斉藤壮馬さん3rdシングル「デート」発売記念ロングインタビュー【後編】|音楽的考察から見えた音楽作りを楽しむ探求心
アーティストデビュー1周年を迎える斉藤壮馬さんの3rdシングル「デート」が、6月20日(水)に発売! 収録された3曲すべての作詞・作曲を手掛ける斉藤さんのインタビュー・後編となる今回は、カップリング曲の「レミニセンス」と「C」の音楽的考察や、アーティストとしての今後の展望などについておうかがいしました。
□インタビュー前編:曲が生まれる瞬間や制作の裏側を深掘り!!
目次
- 20代の頃に作った「レミニセンス」は、「1人でもいいんだよ」と自分に寄り添う楽曲
- 明確に声優のスキルを使い、声優が個人名義で歌う意義を考えて作った「C」
- 歌詞を読むことで浮かぶインスピレーションや発見、面白さを楽しんで!
- レコーディング、ジャケット撮影……新たな“斉藤壮馬”の姿?
- 信頼できるチーム、クリエイターとのコラボや総合パフォーマンスに興味津々♪
- リリース情報
20代の頃に作った「レミニセンス」は、「1人でもいいんだよ」と自分に寄り添う楽曲
――では、カップリング曲のお話も。「レミニセンス」は、以前作られた楽曲なんですよね。
斉藤壮馬さん(以下、斉藤):10代の頃に好きだったり、バンドでやっていた曲に近い、ある意味、自分のルーツとなる1曲です。
曲名は「ある事柄や出来事を記憶した瞬間よりも、少し時間が経ってからのほうが強く想起されること」で、歌詞も割とストレートで内省的です。情景的にはモノクロで、雨が降っているような。
今まで、音楽リスナーとして「1人じゃないよ」という曲はほとんど聴いてこなくて、どちらかといえば「1人でいいよ」という曲のほうが多かったし、20歳くらいに作った曲もそういう曲が多くて。たぶん、「1人でもいいんだよ」と自分に言ってあげたかったんでしょうね。
この曲も、誰かに向けてというより自分に寄り添う曲、自分を追想、追憶する曲になっています。気分が下向きになった時って、全然関係ないことを不意に思い出すことって、誰にでもあるよねと。
歌詞自体に深い意味を持たすこともなく、サウンドがエモーショナルなので、曲が泣いているという感じでしょうか。
「デート」も、もう1曲の「C」も音としては聴きやすいけど、歌詞が分かりにくさもあって。だからこの曲は繰り返し聴きやすくて、雨のように染み込みやすくしたほうがいいなと思って。
あと、歌詞の中にひらがなが多いのは、例えば2番のAメロ最後の“ねこみたいね”もいろいろな変換が考えられるように、ストレートな中にも想像の余地があって、でも聴きやすいというバランスに落ち着いたかなと。
――サウンドはせつないロックバラードですね。サビはエモくて。
斉藤:ギターがめちゃくちゃ重なっていて、ドラムも柏倉隆史さんというすごいドラマーさんにお願いして……3曲とも、柏倉さんですが、バンドサウンド好きの方にはたまらない曲になっていると思います。
内省的で雨のイメージが漂う曲ですが、サウンドには強さがある。
明確に声優のスキルを使い、声優が個人名義で歌う意義を考えて作った「C」
――「C」は不思議な歌詞の世界観とサウンド感で、他の2曲と雰囲気がまったく違って。
斉藤:ここまでいろいろな取材を受けた中で、皆さんが「どう聴いたらいいんだろう?」と戸惑っていた曲です(笑)。
「デート」と「レミニセンス」を並行して作っている時、もう1曲をどうしようと。元々、1コーラス分はあったけど、なかなかまとまらなくて。
でも、転調する“いつものことさ”のフレーズとその後の展開をふと思いついて、いい感じなので3曲目にすることに。
このシングルは、1曲目はサウンド的にノリがいい曲、2曲目はカッコイイ曲と来て、3曲目は多少、分かりにくくてもいいかなって(笑)。
――曲名を見て「?」だったところに、聴き始めると曲頭に「しーっ」というささやきに驚きました。
斉藤:この曲は「デート」以上に明確な意図を持って、声優のスキルを使う、声優が個人名義で歌うことの意味を考えながら作った曲で、バンドをやっていた頃には絶対書けなかった曲です。
4分の3拍子だけど、崩してしゃべるように歌っている場所が結構あったり、かなり難しい曲になりました。
この曲が世に出た時、「怖い」「ヤバい」「何を言っているか分からない」という反応があるかもしれないけど(笑)。2010年に声優としてデビューして、地道にやってきたものが芝居とは別の形でも活かされているなと。
あと歌的に言うと、元々、大きい声を出して歌うのがあまり好きではないので、この曲が一番、素の自分に近いかも。ウィスパーボイスで。
歌詞を読むことで浮かぶインスピレーションや発見、面白さを楽しんで!
――“泥みたいにまざって 最小の混沌の中へ”や、“ぼくたちが最後の審判を下し”など哲学的で深い歌詞だなと。
斉藤:個から解き放たれて最後は1つになるというのは、宗教的な意味ではなくて僕の中に漠然とある感覚で。
例えばこの間、親知らずを抜いたけど、全然治らないし、痛いし、声が出ないとかいろいろな感情があるけど、それに振り回されなくても大丈夫だよというシンプルなことで。ただその言い方がちょっと怖いだけで(笑)。
友人たちに歌詞を見せたら、「壮馬らしいね」と口にしていましたが、「君たちは僕のことをいったいどう思っているの?」と聞きたくなります(笑)。
――書かれている歌詞の行間や、余白を想像させるところは文学少年らしいなと思いました。
斉藤: “ぼくだけがきみを~くるしめるから帰っておいで”と歌っていますが、僕が言葉にとらわれているからこそ、歌や音楽にのせることでいろいろな解釈や可能性が見えてくるのが面白いと思っているんです。「C」という曲名自体もいろいろ想像できるし。
「C」という文字はビジュアル的に円が欠けているように見えて……『円環大全:知の輪郭を体系化するインフォグラフィックス』という本を見つけて、地図や微生物の細胞まで円環構造になっているものを紹介しているんですけど面白くて。
ある意味、完全な円は図形として完成しているけど、「C」という形は途切れているからこそ入り込む余地があると思うし、そのいびつさや不完全性を楽しんでほしいなとも思っています。
この曲はミステリー小説みたいに、ある設問にのっとって歌詞を読み解くとこういう意味になるというものが何パターンもあるので、考察や深読みが好きな方にはやりがいがあるかもしれません。
――歌詞は様々な受け取り方ができるけど、歌や音楽は染み込むように聴きやすくなっていて、おもしろいなと。今回のシングルは、今までの声優アーティストの楽曲にはなかったタイプのアプローチで、新鮮でした。
斉藤:いろいろな聴き方をしてほしいから歌詞をややこしくしているけど、音として耳なじみがいいものがいいなと思っていたので、そう聴こえているならうれしいです。
高尚なことをやろうと思っているわけではなくて、声優・斉藤壮馬が歌わせていただく以上、聴きやすいポップネスは大切だと思っていて。それを実現してくれる音楽チームのすごさにも感謝しています。
そして、歌詞を読む楽しさ、読むことで浮かぶ新たなインスピレーションや発見、連想につながる面白さも体感してもらえたらいいですね。