誰かを救うつもりではなく “自分を救う音楽を作る”から始まった――『素敵な大人になる方法』新世代ボカロP・傘村トータさん 自身初となるインタビューで、音楽に閉じ込めた想いに触れる
アルバムだけじゃなく、傘村トータの世界を知ってほしい
――8曲目に収録されている「小説 夏と罰 (上)」についても教えてください。小説を歌にするという構想は以前からあったんでしょうか?
傘村:小説を書いてみたいなと思ったことがあったんですが、うまく書けなくて。小説を音楽で歌ったら面白いかなと、このシリーズを書きました。
――タイトルに(上)とある通り、本作には収録されていないものの(下)が存在していて。でも投稿は「小説 夏と罰 (下)」(本作未収録)が先でしたよね。
傘村:そうです。小説と言えば、普通に出すより……“(上)・(下)”巻の本がカッコいいってイメージがあって(笑)。ラストを先に書いてから、そこに至るまでの物語を後から書いたので、その順番で公開したんです。調が違うだけで伴奏自体は一緒なんですけどね。堅い文体に普段の明るく綺麗なバラードは似合わないなと思って。文体に合わせて独特な雰囲気の伴奏にしました。
――(上)と(下)で主人公が変わって、少し悲しい物語でもあるんですが……。
傘村:そうですね。(下)で歌っている “君”が(上)の主人公になっていて。今回のアルバムには、(上)を入れたので、(下)を知らない人もいるわけで。先に(上)を聴いたらどういう感情になるんだろうなってところは気になってます。ぜひ感想を聞きたいですね。
――(下)をあえて入れなかったのには理由が?
傘村:「明けない夜のリリィ」シリーズの楽曲は全部入れたんですけど、これは「片方を探してほしい、見つけ出してほしい」という気持ちがあって。だからセットではあえて入れなかったんです。
――それこそ、3曲目の「15歳の主張」も、実は18歳、22歳……とありますもんね。
傘村:そうですね。そこもぜひ探してもらえたらと思っています。アルバムだけじゃなくて、傘村トータの世界を知ってもらえたらなって。
――ところで「15歳の主張」は、当時のことを思い出して書かれたんでしょうか。<私の人生は私の人生だ あなたのものじゃない>という叫びが心を震わせます。
傘村:そうです。僕はあんまり怒れないタイプで……正確にいうと、怒ってはいるんですけど、表に出すのはそんなに得意ではなくて。「本当はその時もっと怒りたかったのに」って気持ちがあったんです。大人になってからは「我慢をしすぎないようにする」ってこともできるようになってきたんですが、昔はそれができなくて、ため込んでしまっていたので。「本当はこういうことが言いたかったんだ」ってことを詰め込みました。