『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』京極尚彦監督インタビュー|「時代の変化の中で、『クレヨンしんちゃん』らしさを表現。トライしつつ、考える」
アフレコ現場では「苦労した記憶はなくて、リラックスさせてもらった気がします」
――ゲスト声優について印象に残っているエピソードがありましたら、お聞かせください。
京極:まず、ブリーフ役の冨永みーなさんに「ブリーフって何なんですか?」言われたところから始まって、役所などを説明させて頂きました。予告編の収録時まではキョトンとした表情でいらしてましたが、いざ本番になると、冨永さんもすごく上手な方なので、ガッツリ役をつかまれていました。
ニセななこも、大原ななこ役の伊藤静さんにお願いしています。「しんちゃん、好きよ~」しか言わないので、最初は伊藤さんから「どうしたらいいんですか?」と言われました。僕が「好きにしていいですよ」とお任せしたところ、低めのトーンがもう出ていたので、それでOKとなりました。ニセななこの声は変に高い声にはしない方がいいと思っていたのでピッタリでした。
神谷浩史さんも、僕よりもぶりぶりざえもんとの付き合いは長いと思うので、僕が何かを指示するというよりは、シチュエーションに応じたことを言っていった感じですかね。ぶりぶりざえもんは、映画には久々の登場だと思うんですけど、存在感があるので、とても印象に残るキャラクターだなと思いました。
アフレコ収録当時はまだ集まれた時期だったので、アフレコブースに有名な声優さんが30人ぐらいいて、なかなか濃いアフレコ収録でしたね。収録現場で苦労した記憶はなくて、皆さん経験豊富な上手い方たちばかりでしたので、リラックスさせてもらった気がします。
――収録の際にこだわった演出やキャストにお願いしたところはありますか?
京極:キャストのみなさんはお上手なので、僕が言わずもがなというところはあるんですけど、例えばニセななこが消えちゃう時に「いかにも悲しそうな声は出さないでほしい」とか、ぶりぶりざえもんが消えゆく時も「過剰に演出はしないでほしい」とかぐらいは言ったかもしれないですね。
それが逆にリアルに感じるんですよ。意外とマンガっぽい映画ですけど、そういう去り際のところは生々しい、リアリティーを感じさせられた方がいいなと思っていました。
『クレヨンしんちゃん』らしさ「普通の家族というのを特別に描いているというのが魅力なのかなと思いますね」
――監督は『クレヨンしんちゃん』らしさとは何だと思いますか?
京極:いろいろな方に質問されることが多いんですが、この質問が一番難しいですね。結局、紋切り型じゃなく、誰が見ても「しんちゃんみたいな子って、いるよね」と思うけど、意外といない。
それは野原家の家族全体を象徴しています。実際にみさえ(しんのすけの母・野原みさえ。CV:ならはしみき)やひろし(しんのすけの父・野原ひろし。CV:森川智之)が家族にいるということではないと思うんですけど、「こういう人、いるよね」と思うようなリアリティーを持っているので、そういったところが『クレヨンしんちゃん』の魅力じゃないかなと思っています。
――これだけ長く、多くの人々から愛されている『クレヨンしんちゃん』という作品ですが、監督から見て、作品の魅力はどんなところだと思いますか?
京極:僕が子供の時に見ていた『クレヨンしんちゃん』は、子どもの目線で見ると、まるで自分の家族のことを描いているのかなと思った瞬間もあったんです。「大人がガミガミ言う姿も一緒だな……」とか思いましたが、いざ大人になってみると、今度は「それは言うよなぁ……」とか、「何で、それをするかなぁ……」とか思う気持ちがあります(笑)。
すごく突飛なキャラクターだと思われがちなしんちゃんですけど、普通の家族というのを特別に描いているというのが魅力なのかなと思いますね。意外と普遍的というか、日本の家族の形に寄り添い続ける『クレヨンしんちゃん』はこの先もずっと続くんじゃないかなと思います。
――これまでの『クレヨンしんちゃん』の映画の中で、一番好きな作品を教えてください。
京極:学生の時に作品は観ていましたけど、自分が監督するとなった時に、改めて第1作の『アクション仮面VSハイグレ魔王』から見始めました。
それぞれの作品で思い入れはもちろんあるんですけど、第1作は劇場で冒頭の掴み方とか、普通の子ども向けアニメのアプローチとはちょっと違う。映画を作ろうとしているという意識を感じたので、自分の中で一番印象に残っています。
――今作のキャッチコピーは「世界を救え、クレヨンで。」です。テーマのひとつでもあるクレヨンやラクガキについて、何か思い出はありますか?
京極:僕自身はけっこう昔から絵を描くのが好きで、小学生ぐらいから絵を描いていたと思います。ちょっと変な子どもだったので、クレヨンとかで描いていたというよりは、デッサンとかに興味があって、立体的に絵を描きたいなと思っていて、小3ぐらいからそういうことをやっていましたね。
そういう意味では、クレヨンとかでのびのびと描くということは、僕はできていなかったかもしれないです。どちらかといういと、絵が上手い人に影響を受けていて、きれいな絵を描きたいなと思っていました。
子どもの頃によく描いていたのは、『ドラゴンボール』の作品の絵とか、「週刊少年ジャンプ」(集英社)とかに載っているようなものですね。とにかく、絵がすごく上手い人に憧れていました。
――ちなみに、今作のラクガキは様々なクリエイターに参加していただいたとお聞きしましたが、監督ご自身で手掛けた作品がありましたら教えてください。
京極:僕は特にラクガキとしては参加していないんですけど、ブリーフ(CV:冨永みーな)は描きました。のちにしっかりキャラクターデザインを起こして頂きましたけど(笑)
あとは、僕がデザインしたキャラクターは、物語の後半に出てくる、あるキャラクターの最後の姿です。あれは僕がホワイトボードに「こんな感じで」と描いたものをそのまま写メして、キャラクターになりました。
僕が描いたキャラクターは、その2つだけです。アニメーターに描かせたら、上手すぎてきれいに描かれちゃって、下手に描くというのは結構難しそうでしたね(笑)。
――最後に、映画の公開を楽しみにしているみなさんへメッセージをお願いします。
京極:今回は映画の公開が遅れましたけど、明るく楽しく見られるような作品を作りました。
まずは単純に観てもらって、笑って、ワクワクしてという体験をした後に、もし気になるところがあるようでしたら、また見直してもらえれば、意外と小ネタ散りばめていますので、二、三度楽しめるかなと思っています。そんな感じで気軽に見てもらえればと思います!
――ありがとうございました。
[取材・文/宋 莉淑(ソン・リスク)]
作品情報
『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』
2020年9月11日(金)より全国東宝系にて公開!
★原作:臼井儀人(らくだ社)/「月刊まんがタウン」(双葉社)連載中/テレビ朝日系列で放送中
★監督:京極尚彦『ラブライブ!』『宝石の国』
★脚本:高田亮『婚前特急』『そこのみにて 光輝く』・京極尚彦
★製作:シンエイ動画・テレビ朝日・ADK エモーションズ・双葉社
★声の出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみ 、神谷浩史
★声の特別出演: 山田裕貴、りんごちゃん
★ラクガキ応援大使:きゃりーぱみゅぱみゅ
★主題歌:レキシ「ギガアイシテル」(ビクターエンタテインメント)