久川綾さんが鶴ひろみさんから受け継いだブルマへの想い……映画『ドラゴンボール超 ブロリー』インタビュー
鳥山明先生の超人気コミックを原作とし、アニメも30年以上に亘ってヒットし続けているモンスター作品『ドラゴンボール』シリーズ。その劇場版第20作品目というメモリアルタイトルになる『ドラゴンボール超 ブロリー』が、2018年12月14日(金)より公開されます。
それに先立ち、ちょうど公開1か月前となる2018年11月14日(水)には、日本武道館にてワールドプレミアが行われました。
舞台挨拶には孫悟空役・野沢雅子さん、ベジータ役・堀川りょうさん、フリーザ役・中尾隆聖さん、ブルマ役・久川綾さん、ピッコロ役・古川登志夫さん、パラガス役・宝亀克寿さん、ブロリー役・島田敏さん、主題歌担当・三浦大知さん、長峯達也監督が登壇。
天下一武道会の入場門をイメージしたゲートから、レニー・ハートさんの入場コールに乗ってキャストがひとりずつ登場。キャラクターの決めゼリフや必殺技ゼリフを披露してからレッドカーペットを歩いてステージに上がるというド派手な演出で会場を盛り上げました。
ここで初生披露となったのが、久川綾さんの新たなブルマ役としての第一声です。2017年11月16日に急逝された鶴ひろみさんからブルマ役を引き継ぎ、そのお披露目の場が日本武道館でのワールドプレミアになったことには、当然大きな不安があったそうです。
それでも、鶴さんから受け継いだ想いがあるから出演を決意されたという久川さん。舞台挨拶を終えた直後というタイミングで、本作品やブルマ、鶴さんとの逸話などについて、お話を伺うことができました。
鶴ひろみさん急逝から丸1年、鶴さんに背中を押されて舞台挨拶へ
——こんな大掛かりな舞台挨拶は初めて観ました。
久川綾さん(以下、久川):私も初めてです。びっくりしましたね。でも作品が作品なだけに、あって当然なレベルじゃないですか。気後れする部分はいっぱいあるんですけど、そのぶんマコさん(野沢雅子さん)や(堀川)りょうさんをはじめキャストのみなさんが、私がちょっとでも気後れしていると「綾!」って言って必ず手招きしてくださるので、なんとか参加できました。
——ファンの前でブルマ役として声を出したのは、これが初めてでしたか?
久川:そうなんです。
——となると、いきなり日本武道館のレッドカーペットに登場して、世界中に向けてブルマとして生ゼリフを発するというのは、相当緊張されたのでは?
久川:死ぬほど緊張しましたね。受け入れられるのだろうかって思いますよね。
——私も作品を拝見しましたが、なんの違和感も感じなかったんです。というより、鶴ひろみさんのブルマ役とは別に、最初から久川さんがブルマを演じる『ドラゴンボール』があったかのような馴染み方で。
これは何なんだろうと考えたのですが、おそらく『ドラゴンボールZ』と同時期のアニメ『美少女戦士セーラームーン』で大活躍されていた久川さんがまとう、同じ時代の、同じ大人気東映アニメの匂いや空気感ではないかと思うんです。
観終えてからも、「ブルマの声が変わった」という感想ではなく、「知らなかったブルマを見つけた」ような、そんな馴染み方でした。
久川:それは褒め殺しですね(笑)。
——久川さんは作品をご覧になって、いかがでしたか?
久川:「鶴さんが積み上げた神聖なものだから、それを汚しちゃいけない」っていうことを、いつも自分に言い聞かせているんですね。ただ、汚しちゃいけないんだけれども、だからといって物真似になってもいけないから、その辺のせめぎ合いで考えながらやってきたんです。
でも「あっ、ここ無意識に物真似しようとしてる!」ってセリフがあったりしたんですよ。これをご覧になったお客さんが「な〜んだ、一所懸命鶴さんの真似して!」みたいに思われたら、正直しんどいなっていうのはありました。
——私は物真似とは感じず、「久川さんのブルマも、まさにブルマだ」という感じでした。
久川:観た方にそう受け取っていただけたら、御の字です。
——そして、なんという巡り合わせか、鶴さんが急逝されてからちょうど1年じゃないですか。その辺りはいかがでしたか?
