6枚目のアルバムをリリースしたfripSide 「10周年というものがにじんでいるアルバムになった」その制作を振り返る/インタビュー
今は「歌詞を書くのが楽しい」
──『infinite synthesis』シリーズ(※)のコンセプトは「その時に作りたいものを作っていく」ということですが、それは今回も変わらずだったのでしょうか。
sat:変わらずですね。曲によっては昔の懐かしいテイストを入れ込んだものはありますが、基本的には今できること、やりたいことをやろうっていうのがテーマになっています。
企画の段階で、『Decade』(2ndアルバム)や『crossroads』(コンピレーション)のようなコンセプト的なアルバムにするか、それとも『infinite synthesis 5』にするかという議題が上がっていたんです。
でもやっぱり『infinite synthesis 5』が良いだろうと。10周年をテーマにしたものにするとコンセプトアルバムだらけになってしまうので(笑)。去年に引き続きアルバムを出したら良いんじゃないかなと。
▼『Decade』(2ndアルバム)
▼『crossroads』(コンピレーション)
※『infinite synthesis』シリーズ…
2ndアルバム『Decade』を除き、オリジナルアルバムは全て『infinite synthesis』がタイトルにつく形になっている。直訳すると「無限の統合」で、fripSideのコンセプトを表したもの。以下文中では、『infinite synthesis』(2010年)=『1』、『infinite synthesis 2』(2014年)=『2』、『infinite synthesis 3』(2016年)=『3』、『infinite synthesis 4』(2018年)=『4』と数字表記。
──先ほど“懐かしいテイスト”という言葉が出てきましたが、それは南條さんと話し合って決められたのでしょうか。
南條:大体、それはないのです(笑)。
sat:いつもしていないので、今回もしてないです(笑)。「こういう曲できたので歌ってください~」「歌詞を作ってください~」っていう感じで。
──そこには、10年目ならではの阿吽の呼吸的なものも存在してるんでしょうか。
sat:最初からそのやり方だったということもあるんですが、オートメーションというのかな……。なんていうんだろう、こういうの。
南條:「こうきたらこう!」って決まってるというか。
sat:そうそう。あ、「阿吽の呼吸」だね(笑)。二人で議論しても仕方ないしね。曲を作るのは僕、そこに声で命を吹き込んでいくのが彼女。
歌うことは全部任せて、曲は僕が責任を取るというのが、お互いの能力をいちばん発揮できるスタイルなんです。なんちゃんに対して余計なことを言っても邪推というか。「頑張ってね」とかは言いますけど(笑)。
南條:私が加入する前のfripSideも、satさんの音楽性が強いユニットで。satさんのそんな音楽性が好きでお客さんがついてきていると思うので、クリエイティブな部分に対して私が意見をしてしまうと、fripSideの色が薄まっちゃう気がするんです。ボーカルに徹することで、fripSide色が強くなるのかなって気はしています。
fripSideの音楽に私のクリエイティブを乗せたいって願望も、良い意味でないんです。歌詞を書くにしても、歌うにしても、fripSideにしかできない表現を楽しんでやらせてもらっています。
sat:でもさ、良い歌詞を書くよね。
南條:歌詞、良いですよね。
一同:(笑)
南條:歌詞を書くのが楽しいんです。フリップでしか書けない表現がたくさんあって。
今回は10周年ということもあって、とある曲に関してのアンサーソングのようなものも書かせてもらったんです。それがどの曲か明確にするのは控えておこうかと思っているんですが。気づいてくれる人がいたらいいかなって。
コンセプトとして10周年というものはなかったんですが、10周年というものがにじんでいるアルバムになったように感じています。
sat:「10周年がにじんでる」……。良いキャッチコピーが出ましたよ。
一同:(笑)
sat:というかさ。今話を聞いてて「やべぇ」と思ったんだけど、僕も同じことを(歌詞で)やりました。ここが打ち合わせのない怖さ(笑)。
──阿吽の呼吸ですよ!(笑) 言わずとも同じ方向を向いているというか。
南條:「一緒のテーマで書いてるな」ってこと、『4』も結構ありましたよね(笑)。似たような言葉が入ってて。
──fripSideらしい言葉が散らばってるというのはありますよね。
南條:その“らしい言葉”っていうのが、昔は分からなかったんですよね。『1』『2』のころは、fripSideらしい単語で歌詞を書くことが凄く難しかった。
というか、その当時は歌詞を書くこと自体そんなになかったので、歌詞を書くことに苦戦していました。当時印象に残っていることがあるんですが、魂という言葉はfripSideらしくないということでリテイクが出て──。
sat:え、そんなこと言った?
