『映画ドラえもん』シリーズ最新作『のび太と空の理想郷(ユートピア)』古沢良太さん脚本のオリジナル作品で、理想郷を舞台にのび太たちがたどり着いた「らしさ」とは?/堂山卓見監督インタビュー
永瀬 廉さん演じるソーニャはドラえもんと対比的な存在。井上麻里奈さんと水瀬いのりさんさんも重要キャラをしっかり演技
――『ドラえもん』の映画といえば、毎回ゲスト声優が見どころの1つですが、今作ではKing & Princeの永瀬 廉さんが重要なキャラ、パーフェクトネコ型ロボットのソーニャを演じているのがポイントかなと。
堂山:ゲスト声優としては例年にないセリフ量にないくらいのキャラクターになってしまって(笑)。のび太くんたちの冒険のきっかけになるのが各映画でのゲストキャラクターの立ち位置ですが、それに加えてドラえもんと対比する存在でもあって。のび太くんやしずかちゃん、ジャイアン、スネ夫たちのキャラクターは際立っているけど、彼らを見守るドラえもんらしさはどうすれば表現できるのか考えて生まれたのがソーニャで。ゲストキャラだからソーニャを意識的に押し出していこうとは思っていませんでしたが、ドラえもんを描こうとすると自然とソーニャの言葉が増えていって、難しい役どころになりました。
――永瀬さんは声優初挑戦ということですが、違和感を感じさせないお芝居でした。
堂山:それでも最初の頃は、声はイメージ通りで、お芝居も上手だなと思いましたが、アニメならではのテクニックに苦戦されていました。絵に合わせないといけないし、声の張り方も、実写だったらそんなところでは声を出さないというところにも声、アドリブが必要ですし。今回、アフレコ初挑戦ということで、事前にリハーサルをさせていただいて、その時にはそんな感じだったのに、本番では素晴らしい演技をされて、滑舌も良くなっていて。ご本人はすごく練習したとおっしゃっていましたが、見えない努力をちゃんとされる方なんだなと思いました。
――そして声優を本職とされる井上麻里奈さんと水瀬いのりさんもゲストキャラを演じられていますが、さすがだなと感心しました。
堂山:ああいうキャラも絶対に必要なんですよね。今回ソーニャというメインのキャラがいますが、それだけでは映画成り立たなくて、のび太が助けたいと思う対象が必要で。(井上さん演じる)マリンバと(水瀬さん演じる)ハンナはいてもらわないと困るキャラで、しかも役どころ的に難しく、立ち位置的にもストレートではなくて。優秀だけど、そうじゃない部分もあったり、逆にパーフェクトに見えるけど、そうなりたくない心を持っているため、繊細な演技が求められますが、そこは見事に支えてもらえたなと思っています。
――ドラえもん役の水田わさびさんをはじめ、のび太役の大原めぐみさん、しずか役のかかずゆみさん、ジャイアン役の木村 昴さん、スネ夫役の関 智一というレギュラー陣の方々のお芝居はいかがでしたか?
堂山:「らしさ」という点で、すごく助けていただきました。僕が描くドラえもんやのび太くんには若干バイアスがかかってしまうので、ドラえもんがちょっと優しくなってしまうこともありましたが、水田さんのお芝居でしっかりドラえもんに戻ってきて。困った時は自由に演じてもらうのが一番ですね。お任せしていればピッタリきますから。
おもしろかったのは、CMでも使われていますが、ドラえもんとのび太くんが声を合わせて「ない、ない、ない」というシーンは、最初絵を見ながらやっていただいたので、ちょっとバラつきがありました。でも「ここはピッタリ声を合わせてください」とお願いしたら、一発OKで。そういう部分も含めて、キャストの皆さんに助けていただきました。
難しかったの「らしさ」の表現と理想郷など美術デザイン!?
――制作していく上で苦労された点や意識された点はありますか?
堂山:一番は今回のテーマになっている「らしさ」をどう出していくのか、ですね。ドラえもんは誰もが知っているキャラで、それぞれが思い描くドラえもん像やのび太像があるし、僕や古沢さん、スタッフみんなにもあるわけです。だから「らしさ」について話し合うと「のび太くんは絶対こんなことしない」とか「ドラえもんはこんなこと言わない」とか、いろいろな意見が出るわけです。
でも映画として1つにまとめなくてはいけないので、そこが難しかったですけど、スタッフさんやキャストさんたちの「ここはこうじゃないですか?」というアドバイスの1つひとつが助けにもなったし、ハッとさせられることも多かったです。そしてやってみて、これだけ歴史がある作品になると、一面だけじゃなく、いろいろな角度の「らしさ」があるんだなと。皆さんにも「これがドラえもん!」ではなく、「これもドラえもん」という見方で捉えていただけたらと思います。
――あと舞台がユートピアということで、美術設定や背景もポイントだったのでは?