久川:私のお誕生日が11月12日で、16日が鶴さんの命日で、その間の14日が舞台挨拶だっていうお話をいただいた時に、最初は「いや、私は前に出るべきじゃないな」っていう考えだったんです。東映さんサイドからは「ぜひ!」っていうお話だったんですけど、マネージャーには「ちょっと考えさせて」って保留にしてもらって。
でもこれって、鶴さんが「綾ちゃん、ちょっと出てくれない?」って言葉をかけてくれたのかなって、自分なりに思い始めたんです。やっぱり日にちが日にちだから、出たほうがいいのかもって思って、お引き受けすることになりました。
——これは出ておくべきものだと思います。日にち的にも、こんな因果はないですよ。
久川:ないですよね。私、10年近く前に『プリキュア』(『ハートキャッチプリキュア!』月影ゆり/キュアムーンライト役)のスタジオで、鶴さんがゲストでいらした時に「綾ちゃ〜ん、あたしもう50だよ〜」っていう話をしていたんですね。
そこで「鶴さん大丈夫です! 私も40ですから!」って話をしたのを、ここ何日か思い出していて。私も12日で50になったものだから、なんだかあの時の鶴さんを思い出すんですよね。だから今日ここに立たせていただいたことも、良かったのかなって今は思いますね。
——元々の『ドラゴンボールZ』にもアニメオリジナルキャラで出演されていましたが、本作から完全に「ドラゴンボールファミリー」となったわけで、その辺りは?
久川:自分の中では「大丈夫かな……」っていう気持ちばっかりだったんですが、マコさんたちの迎え方が半端ないですね。映画の収録は、マコさんとりょうさんと私の3人だけだったんですよ。ほかのキャストのみなさんと一緒にマイク前に立ったことは、まだないんです。
それでも今日なんか、控室に行くとみなさんが「綾ちゃんおはよう!」って。いつもほかのスタジオで、みなさんが声をかけてくれるのと同じ雰囲気だったので、ありがたかったですね。
「これがドラゴンボールファミリーの力なんだ!」って。来る者を温かく迎えてくれる器というか、空気感はすごいなって思いました。
——しかも芸達者揃いで。それこそ先程の入場パフォーマンスも凄まじかったです!
久川:すごいでしょ!? よそのスタジオに行くと、大概「あ、私が一番上か」って話になるんですけど、ここにいると私、一番下っぱですから(笑)。30年やってもまだぺーぺーなんです。やっぱりあの人たちの存在感とか懐の大きさはすごいですね。
鳥山明先生から「ブルマも入れたい」
——本作のお話はいかがでしたか? もちろんバトルシーンが多いのですが、歴代の『ドラゴンボール』劇場作品の中でも親子愛が強く描かれているなと感じました。
久川:そう思われますか? 私は歴代作品をちゃんと観ているわけではなかったので、バトルの激しいアニメという印象だったんですね。でも、こんなに笑わせるのかというのは驚きました。
私も最初のアニメ放送を観ていた世代ですけど、ピッコロ憎し、ベジータ憎しだったじゃないですか。「こんなにアットホームなんだ」っていうのは、私は初めて知りました。
——それはたぶん、鳥山明先生の脚本だからだと思います。
久川:そっか! オーディションで鳥山先生がOKを出してくださったというそのすぐ後に、「映画があります」とマネージャーから話があったんです。それは鳥山先生が「ブルマも入れたい」って仰ってくださったからだと聞いて、「ええっ、映画にも出られるの!?」って。
その時は花王のCM(2018年2月に公開された『ドラゴンボール』×花王コラボCM)だけで終わると思っていたので、「あっそうなんですか」って言ったんですけど、出来上がった台本を見たらブルマのシーンが多いじゃないですか。
こんなふうに彼女の心とかこだわりをわざわざ描き出してくださるんだと思って、台本を読んだ時はびっくりしました。もっと、チョコっと出てきて「がんばって!」とか「いってらっしゃい!」って言うだけかなと思っていたんですよ。それが結局、一緒に行くわけですからね。
——元々『ドラゴンボール』の物語は、悟空とブルマの二人旅から始まっていますから、原点回帰ですよ。
久川:その頃は私もテレビで観てた側ですからね。
——今回のタイトルにもなっているブロリーというキャラクターも、25年前の劇場版で登場した時は、史上最強の敵という感じだったんです。それが今回は親子の絆や友情を大切にする心を持っていたりして、その辺りが悪役だろうと人間味を持たせる鳥山先生の脚本だからなのかなと思いました。
久川:そっか。ベジータも?
