映画『バースデー・ワンダーランド』アカネ役:松岡茉優さんインタビュー|大人になって忘れかけていた感情が蘇る原監督ならではの作品
『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』や『河童のクゥと夏休み』などで知られるアニメーション監督・原恵一さん待望の最新作『バースデー・ワンダーランド』が2019年4月26日(金)より公開となります。
本作は、累計発行部数50万部突破の大ベストセラー『地下室からのふしぎな旅』(著:柏葉幸子。講談社青い鳥文庫)が原作。自分に自信がない主人公アカネの誕生日の前日、彼女の前に突然現れた謎の錬金術師のヒポクラテスと弟子のピポが現れ、「この世界を救ってほしいのです」と告げられます。
アカネは強引に地下室から続くカラフルで見たことも無い世界“ワンダーランド”へ連れ出され、救世主になって世界を救うための冒険で出会うさまざまな人や動物たちとの出会うことに。誕生日に起こる不思議な出来事、“特別な1日”を感じさせられるストーリーとなっております。
そんな本作の主人公・アカネ役の声を担当する、実力派女優・松岡茉優さん(『万引き家族』等)にインタビューを実施。声のお仕事に対する松岡さんならではの想いや、原監督が生み出す作品への印象、また、交流がある山寺宏一さんや日高里菜さんら声優さんたちとのエピソードなどたっぷり語っていただきました。
目次
クライマックスシーンは泣きながら収録しました
――『ポケモン・ザ・ムービーXY&Z ボルケニオンと機巧のマギアナ』(2016年公開/キミア王女役)や『映画 聲の形』(2016年公開/石田将也(小学生)役)など声優のお仕事も何度か経験されていますが、今回は初主演。主人公・アカネ役を演じる際に、気をつけたことや意識したことがあれば教えてください。
松岡茉優さん(以下、松岡):私の中では“声優”をやらせてもらっているのではなく、声のお仕事に参加させてもらっているという気持ちを大切にしています。
声優さんは声優さん、俳優は俳優と住み分けがあると思っているので、オファーを頂いたからには失礼のないように正面から挑戦しようと思いました。
声優さんと俳優の仕事は、技術として大きく違うものだと思っていますので、本当はお互いに介入しないほうがいいのかな、と思う部分もあります。ただ、オファーを頂いた限りは精一杯に向き合いたいと思っています。
――原監督と初タッグを組んだ作品が実写作品の「はじまりのみち」でしたが、今回はアニメーション映画です。実写とアニメで原監督の演出方法に何か違いはありましたか?
松岡:実写映画のときは、監督から細かい指示がほとんどありませんでした。最初に「こういう風にやってほしい」と方向性をお伺いしただけで、後は俳優さんにお任せしますという感じで。
ただ、今回のアニメーションでは、「ここの息遣いはもう少し荒く」、「そこはあまり興奮しないで、前のシーンと比べるとこのくらい」など、細かく指導をしてくださったので実写のときとはとても違いました。
――オーディション時には、原監督と即興でセリフのやり取りをされたとお伺いしました。
松岡:そうなんです。監督がチィ、ヒポクラテス、ミドリ(アカネのお母さん)など1人で5役やってくださって、私がひたすらアカネで返すというやり取りを1時間半以上もやっていました。
――劇中でもその即興は使われているのですか?
松岡:使われたシーンもあります。監督自ら、学校の女の子役も演じてくださいました。
――そんな原監督にどのような印象を持たれのかお聞かせいただければと。
松岡:取材のときに原監督と2ショットで写真を撮る機会がありまして。その際、監督の顔が本当に真っ赤になっていたので、“照れ屋さんだな”と。
また、自分の気持ちをお話しされるのがそれほど得意ではないのかも、とも思います。一生懸命伝えようとしてくださっていることがわかりますし、伝わっているのに「伝わっているかな?」と伺ってくださるんです。
すごく繊細な人だからこそ、私たちがいつの間にか忘れていくような感情をあれだけ真正面からアニメーションに落とし込むことができるんだな、と感じました。
――原監督が生み出す作品やシーンに、松岡さん自身が刺激を受けた部分はありますか?
