リスペクトと信頼が生んだ漫画「虫籠の錠前 BUG&BAT」! 成田良悟さん&どーるるさん対談
共作が生む新しい可能性
――素朴な疑問なのですが、成田先生の作品は同じ世界観を共有しているケースがありますよね。『虫籠の錠前』はいかがですか?
成田:「バッカーノ!」や「デュラララ!!」、「ヴぁんぷ!」、「越佐大橋シリーズ」は同一世界のお話。「世界の中心、針山さん」という短編集と「ステルス交境曲」は、その二つで繋がっている別の世界観になっています。
ここの違いって幽霊が登場するかどうかなんです。死後の魂やあの世の話が出てくると「バッカーノ!」の『不死者』があんまり意味を持たなくなってしまいますよね。ですので、バッカーノ!」や「デュラララ!!」では死後の世界や幽霊の有無については書かない方向にしていたんです。
「世界の中心、針山さん」はキャラクターが幽霊として登場するので、ここが明確な違いなんです。
また、「クロハと虹介」や「デッドマウント・デスプレイ」の世界観が入ってくるんですけれども、ここは漫画原作群として別の世界観で考えているんです。
実は「虫籠の錠前」がどこの世界観に入ってくるのかは、これから考えるところなんですよ。
「デュラララ!!」の世界観になってくると、幽霊キャラが出せない形になる。ただ、「世界の中心、針山さん」になると、“バグ”の能力で死者の念と会話ができるという展開が生まれます。
そっちの方向にすると、死んだキャラクターと一時的に意思疎通ができる。ここは考えどころですね。どちらの世界にも吸血鬼は居て大丈夫なので、その辺りは期待して欲しいですね。
どーるる:“バグ”は本当に色んなことが広がりますよね。私もどの世界観になるのか楽しみにしています。そうだ、“バグ”の能力ってどこまでできるんですか? 透明人間は超能力の中でもかなりハイクラスですよね?
成田:そう。すごくハイクラスの能力を持っているキャラクターがドラマだと脇役なんですよ。実は「虫籠の錠前」ってもともと時代劇の予定だったんですよね。
ただ、時代劇は色々と予算が高い(笑)。でも、超能力はOKが出たんです。私は大きな爆発をやりたい! と色々と練ったのですが、ここでもやっぱり制約があって(笑)。
でも、制約は面白いですよね。作品に深みが生まれます。「虫籠の錠前」の世界ではNo.6の暴走により、能力者全員の能力の質が落ちる……という設定を監督や脚本家さんから提案された時は「なるほど!」となりまして。
それで火を噴くにしても小規模になったんですよ。ドラマを見ていただいた方には分かると思います。とんでもないことにはなっていませんでしたよね?
この考え方は本当に参考になるなと思いました。
ちなみに、漫画でもこの設定が準拠されています。なので、二兎も本当は半日でも一日でも透明になれたんです。それが暴走の影響で集中が途切れると、姿が浮かんでしまうようになりました。
これがあったから、二兎がドラマで脇役に収まるようになりましたし、マスターとの関係性も上手くバランスが取れたんじゃないかなと。
“バグ”の能力を持ったキャラクターは数字の名前が浮かび次第、増やせますからね。漫画の第4話から登場した十六夜もドラマ版には登場しないキャラクターですし。
どーるる:そうですね。十六夜は私がキャラクターデザインを担当させていただいて。こんな人だったらカッコいいなって思ってデザインしたら通ったので嬉しかったんです。
成田:私は最初、インテリヤクザみたいなメガネの男性キャラをイメージして文章を書いていたんです。
それがどーるるさんから「キャラクターデザイン女性にしていいですか?」って聞かれて、すごく面白いなと。
実際、上がってきたらすごくいいキャラにしていただいて。結果的にこの先も出番が増えるくらい(笑)。どうして十六夜を女性にしようと思ったんですか?
どーるる:二兎と戦うキャラクターなので、女性同士の能力使いってカッコいいなと思ったんです。男女でもいいかなと思ったんですけど、女性同士だと同じ土俵で能力の違いが描けるのかなって。
でも、単純に私が「ルパン三世」の峰不二子みたいなキャラクターを描きたかっただけなのかも(笑)。
成田:インテリヤクザとグラマラスなお姉さんだと大分印象が変わりましたよね。でも、描いていただいたキャラクターデザインを見ると、すごくキャラが立っていましたよね。
私は小説を書いてきましたけど、漫画原作者をやるときは素人だという自覚があるので、漫画家さんからの提案はよほどのこと(話の大筋そのものやキャラの生死込みで展開を変えたいとかそのレベル)が無い限り、なるべく受け入れるようにしているんです。漫画の演出に関して、漫画家さんの手によるアレンジはより良くなるものだと思っていますので。
――先ほどからお話を聞いていてもどーるる先生の成田先生に対する尊敬の気持ちがひしひしと伝わってきます。そんな偉大なる作家のプロットにアレンジを加えるのはどんな気持ちで行っているのですか?
どーるる:これまでのネームで私が劇的に変更した部分はあまりないんですけど、最初にプロットをいただいて「あぁ……すごく面白い」と思うのが続いていて。ですので、この面白さをどう伝えるのか? というところからスタートします。
この面白さを伝えるにあたって、ここはもう少しプラスした方が良いんじゃないか? ここは削ったほうがいいかも? と調整をするイメージですね。
成田:こちらから二兎と八菜の会話シーンを「こういう時、女の子同士はどういうトークをするんだろう? ちょっと、ここの会話お願いします!」ってお願いしたこともありましたよね?
どーるる:そうですね(笑)。
成田:第5話で二兎と八菜が2人でクレープを食べているシーンは、どーるるさんに会話をお願いした結果、すごいガールズトークになったなと思っています。助かるな〜って(笑)。
他にも第3話のラストで二兎が受け取ったポスターも、どーるるさんの演出でしたよね。八菜が作ったポスターにマスターの似顔絵が描いてあるという。
どーるる:そうですね(笑)。あのポスターもどういったデザインにしようかな? って思った時に、マスターは何考えているのか分からないキャラクターなので、ポスターをマスターがデザインしたら給与、休みくらいの文字だけになっちゃうのかなって。
なので、八菜ちゃんが描いたイラストが入ると面白いなって思ったんです。吹き出しで「待ってるよ!」なんてマスター絶対言わないでしょみたいな(笑)。ここは結構遊びましたね。
成田:あのポスターが想像以上に可愛い感じだったので、これでバイトが来ないのは、そもそも面倒くさがって貼り出したりしてないんじゃないですかね(笑)。
裏側を想像すると、七海辺りが気を使って「マスターは飯を作るのが下手なんだから人雇いなよ?」って言ったんでしょうね。それで、マスターがポスターを作ってみたら文字だけになっちゃって。
そこで七海がこれはダメだと思って、自分の妹に描いてあげて? とお願いしている。ポスター1つとっても、共作の場合は想像が膨らみますよね。
原作を担当していると、漫画家さんがコマの隅っこに描いた遊びがあると「これを伏線にできる!」っと思っちゃったりもするんですよ。