この記事をかいた人
- 塚越淳一
- アニメイトタイムズでいっぱい書いています。
――絵描き同士だとぶつかるんじゃないかって勝手に思ったのですが、いみぎさんの話だと、自由に描かせてもらっていたという話でした。
足立:一度決めたら、ああしろこうしろとは言いたくなかったんです。自分も言われたらイヤですし(笑)。いみぎさんは作家さんで、自分の絵も持っているし、そこに僕は惚れてるわけですから。彼に頼んだ以上は彼のセンスをこちらがもらいたいので、操り人形にしてはダメ。だから彼の描きたいものをもらうスタンスでした。特に何の問題もなかったし、もらったものが本当に良かったんですよね。
ただ、クルミのデザインは「センセ(笑)!もうちょっとコレット感を減らしてもらえますか?」っていうリテイクだけはした覚えがあります(笑)。(※コレット:いみぎむるさんの『この美術部には問題がある!』に登場するキャラクター)
――ツイッターで似ていると言われて悔しかったと話していました(笑)。でもいみぎさんの絵が動いている感動が本当にありました。監督としても、あの絵を動かしたい欲求があったのですか?
足立:いみぎさんの絵はアニメっぽいし、めちゃくちゃ可愛いですからね。でも彼はアニメーターじゃないから総作監はできない。総作監人事が未定だったあの頃では、いみぎさんの雰囲気をフィルムに焼き付ける自信は無かったです。だからこそ設定までいみぎさんに描いてもらったんです。漫画家さんにアニメの設定頼むときは原案までになることが多いでしょ?
だけど、原案をもらっても設定の段階で別の人間が描くと、そこで一度変化する。さらに総作監でまた変化するので、2回変化するより1回のほうがいいと思ったから、どうしてもいみぎさんに設定までやってほしかったんです。「やったことがないんで…」と不安に思っていらしたようですけど、「アニメの設定なんて絵が描ければ誰にだってできます!」って説得しちゃいましたね(笑)。
――それによって、いみぎさんの絵が動いている感じが強かったんですね。
足立:多少はダイレクトになっているかもしれないですね。でも最終的には総作監の頑張りだと思います。絵やフィルムなど、映像に関しては、ほぼ副監督の丸山裕介くんに任せていたので、現場の監督は副監督の丸山くんと言っていいと思います。
僕はシナリオと絵コンテという足立にしかできない事に集中すべきだと思いましたし、現場は信頼できる人に任せるのが今回の制作ラインとスケジュールでは一番合理的だと考えました。本来ならレイアウト時に監督チェックをしたりするんでしょうけど、そこも飛ばして1秒でも長く制作進行と作画に時間を与える事がいみぎさんの絵を表現するのにも繋がるかなと。
――絵に関しては自分で全部チェックしたくなるのかなと思っていました。
足立:それはやりたいですよ! でもリソースのコントロールをして限られた時間の中での最高点を叩き出す方法を考えるのが監督の仕事で、任されたチームでどうすればいいのかを考えなければいけないのはスポーツでも同じでしょう?バッターボックスに立ちたい気持ちはもちろんありましたけど、結果から逆算しただけなんです。
――初監督作品でその判断ができるのは、逆に言うとスタッフを信頼しているのだなと思いました。
足立:いや、本当にそうです。副監督の丸山くんを始め、演出陣には随分助けて貰いましたし、勉強させてもらいました。演出の仕事では彼らの方が先輩ですからね。でもこれは、長年アニメに携わってきての考えでもあるんです。色々考えてきた「こうした方が良いんじゃないかなぁ?」を、本当にうまくいくかどうかの実験はしてみたかった。
――初監督だからそういう思い切りが出せた?
足立:それもあるかもしれないですね。初めてだから馬鹿なふりをして、いろいろ試してやろうって(笑)。まぁラストチャンスかもしれないですしね、思い残すことのないように。
それに身の丈を超えたブチ上げた内容にしても現場が壊れるだけですし、スタッフを不幸にしますからね。それは脚本段階からそう考えていました。
視聴者はもちろんだけど、スタッフにまず楽しんでもらえる作品ではありたい。
それが正しい判断かどうかはわかんないですけどね。スタッフを犠牲にしても、良いフィルムを作った監督が正しいかもしれないです。
――監督なので、シビアな目で完成を見ているのかもしれないですが、イチ視聴者としては、話も映像もすごく楽しめたなぁと思っています。
足立:ほんとですか?やったぜ! みんなが分担して個々のセクションでいい仕事をした結果だと思います。この場を借りて感謝を伝えたいです。
――映像を見て、確かに作画もずっときれいだったのですが、最初にこのアニメのどこに惹かれたかと言うと、千束だったんです。
足立:おっ! 千束好きですか?
――そこはたきななんですけど(笑)、声と動きがあまりに自然で、目が話せなかったんです。なので、千束がどう生まれたのかだけは聞いておきたいと思いまして……。
足立:千束は天才だけど、それ以外の部分は普通の17歳の子供。何に対しても明確な答えは持ってないし、ただ自分の心のままに生きる事を選択してる。だから発する言葉がすぐさま物語を駆動させるだけのものではなく、言い淀んだり茶化したり失言もする。そういう千束なら、千束がしゃべるたびに面白いと思ってもらえるかなぁと。
言葉って普通パッと出てこないじゃないですか。「ん~」とか「あ~」とか一瞬考える時間を作ってから話したりね。そういう生っぽいしゃべりができるキャラクターにしたいと思っていたんです。一見、無駄な台詞や間が重要な気がしてた。キャスティングは声質のイメージを判断する為の音声データを貰って7、8人を選んだ後、スタジオにお越しいただいて千束役とたきな役の二人の掛け合いを聞かせてもらいました。
安済さんは誰のたきなと組んでたのかな?ちょっと思い出せないけど、人間が書いた台本だと感じさせない自然さがあった。世界を食ってる生意気さと、明るさの中に確たる自信と強さがあって「おぅ、これが千束だ!」ってすぐ思った。千束は全く悩まなかったですよ。
――それは、このデザインの絵に合っていたということですか?
