どのキャラソン・既存曲にもない、新たな“富田美憂らしさ”の可能性――声優・富田美憂さん 3rdシングル『Broken Sky』インタビュー
どのキャラソン・既存曲とも違う、富田美憂らしさ
――アーティストデビュー1周年を直前に控えた11月11日に、3rdシングルが発売となります。表題曲「Broken Sky」はアニメ『無能なナナ』のOPテーマとなっていますが、作品の印象についてお聞かせください。
富田:去年の年末ごろにタイアップが決まっていたので、アニメに先駆けて原作は読ませていただきました。私はもともと『ダンガンロンパ』のような頭脳戦が繰り広げられる作品が好きなので、『無能なナナ』も好きなジャンルの作品として楽しみだと思い読み始めたんですが、「第1話からヒロインが人を殺す側に回っちゃう作品なんてある!?」と衝撃を受けました。
毎話すごい衝撃をくれる作品だと思います。私も頑張って推理するんですけど、その裏の裏をいくから、毎回予想外の展開が多くて。これを映像で観たらさらに面白いんだろうなと思いましたし、一巻ずつ買うと続きが気になっちゃうから、全巻買ってバーッて読みたくなるような、まとめ読みすると楽しい漫画だとも思いました。
――そんな好きなジャンルでもある作品に、登場人物のひとり・佐々木ユウカとして出演します。
富田:意外と学園ものの作品に出演する機会が多かったので、こういう鬼気迫る作品はたぶん『メイドインアビス』ぶりかなと思っていて。今回のような常に生と死が隣にあるような作品は久しぶりで、すごくワクワクしました。
ただ、明るくて天真爛漫なキャラクターは自分の役幅的に得意分野ではあるので頑張ろうと思ったんですけど、原作を読んで「あっ、こういう子なんだ」というシーンがあったので、ある意味でプレッシャーも感じました。そういうお芝居をしたことはなかったので、ハードルが高くドキドキしましたね。
また、原作の絵で印象的なカットがすごくいっぱいあって、アニメだと7話あたりの原作の一コマで個人的にゾワっとしたシーンがあるんです。そこをアニメとして、音で聴いたときに、みなさんにも私が感じたようなゾワゾワ感を感じてもらえたら、ブワっと鳥肌が立ってくれたらいいなと思っていたので、原作の雰囲気を壊さないように演じることは意識しました。その箇所も含め演じていて楽しかったですね。
――また新しい富田さんが見られるということで、非常に楽しみですね。
富田:歌だけじゃない、役者としての富田美憂も改めて見ていただけるような作品になったように思います。OPを聴いたあと、ユウカの芝居を見て「富田美憂ってすごいな」と思っていただけたらいいな……という淡い期待をしています(笑)。放送後のみなさんの反応がちょっと楽しみです。
――OP映像はご覧になりましたか?
富田:見ました! 疾走感がすごかったです!「Broken Sky」という楽曲自体、すごくクールでカッコいいものになっていて、疾走感とパーンと突き抜けていくような雰囲気が印象的な楽曲だと思っていますが、その突き抜け感が映像に色濃く出ていましたね。
レコーディングのときはどんな映像になるかはまだ知りませんでしたが、実際に見てみたら、本当に気持ちいいくらいに映像と音楽がマッチしていたので、これを毎週見られるのが楽しみですね。
――レコーディング自体は去年の年末頃だったんですよね。
富田:そうなんです(笑)。結構しっかり準備したうえでのリリースになります。
1stシングルが発売した後は、2ndシングルまで割と間が空いていて、Twitterでファンの方の反応を見たときに「え、富田さん大丈夫ですか?」「もうCD出さないんですか?」みたいにすごい心配してくださっていて。
「待って! 出す!!」と心の中でずっと思っていました(笑)。
――最初に楽曲を聴いたときの印象は覚えていますか?
富田:覚えています! すごく衝撃的で、これまでとは真逆の印象の楽曲が来たな!と思いました。
でも私、父が昔にアマチュアバンドをやっていたこともあって、ロックというジャンルに小さいころから馴染みがあったんです。なので、一番に父親に「これ次の曲!」って言って聴かせた記憶があります。
徐々にカッコいい面も見せていきたいなと思っていたので、今までのどのキャラソン・既存曲とも違う、新しい富田美憂らしさが出せるんじゃないかなというワクワク感がすごく大きかったです。
――今までとは異なる雰囲気の楽曲になっていて、歌い方のアプローチからビジュアル面なども含めてお似合いでした。レコーディングはどうでしたか?
