音楽
ReoNaインタビュー・後編 小さな絶望から大きな哀しみまで。曲調を変えながら、今を生きる私たちの心に寄り添うお歌たち

ReoNaらしい“はじめて”と“とくべつ”に溢れた充実のシングル制作の全貌が明らかに――TVアニメ『シャドーハウス』エンディングテーマ「ないない」、シングル収録曲についてじっくりと語る/ReoNaインタビュー・後編

紆余曲折の果てに辿り着いた「あしたはハレルヤ」

――「あしたはハレルヤ」もまさに挑戦の一曲。「絶望年表」もそうでしたが、カントリー調で音で楽しむ曲というか。

ReoNa:新しい扉の曲です。

――作詞は毛蟹さん、作曲・編曲はさきほど(前編インタビュー)で話題に上がった、山口隆志さん。山口さんは「Take Me Home, Country Roads」のカバーの時にアコースティックギターを弾かれているのと、カントリーということもあって、この曲中に<ジョン・デンバー>という言葉が登場するのかなと。

ReoNa:ありがとうございます。そうですね。

――でも、じゃあ同じ部分に登場する<モロヘイヤ><マカダミア>ってどういう意味なんだろう、と思ってしまって(笑)。

ReoNa:この言葉たちは音の楽しさから生まれた言葉なんです。実は「あしたはハレルヤ」はいちばんReoNaが作詞に携わらせていただいた楽曲で、たくさん言葉を書いたメモを毛蟹さんにお渡しして歌詞を書いてもらいました。

もともとカントリーは私もよく聴いていて、ルーツともいえるジャンルなんです。ザ・バンド・ペリーさんの「If I Die Young」や、テイラー・スフィフトさんの初期の楽曲だったり、エド・シーランさんだったり、それこそ「カントリーロード」もそうで。カントリーって明るく横で乗れるようなリズムの中で、日常の中のちょっとした切なさや苦しさ、哀しさを歌っていて、曲によっては大きな悲しみを伝えていることもあるんですよね。

この曲では『unknown』で “名もなき絶望”と言っていたように、日々に落ちている小さなちいさな絶望を明るい曲の中に寄り添えるように入れていけたらなって。例えば「白い服を着ている時に限ってトマトソースのパスタを食べちゃう」、「傘を忘れたときに限って雨が降る」、「急いでるときに小指をぶつけて痛い」だったり、「あれ今日鍵閉めて出てきたっけ?」って不安になったり、なかなか横断歩道が変わらなかったりとか。名前のない絶望、名前のない苦しみ、哀しみ、ちょっとだけ消えたいなと思う瞬間……そういうものをたくさん、最初にお渡ししたメモに羅列したんです。

そのメモのなかに「だらりだらり」という言葉を入れていて、それが歌詞の<ふわりふわり>につながりました。毛蟹さんと電話をしながら、最後の大詰めの作業をしていたんですが……今回は歌詞が完成する、最後の瞬間まで立ち会うことができたんです。ネットで通話しながら「ここの言葉、こう変えてみたんですけど」「こっちのほうが好きです」と伝えて。作家さんの大変さを今までで一番間近で感じた瞬間でした。<モロヘイヤ><ジョン・デンバー>などの部分も、「ここの一行、考え直そうか」ってなったときに「マカダミアとかどうですか?」とリアルタイムでやり取りして作っていきました。

でも、本当にいろいろな紆余曲折があって。歌詞が先にできることもある中で、今回は……今まででいちばん苦戦したというか。何日も何日もチームで考えながらできあがったものになりました。

――苦戦した理由はなぜだったと思います?

ReoNa:歌詞の要にもなっている<どうしようもない人生でいいじゃない?>という言葉に対しての、この曲調でのアプローチだったり。雨のち曇りの日々だけど、どうしようもない人生で―― “いいんだよ”でもなく“よかった”でもなく<良いんじゃない?>という何も解決していない寄り添い方だったりに、ものすごく苦戦しましたね。その苦戦具合も相まって、思い入れのある楽曲になりました。いろいろあったけど、ReoNaらしく、今までにない形で寄り添える楽曲ができたなって感覚があります。

――だらりが<ふわり>になったとおっしゃっていましたが、<ふわりふわり生きてもいんじゃない?ゆるゆるやかに ふわふわふわり>という言葉の<ふわり>は「step, step」(神崎エルザ starring ReoNa名義)にもあって。さらに「おやすみの詩」(『SWEET HURT』収録)には<緩やかな終わり>という言葉があります。ある意味、これまでのReoNaさんらしさも詰まっているように感じます。