松岡:私は原監督のアニメーション映画で育った世代で、小学生のときに見た『クレヨンしんちゃん』の「モーレツ!オトナ帝国の逆襲」や「アッパレ!戦国大合戦」でたくさんの刺激を受けました。
たとえば、「モーレツ!オトナ帝国の逆襲」ならしんちゃんが階段を駆け上がるシーン、「アッパレ!戦国大合戦」ならクライマックスのみんなが息を呑んだシーンなど濃度の高いシーンです。
今回の『バースデー・ワンダーランド』にも、ギュッと詰まった濃いシーンがクライマックスで出てきます。私自身、色がついていない線だけの絵コンテ状態でも、収録中に気持ちが溢れ出てしまい、泣きながら収録しました。
そこへ、さらに、miletさんという素晴らしいアーティストさんの挿入歌が入るので、まさに“号泣不可避”。大人にとってはたまらなく感じるシーンなのではないでしょうか。
――収録中に涙が溢れ出てくるほど、胸に響くシーンなのですね。
松岡:自分が流した涙が、どういう種類の涙かわからないほど感情が込み上げてきて。私は泣き虫なのでよく泣くことが多いのですが、怒ったり悲しかったり悔しかったり……涙にもさまざまな種類があります。
収録中に流した涙は負の感情から出てきたものではなくて、まったく新しいもののように感じました。言葉にするのは難しいのですが、感情の壺がいっぱいになって涙が溢れてしまうような感じです。
だからこそ、そのシーンは大人の方にぜひ見てもらいたい気持ちがあります。大人になって忘れかけていた感情、“理由はわからないけど泣いちゃう”ような感情の壺から溢れる感覚を体験していただきたいです。本当に感情に溺れそうになります。
山寺さんからの言葉がずっと心に残っています
――松岡さんは子供の頃、夢中になった児童小説はありましたか?
松岡:ありました。王さまシリーズの「おしゃべりなたまごやき」です。小学校の頃に漫画ばかり読んでいたので、担任の先生がおすすめしてくれたのがきっかけでした。
ワガママでダメダメな王さまがたまごやきを食べるだけのお話なのですが、夢中になるほど魅力的で。初めて最後まで読みきれた活字の本です。
――漫画がお好きということですが、アニメはご覧になりますか?
松岡:アニメは大好きです! 今、毎週の楽しみになっているのは『約束のネバーランド』。原作ファンとして本当に頭が下がります。
私は原作を大切に思っていますので、映像化となるとどうしても原作のほうをひいきにしてしまうタイプですが、『約束のネバーランド』のアニメは深い愛情が伝わってくるようで、いちファンとしてとても嬉しく拝見させていただいております。
あとは『ソードアート・オンライン』も見ていましたし、『がっこうぐらし!』はDVD BOXも持っています。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』も好きですね。
――おお! アニメの媒体としてはとても嬉しいです。具体的にどんなジャンルがお好きなんですか?