富田:すごく時間がかかりました。楽曲としてそもそもすごく難しい曲だったので。
特にBメロが1番と2番でちょっとリズムが違うので、特に苦戦しましたね。普段はあまりレコーディング時にクリック(※)を聴かないんですけど、そこはもうめちゃくちゃクリックを聴いて正確に合わせていきました。すごくテクニックを要する曲だと思います。
※レコーディング時におけるリズムやテンポをキープするための音
――たしかに、Bメロは聴いているだけでも難しそうだと思いました。
富田:難しいですね。ライブで歌うことを考えると、若干ヒヤヒヤしています(笑)。でもそういうメロディのトリッキーさもすごく作品に合っているように感じています。遊び心がすごく入っている曲になっています。
――またこれまでの楽曲に負けず劣らず、富田さんらしい歌い方が感じられました。でもこれまでとはベクトルが少し違うというか。
富田:ファンの方から「富田さんの歌声は高音の抜け方、弾ける感じがすごく気持ちいいです」と言われることが多くて、「Broken Sky」でも弾ける雰囲気は出せるんですけど、これまでのフレッシュな弾け方とは違う、タイトルにふさわしい“弾け飛ぶ”ような気持ちよさを出せたらよりカッコよくなるんじゃないかなと意識していたので、今回は歌声のクセを盛り盛りにしました。
――歌詞も、作品にちなんで<無能>というワードが散りばめられていたり、作品を知っているとより楽しめる内容だと思いました。
富田:主人公のナナちゃんに当てはめてみても、作品全体を見てとれる歌詞だと思います。第1話の完パケを見てから改めてこの楽曲を聴いたときに、ブワッと鳥肌が立って。すごくナナちゃんの気持ちを歌っている!と思いました。
歌詞全体にある孤独感のようなものを歌声で出せたらいいなとレコーディングのときから思っていて。今まではどちらかというと自分の内側にある気持ち、例えばデビューに向けてのワクワクした気持ち、キラキラした気持ちなどを歌っていたので、自分の気持ちとリンクさせて歌う作業をしていたんです。でも今回は、ちょっと客観的に歌うような意識を持っていました。
歌も芝居も経験が声に乗る。だからこそ、インプットとアウトプットを忘れない
――それこそ2ndシングルのメールインタビューでは、歌ううえでイメージを膨らませる作業がお好きだと綴られていましたよね。
富田:演技にしろ歌にしろ、本番当日はもちろん楽しいんですけど、その前に「ここをこういう風にやろう」という作業を頭の中で考えて、イメージして、それを書きこんだりする“作品について考える時間”がすごく好きなんです。
なので、今回もその作業に注力しました。ましてやタイアップ、OP曲という作品の顔になるものを見て聴いたたときに「アレ? あまりしっくりこないな」と思われたら、作品に申し訳ないし、もったいないと思っていたので。
原作は何回も読みましたし、レコーディング当日も曲に合わせて、あえて「おはようございます!!」みたいな明るいテンションで行かなかった気がします。
ちょっと落ち着いていたというか、肝が据わっていた気がします。これまでのレコーディングとはまた違う気持ちで臨んだ感覚がありますね。
――なるほど。
富田:役を演じるときもそうなんですけど、私は声を明確に変えられたり、いろんな声を出せるわけじゃないから、自分のまとう雰囲気を変えるしかないと思っていて。だから楽曲も、もちろんテクニックは大事なんですけど、雰囲気作りもすごく大事なんじゃないかと思っています。
それがとても上手なのが諸星すみれちゃん。『アイカツ!』のときから一緒にアフレコして、今もレギュラーで一緒になったりするので、いろんな作品で彼女のお芝居を近くで見たり、ソロアーティストデビューの時期が同じくらいのタイミングということもあってよく聴いているんです。
すみれちゃんは同い年だけど、私より芸歴がかなり上の先輩なので、本当に尊敬しながらいつも見ています。雰囲気でキャラクターを変えるのがすごく上手だし、曲も雰囲気で全然違うものにしてしまうのが、すごい技だなぁと。
そういう上手い人、周りの同年代の役者さんや先輩を近くで見る機会が多いので、そこで学んだことをレコーディングに出せるようにしています。
――吸収したものをきちんと発揮し、ご自身的にもかなり仕上がりに自信がある作品になったわけですね。
富田:そうですね。バッチリです! レコーディングが終わったあとはゼーゼーしながらブースを出ました(笑)。
これまでもエネルギッシュでパワフルな楽曲が多く、毎回体力満タンの状態でいっても、ゼロになってブースを出る、ということを繰り返していました。
でもそれだけ文字通り魂込めていて、楽曲にぶつかっていると実感する瞬間でもあるので、歌っている身としてはすごく嬉しい瞬間ですね。
――ちなみに、先ほどの楽曲のイメージを膨らませる作業は、何かご自身の経験をもとにイメージを膨らませていくのでしょうか? それともゼロベースで膨らませていく?
富田:私は歌うときもお芝居をするときも、今まで自分が経験したところから持って来たりします。
これは伊瀬茉莉也さんからの教えなんですけど、例えば自分が怒られたときに感じた、“しんどい”、“ムカつく”みたいな気持ちも、いつかお芝居に使えるかもしれないから「この気持ち覚えておこう」っていう風に私はしているよ、と仰られていて。面白い!と思ったので、それ以来私も真似するようになりました。
歌もお芝居も自分が経験してきたことが声に乗るものだと思うので、常にインプットとアウトプットを忘れずにできるように頑張っています。
――伊瀬さんの教えもプロフェッショナルを感じますが、それをちゃんと飲み込んで実践する富田さんもすごいというか……本当に20歳ですか?(笑)
富田:本当に20歳です(笑)。でもやっぱり、出会ってきた先輩方がすごくいい人ばかりだったからだと思います。
伊瀬さんをはじめとする先輩方を見ていて思ったんですけど、先輩だって仕事を取られたくないんだから、普通はわざわざ教えないよなって。
――後輩とはいえライバルでもあるわけですからね。
富田:そう、ライバルなんです。でも、教えてくださるんですよね。
伊瀬さん本人も「普通はみんなライバルだから教えないかもしれないんだけど、私は良いことは共有したいと思うから教えちゃうんだよね」というタイプの人で。
そういう素敵な先輩にたくさん出会うことができて、その人たちからいろんなことが吸収できているのかなって思います。