロニー落としからとか南極条約からとか、解釈で工夫するしかないんです。

――史実とフィクションの歴史では、解釈の仕方に違いというのは出てくるのでしょうか?

安彦:『ガンダム』ほどの作品になると実際の歴史とほぼ変わらないくらい固定化した部分は多いですね。そうした要素をできるだけ絞り、変える部分は変えていくという自分なりの主張をギリギリまでしたつもりです。ただ、節度を超えてしまうと越権行為になりますから、いろいろと制約が大きかったのも確かです。

 

――近年では、昔の名作をリメイクするという流れが増えてきているように感じます。

安彦:僕はそうした作品を見ていないので分からないのですが、『ガンダム』に関していうなら、年代記的な作りになっているので難しいですね。すでに続編がいくつもあり、その大元を揺らすわけですから。

ファーストガンダムというのは、続編を「枝」とすると、シリーズにおける“幹”の部分ですよね。ここがダメになると全部倒れてしまう。年月が経って次第に虫が食ったり腐ったりしてきていたので、何か手当てをしなければいけなかったんだと思っています。

ただ、「リメイク」という言い方は気を付けなければいけないと思っていて、『ガンダム』についてリメイクという言葉を口にする資格をもっているのは富野由悠季ただひとりだと思うんです。かといって、彼のクリエイターとしての性格やコンディションを考えると、仮に富野さんが「リメイク」しても、それは本当にリメイクになるのかという問題もあります。

だから、私は『THE ORIGIN』に関してリメイクという言葉は使っていないんです。あくまで本作は、漫画でリライトして、それをアニメ化したもの。遠まわしな言い方になりますが、それ以外に表現しようがないんですね。

 

ガンダムほどよくできた話はなかなかない

――安彦さんはクリエイターとして非常に長い間業界で活躍されていますが、そのように長く業界で活躍するにはどうすればいいのでしょうか?

安彦:いえ、長く続けられなかったからアニメーターを引退したわけですから。(註12)けれど、これだけ時間が経ってから考えると、アニメーターを辞めてよかったなと改めて思いましたね。アニメ業界にずっといたらこういうこともできなかったでしょうし、スタッフとの住み分けというのもうまくいかなかったんじゃないかなと。

今回のケースなら、もし僕が現役のアニメーターを続けていたら、総作画監督の西村(博之)さんやメカニカル総作画監督の鈴木(卓也)さんとの立ち位置の調整も難しかったと思います。アニメーターじゃないからこそ、自分が関われない範囲の部分を全てお任せすることができましたから。

(註12)1989年連載開始の『ナムジ』から主業務を漫画へと移行している。

――近年のアニメ業界では、戦争や政治的なテーマを扱う作品が減りつつある傾向にあるのですが、その傾向についてはどのようにお考えでしょうか?

安彦:最近のアニメには詳しくないのですが、いいことなんじゃないかと思いますね。生半可な知識で政治や戦争を描こうとするのは危険なことで、僕はいわゆる「ガンダムもどき」的な作品がたくさん作られた時から危機感を覚えていました。

戦争を描きたいなら、まずはもっと勉強してからにしろということです。『ガンダム』を作った富野由悠季にしたって、なんだかんだいったってめちゃくちゃ勉強していますから。

――今作、第6話のラストでは、連邦とジオンがモビルスーツの開発合戦も含めた本格的な戦争状態へと突入する一方で、川遊びをして平和に暮らすサイド7の日常で締めくくられたのが印象的でした。

安彦:まさに「戦争と平和」ということかもしれませんが、すごく巨大なものと小さなものの両方を巻き込んでいくのが戦争であり、歴史なんですね。僕は戦争や政治を描く上で、その両方を見ることができる目が必要だと思っていて。

そうでなければ、政治をゲームのように考え、用語だけを駆使して政治を上っ面で描いた気になってしまう。本当の悲劇というのは小さきものを襲うわけですから、そこに「戦争と政治」という素材の怖さと重さがあるんですね。その両方に目を向けたのが、あのラストでの落差なんです。


 

――本作は後から「ファーストガンダム」の存在を知った若い世代も大勢見ることになるかと思います。そんな世代に注目して欲しい部分というのはありますか?

