
映画『トムとジェリー』水瀬いのりさんインタビュー|豚鼻の表現に苦労した収録裏? まるでジェリーのようないたずらっ子エピソードも
豚鼻で感じたアメリカンな表現とは?
――今作について、ケイラのセリフの量が多くて驚いたと仰っていました。収録にあたって意識されたポイントを教えてください。
水瀬:吹き替えは日本のアニメーションとは違い、原音と言われる英語版の音を聴きながら演じるんですが、実写の女優さんに声をあてるということはすごく難しいことなんです。試写で完成版を観たときも「本当にこれでよかったんだろうか」「大丈夫かな?」と、心配過ぎて手に爪の跡がついていたくらいで(笑)。
でも、何度挑戦しても難しいと同時に、実際に作品世界に入り込んだ気分になれるのが吹き替えの楽しさでもあるんです。今作でも、トムとジェリーに振り回されるケイラという女の子になれたような気がして。
普段はお客さんに作品世界に入り込んでほしいと思って演じているんですが、今作はいち視聴者として本編を観ながら収録したのがすごく不思議な気分で、観終わった後もケイラに背中を押されたような気分になりました。きっと劇場で観た方もケイラに背中を押されるような、そんな相乗効果があるんじゃないかと思います。
――苦労もありつつ、やりがいもあったんですね。
水瀬:収録は10時間かかったんですけど、全然苦しさは感じなかったです。一つひとつのロールを丁寧に録っていくことにすごく集中できて、ゴールが見えてきたときはスタッフさんたちが「あと少しですよ!」と応援してくれて。そんな和気藹々とした収録で、スタッフさんたちにもすごく助けてもらいました。
――印象深いディレクションはありましたか?
水瀬:ケイラ役のクロエさんの声が前提にあり、そこに私が近づけていくんですけど、個人的に向こうの女優さんの年齢感って日本の女優さんより高いように感じていて。加えて、ケイラは社会人ということもあり、自分が想定しているよりも大人の女性の演技が求められていて、「大人っぽく」「もっと低く」というディレクションをいただきました。
また、クロエの見た目には合っているけど、色々な大人たちに頭を下げたりする場面ではまだ(声が)幼いというディレクションをいただいたりもして。そういったところを調整しながら演じていきました。
でも、やっぱり実際に演技している女優さんの演技だったり、会話シーンの距離感だったり、これらを自分がマイク前の声でどう近づけられるか、非常に難しかったです。ご時世柄、ひとりでの収録だったので、今は誰と話しているのか、声の響きを調整するためにどんな大きさの部屋にいるのかを把握したり、そういった細かい点まで声で表現しなくてはいけないので大変でした。
――とても技量を求められる収録だったんですね。
水瀬:とはいえ「ここは電話越しのシーンです」とか「ここは大広間のシーンです」といったように教えてもらいながらでしたので。
あと、ケイラ自身、すごく変幻自在に色々な表情を見せることができるずる賢さがあったりして。心はザワザワしていても、表向きは平然とやってのけるんです。「私に任せてください」といった部分でも上ずるわけではなく、偽りの経歴通りの自分で振る舞うような。ひとりの主人公だけど色々な表面を出してお芝居しなくてはいけなかったんですが、難しくもあり楽しくもありました。
――ケイラ役のクロエさんの演技をご覧になっていかがでしたか?
水瀬:アフレコ中、ディレクションしてくださるスタッフさんともお話したんですが、ケイラ役のクロエさん(※)は笑った後に豚鼻になるんですよ(笑)。それを声の演技でコピーして表現するのはまた難しいポイントではあったんですが、日本の女優さんではなかなか見るのことのできない向こうの俳優さんならではのダイナミックさといいますか、アメリカンな感じが面白いなと思って。
私自身、豚鼻を意識しすぎて、そこに向けて演技してしまったんですが(笑)、でも、そこがクロエさんの魅力であり、彼女の親しみやすさが演技に出ている部分なんです。あと、バーでシャンパンを開けるシーンがあるんですが、原音ではユニークさ満点で、こちらもまた演じるのは難しかったですが、彼女のユニークな一面がすごく出ていて。
そんな彼女の演技に私自身も引っ張られて、新たなお芝居に挑戦することができました。クロエさんの作り上げたケイラと一心同体で走り抜けることができてよかったです。
※クロエ役の女優:クロエ・グレース・モレッツさん
――豚鼻単体で練習されたりしたのでしょうか?(笑)
水瀬:そうですね、(録音を)回しておくので自由に練習してくださいと、言っていただけたので(笑)。でも、言われると意識しすぎてしまって……結局、流れで自然に出てきたものが採用されました。まさか豚鼻ソムリエになるなんて思いもしなかったですが、クロエさんの演技に近づいていたらいいなと思います。
――そのほかにもケイラのお気に入りのシーンやセリフを教えてください。
水瀬:トムとジェリーとのやり取りの中でケイラは指令を出したりするんですけど、それをしたいならこうするしかないよね?みたいに、ある意味弱みを握っていたりしていて。ふたりを従えているみたいな立場で面白かったです。
あと、ケイラはコードネームを使うんですが、それを観て彼女はもしかしたら中二病なのかな?とか、何かになりきるのが好きなのかな?と思ったりもして。彼女が何者かに乗り移ったときの活き活きとした姿は、私も演じて楽しかったです。
ほかにも髪型を決めるシーンですごく独り言を繰り返していたり。本当にずっと喋っているので、その中で出てくるおちゃめな一面にもぜひ注目してほしいです。