声優
『ヒプノシスマイク』黒田崇矢&竹内栄治インタビュー

『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』天谷奴 零役・黒田崇矢さん&天国 獄役・竹内栄治さんインタビュー|低音ボイスのキャラクターだからこその難しさとは?

低音ボイスならではの声優論

ーー『ヒプマイ』は音楽のプロジェクトから展開されていくっていう珍しい作品ですよね。楽曲が出るたびにキャラクターへの解像度が上がると思うんですが、演じる上でもその影響があったりしますか?

竹内:僕はありますね。リンクしてるんですよ。話の流れで曲が出る側面もあるので。ドラマの台本をいただいて演じるわけですけど、それのト書に近いのが楽曲かなと思うんです。

ーーなるほど。

竹内:セリフで語られない想いが描かれていたりします。ドラマもラップも聴いてこそ『ヒプマイ』だなと思います。どちらかだけ好きでも良いんですけど、両方を聞くことで解像度が高くなると思います。

ーーご自身が演じるキャラクターを理解すればするほど、例えば曲の収録もよりスムーズになったり、逆に力が入りすぎて難しくなることもありますか?

竹内:今回は分かってきたからこそ時間がかかったんだと思います。もっとこうしたいって想いが出てくるので。だからこそディスカッションしながらイメージを共有しつつ、曲を書いてくれている方も『ヒプマイ』を理解してくださっているので、そこともすり合わせながらになっていきます。

黒田:今回の「Count the money」は最後まで聴くと、「天谷奴がこれ言うか?」みたいなところがあるんですよ。そういうのが今後の役作りのヒントになりますよね。

ーー勉強になります……! 話は変わりますが、お二人の対談は珍しいとのことで、せっかくなのでお互いに質問などありますか?

竹内:お! では僕から。黒田さんって緊張してるように見えないんですよね。実際はしてるかもしれないんですけど、いつもゆったり自然にしてる気がするんです。

僕はライブの時は気負いすぎたり、エンジンがかかりすぎたりするんですよ。これは場数の問題ですか? それともすごく大きな経験があるんですか?

黒田:緊張するよね。やっぱりね。俺も若い時は舞台からテレビに行って、とかいろいろやってきて緊張したよ。その時は「今ある全て、ベストを出そう」と思ってやっていたんだよね。

竹内:僕もそうです。

黒田:演者側ってそうしたいじゃない。でもね、緊張をなくすためにある時から「70%でいいや」って思ったんだよね。俺の場合だよ?

これ、どういう事かって言うと、準備の段階で完璧にしとくの。100点以上のものを準備しておけば、本番70%でやっても他の人の100点くらい出るかな? って。直前までに200%位にしておいて、「70で良いや」ってやるの。

そしたら100%超えるよね。そういうクセにしてるの。散々ベストを出そうって思ってやってきたけど一度もできたことがない。細かく細かくプランを考えて臨むんだけど、それが100%再現できなかった。

だからとことん準備して、緊張するマイナス30点があっても、結果的に100点を超えるくらいの気持ちでやってるの。

俺は緊張してないように見えるでしょ。

竹内:見えます。

黒田:全っ然緊張してないからね!(笑)

竹内:黒田さん入りから最後までずっと一緒ですよね。

黒田:おはよ~! の時から変わらないよ。1ミリも緊張してないから。アッハッハ!(笑)

竹内:僕の考えていたことと全然違いました。僕は結局上手くやりたいから緊張するじゃないですか。

でもそれって悪くないって思ってたんですよね。向上したいから緊張するわけで。でももっと自然体で100点狙いたいって気持ちがあったので質問したんですけど。

全く違いましたね。緊張しないっていうのが「成長したいと思わない」って事だと思っていたんです。でも黒田さんの話はどうも違いますよね。……これ、今日は寝れないですよ。

黒田:役に立った?(笑)

竹内:いや、これを実践しようかどうかも悩みますし……。だってすごく難しいことじゃないですか。

黒田:ストイックじゃないとできないよ。

竹内:ですよね。だから僕が思っていた緊張しないっていうものとまた違う種類の緊張しない話。だから今すごく楽しいし、興奮しています。

黒田:俺もすごく悩んでたから、100点の30%とかになっちゃうこともあったんですよ。手のひらに人って書いて飲んでみたりもしたんだけど(笑)。

結局、そのメンタルを発明して。毎回100点を出せてない事が続くから、結局100点は出せないんだなと実感した。だから100点のレベルを上げておいて7割にする。そう思い込んだらすごく楽になったかな。

竹内:いや~……めちゃくちゃ良い話が聞けました。

一同:ありがとうございます。

黒田:俺も毎回ベストで行こうと思ったんだけど無理だったからね。

竹内:それ難しいな〜。

ーー常人には難しいかもしれません……。それでは黒田さんから質問はありますか?

