『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』木下 麦監督インタビュー|TVシリーズ全13話を見た人も、見てない人も新鮮に楽しめる作品に。【ネタバレ注意】
小戸川役に花江夏樹さんを起用した理由、そしてお笑い芸人を多数キャスティングした意図とは?
――あとキャスティングについてですが、主人公の小戸川役に花江夏樹さんを起用された理由をお聞かせください。
木下:順当にいけば、枯れた渋い声のおじさんという発想になると思いますが、小戸川は子供の頃にトラウマになるような出来事があって、そこから時が止まったままの大人という設定がありました。また声に力強さや活力があったほうがいいなと思ったし、花江さんにとって初めて演じるような役柄だったと思いますが、「いい化学反応が起きるのでは?」という期待感もあり、オファーしました。
――また作中に登場するアイドル、ミステリーキッスの3人を演じる三森すずこさん、小泉萌香さん、村上まなつさんは、それぞれアニメ派生のグループなどで活躍されていますが、その点もキャスティングに考慮された部分はあるのでしょうか?
木下:スタッフからも意見を聞きながらキャスティングしましたが、実際にアイドル活動をされていたり、アーティスト活動をされている方にやっていただいたほうがよりリアルになるだろうなと。この作品ではリアルさを追求していたので、三森さん、小泉さん、村上さんにお願いしました。
――そしてこの作品に特徴であり、注目ポイントとして、ミキやダイアンなどの人気漫才コンビやトレンディエンジェルのたかしさん、森三中の村上知子さんなど多数の芸人さんがキャスティングされていることだと思いますが、その理由を教えてください。
木下:此元さんの脚本がお笑いの要素が強かったし、会話劇がすごくおもしろかったので、間や話し方が大事だなと。あと制作スケジュールに余裕があり、プレスコ収録が可能だったことも大きくて。プレスコだと尺にとらわれず、自分の会話の間でしゃべれるので、例え収録が不慣れでも、芸人さんやラッパーさん(ヤノ役のMETEORさん)の真価を発揮できます。それであれば、本職の方にやっていただくのもいいかなと思って、キャスティングさせていただきました。
――芸人の方が演じることで、朴訥とした雰囲気や独自の空気感も生まれた感じがしたし、作品にマッチしていると思いました。
木下:ありがとうございます。またこの作品のコンセプトが「耳で音だけ聴いていると実写ドラマみたいに感じられること」でもあったので、アニメ的な誇張した演技は極力しないようにという方向性でした。だから芸人さんに対しても声優さんみたいな演技を求めていたわけではないですし、声優さんにも自然な演技を求めていたので、全体的に個性的な作品になったかなと思います。
TVシリーズのお気に入りは4話の田中の独白シーン。お気に入りキャラは小戸川と〇〇?
――オンエアが始まると話題になり、口コミなどでどんどん広がっていきましたが、監督はそのような反響をどのように感じられていましたか?
木下:皆さん、すごく楽しんでくださっているなと感じられて嬉しかったです。でも『オッドタクシー』がどれだけの人に受け入れられているのかを客観的に実感することができなくて。現実味を感じられたのは、Blu-ray BOXのセールスが好調という知らせを聞いた時で、「ちゃんと社会に認知されて、評価されて、いい結果を生んだんだな」と。
――TVシリーズの全13話の中で印象深かったエピソードやシーンを教えてください。
木下:4話は、まるまる田中の独白シーンだったんですけど、ここはかなり思い切った構成でした。この回だけで1人の人間の人生の変化や顛末が描かれていて、あれだけでも1本の映画といえるくらい、完成度が高いお話で、描いていても楽しかったし、おもしろい仕上がりになったなと手応えも感じました。
あと、13話の終盤で真犯人が電話で話している時の、ロープを首にかけるシーンのインサートです。スタッフからは「ちょっと怖いのでは?」という意見もありましたが、わかりやすさ+ピリっとした怖さも入れたくて。脚本になかったけど入れましたが、入れてよかったなと思ったし、今でもお気に入りのシーンの1つです。
――お気に入りのキャラを教えてください。
木下:まず小戸川は自分に似ているので、愛着があります。あと樺沢は痛いヤツですが、彼の自己顕示欲は誰でも持っているものじゃないかなと思うし、自分にも通じるところもあって。今の世相を表しているキャラクターでもありつつ、彼の愛嬌やバカさ加減も愛おしくて気に入っています。