ハイトーンからロートーンまで。七色の声を持つ "いかさん"が、松岡侑李名義で鮮烈デビュー「ありのままの自分で勝負」/インタビュー
イケメンボイスから少年少女の声まで。初めて彼女の声を聴いたひとは、その絶技と声色の広さにまず驚き、感動することだろう。動画サイトを中心に"いかさん"として多くのフアンを魅了する一方で、昨今は声優/俳優として活動の幅を広げてきた松岡侑李さん。ジェンダーレスな魅力を活かしたオリジナル楽曲を引っ提げ、鮮烈なデビューを飾る。
プロデューサーは、「See-Saw」「梶浦由記」「FictionJunction」等を手掛けてきた森 康哲さん。デビュー作となる『.A(ピリオドエー)』に加え、『.B(ピリオドビー)』『.C(ピリオドシー)』……と、3か月連続で作品を発表していく。今回のインタビューでは、2019年1月9日にリリースされる『.A』について、また、デビューに対する心境などを教えてもらった。
「地の声がいいね」と言ってもらえたことがキッカケに
──まずは松岡侑李名義で歌手デビューをすることになった経緯を教えていただけますか?
松岡侑李さん(以下、松岡):もともとは"いかさん"として活動していて、(声優/俳優名義の)松岡侑李が生まれて。その名義を音楽にも使っていこうとなりました。
「 いかさん」 は、いかさん、たこさん、いくらさん、いるかさん ……など声を使い分けながら歌って、曲のなかの登場人物や曲に沿った歌い方で作り上げていたんですが、プロデューサーの森(康哲)さんから「やっぱり、地の声がいいね」と言っていただけたこともあって、ありのままの自分の声で勝負をしていこうと。
●女1人8役で EveR ∞ LastinG ∞ NighT / いかさん【歌ってみた】one person playing eight roles
── "もっと自分を出してもいいのかな"と思えたといいますか。
松岡:はい。自分のなかから出てくる感情や思いを優先して、"自分"を聞いていただこうと……
決していかさんを演じていたわけではないですが、"こういう歌い方が求められているのかな"ってところは客観的に見ていたところことがあって。ネガティブな意味じゃなくて"じゃあもっとこういう声で歌おうかな"と、それを楽しんでいたというか。
でも、今は解放感のようなものはあります。自分を出せたことに対するものではなく、心から自由に表現できたことに対してですね。ギミックなしでも聴いていただける歌を作れたということは、新たな発見でもありました。
──それは自信にもなりますよね。
松岡:そうなんです。これまではニコニコ動画の「歌ってみた」がホームだったので、自分ひとりで作り上げていく機会が多かったんですよね。家のなかで誰にも聴かれていない状態で録ってきたので、収録中に人に聴かれることも得意じゃなかったんです。
だから、はじめは「本当に大丈夫かな」という不安もあったんですけど、気づいたら不安もなく、良い環境で一緒に作らせてもらえて。安心してスタジオで歌うことができました。
──周囲のかたから意見をもらうこともあったんでしょうか?
松岡:プロデューサーの森さんだけじゃなく、作家さんや、女性スタッフからもアドバイスをいただく機会もあって。いろいろな方の意見を取り入れながら、「こういう歌いまわしにしよう」って等、 話し合いをしました。
自分の地の声は、ポップで明るい……というよりかは、格好良い声だと言われることがこれまで多かったんですよね。自分でも理解していたので、それを最大限活かしていただきました。
──言いかたに語弊があるかもしれませんが、これまでは自己完結されていたものに、いろいろな人の力が加わって、新しい歌が生まれていったんですね。
松岡:その通りで、やっぱり自己完結だったんです。それが作り込まれた自分の世界で、自信をもってお届けしてたんですけど、今回はたくさんの人の意見が入ったことで新しい松岡になったんじゃないかなと。本当に良い1枚になったと思っております。
──少し話が戻りますが、地の声を活かすというのは、今作のコンセプトでもあり、松岡侑李の活動として要となるところなのでしょうか。
松岡:地の声を活かした、格好良い世界をお届けするというのがコンセプトになります。いかさんという名義は今後もずっと残っていくと思うんですね。いかさんはあくまで自由に……初心を忘れずに、多少遊びをしていけるような場所としてずっと残していけたらなと思っています。
──今後もいかさんとして声を発信する機会はあると。
松岡:はい、もちろん。カバーが多いかなと思います。いかさんと松岡侑李は別々の軸を持った独立したものなんですけど、お互いが補ってけるような存在になればいいなと。
──松岡さんといかさんが、さらに共鳴していったとき何が起こるんだろう……それは今から楽しみですね。
松岡:いかさんでできないようなことを松岡侑李ではできますし、松岡侑李ではできないことはいかさんでできる。相互に影響しあって良い変化をもたらしてくれるんじゃないかなと思っています。
──松岡さんは、いかさんとしての顔も、俳優、声優としての顔もあり……多彩な表現方法を持たれています。ここで改めて "うた"への思いを教えていただけますか?