松岡:かわいい女の子が出てくる話が好きです。高校生時代は『けいおん!』も見ていたので、うっかり軽音部に入ってしまったこともありました(笑)
――かわいい女の子といえば、今回松岡さんが演じるのは小学校6年生のアカネです。
松岡:はい。小学生なので、最初は声を明るくしたり舌足らずな部分を出した方がいいのかな、と思っていましたが、大好きな先輩の山寺宏一さんに相談したときに「僕は茉優が13歳の時から知っているけど、13歳の時から茉優の声は変わっていると思う?」と聞かれたんです。
男の子は声変わりがありますが、女の子はないので、「確かに、話し方は変わったかもしれないけど、声色自体はあまり変わっていないのかも」と思い直しました。
山寺さんのアドバイスを受けて、実際に演じるときは声優さんのように技術面でのアプローチというよりも、アカネという役を通した上で、俳優のお仕事と変わらない気持ちで挑むことができました。
※松岡さんは、『おはスタ』のおはガールとして、山寺さんと共演している。
――山寺さんに相談されていたのですね。
松岡:私が初めて声のお仕事に挑戦するときに、山寺さんからいただいたある言葉がずっと心の中に残っていて。
「俳優と声優の仕事は、どちらも“演じる”ということでは同じ1本の道、延長線上にあるから怖がらないで。茉優がいつもやっていることをマイクの前でやったらいいんだよ」と。
技術的には声優と俳優はまったく違うお仕事だと思っていますが、山寺さんがおっしゃるように“演じる”ということは、いつも私がやっていることと同じだと胸に留めています。
――ほかの声優さんと一緒に収録する機会はありましたか?
松岡:私は最初のほうに収録したので1人でした。初号で他の方の声を聞かせていただきましたが、本当に声が素敵で。
――先ほど、山寺さんのお話も出てきましたが、声優さんのお仕事をどのように感じられたのか教えていただければと。
松岡:本当に“畑が違う”という言葉に尽きるのではないかと思います。
私たち俳優が映像にプライドを持ってやっているのと同じく、声優さんたちも“プロ”として声で表現し演じられています。
山寺さんは声優として王座に座り続けながらも映像や舞台もやられているので、感じるものが私のような若手とはまったく違うのではないかな、と。だからこそ、山寺さんの言葉が心の中に残っていると思います。
――山寺さんのほかにも、声優として活躍している日高里菜さんとは同級生だとお伺いしました。
松岡:そうなんです! 大橋彩香さんとも高校が同じクラスでした。
――そうなんですね!
松岡:実は、『ジュラシック・ワールド』の吹き替えのとき、「少年声ってどのように出したらいいの?」と里菜に相談しました(笑)
里菜はもともと子役で一緒で、途中で声優さんになったのですが、彼女の仕事の向き合い方が素晴らしくて、とても尊敬しています。
――たとえば、どのようなところでしょうか?
松岡:一緒に遊んだとき、「明日、大事な仕事があるから」と1人で練習し始めたんです。友達と一緒にいるときでも「明日は何とかなるか」という考え方ではなくて、しっかり準備をしてから仕事へ挑もうとする姿勢に刺激を受けました。
そんな里菜のプロ意識を垣間見たからこそ、畑違いの人が違う世界に踏み込んでしまうことに躊躇してしまう部分もあると思います。
なぜ原監督に主人公・アカネ役として選ばれたと思いますか?
――作中で出てくる“猫耳”がとてもかわいいのですが、最初はなかった設定だとお伺いしました。
松岡:私が初めてもらった絵コンテでは、もう猫耳がついていました。でも、最初はしっぽだけで猫耳はなかったそうです。
原監督は1回断ったそうですけど、キャラクターデザインを担当されたイリヤ・クブシノブさんがどうしても耳もつけてほしいとおっしゃって猫耳がついたとお伺いしております。
そのシーンは私自身、演じていてとても楽しかったシーンの1つです。
――アカネのお母さんのミドリや、叔母であるチィなど、イリヤさんが描くキャラクターたちにも注目ですね。
松岡:ミドリさんがアカネをチィの家に向かわせるシーンなどにも、アカネが何かに導かれたような雰囲気がありますので、ぜひ注目して欲しいです。
――ラストのシーンでは、アカネがお母さんに“世界が広がった”と言っていました。松岡さん自身が、“世界が広がった”と感じたことはありましたか?
