今回の新曲は「〇〇なときの私」がテーマに|中島愛さん5thアルバム『green diary』インタビュー
5thアルバム『green diary』を完成させて、今思うことは……
──「メロンソーダ・フロート」は、アイドルソングっぽいかわいさがありますが、テーマは「青春」とのことでした。
中島:曲を作ってくださったSoulifeのお二人には、振り返ってあの頃は良かったねというより、目や耳などの五感で何かを懐かしんだとき、その瞬間だけ、目の前の風景が見えなくなって、自然とその時に旅をするようなノスタルジーがいいんですとお願いしました。
──作詞は、キャラソンベストに収録の「恋のジングル」と同じ児玉雨子さんです。
中島:「恋のジングル」の歌詞が最高だったので、今回もお願いしたいなと思いました。
──〈シュワシュワ ピリ キュン〉〈ピリピリ シュワ キュン〉というキラーフレーズが、やはりいいんですよね。
中島:言葉選びがいいですよね! 書いてある文字がいいのと歌ったときの語感がいいのとは別だと思うんですけど、どちらも両立しているから、歌い手としてはうれしいんです。〈ピリピリ シュワ キュン〉って歌いたくなりますし。
しかも私の仮歌を聴いてくださって、最初が“シュ”のほうが良いと思ってくれたようで、入れ替えたバージョンも考えてくれて、どちらもいいからどちらも入れようということになりました(笑)。
──清竜人さんによる「ハイブリッド♡スターチス」は、タイトルだけではなく、歌詞にもハートが多くて面白かったです(笑)。
中島:大人でハートが付いている歌を歌いたいと言ったし、本当に「ハート付けていいんですか?」と聞かれた上で、「付けちゃってください!」と私が言ったので、願いが叶いました(笑)。清さんとは同い年なので、働き始めて10年目くらいの年齢感で、恋とかもういいかなと思っていたのに、私らしくないっ!というかわいげな曲を書いてほしいとお願いしました。
──シングル曲の「髪飾りの天使」の編曲とディレクションも清さんでしたが、今回のレコーディングはいかがでしたか?
中島:清さんは、スパルタだけど分かりやすいんですよ。自身が歌い手でもあるから的確にアドバイスをくださるんですよね。今回の曲もコーラスがふんだんに入っていて、レコーディングも頑張ったので、華やかな曲になりました。
でもコーラスは難しいんですよ! 重ねていく上で、このラインとこのラインが合わさると、こんな温かさが出るんだみたいな驚きがあるんですけど、それは最初から清さんの頭の中で出来上がっているものなので、それをひとつひとつ再現していく難しさはありました。
──宮川弾さんによる「粒マスタードのマーチ」の、歌詞がユニークで、日常のちょっとだらしないところが描かれていました。
中島:うれしくも悲しくもない、すごくフラットな日の歌が歌いたいと思ってお願いしました。どんなワードが歌いたいですか?と聞かれたので「あとまわし」って言いたいですと伝えたら、バッチリ入っていました!
──中島さん普段こんな感じなのかな?とも思えるような、ちょっと親近感のある歌詞ですよね。
中島:実際私も、この歌詞みたいな感じなんですけど、弾さんには、「毎回レコーディングでも、コーラスとかを予習して来てくれるし、後回しにするようなタイプじゃないと思っていた」と言われたんですけど、それは当たり前のことで、基本は後回しです!と(笑)。
でも、今って無意識に頑張っている人がたくさんいると思うんです。この時期に制作をして出すということにも意味があると思ったけど、説教臭いことを歌いたいわけではないんです。だから何が歌いたいのかと考えたら、もう十分やってんじゃない?みたいなことだったんですよね。
それと、トラックダウンが終わったときに、弾さんが面と向かって「粒マスタードには意味があって」と。この日はだらけているけど、普段からダラダラしている人ではなくて、冷蔵庫に粒マスタードがあるくらい調味料が揃っていて、料理もするシャキっとした人、みたいなイメージを話してくださって、「分かりました! インタビューで言っておきます!」と伝えたので、今言いました(笑)。
──(笑)。アルバムの中盤で、フッと力が抜ける感じが良かったです。
中島:ホントに、〈おこしにつけたきびだんご〉って歌うのは、最初で最後かもしれないですね(笑)。
──しかもそのあとにコーラスが入っているのが面白くて……。
中島:〈見逃しそう〉って歌っているんです。そういうユーモアがあるとないとで、だいぶ違うと思うので大事なポイントです!