堂山:そこもすごく難しかったです。ドラえもんたちのキャラクター像とはまったく別で、誰もまだ絵にしたことがないものを描くので、まずスタッフさんにいろいろなアイデアやデッサンを出してもらいました。
「これはユートピアっぽいけど、ドラえもんっぽくはないな」とか、デザインをまとめるのが難しかったんですけど、そんな時は原点に戻って、原作マンガで藤子・F・不二雄先生が描かれている未来都市などを見たり、「こういうシーンではこんな背景が使われているな」とか参考にしました。原作には未来の都市がちょこちょこ出てきますが、特徴的なので、見ているとその流れに乗るようなデザインが自然に絞れてきて、たくさんのアイデアの中から『ドラえもん』に落とし込んでいく作業をしていった感じですね。
――未来的なデザインだけではなく、普通の街っぽい描写もあって、その混在している様子もおもしろいなと思いました。
堂山:未來のユートピアだからといって、無機的にならず、美しい風景にも見えないといけないので、そのあたりはすごく意識しましたし、たくさんアイデアスケッチを描いてもらいました。
大切にしたのはワクワク感と見終わった後に何を感じてもらえるのか。ぜひ家族や友人と見て、見終わった後は語らいを
――改めて今作の見どころや注目ポイントのご紹介をお願いします。
堂山:せっかく空が舞台ということで、いろいろな道具を使って飛んでいるシーンがたくさんあります。そして、いつもの『映画ドラえもん』に入っている活劇シーンも楽しんでいただきたいです。あと今回は心の内面に入っていくお話ですので、ドラマの部分でじっくり見ていただくところもたくさんあります。決してパーフェクトな作品なんてないと思っていますが、僕らなりに作った『ドラえもん』を、皆さんなりに楽しんでいただけたらいいなと思っています。
――あとアニメの王道作品である『ドラえもん』でも古沢さんらしさが存分に出ているところも見どころかなと。
堂山:古沢さんのインタビュー記事を読んだら「らしさを出そうと思ったけど、F先生が偉大なので、自分らしさなんて出している場合じゃない」みたいなことをおっしゃっていましたが、僕は十分に出ていると思います(笑)。F先生が大切にしていたものや世界観を壊さないようにしながら、古沢さんらしさも出ているので、大人の方が見ても楽しめると思います。
――上映を楽しみにされている皆さんへメッセージをお願いします。
堂山:『映画ドラえもん』はいつもと同じ日常からスタートして、見たことがないようなところに大冒険に行きますが、この映画でもそのワクワク感を楽しんでもらいつつ、見終わった後に何を感じるのかを大切にしているので、映画館を出た後、より日常を大切にしてもらえるのではないかなと思います。そして映画が終わった後、友達や家族など隣りの人を見て、「こいつ、嫌なところもあるけど、いいヤツじゃん」と思い出してもらえたらいいですね。
またご家族やお友達と見たら、いろいろな話ができる作品じゃないかなとも思っています。子供が見た理想郷と大人が見た理想郷は違うかもしれないし。映画が終わった後も日常が続いているところが『ドラえもん』のいいところだと思うので、見終わった後、たくさんお話ししてもらえたら嬉しいです。
『映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)』作品情報
公開日:2023年3月3日(金)公開
ストーリー
もしもどこかに何でも叶う夢のような楽園が存在していたら―??
空に浮かぶ理想郷(ユートピア)での大冒険が始まる――!!
空に謎の三日月型の島を見つけたのび太は「あれこそが僕が探していたユートピアだ!」と言い張り、ドラえもんたちと一緒にひみつ道具の飛行船『タイムツェッペリン』で、その島を探しに出かけることに!色々な時代・場所を探してやっと見つけたその正体は、誰もがパーフェクトになれる夢のような楽園<パラダピア>だった!
そしてそこで出会ったのは、何もかも完璧なパーフェクトネコ型ロボット・ソーニャ。
すっかり仲良くなったドラえもんたちとソーニャだが、どうやらこの楽園には大きな秘密が隠されているようで…。
はたしてのび太たちは、その楽園の謎を解き明かすことができるのか!?
スタッフ
原作:藤子・F・不二雄
監督:堂山卓見
脚本:古沢良太
主題歌:NiziU「Paradise」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
キャスト
ドラえもん:水田わさび
のび太:大原めぐみ
しずか:かかずゆみ
ジャイアン:木村昴
スネ夫:関智一
マリンバ:井上麻里奈
ハンナ:水瀬いのり
未来デパートの配達員:山里亮太(南海キャンディーズ)
パラダピアの学校の先生:藤本美貴
ソーニャ:永瀬 廉(King & Prince)