ReoNa:確かにそう考えると……今までのReoNaも詰まってますね。擬音で表せる絶望感というか。ぐだり、だらり、とかってあるかなと思って、いろいろと羅列した中で、今回は<ふわり><ゆるり>になったんです。だから、ちょっとついてない日とかに寄り添えたらなと思っています。気軽にじゃないですけど、遅刻確定の日とか、小指ぶつけて痛い日とか、忘れ物しちゃった日とかに明日は晴れるよ、じゃなく、ハレルヤって寄り添わせていただければいいなって。

――話が少し変わるんですが、あの<ふん ふふ ふん ふん ふーん>って歌っているところがすごく可愛いなって。ハレルヤ感があるというか。

ReoNa:ハミングのところですね。 実はこれも偶然の産物に近いんです。デモ音源が出来て、仮の作詞をしている現場に私がいて、そこで上から順番に言葉を当てはめていって。「ここどうしようかな」って考えている横で鼻歌を歌っていたんです。<ふん ふふ ふん ふん ふーん>って、仮でハミングをハメておいたんです。でも、実際に歌を入れてみたら意外と良いかもって話になって。

――制作に深く携わってたからこそ生まれたハミングだったんですね。

ReoNa:そうですね。この投げやり感というか。「もういいや~」って感じが気に入っています。

――この曲はぜひライブで、アコースティックで聴いてみたいですね。

ReoNa:どういう曲の前後にこの曲がくるんだろうなって。まだ分かりませんが……これからチーム全体での会議になると思います。

 

学校を舞台に、監督が紐解いた「ないない」のセカイ

――今回のシングルのビジュアル面についても教えてください。「ないない」のMVはこれまでにないドラマ仕立ての内容ですね。

ReoNa:この曲の解釈を違う角度から切り取ったMVになっています。監督を務めてくださったのは、今回初めてご一緒した加藤ヒデジンさんという方なんですが、すごく独特というか。思いつかなかった角度から「ないない」という楽曲を切り取ってくださって。学校というシチュエーション、無個性なマネキンたちが立ち並ぶ教室……。

さらに、あんなに走っても走っても抜け出せない校庭だったり、パフォーマーの皆さんが踊り狂うシーンだったり。インパクトのある場面が続くんですが、楽曲とすごく親和性があって。コンテを最初にいただいたときから「どんな映像に仕上がるんだろうな」ってすごく楽しみにしていました。実際に出来上がったMVを私自身も何度も見ています。

――学校での撮影はいかがでしたか? 最初にReoNaさんがジャミロクワイの「Virtual Insanity」ばりに移動されてきますけど、あのシーンがまたゾクッとするというか。どのように撮影されたんでしょうか。

ReoNa:ジャミロクワイさんばりに(笑)。あのシーンは機械じかけのキックボードに乗って、その場でリモコンを私で持って操作しているんです。歩いているわけでもなく、カメラだけが動いているわけでもなく、カメラと同時にスーッと動いていくという、機械仕掛けのシーンですね。

――髪の毛のシーンは特に大迫力(1:27あたりから)。撮影現場はどんな雰囲気だったんでしょうか。

ReoNa:すごかったです! 2メートル近い髪の毛をつりあげて。ハサミを入れるシーンは一回しかできないので、パフォーマーの方もセッティング中はずっと座ったままという状態でした。誰しもがいたことのある教室という場所に生まれた異空間感。見たことのない映像になりました。

――学校って捉え方によっては逃げたくても逃げられない場所で。その閉鎖感や辛さがすごく伝わってきました。

ReoNa:アニメのエンディング映像の最後、スノードームの中にシャドー家の屋敷がある絵を見たときに「学校だ」って思って。すごく狭い世界の中に子どもたちが……語弊があるかもしれませんが、余計なことを考えないようにしながら、ひとつのことを全員で一緒に習うあの空間を、思いもしない方向から紐解いてくださった印象があります。

――いまReoNaさんがおっしゃった「学校だ」っていう感想は監督に事前にお伝えしていたんです?

ReoNa:していないんです。そこも偶然の一致で。だからもう本当に……私自身、「ないない」に対する気付きをもらったなって。私自身、監督に委ねながらの撮影で。普段の撮影では、自分がどう映ってるか、どんな表情をしているか、モニターなどでチェックして、楽曲と一緒に自分がどう映っているか客観視するんです。でも今回はレコーディングを経てイメージが固まっていたこともあって、もしリクエストがあればそれにお応えしながら撮影していければなと思っていたんですけど、ワンカットでオッケーになることが多くて。特に最後の<笑えないじゃない?>の表情は……ワンカットであの表情を切り取ってくださったことに対して、驚きと同時に感謝を感じています。

――ダンサーの方たちとの撮影はいかがでしたか?

