今、アニメ製作会社を立ち上げる意味とは――李衡達さん、稲垣亮祐さん、斉藤健吾さん、Yostar Picturesの舵を握る3人にインタビュー
斉藤さんは『アークナイツ』のガチ勢!?
――『アークナイツ』の PV の制作に関して具体的なオーダーとかあったりしたんでしょうか?
斉藤:アーミヤとチェン、ケルシーの3人を出してくださいというのはありました。
稲垣:最初のキービジュアルがとにかくかっこいいので、基本はこの雰囲気を大事にして作ろうと、PV を組み立てていった形でした。そこまで細かいオーダーがあったというよりは、お互い「やっぱりそうだよね」という感じで、意見が一致した部分が多かったので、スムーズに作れましたね。
――その段階ではまだゲームはリリースされていなかったのでしょうか?
稲垣:日本ではリリース前でした。中国のほうでは、すでにリリースされていましたが、我々が中国版をプレイするのも難しかったので、日本語のローカライズが進んできた段階でストーリーのテキストデータを頂いて、それで大体のお話の世界観を掴んで進めていった形でした。一応、完成の直前くらいの時期には、Android での日本版のβテストをちょっと遊ばせてもらったりもしていましたが。
―― PV の制作に関して、演出などでこだわったポイントはありますか?
斉藤:光の入れ方とか、下田慧さんが結構気にしてくれたりしましたね。
稲垣:日本のアニメ製作だと、コンテに色を付けて出す事ってあんまりないんですけど、海外だと映画を撮るときにはストーリーボードアーティストって言って、コンテに色を付けた状態でライティングや舞台設計的なものを考えて出したりする担当がいるんです。今回はそれがやりたいと思っていて。
――海外に近い作り方に挑戦されたんですね。
斉藤:時間をある程度もらえたからこそできた手法ですね。
稲垣:これが1、2ヶ月の納期だったら、いわゆる普通のアニメ的な作り方でしか対応しきれないのですが(笑)、今回はトライエンドエラーをする猶予がある程度あったので。試しに一度見てもらったら気に入っていけたようだったので、このやり方でやってみようと。
――ちなみに、お二人はゲームはプレイされているんでしょうか?
斉藤:自分は結構、暇さえあれば遊んでます(笑)。リリースしてから、1か月後くらいで、昇進2のオペレーターが4人くらいいましたね。
――それはすごい!
稲垣:彼はガチです。自分は、ようやく1体いけそうなくらい(笑)。
斉藤:エイヤフィヤトラのピックアップがあったので、すぐ引いてその日のうちに昇進2まで進めました。キャラクターだと、個人的にはフランカが好きですね。秘書にしてるとすごく良いんですよ……(笑)。
――斉藤さんはかなりハマられているようですが、どういったところが『アークナイツ』の魅力だと感じましたか?
斉藤:タワーディフェンスなんですけど、パズルをやっているような気分になるというか。ここにこのユニットを配置して、敵がこう流れてくるからっていうのを先読みして、それがハマった時がとにかく気持ちいいんですよね。あと、これってアニメの監督と一緒かもしれないなと思って。うまく作業を回すために、この役割はこの人に……という感じにね(笑)。
――そう言われてみると、管理職的な仕事と通じるものが(笑)。稲垣さんはどうですか?
稲垣: 僕は世界観ですね。まず見た目のビジュアルを真っ先に気に入ったので。僕はタワーディフェンス自体は初めてだったんですけど、将棋にも近いのかなと感じました。回復で、ナイチンゲールとかは後ろまで回復できるけど、サイレンスとかは前全部いけるとか、キャラクターごとの攻撃範囲とかボードゲームっぽさもあって
――確かに、将棋の移動範囲に近い所がありますよね。
稲垣:僕は固めるのが好きなので、ニアールとかホシグマとか、ガチガチの盾を並べて常に回復させ続けるっていう戦い方をしたいんですけど、それだけじゃダメなので……。
――ステージによっては、それが難しいこともありますからね。
稲垣:やっぱり、先手必勝も大事なんだなと思い知らされました(笑)。
――今回のPVは、全てデジタル環境で制作されているとのことでしたが、デジタルならではの強みやメリットというのはどの部分なのでしょうか?
斉藤:強みがあるとすれば、どこでも仕事ができ、場所を選ばなかったというところでしょうか。基本は家でずっと作業して、ちょっと打ち合わせがあるときは吉祥寺のカフェとかで集まって。あとは、ゴミが出ないとこととか……。
――紙のゴミということですか?
斉藤:そうです(笑)。机が散らからないっていうのは、実はすごく楽なんですよ。
稲垣:エコですしね。1人でも紙でやりたいって人がいると、その人のためだけにスキャナーが必要になったり、手間も予算も一気に増えるんです。あとはデータが全てクラウドに上がっているので、チェックもしやすいですね。今までは制作管理、制作進行とかが全員にVHSとかDVDとかでデータを渡しに行ったりしないといけなかったのですが、今なら「データで上げておいたからチェックしておいて」で済みますから。
あとはLINEとかで上がったことを報告すれば、みんなが見にいって上がった作画データを各々が勝手に直したりもできます。まぁ、好きな時間に直されると困るときもあるんですけど(笑)、納期に間に合う範囲でクオリティアップができるのは良いことだと思うので。
斉藤:上がりの報告のためだけに、LINEでグループを組んだりもしていますからね。
稲垣:昔は中国とか台湾とか韓国に紙を飛行機で運んでいたのですが、今はほぼデジタルなので、それもほぼなくなりました。今回は海外の人達もデジタルクリエイター中心に縛ってやれたのも良かったのですが、これは時間があったからこそできたことでもあります。1日に5000枚、1万枚を書かないといけない場合は、どうしても中国の田舎の方に送って、人海戦術みたいな事をやる必要が出てきますから(笑)。
――今のアニメの制作現場としてはデジタルとアナログの併用が多いと思うんですけど、全部デジタルっていうのは少ないんでしょうか。
稲垣:いや、最近は増えてきていると思います。ただ、やっぱり昔からやられているベテランのアニメーターの方には、紙の方が速いっていう人も居ますね。全てのアニメーターさんがパソコンを使えるわけでもありませんからね。
――元々はゲームのPVのために会社を設立したとのことでしたが、それ以外の製作も手がけられる予定はあるのでしょうか?
李:最初はそこまで深く考えてはいなかったんですけど、発表してから、順調に状況が進んでいる事もあり、外から期待の声も出てきているので、ゲームのPV以外にも、チャレンジしてもいいかなと思っています。
――設立されてからもしばらく経ちましたが、現状は順調にいっていると。
李:そうですね。想定よりは順調です。
稲垣:斉藤が目立ってくれているのもあって、思っていたより業界内での反響も良くて。まぁ、すごい勢いで人が集まりすぎても困る部分もありますが(笑)
――制作の体制が整いつつあるという感じですか?
稲垣:そうですね。ただ人は集まったけど、そこからどういうルールで作っていくかっていう組織作りが必要で、今一番頑張らないといけないところはそこかなと思っています。