黒田:竹内くんって歌もうまいしかっこいい声だけど、実際獄って一番出しやすい声じゃないでしょ?

竹内:違います。

黒田:でしょ。それは何となく分かる。ちょっと声帯を引っかけるというか無理するでしょう。それって経験上やっぱ最初は痛くなるし、歌う度に傷つくと思うんだけど。

竹内:そうですね。

黒田:3年間やってみて、それを防止する術というか歌っていて支障がないようにする技術は付いてきた?

竹内:僕の中の表現だと、筋肉が付いてきてるような気がしますね。

黒田:うんうん。

竹内:最初の頃よりはよっぽどむちゃしなければ大丈夫ですね。ライブはテンション上がってしまうこともあるんですけど、レコーディングだと3、4時間続けても大丈夫かなとは思います。

黒田:それはすごいね。ここが一番やりやすい音域っていう部分が広がってきた感じなのか。どういう事を意識しているのかなって思ってたら、筋肉なんだね。

竹内:あの感じの発声は元々演技で使っていた事もあったんですよ。わざと潰したり引っ掛けたりして。今はしなくなりましたけど、それが活きている感じもありますね。

でもやっぱり黒田さんがおっしゃる通り、作った音ではあります。だから上手くいかない事もまだまだありますね。

黒田さんは今回の曲でも下からドスッと声を入れることがあると思うんですけど、黒田さんの声って低い音と高い音の成分があるじゃないですか。不思議な音なんですよね。

ーー確かに。

黒田:俺は常にそうなんですよ。

竹内:だから黒田さんはドンって落としてもクリアなんですよ。僕が作った声でそういう事やっちゃうと低い音だけになってクリアじゃなくなっちゃうんですよね。

黒田:なるほどね。

竹内:そこが上手くいかないので黒田さんのを聴いて嫉妬するんです。今回のもそうですね。俺が同じことするとダミ声になっちゃうんですよね。

だから自然な声じゃなくなっちゃうんですけど、何とかして良い具合の部分を探すようにはしていますね。

黒田:どんどん自由度が上がってるなって俺は見てるよ。

竹内:ありがとうございます。

黒田:こればっかりは俺がさ、39年間芸事を追求してきたからな部分はあるね。さっき言ってたように「筋肉が付いてきたような気がする」みたいな完璧には分析できないけど、できるようになるっていう感覚的な部分がこの仕事には多いじゃない。

これをこうして、っていうのはあまりないんだけど、俺も昔低音はそうだったよ。でも今の感覚で言うと、低音のベクトルが前に向くようになったっていうか。

低音ってこもったり、うちに向くことが多いんだけど、声が前に行くような感じ。

竹内:なるほど。

黒田:5000人くらいの場所で舞台とかやっててさ、当時ワイヤレスのマイクとか無いじゃない。でも常に大きい声って納得いかなくて。囁かないといけないでしょっていうシーンなのに舞台だから大きく声を出すっていうのが嫌だったんだよね。

だから小さい声のまま舞台の後ろの席の人まで聞こえるにはどうしたら良いだろう? って考えて、ベクトルを前に飛ばすことを意識し始めたの。それがうまくできるようになってからみんなに褒められるようになったんだよね。

ーーすごいな~。

黒田:これすごく難しいんだよね。

竹内:僕はこもってしまいます。

黒田:俺も、遠くの人を呼ぶ時は高い声でおーい! って言うよ。だって高いほうが声通るからね。たまに「低い声の人は何言ってるかわからない」なんて意見もあるけど、そんなの当たり前なのよ。高音のほうが遠くに伝わりやすいから。

でも役として低音でやらなきゃいけないから、工夫したね。肩の力を抜くとか色々やったけど、結局感覚だよね。スポーンと通すって感じで低音を表現すると、段々音が上がっていくっていうか。

竹内:普段の声でそういう出し方のイメージはあるんですけど、低音ではまだできないんです。できるようになればクリアな低音でますかね?

黒田:出る出る!

