TVアニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』シリーズディレクター・唐澤和也さん&プロデューサー・内藤圭祐さんが語る、ダイたちと走り抜けた1年間と2年目への意気込み/インタビュー
原作のコマのひとつひとつに込められた三条先生&稲田先生の意図を読み解く
――強く原作のコマを意識したカットが存在しているように思えたのですが、このあたりのこだわりも聞かせてください。
唐澤:やはり原作物は作者が絶対に見せたい部分があると思うので、そこを演出するように作っています。監督によっては原作のコマ割りは使わないという方もいるのですが、『ダイの大冒険』に関しては、方針として積極的に使っています。稲田浩司先生の考えられた構図やファンのみなさんが求めている絵面を大切にしたいんです。だから原作で表現したかったことを読み解いてなるべく拾っています。
内藤:シナリオの打合せではでみんなで、コマに込められた先生の意図を読み解こうと血眼になっていました。
――そこまでやっていたとは驚きです。呪文や技のエフェクトあたりも伺いたいです。
唐澤:物によっては作画でやっているのですが、呪文は大体CGでやるようにしています。作画だと描ける人が限られてしまうんです。だから作画で再現不可能な有機的な動きや質感の部分を、CGに任せることで情報量や迫力を上げています。カイザーフェニックスやドルオーラはその最たるものです。
――呪文と技とでエフェクトの差別化などはあるのでしょうか?
唐澤:呪文ですと、メラは炎、ギラはビームなど、質感をCGで統一しています。技に関しては原作だと大地斬やアバンストラッシュはエフェクトが付いていないので、例えば大地斬なら赤色、海波斬なら青色のように子供たちが見た時にわかりやすい色分けをしています。
――東映アニメーションさんは『ダイの大冒険』以外にもずっと作品を作られていますが、そんなハイクオリティな映像を作られるスタッフさんを集めるのも大変そうに思えます。
内藤:並行して長期シリーズが何ラインも動いている中で、あのクオリティをこれだけ長期間も維持しているのは奇跡に近いです。『ダイの大冒険』が好きで集まってくれた方だったり、要所要所を抑えてくれるベテランだったり、この作品で演出デビューしてくれた若い子だったり、みんなのエネルギーで何とか踏ん張っています。
ただこれは、身内だとこの大変さを共有できるのですが、『ダイの大冒険』に限らず、アニメ作品に求められるもの、向けられる視線が年々厳しくなっていることを感じています。今だと様々な作品が様々なプラットフォームでいつでも視聴できる環境なので、長期シリーズだから、深夜の1クールアニメだから、劇場アニメだから、という区分けは視聴者のみなさまにとっては無いように思います。
だから、なんとかこの水準を維持している『ダイの大冒険』もどうしたって比べられてしまいますし、そのハードルが苦しい部分です。そんな中でもスタッフのみんなは頑張ってくれていて、毎週放送できていることを考えると、改めてこの作品はタフなタイトルだなと思いますね。
唐澤:求められるハードルの高さは自分も感じています。僕の仕事はクリエイティブを管理する立場なので、スタッフのモチベーションをどう下げないようにするか、話数毎に誰にどの仕事を任せるのか考えながら作っています。
僕が東映アニメーションで師匠として仰ぐ長峯達也さん (代表作に『ドラゴンボール超 ブロリー』、『ダイの大冒険』と同じ原作コンビのアニメ『冒険王ビィト』など)から、シリーズディレクターは雑用ばかりだからと言われたことがあって。色々なところで問題が起きるけれど、そこを解決していく仕事なんです。だから、みんなが楽しく制作に打ち込める環境を作っていきたいと思っています。
――そのようなお話を聴いていると、中間管理職的な立場だった頃のハドラーを思い出します。
唐澤:まさしくその通りで、上からも下からも挟まれてみたいなところがあります。笑い話ですけれどね(笑)。
――大変な制作状況の中で、手ごたえは感じられているのでしょうか?
内藤:手ごたえはありますが、理想はかなり高くもっていて、『ドラゴンボール』に少しでも近づければと思っています。『ドラゴンボール』は当時子供だった世代が親世代となり、子供と二世代で楽しめるコンテンツに大成長しています。
『ダイの大冒険』もそれだけのポテンシャルを持っていますので、まだまだもっと盛り上げていければと思っています。最近だとアプリゲーム『ドラゴンクエスト ダイの大冒険 -魂の絆-』がリリースされましたし、放送開始当初から稼働している『ドラゴンクエスト ダイの大冒険 クロスブレイド』も人気の筐体だと伺っていますので、そこから更に人気が広がってくれるといいなと願っています。
唐澤:Twitterで見かけたファンのみなさんの声の中に「昔見ていた」「懐かしい」みたいな反響があって、連載当時や旧アニメの世代にも届いていることは感じています。町中で子供たちがダイの真似をしているところも見かけましたし、二世代で楽しんでくれている手ごたえはあります。
長期シリーズは中弛みを起こして途中でクオリティが下がりがちなのですが、スタッフみんなの勢いは2年目に入っても衰えていません。集まったみんなの熱意でモチベーションが維持出来ているのかなと思っています。
――SNSなどを見ていると、竜魔人化したバランの体色やロカの髪色に驚いた人を少なからず見かけました。設定の部分についても聞かせてください。
唐澤:竜魔人バランの体色は、原作の2色刷りから赤色をイメージしました。主要キャラは三条陸先生&稲田浩司先生にご相談して決めています。ロカの髪色については『ドラゴンクエスト ダイの大冒険 勇者アバンと獄炎の魔王』から拾っていて、マァムに遺伝したのだろうなと考えてもらえるようにしました。
――第61話「勇者アバン」でアバンたちの物語が描かれたことで『勇者アバンと獄炎の魔王』のアニメがみたいみたいな話もあがりそうですが……
唐澤:僕も見たいですね!
一同:(笑)。
内藤:原作が貯まるのを待ちますかね!
――「勇者アバン」では魔弾銃のプロトタイプといったオリジナルの描写もありました。
唐澤:脚本家の隅沢克之 さんが「こういうのを入れたら面白くないですか?」と提案してくださったので、先生方に確認したら乗ってくださったんです。先生方は大幅に原作から逸脱せず、キチンと筋が通っていればこういった変更は基本的に受け入れてくださいます。
まずは代替となる設定をお渡しし、意図を説明します。そこを確認しながらになるのですが、この時点でOKを貰えることもあれば、先生方へ確認したことで原作の意図と外れることがわかり、原作通りに修正したりといったやりとりを重ねています。
――アニメでの変更でいうと、タイツを着用するようになったマァムも印象に残ります。
唐澤:より多くの人に『ダイの大冒険』を届けるためには、変更しないと放送できない部分がやはりあります。インナーが下着に見えてしまうとダメなので、実は、マァムのタイツの色は先生から(※三条先生 )の提案なんです。
――これらの制作の上で、コロナ禍の影響はあったのでしょうか。
内藤:多大にありますが、放送が止まるわけではないので常に試行錯誤して進行しております。
唐澤:打ち合わせをZoomでやるとか、自宅作業を会社が奨励したりしてましたね。アフレコも同時に全員参加は不可能なので、数名で区切ってパート分けし、制作の足を止めないようにしました。
内藤:アフレコ現場ではここ2年くらいでキャストのみなさんが一堂に会してお芝居をすることが出来なくなったので、そこが一番大きい変化です。