松岡:最近、砕いたりこねたりと何でもできる素晴らしいフードプロセッサーを購入して、本当に世界が変わりました(笑)
いろいろなことが簡単にできるんです。本当に素晴らしくてよく使っています。
――“誕生日”に起こる出来事が1つのテーマになっていますが、松岡さんがご自身の誕生日で変化したことがあれば教えてください。
松岡:15歳の誕生日に「おはスタ」で山寺さんたちからお祝いしていただいたとき、“あと半分だ!折り返した!”と思ったのを今でも覚えています。
はっきりとした理由はわかりませんが、たぶん30歳で自分は1回楽になるのではないのかな、と。なので、今は30歳になるのがすごく楽しみです!
――タイトルの『バースデー・ワンダーランド』になぞらえて、松岡さんにとってのワンダーランドとは?
松岡:ハロープロジェクトのライブです! モーニング娘。さんだけのライブもワンダーランドですが、全員が集まったハロープロジェクトのライブは本当に私にとってのワンダーランドです。
――最後に、アニメーション映画の主役を経験された今、今後挑戦したいこと、活かしていきたいことがあればぜひお聞かせください。
松岡:物事に転機が起こったり、ほかのキャラクターに焦点が当たったりするときに、主人公である自分がサブポジションにまわり物語を受け取る。それを、今回初めてアニメーションの中で体験できました。
もし、今後、声のお仕事がいただけるとしたら、今回経験したことは絶対に活かせることだと思っています。
何より原監督の作品に主人公として出させていただけたのは、最初で最後かもしれません。
そう言うと、原監督が勘違いして悲しんでしまわれるのではないかと不安になりますが……(笑)
一同:(笑)
松岡:決して悪い意味ではなく、原監督を尊敬しているからこそ“もう二度とない経験なのでは”と思ってしまうんです。
今回は、本当に人生で何度も起こることはない貴重な経験をたくさんさせていただきました。将来、ミドリさんのように、いつか私に子供ができたときは、自分の子供に見て欲しいと思える映画です。
――最後にもう1つだけ。なぜ原監督に主人公・アカネ役として選ばれたと思いますか?
松岡:その理由は本当に迷宮入りだと思います。
でも、アフレコ初日に最初のシーンを収録した後、「アカネだ〜」と原監督がおっしゃってくださったときは、本当に嬉しい気持ちでいっぱいになりました。
私が思っているアカネと監督の中にいるアカネが近いんだな、と安心できたんです。“監督がアカネだと思ってくれたのなら何をやってもアカネだ!”と、ほかのセリフも自信を持って言うことができました。
――この後、原監督にインタビューさせていただくのですが、監督に聞いてみたいことはありますか?
松岡:たくさんあります! 逆に、大事な作品の主人公・アカネを、なぜ私に任せてくれたのかお聞きしたいので、ぜひよろしくお願いします。
――了解しました!
凛とした佇まいや、1つ1つの質問に丁寧にお答えいただいた姿が印象的だった松岡さん。原監督が生み出す作品に対する愛情はもちろん、声をプロにしている声優さんたちへの尊敬の気持ちも強く伝わってきました。
インタビューでおっしゃっていたように、『バースデー・ワンダーランド』は原監督ならではの、どこか懐かしさを感じさせられる“大切な感情”が一気に蘇ってきます。
ぜひ劇場に足を運び、その感情を肌身で感じてください。
[文/福室美綺 取材・撮影/内田幸二]
『バースデー・ワンダーランド』作品情報
2019年4月26日(金)全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
【ストーリー】
一生に一度の誕生日、あなたを奇跡の冒険へ!
誕生日の前日、自分に自信がないアカネの目の前に突然現れたのは、謎めいた大錬金術師の ヒポクラテスとその弟子のピポ――「私たちの世界を救って欲しいのです!」と必死でアカネに請う 2 人。そしてアカネが無理やり連れて行かれた世界は――骨董屋の地下室の扉の先から繋がっていた<幸せな色に満ちたワンダーランド>!
ふしぎな動物や人が住む世界から、色が消えてしまう!その世界を守る救世主にされたアカネが大冒険の果てに下した、人生を変える決断とは? 一生に一度きりの、スペシャルでワンダーな誕生日が始まる----!