「私に居場所をくれてありがとう」──三月のパンタシア 四季を表現したワンマン公演でオーディエンスに伝えた感謝
三月のパンタシアが6月9日(日)に東京・EX THEATER ROPPONGIでワンマンライブ「ガールズブルー・ハッピーサッド」を開催した。本公演は、3月に発売したアルバム『ガールズブルー・ハッピーサッド』のレコ発ワンマン公演。季節をテーマにした本作をステージではどのように表現したのか。当日の模様をお届けする。
趣向を凝らしたステージで季節を表現
「こんばんは、三月のパンタシアです。ひさしぶりだね! 今日は最後まで盛り上がっていきましょう!」
ダイスケリチャード氏のイラストで彩られたムービーとバンドセットによる「パステルレイン」の鮮やかなオープニングを経て、みあ(Vo.)が挨拶。客席にいるファンを見つめる表情は温かくとても優しい。「次の曲いきましょう」と「青春なんていらないわ」のタイトルを口にするとフロアから喜びの声が漏れる。「青に水底」を加え、アルバム曲の「ソーダアイス」と甘酸っぱい曲が続く。EX THEATER ROPPONGIの特性ともいえる巨大スクリーンには、さきほど花火が打ち上げられたかと思いきや、青々とした大きな木がそびえ立っている。その木がブロックによって、少しずつ姿を変えていく──。
カンのいい方はお気づきかもしれないが、季節の物語を紡いだ『ガールズブルー・ハッピーサッド』を表現するため、今回のライブではそれぞれの季節を4ブロックに分けて表現。最初は“夏”からで、淡く繊細でノスタルジックな世界観を届けていく。オーディエンスの思い出を引き出すような、実際にそれがあったようにまで感じさせるようなエモーショナルな声に惹かれる。
「もう悩んで病んで嫌になるのにも疲れたよ。オレンジ色の巨大なハロウィンかぼちゃだけがバカみたいに浮かれている──」。みあのナレーションとかぼちゃの絵と共に三パシの世界にどっぷりと浸らせていく“秋”。ジャジーな「ビタースイート」の<痛い痛い痛い><嫌い嫌い嫌い>という、ひたむきな思いをとじこめた胸を刺す言葉がくっきりと耳に飛び込んでくる。かと思いきや「ラフスケッチ」では淡い恋物語を聴かせ、「ルビコン」で茜色の空に向かって疾走。“切ない世界”は一貫しつつも多彩なサウンドと表現で物語を聴かせていくのが三パシの音楽だ。木が紅く色づいていく。
「夕暮れの街はとても静かで、君のいない世界はあまりに冷たくて、寂しいよ。冬の風が頬を切る。私はギュッと、瞼を閉じた──」。ふっと息を吸ってはじまったミディアムナンバー「恋を落とす」からは、ヒリヒリとした冬の空気と匂いを漂わす。さらに「東京」で切なくも壮大なサウンドスケープを響かせ、「街路、ライトの灯りだけ」「コラージュ」で明るい雰囲気に。木には葉が映し出されていく。
三パシといえばやはり春
「春がくるたびに特別な気持ちになるのは、きっと君と出会った季節だからなんだと思う。だけどまるでピンクレモネードのように甘く弾けるこの恋を私はまだうまく泳げずにいる──」と「ピンクレモネード」で春の風を吹かせる。
木は満開の桜に。弾けるような音色に合わせて観客が一斉にハンズクラップを鳴らし、サウンドに合わせて照明も一気に明るくなる。疾走するかのような「シークレットハート」、穏やかなメロディの「風の声を聴きながら」(TVアニメ『スロウスタート』エンディングテーマ)と三者三様のナンバーを届け、爽やかな一体感を生んだ。温かな拍手が沸いたところで「ありがとうございます」とみあ。
「今回のライブのテーマは季節をテーマにしていて。……木、すごいでしょ? 夏からはじまって秋を経て少し冷たい冬を越えて、あなたと一緒に季節の旅をしてきました。ここまで楽しんでいただけてますか?」
そう問いかけると大きな拍手が沸き、嬉しそうな表情を浮かべる。ここで三パシの音楽性について言及する。