──そして「嫉妬」をテーマにした歌が「窓際のジェラシー」です。刺々しいサウンドが、マッチしていました。
中島:ねっとりとしたジェラシーというより、しょんぼりという感じです。何であの子みたいにうまくやれないんだろうっていう感情は、誰にでもあると思うし、これを作るときにスタッフさんや作曲のRAM RIDERさんや作詞のSummer Valentineさんと嫉妬談義をしたのが面白かったです。
あと嫉妬って、英語でGreen-eyed monsterとも表現すると知って、アルバムのテーマにも合うなって。ネチネチしているのもあれだから楽しい曲にしてくださいとお願いしたら、歌謡ディスコみたいな感じになって、いいなと思いました。
──tofubeatsさんとの「ドライブ」は、「心のなかに一番深く潜っていく歌」とのことでした。
中島:tofubeatsさんとはカヴァーミニアルバムで「青いスタスィオン」と「真夜中のドア」のアレンジをしてもらっていて、どちらも明るい曲ではないんですけど、作詞・作曲をしてもらえるのなら、バラードがいいのかなと思いました。
この曲は、悲しいとか寂しいというよりは空虚な感じ。過去を思い出して、別に戻りたいわけではないけど、何となくモヤッとした感情を入れたいですとオーダーしました。そしたらラブソングテイストで、レコードというギミックも入り、ちょっとシティ・ポップス感もあったので、全部盛りの曲になりましたね。
──〈B面の曲はなんでいつもせつないの〉という歌詞は、レコードコレクターでもある中島さんらしい歌詞ですよね。
中島:そういうところも全部拾ってくれているんですよ。B面好きというのも、TBSラジオさんの番組で、HARD OFF談義(※リサイクルショップのHARD OFFでレコードを買い漁っていることを熱く語る内容)をしたときに、渡辺満里奈さんのレコードのB面をかけたりしたので、バレているんです(笑)。
でも、これまで歌ってきたバラードとも毛色が違って、今だから歌える、この年齢だからこそ映える曲になったと思います。沈みきれたら楽なのに、そういう感じでもない。自分の記憶の中を泳ぐ感じでずっと歌っていました。
──すごく沈んだところから、次の「水槽」で浮かび上がって行くところが本当に素晴らしくて、そこから最後の「All Green」で前進していくという流れが、先程も言いましたが完璧です!
中島:良かった! tofubeatsさんにも「水槽」を聴いていただいた上で、潜る曲を歌ってみたいとお話をしたので、汲んでくださった感じがしますね。「水槽」で希望を見つけ、「All Green」にたどり着くという流れですね。
──「All Green」を作っている葉山拓亮さんは、子供の頃から大ファンだったそうですね。
中島:そうなんです。小学校の頃から葉山さんの作る曲が好きで、その頃はどんな方なのかは分かっていなかったんですけど、中学生くらいのときには、歌手になったらこの人に曲を書いてもらうんだと目標を掲げたんですよ。
──その夢がようやく叶ったわけですね。もっと早くにお願いするチャンスもあったような気もしますが。
中島:あまりにもファン過ぎて、自分ががんばれたなと思う何かがあるまでは絶対にお願いしない!っていう願掛けみたいなことをしていて、それを葉山さんに話したら、もっと早く言ってくれればいいのにとおっしゃっていました(笑)。でもそれではダメなんです!と。
だからきっかけとしては、アルバムを5枚出せる、5ってすごくうれしい数字だし、「緑」がテーマという、自分の原点に立ち返って、自分を見つめ返して歌うアルバムだから、アタックしてみようと思えたんです。
──打ち合わせではどんなことが印象的でしたか?
中島:「All Green」というタイトルで書いてもらえますかと話していたんですけど、その中で、「今の状況とか世相を折り込みたいですか?」と聞かれて、「折り込みたいです」と答えたんです。始めはそこまでイメージしてはいなかったんですけど、夏から秋にかけての打ち合わせで、お客さんを呼んでのライブがなかなかできなかったり、来年もどうなってるか分からないような状況で、今までとガラッと変わったことで、歌との向き合い方も変わってしまったので、それも含めて書いていただいたほうがうれしいかもしれないなと思ったんです。
結果的にすごく今の状況を描いた歌詞になっていて、しかもみんなと歌うパートも書いてくださったんですよね。いつかお客さんと歌う日が来る時が来ますようにという、そういうエールを受け取れた気がして、感涙でした。
──もともと作る曲が好きだったということは、その曲が持つ遺伝子的なものが好きだと思うので、きっと、大好きな曲になりましたよね?
