
春アニメ『灼熱カバディ』武蔵野創先生×市川量也監督 対談|監督・原作者ともに思い入れのある主人公・宵越竜哉はカバディに対する“敵”として誕生!?
練習試合でさえもすさまじい密度の作品
武蔵野:逆に監督が印象に残っているシーンも聞きたいです。
市川:自分の力は関係なしに単純に物語として好きなのは、7話の「不倒を誰が倒したと思っているんだ」のシーンですね。そこにかかるんだ! とあんまり考えていなかったので驚きましたし、好きですね。
序盤の練習試合とは思えない密度があります。なんなら練習試合前も長いというか、そこでもちゃんといいところがあるというのがすごいです。
実際、王城も最近のアニメだったら2話くらいで出てくるようなポジションですし。原作でも搭乗まで割と時間がありましたが、ここには狙いなどあったんですか?
武蔵野:この作品の場合、主人公と競技をしっかり見せることが大切だと考えていて。後からどれだけいいキャラクターが出てきたところで読者は楽しめないと思うんです。
市川:漫画の連載って人気を得なきゃいけないから、面白いところをちょっとでも早く見せようと思いがちだと思うんですが、そこはグッと溜めていたんですね。
武蔵野:あはは(笑)。実際は、そんなにいいキャラができる、と僕が思っていなかったからかもしれないですね。宵越とかすでに出ている面白いキャラクターたちで十分じゃね? くらいの気持ちで描いていたんですけど、いざ頑張って作ってみたらよかったという。
“敵”が味方になっていくことがカバディを一番面白く見せる
――宵越竜哉(CV.内田雄馬さん)を主役にしたのには決め手などあったのでしょうか?
武蔵野:宵越はマイナー競技に対比する人間です。“カバディをキャラクターと捉えた時”にその反対側にいるのが宵越という感じです。
市川:調子に乗っているじゃないですけど、ちょっと上から見ている感じは、メジャースポーツの擬人化的な意味ってことですかね?
武蔵野:ええ。スペック自体が高くて、有名なスポーツをやっていて。ちょっと現代っぽい感じの考え方というイメージではあります。カバディは、畦道相馬(CV.佐藤元さん)という形で擬人化していますけど、もちろんカバディに人格があるわけではないので。
もともとカバディという競技を描くにあたって、カバディに肯定的なキャラクターを主人公に据えてしまうと読者の共感を得られないと思って。
市川:最初はそういうネームもあったんですね。
武蔵野:そうなです。だって、普通に考えて競技をバカにする主人公ってイヤじゃないですか。
市川:そうですね(笑)。アニメや漫画では“雷が落ちたみたいになにかを好きになる”というパターンが多いです。
武蔵野:それが王道でいいんですけど、カバディにおいては悪手だったというか。僕の中ではそんなに面白くなかったという感じですね。
なので、宵越は最初は悪役という立ち位置でカバディ部に入っていて。逆に王道の主人公の立ち位置が畦道になるんです。“敵”が味方になっていく過程を描くことが、カバディを一番面白く見せることになるのかなと。
今読み返すと、宵越が嫌われないように最初の頃はなかなか悲惨な目にあいがちでしたね。まぁ現在進行形でもありますけど(笑)。
――ありがとうございます。漫画作品の解釈で「キャラクターには作者の気持ちが入ってきている」みたいな話がありますが、特に先生がこのキャラクターは自分に似ているなと感じるキャラはいますか?
武蔵野:一番大切にしているのは主人公の宵越です。それはずっと一貫してます。
市川:それは最初からですか? それとも「主人公を大切にしていくことが大事だ」というルールで結果的にそうなったという感じですか?
武蔵野:最終的にはどっちもですね。宵越は主人公に耐えうるキャラクターとして生み出したので。僕の与えた試練に耐えられるのが彼しかいない、という感じです。
市川:なるほど。ちなみに王城(王城 正人 CV.岡本信彦さん)についてはいかがですか?
武蔵野:王城は…僕もよく分かんないですね(笑)。怖いです。ちょっと。
市川:先生も怖いんですね(笑)。僕は王城を見ていると、いろんなところに先生の言葉っぽいものを感じます。
「なりたかったんでしょ? 日本一」は先生の漫画にかける熱を感じます。要所要所に先生の作品や漫画に対する前向きさが言葉として出ているのかな、と感じました。
武蔵野:そうかもしれないですね。漫画だけではないかもしれないですけど、今まで生きてきた中で感じたことだとか、僕だけじゃなく、友達や周りの人間が思っていたことや体験したことなども参考にしている気はします。
市川:漫画全体を通して先生のキャラが見えてくる、という僕と同じような考え方をしている読者の方もいて。どのキャラが推し、というより先生推し、みたいな感覚があります。
武蔵野:あ~、なんか見えちゃってるんですかね(笑)。監督はどのキャラがお気に入りなんですか?
市川:迷いますね....。でもやっぱり宵越かなぁ。心が折れないのが本当にすごいですし、彼を見ていると「やろうかな」という気になってきます。
武蔵野:そう言っていただけるとすごくありがたいです。