「別れの苦しさだったり、将来への不安だったり、恋愛のうまくいかなさだったり……色々な種類の“言いたくても言えない切なさ”を歌ってきたんですが、なんで三パシがそういう切なさを歌い続けてきているかというと、私自身が自分の気持ちを直接言葉にして伝えるのがあんまり得意じゃなくって。だからせめて歌のなかではあの時言えなかった気持ちを言えたらいいな、吐き出せたらいいなっていうのがひとつ。あともうひとつ、同じような切なさを抱えている誰かの思いを私が代わりに歌うことができたらいいなという思いがあって。いろいろな人の力を借りながら音楽を作って、その音楽をみんなが楽しんで聴いてくれたり、こうやって一緒に遊んでくれたりするから、私は大好きな音楽を歌い続けることができています。本当にありがとうございます」
割れんばかりの拍手が起こる。今度は観客を覗きこむように「梅雨の季節なのにどうして春で終わったのって思ってますか?」と問いかけ「それは私が……春がとっても好きな季節だから。そして三月がずっと続けばいいからって思ってるからです!」と、ラストナンバーの「三月がずっと続けばいい」へ。ハンドクラップ&シンガロングに合わせて素直でまっすぐな歌声を響かせた。
「私たちはいつもこのはじまりの物語で繋がっています」
“三パシ”コールに導かれ、再びステージへ舞い降りた彼女たちはまずは「day break」を歌唱。バンドメンバーを紹介し、自らの思いをふたたたび伝える。
「今回のライブのタイトルにもなっている2ndアルバム『ガールズブルー・ハッピーサッド』ではいろいろな挑戦をしています。私が小説を書いてそれをもとに楽曲を制作したり、バンド色の強い楽曲が増えたり、ライブで映える曲も増えました。そういった新しい三パシを見せられたのかなと思うんですけど……。さきほども話した“言いたくても言えない切なさ”という根底にある部分はずっと変わっていなくて、それを変えようとも思っていません。私たちは変わらないまま変わっていきたいと思っています。そうやって一歩ずつ前に進んでいくための物語をあなたとこれからも長く丁寧に紡いでいけるように頑張りたいと思います」
次は本当の本当に最後の曲と伝えると観客からは「え~」の声が。微笑みながらファンの反応を受け取りつつ、「私たちはいつもこのはじまりの物語で繋がっています!」と宣言しメジャーデビュー曲の「はじまりの速度」へ。爽やかな温度で歌われる<傷ついたって擦りきれたってかまわないから走っていくから……>という言葉がその決意を物語っているようで染みる。
歌い終えたみあは「私に居場所をくれてありがとう! 転んだりしても、立ち止まったりしても、痛くても、私はもうひとりじゃないから怖くないよ! ありがとう!」とメッセージを伝え、最後は全員でジャンプ。長い長い拍手と歓声が沸き起こるなか、ステージをあとにする。ここで突然波の音。「おお!」とファンが声をあげるなか、スクリーンに夏の新企画『8時33分、夏がまた輝く』の予告が映し出され歓喜に包まれたのだった。
『8時33分、夏がまた輝く』は、小説、楽曲、イラストを連動させた企画『ガールズブル―』の最新作で、7月14日(日)から、ボーカル:みあの公式Twitterにてノベルの連載と共にスタート。「小豆島を舞台に、青く透明なひと夏の物語を紡ぎました」とのこと。どんな“夏”を感じさせてくれるのか、今から楽しみだ。
ライブ情報
■三月のパンタシア「ガールズブルー・ハッピーサッド」
2019年6月9日 EX THEATER ROPPONGI セットリスト
01. パステルレイン
02. 青春なんていらないわ
03. 青に水底
04. ソーダアイス
05. ビタースイート
06. ラフスケッチ
07. ルビコン
08. 恋を落とす
09. 東京
10. 街路、ライトの灯りだけ
11. コラージュ
12. ピンクレモネード
13. シークレットハート
14. 風の声を聴きながら
15. 三月がずっと続けばいい
<アンコール>
16. day break
17. はじまりの速度
TVアニメ『ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。』公式サイト
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