松岡:ホームだなと思っていて。もともと声優に小さいころから憧れがあったので、2017年から2018年はその道への勉強をしはじめた1年ではあったんです。でもどこに身を置いても、ホームにはうたがある。何を挑戦するにしても、うたへの影響を考えますし、活かしたいなという思いがあります。
──オープニングの「Burn!」の曲中に出てくるセリフは、まさにそれが活かされた形ですよね。
松岡:そうなんです。これはお芝居を勉強していなかったら形にならなかっただろうなと思っています。このセリフに関しても、ダイレクトに表現していて。言ってしまえばクサいセリフを言ってると思うんですけど(笑) 。どこまでナチュラルに耳に届けるか。芝居がかりすぎても違いますし、あくまで歌に乗せて、リズミカルに言葉を伝えていきたいという思いがありました。
「やっぱり自分は、音楽に恋をしているのかな」
──では作品について、具体的におうかがいさせて下さい。デビュー作品『.A』に続き2月に『.B』、3月に『.C』……と3か月連続リリースとなりますが、タイトルにはどんな思いが込められているんでしょうか?
松岡:恋のステップABC的なものが実はもととなっていて。松岡侑李に堕ちていって下さいねというメッセージが込められています。それぞれの魅力を散りばめているので、それを少しずつ知っていただければなと。
『.A』はいかさんから松岡侑李に飛び出していくって意味を込めて、情熱の赤をテーマにしています。
──まさにジャケットも赤で。「Burn!」も赤を彷彿させますね。
松岡:はい。鮮烈にみなさんの記憶に残っていただける1枚になればなと思っています。
──では今作のリード曲である「Burn!」について、改めて教えてください。最初に聞いたときはどんな印象でした?
松岡:メロディの第一印象は格好良い曲だなと。でもよくよく歌詞をのぞいてみると、意外と情けないというか……自分が転がしていたはずが、恋に溺れて、堕ちていた。これは自分の音楽に対しての思いと共通するところがあるのかなと思っていて。
"音楽を趣味に楽しんでいた。でも気づいたら夢中になっていて……"という自分のこれまでと重ねたところがありました。
──音楽へのラブレターというか。そういうお気持ちって「Burn!」を作詞・作曲されている尾澤 拓実さんには話されていたんですか?
松岡:それが……話してないと思うんですが……見透かされていたんですかね?(笑) ただ、この楽曲たちには作詞家さんがそれぞれいるんですけど、ベースとなるストーリーは自分から出していて。
うまく意図を汲んでくださって、格好良くしてくださいました。恋愛系の曲は、音楽に当てはめて歌うことが多いんです。やっぱり自分は、音楽に恋をしているのかなと思っています。
──ベースとなるストーリーがあるんですね。松岡さんからはどういったことをお願いしているんでしょうか?
松岡:完璧に「こういうものを書いてください」とお願いしたものはないんですが、自分の経験則から生まれたストーリーや、小説から(インスパイアされたもの)だったりとか……細かくお伝えさせてもらいました。例えば「Mind Bounce」は、自分の"進んでいきたい"という気持ちを素直にのせられたら良いなと思っていて、そういう内容にしたいと。「E.X.I.T」は、人の背中を押せるものにしたい……と、相談させてもらいました 。
──その2曲には、松岡さんの"これから前に進んでいくんだ"という決意も感じました。
松岡:はい。そうですね。自然とそういう熱が入ったと思います。
「ひとりでいるときは、ダークな一面も」
──そんななかで「イディオティックエレジー」は物語性が強い曲で、少し毒気が漂う曲だなと。どういったモチーフで生まれた曲なんでしょうか?
