“自分なりの銭形”を少しずつ感じた10年間――秋アニメ『ルパン三世 PART6』山寺宏一さん インタビュー│常に謙虚で研究熱心でなければいけない役者論を聞く

清志さんの次元を引き継ぐのは、明夫さんしかいないと思っていました

――そして今回、大きな出来事として次元大介役の小林清志さんが卒業されました（※）。それを聞いた気持ちはいかがでしたか？

山寺：僕は、清志さんのいる事務所（東京俳優生活協同組合）に養成所からいて、そこで育ててもらいましたので（※現在はアクロス エンタテインメント所属）、清志さんのことは先輩として本当に尊敬しています。一緒にできなくなるのは、もちろん寂しい気持ちもあります。ですが、それ以上に、一緒に『ルパン三世』を10年間やらせていただけたことが、本当に嬉しかったです。

10年前、僕ら若造が皆さんの築き上げてきたところに入ってから、清志さんはいつも励ましてくださいました。自分だけが残っていることを、本音でどう思っていたのかはわかりません。でも、88歳という年齢まで次元を演じ、ほかのお仕事はまだ続けられているわけですからね。普通の俳優でも年齢を重ねてずっとやっていくのは大変だと思うんですけど、アニメーションは最初にやったことをずっと求められる大変な世界。

その世界で、ひとつの役を50年やられるのはまさに偉業でしかないと思いますし、後輩として自分も頑張ろうという気持ちになります。

※初回放送「EPISODE 0 ―時代―」は小林さんが最後に次元を演じ、それ以降は大塚さんが次元を演じます。

――現場での小林さんの印象に残っている姿や、覚えている言葉はありますか？

山寺：清志さんは自分の背中を見せるタイプなので、僕らにああしろこうしろとはおっしゃらない方なんです。食事会でも「もっと頑張れよ」とか、さりげなく言ってくださるぐらいで。でも、とにかくこだわりがすごく強いので、スタッフがお体のことを考えて無理させないようにしても、ご自分から「もう1回自分で聞きたい」「もうちょっと良くできるから、もう1回やらせてくれ」とおっしゃるんです。プロ中のプロだなといつも感じていました。

清志さんはとにかく唯一無二の声と演技の持ち主ですからね。外国映画の吹き替えでも、ジェームズ・コバーンをはじめ渋くてクールでダンディな“ザ・男”という感じの声は、もう清志さんしかいないなと。説得力というか、男を感じさせる声とお芝居はあの細い体のどこから出ているんだろうっていつも思います。

アニメでも、僕は『巨人の星』のオズマ（アームストロング・オズマ）が大好きなので、時々そんな話をすると「そうかそうか」と照れくさそうにしていて。『ルパン三世』はロマンに溢れている作品ですし、男の渋いロマンはやっぱり清志さんの声があってこそですから、引き継ぐ人は大変だろうなと思っていました。

――それを引き継いだのが、大塚明夫さんです。

山寺：明夫さんはデビュー直後から公私ともにずっと仲がよく、何でも話せる兄貴分みたいな存在です。年齢は2つ違うんですけど、普段はタメ口で喋っていますからね（笑）。僕が納谷さんから（銭形を）引き継いでプレッシャーを感じているといった話も、一緒に飲んでいる時に当時は散々したと思います。

そんな明夫さんが、今度は入ってくる形となりました。明夫さんも清志さんのことをずっとリスペクトしていますから、清志さんが作られた次元に少しでも寄せたいと考えて演じるのではと思います。

でも実は、僕は勝手に、もし清志さんが卒業なさるのなら（引き継ぐのは）明夫さんしかいないだろうと思っていたんです。清志さんとは違うけど、明夫さんなら清志さんも納得なさるでしょうし、明夫さんの次元も格好いいと誰もが受け入れてくれるだろうなと。明夫さんは明夫さんで、ああいう感じの人はほかにいないですから。

――自分も、引き継ぐのが大塚明夫さんと聞いて納得でした。

山寺：ただ、明夫さんは僕より年齢が上で、若手に代わると言っても62歳なんですよね。僕の時も言われました。「若手っていうわりに50歳だよね」「もっと若い人にすればいいのに」って。長くやられたレジェンドの方々って結構若い時からやっているので、当時からあの味をだしていたんだなと思うと本当にすごいです。

声優の業界ってこういうことが多いんです。あんなに渋い声を出していたのは、思っていた以上に若い時だったということが。デスラーの伊武雅刀さんもそうだもんなぁ……。

※伊武雅刀さんが『宇宙戦艦ヤマト』でデスラー総統（アベルト・デスラー）を最初に演じたのは25歳の時。それを山寺さんが『宇宙戦艦ヤマト2199』以降、引き継いでいる。