漫画『とつくにの少女』ながべ先生&担当編集・新福氏対談インタビュー|単行本第1巻表紙デザインの苦労話など、今だからこそ話せる内容が満載
「月刊コミックガーデン」およびWEBサイト「MAGCOMI」にて2015年より連載の漫画『とつくにの少女』。異形の者棲まう「外」と、人間が住まう「内」に分かたれた世界で共に生きる捨て子と異形の者の交流を、絵本のような独特のタッチで描いた作品です。
本日、2021年3月5日(金)に最終回を迎え、4月9日(金)に最終巻が発売予定。WIT STUDIO制作での長編アニメーション化が決定しているなど、連載終了後も様々な展開が控えており、今後も大きな注目を集めることでしょう。
完結を記念して、著者・ながべ先生と担当編集・新福氏のオフィシャルインタビューが到着! いかにして『とつくにの少女』という漫画が生まれたのかや、単行本第1巻の思い出、WIT STUDIO制作による短編アートアニメの感想、完結への思いなど、さまざまなエピソードが飛び出しました。
最初は“得体の知れない謎の人物”だった
──ながべ先生と担当編集である新福さんの出会いのエピソードを教えてください。
『とつくにの少女』著者・ながべ先生(以下、ながべ):Twitterで『とつくにの少女』の原型となったショート漫画を公開していたのですが、それを新福さんに見つけていただいて。
『とつくにの少女』担当編集・新福氏(以下、新福):その時は僕以外の出版関係者の方からも連絡を受けていたんでしたっけ?
ながべ:数件お誘いを受けていたのですが、新福さんからの連絡が一番早くて、その後のコンタクトまでスムーズでした。もう5年ほど前の話になりますね。
新福:ながべ先生は当時大学に通われていましたよね。特にお声がけした際、僕にとって先生は“得体の知れない謎の人物”だったというか(笑)。物腰が柔らかくてメールも丁寧だったので、実際にお会いするまでは女性の方だと思っていたんですよ。でもよくそう言われますよね?
ながべ:僕も普段顔を出して活動してはいないので、描く絵の印象などからも「女性だと思っていた」と言われることが多いですね(笑)。
──その出会いから第1話が生まれるまで、特に印象に残っていることや苦労されたことはありますか?
新福:第1話に関しては、ながべ先生にそれぞれ別のベクトルから4~5パターン構成案を考えていただき、そこから今の形を作り上げていったんです。
ながべ:その時は僕も大学生活の中でのレポート提出などと同時並行で、制作時間を捻出しなければならなかったので、最初の第一歩となる準備期間は大変だったという印象です。
新福:当時は教育実習にも行かれてましたよね?
ながべ:そうなんです。教育実習に行く直前に新福さんからご連絡をいただいたので、その数週間はバタバタとしていましたね。今も美術教員の免許は持っているんです。
新福:だから美術の先生になる道もあったんですよね。でもそこから『とつくにの少女』の連載が始まって。
ながべ:漫画家の道を作っていただき、今こうして5周年を迎えることができて。ありがたいことだなと思っています。
こだわり抜かれて生まれた単行本第1巻
──キャラクターデザインに関してもお聞きしたいのですが、ながべ先生は人外を描く際にどのようなことを大切にされていますか?
ながべ:例えばネコやイヌ、クジラやクラゲなどの生き物は人よりもシルエットが特徴的なので、それを捉えて描くことが大事だと思っています。『とつくにの少女』の「先生」のキャラクターデザインもまず、顔のビジュアルや体格から決めて、その後にキャラクターのバックボーンや考え方を当てはめているんです。
──そこからさらにストーリーへと結びつけていくのですね。
ながべ:特に第1話の段階では、そのビジュアルを生かしたうえでこの漫画で何を描きたいかを新福さんと話し合いました。そこから「この漫画はストーリーよりも、先生とシーヴァの“やさしさ”を大事にしながら、物語の中の時間を大切にゆっくりと描いていこう」と意見が合致しました。
新福:大枠として僕が何かを決めたわけではないのですが、担当編集は最初の読者でもあるので、お客様に届けるにあたって作品の魅力をより伝わりやすくするために「この情報は先に出したほうが良い」などのアドバイスをさせていただきました。
──単行本第1巻の表紙イラストや、コミックスの装丁・デザインについてはどのように決められたのですか?
ながべ:第1巻の表紙は最終的に2パターン描いたのですが、その中で水彩で描いたほうのキャラクターの輪郭がボケてしまい、僕自身が最後まで納得ができず、締め切りを超過してしまいまして……。
新福:そうでしたね。ながべ先生からは最初「単行本は手触りも含めて洋書のアンティーク調のものを目指したい」という要望をいただいて、ラフも予定通りあがり進み始めた段階で「ちょっといいですか」と(笑)。イラストのテイストは同じだったのですが、塗り方が変わっていて。お客様がパッと見た感じでは気にならない程度ではありつつも、我々としては差し替えたほうが良いだろうということで各所に相談をして。
ながべ:一見すると目を引く要素は弱いかもしれないのですが、一般的なコミックスのような表紙にはしたくなくて。そういった経緯から作品の雰囲気を大事にした今の表紙の形になっています。
──単行本きっかけで作品のファンとなってもらうために編集目線からブラッシュアップを加えた点や、販売促進時に工夫されたことはありますか?
新福:単行本については連載スケジュールの都合で半年に一冊しか発売しないものなので、読者の皆様にお待ちいただくうえで“どこでストーリーを区切るのか”ということをよく相談させていただきました。
また幸いなことに人外を題材にした別作品を私が担当していたこともあり、そこを絡めたクロスプロモーションを行ったりもしました。特に『とつくにの少女』の場合は一般的な漫画の体裁とは異なるため、商業的にはチャレンジな部分もあったのですが、それを真摯にお客様に伝えることに注力し、ながべ先生の持つ実力をご認識いただけたことが現在のお客様からの評価につながったのではないかと思います。
──第1巻発売後、読者の皆様からの反響はいかがでしたか?
ながべ:実際に市場に並んだ時に漫画のような印象ではないと僕自身も思っていたので、「好きな人には手にとっていただけるだろう」と予想していたのですが、発売後は想像以上に様々なお客様に読んでいただくことができて。例えば、「普段は漫画を読まないのですが、この作品は読みました」といった感想も寄せていただいて。改めてこの作品が目指すべき方向性を実感することができましたね。
新福:そうですね。感想の幅が広くて、普段漫画を読まれない方をはじめ、海外の方からの反響というのも多くて。意外というわけでもなかったのですが、作品のテーマ性をしっかりと評価していただけたことは嬉しかったですね。特に本作はながべ先生が一人で描かれていることもあり、それによってイメージの統一も成されやすいのかなと側から見ていて思いますね。