中島:本当に全部が好きなんです。デモが届いたときに、ちょうど(別の曲の)仮歌を入れる日でもあったので、もともと歌う予定にはなかったんですけど、仮歌を入れられるように覚えてから行こうと思って聴いてみたら、泣いちゃって覚えられないんですよ! もう嗚咽みたいな感じになっちゃって(笑)。そのくらいうれしかったです。
──アコギでメロディをなぞって終わる感じもすごく素敵でした。
中島:あのアコギの感じが、葉山さんの曲っていう感じがするんです! 最後の一音まですごく気持ちがいいんです。
──レコーディングはいかがでしたか?
中島:レコーディングの日は、葉山さんがいるということもあって、(緊張で)ヒィイイっていう気持ちになっていたんですけど(笑)、私の前にベースのレコーディングをしていて、わかざえもんさんという女性のベーシストの方とお会いすることができたんです。
その方は「星間飛行」を聴いてくれていたらしくて、「やってきて良かったです! 中島さんの曲が弾けてうれしいです」と伝えてくれて、なんだかすごく嬉しい気持ちになりました。私のことを好きと言ってくれる方がレコーディングに参加してくれているんだなって。私もやってきて良かったなぁって思いました。
──憧れの連鎖みたいなことが起こっていたんですね。
中島:そうなんです。でも今回のアルバムは、もともとファンだった□□□さんなど、好きな方ばかりに曲を書いてもらえたから、レコーディングは毎回舞い上がっていた気がしますね(笑)。
──では最後に、このアルバムから2021年が始まっていくと思いますが、どんな1年にしたいですか?
中島:2016年に音楽活動に復帰する発表をしてから、活動していることをみんなに知ってもらわないといけないという気持ちでやってきて、それはまったく間違えていなかったと思うんですけど、その流れが、このアルバム『green diary』で実を結んだのかなと思っているんです。だから、何かに駆り立てられるように何かをするというよりは、マイペースにひとつひとつの仕事を味わいながらやるという1年にするのもいいかなと思っています。
2020年にできなかったことを2021年にしたいという意気込みがないと言ったら嘘になりますけど、このアルバムが完成させることができたので、自分のペースで歩く勇気を持とうと思います。
[取材・文:塚越淳一]
アルバム情報
発売日:2021年2月3日
価格:初回限定盤…5,500円(税込)、通常盤…3,300円(税込)
≪収録内容≫
【CD】
M-1:Over & Over
作詞・作曲・編曲:三浦康嗣
M-2:GREEN DIARY
作詞・作曲・編曲:尾崎雄貴
M-3:メロンソーダ・フロート
作詞:児玉雨子 作曲:SoichiroK / Nozomu.S 編曲:Soulife
M-4:ハイブリッド♡スターチス
作詞・作曲・編曲:清竜人
M-5:髪飾りの天使
作詞・作曲:吉澤嘉代子 編曲:清竜人
M-6:粒マスタードのマーチ
作詞・作曲・編曲:宮川弾
M-7:窓際のジェラシー
作詞:Summer Valentine 作曲:RAM RIDER 編曲:FILTER SYSTEM、RAM RIDER
M-8:ドライブ
作詞・作曲・編曲:tofubeats
M-9:水槽
作詞:新藤晴一 作曲:矢吹香那 編曲:トオミヨウ
M-10:All Green
作詞・作曲・編曲:葉山拓亮
【Blu-ray】(※初回限定盤のみ)
初回盤のBlu-rayには、アルバムリード曲「GREEN DIARY」MVに加え、「水槽」「髪飾りの天使」MV、さらには2019年2月2日に東京・武蔵野の森総合スポーツプラザ メインアリーナで開催された「フライングドッグ10周年記念LIVE 犬フェス!」のライブビューイング映像より、「星間飛行」「サタデー・ナイト・クエスチョン」を特別収録。