竹内:ちょっと勉強します。

黒田:なんか目で見えるようになったんですよね。音とか声がどこに向かっているのか目の感覚でわかるようになってきました。

竹内:特殊能力じゃないですか。

黒田:だから話していても、低音部分もちゃんと聞こえてるなってのはわかるんですよね。

竹内:黒田さんって特殊なんですよね。特に笑ってる声とかもすごい。表現できないんですけど、低い音と高い音が両方出てるような感じ。

黒田:前に実験されたことがあるけど、波形見てもほんとにそうなってたよ。

竹内:もちろん他の低い声の人も出ますけど、黒田さんほどの成分は無いですよね。高い音も交じるから聞こえるけど、どうしても低い音のほうが大きいですよね。でも黒田さんは5:5くらいなんですよね。

黒田:そうそう。俺は伝えたい所はちゃんと前に出して、比較的流しても良い部分はまた変えたりしてる。

今回の曲でも所々ニュアンスを変えたりして、1番と2番で歌い方変えたほうが天谷奴のミステリアスな掴みどころがない感じが出る気がするので、って相談させてもらったり。曲の幅も世界観も、天谷奴零の分けのわからなさもすごく広がりますよね。

ライブではいろいろ伝わりづらくなる事もあるので、また変えると思うし。こういう技術だと思います。

竹内:なんとなくヒントをもらった気がします。

黒田:俺は背中で喋るって思ってる。役者をやっていた人は、背中をうまく使って喋るような気がしますね。

竹内:わかりますね。僕も喉を引っ掛けなくなったのは背中に逃がすような感覚を掴んでからですね。

黒田:頼むよ。俺がいなくなった後の低音を任せるんだから(笑)。同じ誕生日だし、なんか気にかけちゃうんだよな(笑)。

竹内:嬉しいですけど、重いな(笑)。最初にあった時も誕生日同じだって声かけてくれましたよね。それですごく好きになりましたよ。先輩が名前を覚えてくれるだけで嬉しいものですからね。

黒田:両親はおいくつなんだっけ?

竹内:父親は還暦超えていて、母親は若い時に僕を生んだので黒田さんと同じくらいです。ほんと親くらいの差なんだけど、親父とは流石に思えないな(笑)。

黒田:栄治、パパって呼べよ(笑)。

竹内:アニキだったら良いですけど、パパはな〜。失礼ですけど、嫌です!

一同:(爆笑)。

[インタビュー/石橋悠 写真/塚越淳一]

史上初!ディビジョン別ライブ「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle- 8th LIVE ≪CONNECT THE LINE≫」開催中!

ヒプノシスマイク-Division Rap Battle- 8th LIVE ≪CONNECT THE LINE≫ to どついたれ本舗
2022年10月1日(土)19:00開演/10月2日(日)16:30開演

ヒプノシスマイク-Division Rap Battle- 8th LIVE ≪CONNECT THE LINE≫ to Bad Ass Temple
2022年11月26日(土)19:00開演/11月27日(日)16:30開演

◆詳細はこちらから!

「どついたれ本舗-No double dipping!-」

 
≪収録曲≫
01.コメディアン・ラプソディ / 白膠木簓(CV.岩崎諒太)
作詞:KOPERU
作曲・編曲:FReECOol

02.Under Sail / 躑躅森盧笙(CV.河西健吾)
作詞:空音
作曲・編曲:maeshima soshi

03.Count the money / 天谷奴零(CV.黒田崇矢)
作詞:ぽおるすみす
作曲:INNOSENT in FORMAL・TAKAMICHI TSUGEI
編曲:TAKAMICHI TSUGEI
INNOSENT in FORMAL by the courtesy of Nippon Columbia Co., Ltd.

04. コメディアン・ラプソディ(off vocal ver.)
05. Under Sail(off vocal ver.)
06. Count the money(off vocal ver.)

「Bad Ass Temple -戒定慧-」

 
≪収録曲≫
01.Young Gun of The Sun / 波羅夷空却(CV.葉山翔太)
作詞:SEAMO
作曲:04 Limited Sazabys・SEAMO
編曲:04 Limited Sazabys
04 Limited Sazabys by the courtesy of Nippon Columbia Co., Ltd.

02.Violet Masquerade / 四十物十四(CV.榊原優希)
作詞:瀧尾沙
作曲・編曲:tatsuo

03.If I Follow My Heart / 天国獄(CV.竹内栄治)
作詞:LEO・GOMESS
作曲:LEO・JIN
編曲:ALI
ALI by the courtesy of Sony Music Labels Inc.

04. Young Gun of The Sun(off vocal ver.)
05. Violet Masquerade(off vocal ver.)
06. If I Follow My Heart(off vocal ver.)

◆『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』公式サイト
◆『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』公式Twitter

1989年(平成元年)生まれ、福岡県出身。アニメとゲームと某王国とHip Hopと自炊を愛するアニメイトタイムズの中堅編集者兼ナイスガイ。アニメイトタイムズで連載中の『BL塾』の書籍版をライターの阿部裕華さんと執筆など、ジャンルを問わずに活躍中。座右の銘は「明日死ぬか、100年後に死ぬか」。好きな言葉は「俺の意見より嫁の機嫌」。

この記事をかいた人

石橋悠
1989年福岡県生まれ。アニメとゲームと某王国とHip Hopと自炊を愛するアニメイトタイムズの中堅編集者。

担当記事

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