僕がイメージする『きらら』作品として作っています――秋アニメ『おちこぼれフルーツタルト』川口敬一郎監督 インタビュー│手描きのダンスシーンのこだわりも明らかに
フルーツタルトの曲はいい意味で「素人感」、クリームあんみつの曲はスタイリッシュ
――OPやED曲、挿入歌などの楽曲についての印象とお気に入りの曲を教えてください。
川口:フルーツタルトはまだ素人集団みたいなところもあるので、ちょっと出来が悪い感じも出したくて。今回歌と一緒にダンスも作っていただきましたが、「リアルな高校生が作ったような、ちょっと緩めなダンスにしてほしい」とか、「歌詞も高校生が作詞したっぽい感じに」などムチャ振りしました(笑)。
クリームあんみつの曲は対照的に、スタイリッシュに狙い通りに作っていただけたかなと思います。好きな曲はクリームあんみつの「ブルーの爽快がめちゃShiny!」です。アイドルっぽいし、いい曲だなと思いました。今後の放送で流れるシーンがあるので、楽しみにしていてください。
――作中でお気に入りのキャラは?
川口:ロコですね。一番扱いやすいというか、実は衣乃よりも話を動かしていて、主役みたいなところもあって。
――ロコはフルーツタルトの中でも唯一のツッコミ役という立ち位置ですよね。
川口:他のメンバーはみんな、ボケなので(笑)。
――クリームあんみつは3人共、ツッコミもできるのに。フルーツタルトチームは穂歩も含めてボケの占める割合が高いですね。
川口:確かに(笑)。
絵コンテで狙った通りの映像に。1話完成後に思い浮かんだのは「芳文社」?
――完成した映像をご覧になった感想をお聞かせください。
川口:完成するまで何度も見ているので、1話を見た時は「ようやくできたか」という感じですね。準備期間から3年かかっていて、内容はめっちゃ緩いけど、時間は結構かかっているんだよなと。
思い起こせば最初に版元である芳文社さんに打ち合わせで初めてお伺いした際に、「ビルの外装に『漫画の殿堂』って本当に書いてある」って(笑)。双先生とはそこで初めてお会いしました。
会議室もすごい習字の額縁が飾られているかと思えば、『きらら』作品のポスターや『ごちうさ』のフィギュアが飾られているという独特な雰囲気で(笑)。そこで打ち合わせや取材を受けたことが走馬灯のように頭の中で流れてきました。
――監督の意図通りに仕上がったという手応えも?
川口:絵コンテを描いている時は、「これは……歴史に残る大作になりそうだぜ……」などと考えていますし、どんなに頑張っても絵コンテ作成時に妄想している物凄い映像にはならない事が多いのですが、『おちフル』は狙い通りの映像になったかな。
昔、ある作品に関わった時、バストショットばかりで「アニメとしてこれでいいのだろうか……」と衝撃を受けた事があったのですが、結果としては大ヒットを記録して。「そういう作り方もあるんだな」とか、「この作品でファンが望んでいるのはこういうことだったんだ」と勉強になったことがありました。
『おちフル』でもすごいダンスシーンや手が込んだ日常芝居が見たいのかと言われれば、違うこともわかっていたし、feel.のきめ細かい作画でやれば、きっとうまくいくだろうという絵コンテにしているので、イメージ通りになっていると思います。
こだわった1話冒頭のシーン。リアルな東小金井の風景描写にまつわる裏話とは?
――5話まで放送が終わっていますが、振り返ってみた印象は?
川口:5話までの段階ではまだ緩いですね(笑)。3話でフルーツタルトの初ライブがありましたが、ライブをどの話数に配分するかはあらかじめ決まっていて。
当然、この後の放送でもまだまだライブシーンがあるので楽しみにお待ちいただければ。
――3話は初ライブの他に、へもが初登場した回でもありました。4話ではその癖も明らかに……。
川口:あまりやり過ぎてしまうと小金井の皆さんに怒られてしまうので、いい塩梅で描けているといいんですけど(笑)。
――はゆ役の白石晴香さんは1話の衣乃の上京シーンのさわやかさからねずみ荘についてのギャップを印象的なシーンに挙げていました。これぞ、『おちフル』だと。
川口:確かに。冒頭はちゃんとしたアニメっぽく始めようと思って(笑)、シナリオもいいシーンにしようと意識したところで。あのパートだけはカット割りもあまり飛ばさずに普通っぽくやっています。
JRさんにもご協力いただいて、ちゃんと映像にすることが出来たので、ありがたかったです。僕らも適当に作っていると思われるのは残念なので(笑)、ちゃんとしているところはちゃんと作っています。流れる背景も僕が撮影した写真を元にしています。
宣伝担当:1話放送後には早速、聖地巡礼をされている方がたくさんいらっしゃって、ポスターを見つけてくださったり。「本当にアニメのままなんだ」というコメントもいただきました。
――この取材でfeel.さんに伺う時、東小金井駅を出たところが2話冒頭の衣乃、ロコ、はゆ、仁菜の4人が駅前に立っているシーンそのもので感動しました。
川口:実はねずみ荘を想定している場所は東小金井駅から歩くとちょっと遠くて。聖地巡礼をされて「あの距離を歩いているのか」と驚かれた方もいました。
実際は巡回バスが通っているので普通なら乗ると思いますが、歩いたほうが健康的にもいいだろうと。僕自身も結構歩くほうなので。1話冒頭の駅からねずみ荘までの道のりも、絵コンテを描くにあたって、歩きながら写真を撮ったので、1話を改めて見るとその時を思い出します。
あとOPは1話のロケハンをした1年後に作っているんです。最後のほうで公園の遊具で5人が立っているカットがありますが、絵コンテを描くために改めて写真を撮りに行ったら立ち入り禁止になっていて。
一時期、公園のブランコなどの遊具に触れない時がありましたがちょうどその頃で。だからあのカットは写真レイアウトではなく、アニメーターさんがレイアウトを切っているんですよ。