安彦:若い世代に対してだけというわけではないですが、まずはよくできた話だということを味わって欲しいなと。シリーズの続編も含めて類似の作品はあると思うのですが、ファーストガンダムほどよくできた話というのはないんじゃないかなと思っています。出来の悪い部分もあるのですが、それは僕の責任であって……(笑)。

出来の悪さに惑わされず見てもらえば、『ガンダム』という物語の完成度が非常に高いということが分かってもらえると思います。続編から『ガンダム』を知った人は、改めてシリーズの根幹である幹を知ってもらうことで、「こういう立ち姿だったのか」という、樹(ガンダムシリーズ)の全体図が見えるようになるかもしれません。

――そんな『ガンダム』の魅力を、ひと言で言い表すなら……。

安彦:それが言えないんですよね。そこにガンダムのリアリティがある。あの最初のガンダムの映像を見ると、「どこにリアリティがあるんだ」と思われるかもしれませんが、本質はそういう「見た目」じゃないんだということも知ってもらいたいですね。

――ありがとうございました。

 

TVシリーズの裏話から、『THE ORIGIN』誕生秘話、そして安彦さんが伝えたいメッセージまで、大変貴重なお話をいくつも聞くことができた今回のインタビュー。アニメ『THE ORIGIN』は、今回のインタビューで語られたような、作品に込められた深い想いを考察するもよし、ガンダムファンなら思わずニヤリとする細かいネタを探すのもよし、ただただモビルスーツと艦隊のカッコイイ戦闘シーンに見とれるのもよしと、様々な楽しみ方ができる作品となっています。

特に長年のガンダムファンの中にとっては、ずっと設定として存在していた、赤い彗星の異名が誕生したとされる「ルウム戦役」がルウム宙域の会戦として、いよいよ映像化されるということで、大きな期待を寄せている方も少なくないかと思います。本作はそんな期待にも応えられる、ファン感涙の出来栄えとなっていますので、是非劇場の大画面でそのハイクオリティな映像と物語をお楽しみください。

[取材・文/米澤崇史]

 

作品概要

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 誕生 赤い彗星』

【あらすじ】
宇宙世紀0079年1月23日、サイド5、ルウムで、ジオン、地球連邦の雌雄を決する戦いが始まった。圧倒的劣勢に追い込まれたジオンは、秘策である人型兵器「モビルスーツ」で編成した特別強襲大隊を投入し、戦況を一気に逆転させ、大勝利を収める。なかでも、ジオン軍のシャア・アズナブルは、赤いモビルスーツ「ザクⅡ」で戦果を上げ少佐に昇進、“赤い彗星”の異名をとる。ルウム会戦後、地球連邦軍はジオンに反撃すべく“V作戦”を計画。
その裏側で、サイド7の少年アムロ・レイは自ら行動し、新兵器「ガンダム」の秘密を探っていた。一方、地球の南極大陸でのジオン、地球連邦の両軍の両軍の高官がそろう早期和平交渉の場でルナツーから世界中にある声明が発信される…。

【STAFF】
原作:矢立 肇・富野由悠季(「機動戦士ガンダム」より)
漫画原作:安彦良和(KADOKAWA「機動戦士ガンダムTHE ORIGIN」より)
キャラクターデザイン:安彦良和、ことぶきつかさ
オリジナルメカニカルデザイン:大河原邦男
メカニカルデザイン:カトキハジメ、山根公利、明貴美加、アストレイズ
脚本:隅沢克之/演出:原田奈奈、カトキハジメ
総作画監督:西村博之
メカニカル総作画監督:鈴木卓也
美術監督:東 潤一
美術設定:兒玉陽平
軍装装備デザイン:草彅琢仁
ディスプレイデザイン:佐山善則
SF考証:鹿野 司
色彩設計:安部なぎさ
撮影監督:葛山剛士
CGディレクター:長嶋晋平
編集:吉武将人
音響監督:藤野貞義
音響効果:西村睦弘
音楽:服部隆之
総監督:安彦良和
企画・製作:サンライズ

【キャスト】
シャア・アズナブル:池田秀一
アムロ・レイ:古谷 徹
デギン・ソド・ザビ:浦山 迅
ギレン・ザビ:銀河万丈
ドズル・ザビ:三宅健太
キシリア・ザビ:渡辺明乃
ガルマ・ザビ:柿原徹也
ガイア:一条和矢
オルテガ:松田健一郎
マッシュ:土屋トシヒデ
ヨハン・I・レビル:中 博史
マ・クべ:山崎たくみ
セイラ・マス:潘 めぐみ
カイ・シデン:古川登志夫
ブライト・ノア:成田 剣
フラウ・ボゥ:福圓美里
ミライ・ヤシマ:藤村 歩
ハヤト・コバヤシ:中西英樹
リュウ・ホセイ:田中美央
ナレーション:大塚明夫

 
 

【Blu-ray】OVA 機動戦士ガンダム THE ORIGIN VI

<封入特典:特典内容>
・安彦良和コミックを使用した解説書(32P)
・特製ブックレット(12P)
・スタッフ&キャストオーディオコメンタリー
・映像特典
 ・第5話イベント上映初日舞台挨拶映像
 ・第5話イベント上映2週目舞台挨拶映像

 

【DVD】OVA 機動戦士ガンダム THE ORIGIN VI

<封入特典:特典内容>
・特製ブックレット(12P)
・映像特典
 ・第5話イベント上映初日舞台挨拶映像
 ・第5話イベント上映2週目舞台挨拶映像
 ・PV&CM集

(C)創通・サンライズ
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