ReoNa:「ANIMA」でバンドさんと一緒に楽曲を表現したことはあったんですけど、私以外の女の子が演技するMVも初めてで。一人ひとりの力を借りて作品のセカイを表現してる感覚があります。カメラがまわってないときは等身大の女の子たちで。

特に全力で走ってくれた女の子は、無垢な雰囲気の女の子だったんですけど、カメラが回りだした瞬間に全身全霊で走って、指先から髪の毛まで神経を研ぎ澄ませて、走って、踊って、大迫力の演技をしてくださって。本当に倒れちゃうんじゃないかなって思うくらい。ReoNaと一緒に作品を表現してくださったあの子たちの熱量も詰まった映像です。最後に向かって、ドラマティックな起承転結があるので、フルでじっくり見ていただきたいです。

――フォトブックレットの内容も気になるところです。

ReoNa:『シャドーハウス』に近づいた世界観になってます。『シャドーハウス』ということもあって黒い手が入っていたり、私自身のメイクも白いものにしてラインストーンが貼ってあったり、ドーリーなお洋服を身に着けたり。『シャドーハウス』という作品と共に「ないない」ができたからこそ、挑戦できたビジュアルイメージです。

――アーティスト写真にもありますが、白いまつげはつけまつげなんでしょうか? カラコンも少し変わっているような。

ReoNa:グレイのカラコンをつけています。目尻についている白いまつげ以外は、白いマスカラを地まつげに塗っているんです。メイクをこれに決定するまでに、2、3回くらい試す時間を設けて。どういう方向性にして、どう特異性を出していこうかって話し合いをしながら作っていったものです。

――まつげの長さにもですが、ここまで白く塗られるマスカラがあることにも驚きです。『シャドーハウス』の世界観となったメイクで、メイクさんの力も感じます。

ReoNa:実は私も驚いたんです。「今はここまで綺麗に地まつげを白くすることができるんだ」って。メイクじゃなくてCGだと思う方もいらっしゃるかもしれないんですが、“生き人形”の世界観に対して、人ならざる者感というか。人間離れしたビジュアルを意識しました。ビジュアル面もチャレンジでしたね。

――(フォトブックレットの入稿ページを見せてもらい)まさにケイトのような一枚がありますね。シャドーとなってる写真は、顔が見えず、ゴシックな衣装で、ReoNaさんじゃないような雰囲気……顔の表情って大切なんですね。

ReoNa:そうなんです。ブックレットの中では私がふたり登場します。黒く顔が塗りつぶされている写真は私じゃないような雰囲気で。笑ってるか、怒ってるかすら分からない。

ゴシックロリータ風の衣装を着るのは初めてだったのでドキドキしながらの撮影で、 “ないない”尽くしの作品になりました。他にも(今一緒に見ているページには)映っていないんですが、“すす”のようなものが出ているカットや、原作の扉絵をオマージュしたようなカットもあります。ロケーションは“館”という言葉が似合うようなすごくステキなお屋敷で、お庭があって、ミモザが咲き誇っていて。アンティークな雰囲気の背景と共に撮影をしました。

――いつも思うんですが、ReoNaさんは“これ以上ない”というほど、作品に寄り添った曲・ビジュアルイメージを作られていて。アニメサイドの方はもちろん、原作者のソウマトウ先生も喜ばれたのではないでしょうか。

ReoNa:喜んでいただいた、とお伺いしました。 そのお言葉を聞いて、私自身もとても嬉しく思いました。ビジュアルイメージ、アーティスト写真もそうなんですけど、一つひとつ、じっくり見ていただきたいです。ブックレットは歌詞の表記も含めてぜひ受け取っていただきたいものになっています。

――さきほど、エンディング映像の話があがりましたが、『シャドーハウス』のエンディング映像を見られたときはどのような印象がありましたか?

ReoNa:ガラスの音が割れるところに、音に合わせてコーヒーが割れる絵を使っていたり、シャドーと生き人形が対比になっているような絵が入っていたり……作品側に「ないない」が寄り添うとともに、作品側も映像として楽曲に寄り添ってくれていただいているんだなって。

――お互いの愛を感じる映像です。個人的には階段のところでクレジットが出るのもたまらないです。

ReoNa:ありがとうございます。良いですよね。ただクレジットを流す映像だけではなく、あそこまで作品の一部だという気合いも感じで、良い意味でぞくぞくします。

 

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