松岡:ちょっとダークな雰囲気ですよね。「イディオティックエレジー」はイメージを細かく発注した曲で。自分のなかから出てきている言葉を尾澤さんに曲にしてもらいました。
──それはつまり、松岡さんのダークな一面が垣間見られる曲でもある?
松岡:そうですね。自分自身は表面的にポジティブに見られることが多いですし、実際にポジティブだと思うんですけど、人知れずどろどろしているところもあって(苦笑)。ひとりでいるときは、ダークな一面もあるんじゃないかなと……そういうものが垣間見られるた ような曲かなと。
あとは単純に松岡侑李に目を止めて下さったかたのなかには、重めなサウンドが好きなかたもいらっしゃると思うんです。そういう方に刺さっていただけたら嬉しいなと思って、こういう曲も入れたいなと。
──そこは"歌ってみた"を経験してきた松岡さんならではのサービス精神なような気がします。
松岡:ああ、なるほど(笑)。そう言われてみたら確かに……。自分の伝えたいことをメインに歌われるかたなど、いろいろなアーティストさんがいると思いますけど、聴いてくださるかたに重点を置いてきた活動だったので。
これからどうしていくかは、迷いながら進んでいくと思うんですが……聴いてくださるかたを考えている自分のほうが割合的には大きいのかなと思います。自由に楽しんで歌っていますけどね。
「自信をもって"これが松岡だ"と言える楽曲」
──多彩な曲が用意されていますが「ジプソフィラ」というバラード曲もあり、そのギャップにドキリとさせられます。「E.X.I.T」と「ジプソフィラ」の歌詞は結城アイラさんが書かれていますね。
松岡:そうなんです。結城さん、すごくステキな歌詞を書かれるかたで。ご協力していただきました。バラードは1枚に1曲は入れたいなと思っています。
ロックな曲の場合は情熱、言葉のパワーを伝えていきたいなと。ミディアム曲の場合は、逆に言葉を包んでいくような、柔らかな気持ちで歌っています。いろいろな松岡を見ていただけたら。
──『.A』を改めて聴いたときはどんなお気持ちになりましたか?
松岡: 1枚目はフレッシュな印象があります。自分の曲って聴き込みすぎるとフレッシュさがなくなっていくものなんですが、熱を自分でも感じていて。それはすごく良いことだと思っています。それでもって、情熱の赤に相応しい作品になったなと。実はもともと10曲あったんですが、自信をもって「これが松岡だ」と言える楽曲を選曲したので、全部に引っかかってほしいです。
──今"熱"という言葉が出たんですが、なぜこのタイミングでその熱量が出てきたんだと思いますか?
松岡:新しい場所へ向かうことが熱を引き出したのかもしれません。もともと使っていた名前から大きくシフトチェンジって勇気のいることだと思うんです。ひとりの決心じゃなかなか難しいと思うんですが、たくさんのかたに背中を押していただいて、自分のなかで迷いに迷って、そして踏み出した"決心の一歩"なので、そういったものが熱になったんだと思います。
「これからも挑戦をしつづけたい」
──ジャケットもすごく格好良いですよね。ジャケットはどのようなコンセプトで撮影されたんでしょうか?
松岡:『.A』『.B』『.C』をすべて一日で撮っているんです。赤、青、紫……それぞれの作品に合わせた衣装になっています。コンセプトがしっかりと固まったヘアメイクをするというのは初めての経験でした。
そういったメイクや衣装に合わせて、どういう表情をするのが良いのか……自分なりに考えて表現しました。一気に撮ったのでバタバタではありましたけど、新鮮で、すごく楽しい1日でした。
──3枚並べると何かが起こる、といったことはあるんですか?