足立:いや、この企画に入ったときから千束はこういう感じなのかな?っていう確たるイメージがあったので、それに合う声を選んだという感じですね。シナリオも僕が書いていますから、そのときから、イメージはこういう感じ、というのがすっかりできてましたよ。
――キャストの対談でも、自由に演じてアドリブを入れたところを、画のほうがお芝居に合わせてくれたという話も出ていました。
足立:画で直しますというのは結構言ったと思います。アフレコは絵コンテで行っていて、声を頂いた後に作画するので絵の芝居は調整可能だし、この作品はさらにその後に二回目の編集をさせてもらってるので、つまり絵と声のタイミングは初めから相当調整するつもりでした。
だからキャストさんにはなるべく自由に、台本を少々変えても良いから、本当に友だちと話すような感じでやってほしいと伝えていたので、それで得られた空気や芝居もたくさんあったと思います。実はこの点がこの作品で一番やってみたかった事でしたから。
――その友達と話すような感じというのと、画が見事に合っていたので、本当に千束とたきながこの世界のどこかにいるんじゃないかと思わせてくれたんですよね。
足立:そう感じていただけたならとても嬉しいです。僕も千束たちとの付き合いが長すぎて今はもう本当に居るような気がしてますよ。そりゃもう、トイレでも風呂でもベッドでも彼らの事を考えてきた数年でしたから…。こんなことを感じるタイプじゃないと思ってたんですけどね。
――それと今回は掛け合いを重視しているということですが、アフレコで声がかぶっても一緒に録っていたというエピソードもありました。これも先程話に出ていた、決まり事だからって、その通りにはしないという話に通じるのかなと。
足立:キャストさん達のお芝居が面白すぎてガラスのこっちで音響スタッフみんな爆笑してたりするんですよ。最初の視聴者の反応ですから、大事にしたいなって思うことはしばしば。音響スタッフが楽しそうにしてるのはライターとしてはすごく嬉しいですしね。
今もこうやって話していると、だいたい相手の話し終わりってわかるでしょ?だからそんなに相手の話し終わりを待たないと思う。かぶせて相槌打ったり、話し出したりすることもあるよね。え?ない?せっかちな関西人だからかな(笑)。なんかそういう感じできないかなぁとか…考えてたのもあった。
――それによってテンポが生まれて、会話がポンポンと進んで、結果あっという間に見終わる感覚だったのかもしれません。
足立:「飽きないフィルムを」と思ってなるべくテンポ良くとは考えてきたんですけど、楽しかったですか? 良かった。実はだいぶ不安なんですよ? 監督ってめっちゃ孤独だから(笑)。
――では最後に、ファンへメッセージをお願いします。
足立:制作スタッフからもこの作品は「変わってる」って良く言われるんで、良くも悪くもなんか変わってる作品かもしれないです。短い時間だけど、気軽に千束やたきなに会いに来る感覚で観ていただけたらなと思います。
カフェの隣に座ってる学生がリコリスの可能性もあるから、みんな行動には気をつけろよ?(笑)
[文・塚越淳一]
アニメBlu-rayブックレットの執筆(「五等分の花嫁∬」「まちカドまぞく」「まちカドまぞく2丁目」「「ちはやふる」「リコリス・リコイル」etc.)、内田真礼、三森すずこなどのライブパンフレット、22/7写真集、久保田未夢UP_DATE執筆ほか、いろいろ
・TOKYO MX 7月2日より 毎週土曜23:30~
・とちぎテレビ 7月2日より 毎週土曜23:30~
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・ABEMA 7月2日より毎週土曜23:30配信開始
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GYAO! / ニコニコ生放送 / ニコニコチャンネル / Prime Video / Netflix / dアニメストア / dアニメストア ニコニコ支店 / dアニメストア for Prime Video / U-NEXT / アニメ放題 / バンダイチャンネル / Hulu / J:COMオンデマンド / TELASA / milplus / auスマートパスプレミアム / FOD / WOWOWオンデマンド / ひかりTV / Video Market / music.jp / GYAO!ストア / Tver
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原作:Spider Lily
監督:足立慎吾
ストーリー原案:アサウラ
キャラクターデザイン:いみぎむる
副監督:丸山裕介
サブキャラクターデザイン:山本由美子
総作画監督:山本由美子、鈴木 豪、竹内由香里、晶貴孝二
銃器・アクション監修:沢田犬二
プロップデザイン:朱原デーナ
美術監督:岡本穂高、池田真依子
美術設定:六七質
色彩設計:佐々木 梓
CGディレクター:森岡俊宇
撮影監督:青嶋俊明
編集:須藤 瞳
音響監督:吉田光平
音楽:睦月周平
制作:A-1 Pictures
オープニングテーマ:ClariS「ALIVE」(SACRA MUSIC)
エンディングテーマ:さユり「花の塔」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
錦木千束:安済知佳
井ノ上たきな:若山詩音
中原ミズキ:小清水亜美
クルミ:久野美咲
ミカ:さかき孝輔
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