春アニメ『かくしごと』村野佑太監督インタビュー|ハートフルに振ることで新しい感動がある。その意外性こそ久米田康治ファンが惹きつけられるポイント
4月より好評放送中のアニメ『かくしごと』。『さよなら絶望先生』や『かってに改蔵』の著者である久米田康治先生が原作とのことで注目していたファンも多いはず。
しかし、シニカルでブラックなジョークを中心とした従来の作品と違い、『かくしごと』はコメディをメインにしつつも、父娘のちょっぴり切なくて心温まるお話を軸として展開されています。その意外性に驚いたのは村野佑太監督も同じだったとのこと。
熱心なファンが多い久米田先生の作品。アニメ化する上では、絵柄も平面デザインとして完成されているが故に三次元で捉えるアニメーションにとっての難しさや、アニメ『さよなら絶望先生』シリーズと比較されるプレッシャーなどもあったはず。
そうした絵作りにおける工夫や、ギャグ作品を描く上で意識していること、そして久米田先生や後藤可久士役を務めた神谷浩史さんとのお話、印象的なOP・EDについてなど、ファンが気になっていることをたくさん語っていただきました!
「姫10才編」と「姫18才編」の世界観の差をどう表現するかが重要だった
ーー原作を読んで感じた作品の印象をお聞かせください。
村野佑太 監督(以下、村野):「久米田先生ってこんな作品描くんだ」というのが一読者としての最初の印象でした。畳み掛けるように転がるギャグから感じる気持ち良さはいつもの久米田テイストなのに、ハートフルに振ることで新しい感動もあるんですね。現実の範囲内で展開する内容なので、敷居が低くとっつきやすいのもいいなあと。
久米田康治作品と聞いて大方の人が連想するのは『かってに改蔵』や『さよなら絶望先生』、『南国アイスホッケー部』の人もいると思うのですが、そういう連想をしてしまう人ほど意外性を感じて惹きつけられるんじゃないか。そして、その意外性こそが実は一番面白いポイントなんじゃないかと思いました。
ーーアニメにする上でどのようなことを意識されましたか?
村野:まず一番重要なのは雑味を混ぜないこと。作り手がエゴを出すのではなく、忠実に再現するアニメにすること。ただそれは、全てのコマ、全てのネタを拾うということではなく、尺内に納める上での取捨選択をした上で、最終的な印象を損なわないように再構築し直すということです。
加えて、「姫10才編」と「姫18才編」の世界観の差をどう表現するか、ということも非常に重要でした。漫画ではカラーページと白黒ページとで区分されていますが、アニメでは当然全てに色が存在しているので。そこに差を生み出す手法として、「姫10才編」では「半径10メートルの記憶」を念頭に構築しています。10メートル以内に存在する私とアナタ……以外のものは無意識化させようということで、背景なども奥の方はシルエットになっていたり、白く飛ばしていたりしています。近い距離にあるものでも、汚しなどの汚い質感効果は避けて、万物が綺麗であるという理想をもって描写しています。
音に関しても、例えば喫茶店や山手通りなど、本来人が沢山いそうな場所であっても、環境音による喧騒などは意図的に排除しています。いわゆる閉じた世界観です。
逆に「姫18才編」に関しては、背景も環境音も質感をリアルに、今そこに存在している温もりを大事に描く事を念頭に置いています。陰影やフォーカスなども多用して、立体的に見えるように配慮していますし、キャラクターの芝居にも差を出しています。平面デザインとして完成された久米田キャラに、いかに艶かしい所作で実在感をもたせられるかが「姫18才編」でやろうとしていることです。
ーー本作は久米田康治先生らしい会話劇のギャグパートがメインですが、一方で、話数が進むにつれて高校生になった姫が父・可久士の隠し事を知っていくシリアスなパートが描かれるところが印象的です。
村野:ギャグパートメインの「姫10才編」とシリアスメインの「姫18才編」を並走で描いていこうというのは最初から決めていましたが、テンションが違い過ぎる為に作品としてまとまりにくい懸念がありました。なので極力、互いに共通のテーマを持ったエピソード同士を抱き合わせるようにしています。3話であれば「家に馳せる想い」、4話であれば「母親との記憶」というように、ですね。まず最初に、最終回に向けて外せない「姫18才編」の描写を選別して、それに合わせられる「姫10才編」のエピソードを決めて行く順番でした。
「アニメの着地を探るので、漫画の終着点を教えてください」とお願いしたら、「じゃあ漫画もそこで終わらせますよ」と。
ーー原作サイドからどのようなオーダーがありましたか?
村野:ほとんどなかったですね。久米田先生も基本的に「アニメはアニメで」と任せてくださるスタイルでした。ただ一点、作品でやらないと決めている約束事は守って欲しいと。宇宙人が出てきたり、ギャグだからといって嘘のレベルが跳躍しないようにということは言われました。今までの久米田作品とはそこに明確な線引きのある題材なんだなと感じました。
ーーシリーズ構成、キャラクターデザイン、音響などのスタッフはどのようにお決めになりましたか?
村野:キャラクターデザインや美術など絵面に関わるスタッフを決める際に重視したのは、自分のエゴやクリエイターとしての主張を前に出すのではなく、久米田先生の世界観を忠実に再現することに意欲を持てる人であること。音響やシリーズ構成に求めたのは、ギャグを上品にまとめあげられる構成力を持っていることでした。
登場人物の滑稽さを笑う下品な作品にはしたくなかったんですね。当人達が真面目に頑張っているからこそ、その微妙なすれ違いや勘違いが微笑ましく滲み入る笑いにしたかったので、脚本や劇伴にもそこを目指していただいています。各スタッフのおかげでちゃんとコメディの中に可久士達の人間味を匂わせることが出来ていると思います。
ーー原作漫画はコミックス12巻で終了とのことで、アニメ最終話の放送と近い時期になるかと思います。漫画とアニメを連動させる狙いやシリーズ構成におけるこだわりなどがあれば教えてください。
村野:最初は久米田先生の発案だったんです。我々が「アニメの中でも一定の落とし所を見つけないと最終回を迎えられない。アニメなりの着地を探るので、漫画の終着点を教えてください」とお願いしたら、「じゃあ漫画もそこで終わらせますよ」と。
もうこっちは「えっ!?」って感じでした。アニメは別物だといって、無理矢理中途半端なオチをつけることだけは避けたかったのが本音ですが、アニメの都合で漫画が終わってしまうとしたらこんなに心苦しいことはないと動揺しました。
ただ、もともと久米田先生もそこまで長期連載する予定ではなかったとおっしゃられていて……。かなり早い段階で久米田先生から最終回の大ラフネームをいただいて、そこに帰結するようにアニメのシリーズも構成しています。「姫18才編」への謎解きをほぼ同時に迎えられるということで、原作ファンの方にも新鮮なドキドキをもってアニメ最終回を見ていただけると思います。