——そうです。明らかにブルマを心配しているシーンがありましたからね。
久川:私が『ドラゴンボール』を観てた側の時は、ベジータは敵で憎い相手だったじゃないですか。そのベジータが、悟空にあんなことを言われて、あんな恥ずかしいことをやってのけちゃうっていうところに「あ、この人愛されているんだ」って思いました。
——ちなみに、アフレコ時のエピソードで何かありますか?
久川:まさにその、恥ずかしいことをやるシーンなんですけど。マコさんとりょうさんと私の3人でのアフレコだったので、2人が目の前であれをやっているのを見ているわけですよ。もうおっかしくって(笑)。
いやぁ、そんなことするんだぁ〜って。あれはインパクト強いですね。こんなコミカルで、しかもその前後はすごいバトルシーンだったじゃないですか。ここにこんな笑いを入れちゃうんだっていうのは、きっと鳥山先生の絶妙なシーン割りなんでしょうね。
——詳しくは話せませんが、「フリーザがんばれ!」って思いますよね(笑)。
久川:フリーザにあんなことを言う斉藤貴美子ちゃん(ベリブル役)だって、普通は「ピーッ! ボーン!」じゃないですか(笑)。そこをああ返すっていうのが意外でした。「うるさい! ピーッ!」じゃないんだと思って、あそこもびっくりしましたね。ワルだけになってないところがすごいなって思います。
これがドラゴンボールの世界なんだ!
——ブルマを演じる上で心がけたことで、「鶴ひろみさんが作ってこられたものを汚さない」ということ以外の、新たに作っていったこだわりなどはありますか?
久川:いやぁ〜。自分で何かを作ろうという気にはならないというか、なれないですね。確かに、物真似だけじゃない、自分のエッセンスも入っているんだろうけれども、自分の中では「塗り替える」とかそういう感覚じゃないから。
あくまでも鶴さんが作り上げたものを踏襲した上で、というところでやっているから、新しく作ろうとは思わないですね。
——そうなると、台本を読んだ時にも鶴さんのブルマが常に頭にあって、それを落とし込んで演じていくような感じでしたか?
久川:そうですね。そんな感じです。絶対に消せない鶴さん感覚があるから。もちろん、演じていたらブルマの役として叫んだり笑ったりもしますけど、セリフを見た時にはもうお芝居が決まっているというか。
でも、「役を受け継いだ人ってみんなこんな気持ちになるんだ」って思いました。やっぱり、それを壊しちゃいけないっていうね。
——繰り返しになりますが、観終えての感想としては「鶴さんのブルマを真似た」のではなく、「久川さんのブルマと出会えた」感覚でした。
久川:そう言っていただければ役者冥利に尽きますね。目指しているものが間違っていないっていう確信になります。
——おそらくアニメ『ドラゴンボール』は今後も続いていくと思います。そうなると、小さい子たちは久川さんのブルマから入ったりするわけです。そう考えた時に、これからの『ドラゴンボール』について思うことはありますか? 当然、今は受け継ぐことで目一杯かもしれませんが。
久川:そうですね。とにかくもう、ドラゴンボールファミリー、マコさんファミリーがあるから、そこに温かく迎えてもらえて、そこに包まれて安心してやっていけるっていう確信はありますよ。
——野沢さん、めちゃめちゃ元気ですよね。
久川:神ですから!(笑)
——今回の映画も、あの叫び合いには驚きました。
久川:アフレコの時、すごかったです。ノンストップですから。
——作画的にも、あのバトルシーンは歴代最高のクオリティだと思います。
久川:私も試写で観てびっくりしたんですけど。まぁ長峯さん(長峯達也監督)とは『冒険王ビィト』から始まって『プリキュア』とかもやってきて、熱い人だとは思っていたんですけど、「ここまでやるか!」っていうくらい試写ではびっくりしましたね。
——久川さんが推す見どころを教えてください。
久川:まずはあの迫力のバトルシーンと、BGMですね。名前連呼と技連呼の。
——あれはすごかったです!