南條:言いましたよ(笑)。当時はそれで「なるほど。違うのか」って。でも最近は魂って単語も出てきますし──あと『3』の「Answer」に、<はらはら>って単語を入れたんですけど、和風の印象が強くなるから、もっとスタイリッシュな単語が良いって言われたんです。
sat:それは言った(笑)。
南條:でも私は押したんですよ。「一回歌ってみるんで」って。
sat:それで録ったものを聴いて「なんちゃん、これ案外良いね」って。彼女の発想のおかげでfripSideが使える単語が増えたんですよ。
この10年間、そんな彼女のアイデアに影響を受けて、僕の歌詞も10年前のものと比べると“表現が増えてる”というか。この言葉使っても大丈夫だなって。彼女の発想に広げてもらった感じがする。
──にじんできてるんですね……!
sat:(爆笑) 全部にじんでる!
南條:にじんで読めないくらい、にじんでる(笑)。『3』くらいから、「この表現オッケーなんだ」っていうのが増えていった気がしています。
「リテイクくるかな?」って思った表現が通ったりして。『4』ではさらに増えたし、satさんの書く歌詞も10年前よりも日常感が出たというか……。
漠然と遠いところのことじゃなくて、もっと身近な歌詞が増えたなって。実は徐々に変化していってるんですよね。それが10年を感じるポイントでもあるのかなと。
sat:(うなずきながら)僕の歌詞って、カメラで例えると広角レンズのみだったというか。直接的な表現をすると聴く人を選んでしまうんじゃないかという、プロデューサー的な発想があったんです。
でも10年やってる間に、他の視点を試す機会が増えて。望遠レンズで焦点を捉えているうちに「これもありなんだ」「あ、こっちも良いんだ」って思えるようになって、こだわる部分、こだわらない部分のすみ分けがハッキリした感じがします。
あえてこだわりをなくして、セオリーから外れて、めちゃくちゃやっても面白いじゃんっていう度胸もついたし。
──そうした葛藤を超えて今がある。すごく興味深いお話です。
sat:はじめは「これはダメ、あれはダメ」が多くて。fripSideは自分の世界だし「俺がイヤなものは絶対やらねぇ」というような変なこだわりがあって。たぶん相当ウザかったと思います。
一同:(笑)
南條:いやいや(笑)。既に完成されたユニットでしたし、二代目ボーカルとして入ったときは、言葉は悪いですけど、ファンの方たちから見て私はよそ者だったと思うんです。
だから「どういう歌詞や歌い方がフリップっぽいのかな」と考える機会が多くて。それで当時のことを鮮明に覚えているんだと思います。
──でも今は、お二人がいればfripSideの表現として成立するといいますか……。
南條:そう言っていただけるのはありがたいですね。『4』のときに強く思ったのが、fripSideというユニットは自分が思っている以上に自由なのかもということで。
10年前はsatさんの理想も私のなかのイメージもあったけど、徐々に馴染んでいって。お客さんたちも含めて、みんなで一緒になってfripSideというものを共有して楽しんできたからこそ、表現の仕方が自由になっていったというか。
素直に言ってしまえば、昔は窮屈なところもあったと思うんです。正解を探すことに私自身必死で、ステージに立つときも、「これは正解ですか? どうですか?」とお客さんに問いかけてたと思うんですよ。
でも今は出たものは正解になった。「これが正解だからさ。だろ?」というか。
一同:(笑)
──お客さんもお客さんで、共に10年歩んできていますもんね。
南條:最初から応援してくれている人は、単純計算でプラス10歳ですもんね。大人になっているはず(笑)。
──10年という月日と経て、信頼関係もより強くなっていった印象があります。
南條:fripSideのライブってわちゃわちゃしてるんでしょ?ってイメージのかたも多いと思うんですが、今は想像以上に大人の集まりになってます(笑)。すみ分けができてるというか。
fripSideの曲は「only my railgun」のような曲もあれば、バラード曲もいっぱいあって、一緒に盛り上がることもできるし、曲をじっくり聴くこともできる。すごく良い空間になっています。
sat:みんな大人だよね。この間のバスツアーイベント(freakSide presents「fripSide Phase 2 : 10th Anniversary fripSideと巡る、1泊2日のバスツアー in 山梨」)があって、参加してくれたかたのなかには、海外からきてくださったかたも、40代、50代のかたもいらっしゃって。
若い人たちもちゃんとしてるというか……“ちゃんとしてる”って言い方はおかしいかもしれないけど、すごく礼儀正しかった。全体的に落ち着いてたよね。
──ライブでのお客さん反応もどんどん変わっていきましたよね。ずいぶんと前ではありますが、satさんが一部お客さんのマナーについて直接注意されることもありました。これって凄いことだと思うんですよね。注意をするって勇気もエネルギーもいることで。
sat:その場にいるみんなに楽しんでもらいたい。本当にただそれだけのためというか。ライブで一列目にいるのはなんちゃん。二列目は僕。だからこそ気づくこともある。年齢的にも言いやすい立場にあると思いますし、そこはちゃんとしたいなと思っています。