松岡:あっ、それは……! 並べてみたら分かると思います(笑)。何かが起こるかもしれない。ブックレットはカード式でバラバラになっているので、お好みの松岡の写真をジャケットにできます。
──ミュージックビデオの撮影はいかがでしたか?
松岡:最近ダンスの勉強をはじめたんです。本当に最近なんですが。難しくはあるんですが表現の幅は着々と広げていけていると思いますし、これからも挑戦をしつづけたいなと思っています。
●Burn! / 松岡侑李
──ダンスの勉強をしはじめたきっかけって何かあったんですか?
松岡:ライブパフォーマンスにも繋がると思ったのと────自分はパキッと動くより、しなやかに動いているほうが多かったんです。
どちらも取り入れていけたら面白いのかなと。歌をメインで活動をしていますけど、視覚的なものを表現できたら、伝わるものがあるのかなと。五感全てで受け取ってい ただけるために、これからも勉強をしていきたいなと思っています。
──素晴らしいですね。松岡さんのそのエネルギーってどこからくるんでしょうか?
松岡:良いものを作りたい、聴いてもらいたい、という一心です。ステキな楽曲がたくさんあるので……曲に全身全霊の自分をぶつけています。
「自分の歌声を格好良いと思っていたことってなかった」
──松岡さんのことについて、もう少しお話を聞かせて下さい。冒頭で松岡さんも話されていましたが、松岡さんの歌声は「格好良い」という印象を持たれることが多いと思うんです。「格好良い」と言われることを松岡さんはどのように受け止められていますか。
松岡:「格好良い」って自分の理想の姿でもありますし、みんなと共に作っていったものだと思います。でも、昔は自分の歌声を格好良いと思っていたことってなかったんです。初めて自分の声を録音したときって「あ、自分ってこんな声なんだ」ってビックリしませんか?
──最初は驚きますよね(笑)。
松岡:そうなんです(笑)。でも皆さんに「格好良い」「力をもらえます」「上手」……っていろいろな言葉をいただけるようになって、自信になっていって。モチベーションにも繋がりますし、より格好良くなれたら自分もみんなも嬉しいかなって。これまで培わせてもらったものを、今度は自分のパワーで押し出していきたいなと。
──少し気が早いのですが、2枚目『.B』はどのような作品になっているんでしょうか?
松岡:いまの時点で2枚目の音源も完成しているんです(※インタビューは2018年12月末に行われました)。まだお話できないこともあるんですが、2枚目は『.A』とは少し違います。また新たな一面を見せられるんじゃないかなと。楽しみにしててください。
──では、松岡侑李として今後やっていきたいことなどがあったら教えて下さい。
松岡:いかさんを知ってくださっているかた、松岡侑李をあまり知らないかた、そもそもどちらも知らないよってかた……いろいろなかたがいると思うんですけど、これだけ力を入れて、たくさんのかたに関わっていただいて、自信のあるものを作れているので、それをできるだけ多くのかたに届けていきたいなと思っています。目標でもありますね。
──松岡侑李としての活動以外にも、声優や俳優の活動もあると思うので、2019年はさらにマルチな年になりそうですね。
松岡:そうですね。それを楽しんでいただければと思います。
──最後に、作品を手にとるかたにメッセージをお願いします。
松岡:この世界に溺れて下さい!
──ありがとうございました!
[取材・文/逆井マリ]
CD情報
タイトル:.A(読み:ピリオドエー)
アーティスト:松岡侑李
発売日:2019年1月9日
【収録曲】
1.Burn!
2.イディオティックエレジー
3.Mind Bounce
4.ジプソフィラ
5.E.X.I.T
【初回限定盤】(CD+DVD)
価格:2,300円(本体)+税
品番:QWCE-00706
<DVD収録内容>
・Burn! Music Video
・撮影風景オフショット
【ぽちゅーん限定盤】(CD+DVD+GOODS)
価格:5,500円(本体)+税
品番:SQCE-00047
<特典内容>
特製バンダナ
オリジナルレザーブレスレット
ロゴアクリルキーホルダー
※特典の数に限りがございます。
※特典内容は変更になる場合がございます。
【通常盤】(CD)
価格:1,800円(本体)+税
品番:QWCE-00707