久川:試写室ってちっちゃいけど、それでもすごかったんですよ! 「うわ〜、こんなすごいんだ!」と思って目を奪われちゃって。「これがドラゴンボールの世界なんだ!」って思い知りましたね。みんなここに魅了されるんだって。
でもキャストのみなさんも「今までで一番すごい!」って仰るから、やっぱりすごいんですね。そことコミカルな部分との兼ね合い。ただのバトルじゃないところの間合いはもう、絶妙ですね。
——しかも時代的に、今回は4DX上映などもあるわけです。つまり、椅子は揺れるわ水飛沫は出るわという劇場でこれを楽しめるわけですね。
久川:ふわぁ〜〜〜!? 試写であんなすごかったのに!? すごいですね! 私まだ昭和の人間だから、ちょっとついていけない部分が(笑)。今日のお客さんも、外人さんがすごい多かったじゃないですか。だから世界中の人が楽しみにしているんだなっていうのは思い知りましたね。
——最後に、これからブルマを背負っていくということで、メッセージをお願いします。
久川:はい。『ドラゴンボール』の一員として、恥ずかしくないブルマを受け継いでいきたいと思います。温かく見守っていただければ幸いです。
——ありがとうございました! これからのブルマに期待しております!
[取材・文/設楽英一 撮影/相澤宏諒]
作品情報
■タイトル 映画『ドラゴンボール超(スーパー) ブロリー』
12月14日(金)公開
■上映方式:通常版、IMAX(R)、MX4D(TM)、4DX(R)
■スタッフ
原作・脚本・キャラクターデザイン:鳥山明
監督:長峯達也
作画監督:新谷直大
音楽:住友紀人
美術監督:小倉一男
色彩設計:永井留美子
特殊効果:太田 直
CGディレクター:牧野 快
製作担当:稲垣哲雄
■声の出演
野沢雅子
堀川りょう
中尾隆聖
島田敏
久川綾
古川登志夫
草尾毅
山寺宏一
森田成一
宝亀克寿
水樹奈々
杉田智和
■主題歌:「 Blizzard 」三浦大知(SONIC GROOVE)
■製作:「2018 ドラゴンボール超」製作委員会
■配給:東映
■配給協力:20世紀フォックス映画
■STORY
これは、新たな〝サイヤ人〟の物語。
「力の大会」後の平和な地球。宇宙にはまだまだ見た事のない強者がいると分かった悟空は、更なる高みを目指して修業に明け暮れていた。そんなある日、悟空とベジータの前に現れたのは、見たことがないサイヤ人“ブロリー”。惑星ベジータ消滅とともにほぼ全滅したはずの“サイヤ人”がなぜ地球に?再び地獄から舞い戻ったフリーザも巻き込み、全く違う運命をたどってきた3人のサイヤ人の出会いは、壮絶な闘いへ――。
「ドラゴンボール超 ブロリー」公式サイト
「ドラゴンボール超」公式ツイッター(@DB_super2015)
作品情報
■タイトル 映画『ドラゴンボール超(スーパー) ブロリー』
12月14日(金)公開
■上映方式:通常版、IMAX(R)、MX4D(TM)、4DX(R)
■スタッフ
原作・脚本・キャラクターデザイン:鳥山明
監督:長峯達也
作画監督:新谷直大
音楽:住友紀人
美術監督:小倉一男
色彩設計:永井留美子
特殊効果:太田 直
CGディレクター:牧野 快
製作担当:稲垣哲雄
■声の出演
野沢雅子
堀川りょう
中尾隆聖
島田敏
久川綾
古川登志夫
草尾毅
山寺宏一
森田成一
宝亀克寿
水樹奈々
杉田智和
■主題歌:「 Blizzard 」三浦大知(SONIC GROOVE)
■製作:「2018 ドラゴンボール超」製作委員会
■配給:東映
■配給協力:20世紀フォックス映画
■STORY
これは、新たな〝サイヤ人〟の物語。
「力の大会」後の平和な地球。宇宙にはまだまだ見た事のない強者がいると分かった悟空は、更なる高みを目指して修業に明け暮れていた。そんなある日、悟空とベジータの前に現れたのは、見たことがないサイヤ人“ブロリー”。惑星ベジータ消滅とともにほぼ全滅したはずの“サイヤ人”がなぜ地球に?再び地獄から舞い戻ったフリーザも巻き込み、全く違う運命をたどってきた3人のサイヤ人の出会いは、壮絶な闘いへ――。