声優生活30周年記念 自身の出演作関連楽曲からセレクトされたアニソン・カバーアルバム「アニメグ。30th」は、作品・関係者・ファンの皆さんへの愛と感謝を込めた「ラブレター」 緒方恵美さんインタビュー
作品に対してのラブレター
──それぞれの曲について、順を追ってお話をおうかがいさせてください。1曲目はTVアニメ『平穏世代の韋駄天達』オープニング・テーマ「聖者の行進」(キタニタツヤ)です。緒方さんはイースリイ役として出演されています。
緒方:TVアニメ『平穏世代の韋駄天達』はとてつもなく面白いアニメだったので。関係者もみんな大好きでしたし、すごくカオスなアニメだったんですよね。“韋駄天” と“魔族” と “人類”が三つ巴のバトルを繰り返し、肉弾戦と頭脳戦が全部混じって。
しかも先が全然読めない。バトルもののアニメだったらこうなるだろう、というセオリーをどんどんひっくり返していくので「え、そんな展開になるんですか?」という驚きに満ちた作品です。色っぽいシーンもあれば、毒気に満ちてるシーンもある。
「聖者の行進」はそのアニメの主題歌で、カオスな魅力があって、かっこいい曲で。それがすごく好きだったので、盟友の宮崎京一(KEYTONE)くんに編曲してもらいました。
さらにカオス感を増そうか、作品の華やかな色彩に合わせて派手にもしようかって。「京一くん、そういうの得意でしょ?」って(笑)。そしたらバチバチのメタルに。超振り切った感じになりました。
──初っ端からシャウトが飛んでくる、そのカオス感が本作とリンクするところがあるなと感じていました。
緒方:そうですね(笑)。
──説明不要ではありますが、碇シンジ役として出演されていた『シン・エヴァンゲリオン劇場版』テーマソング「One Last Kiss」(宇多田ヒカル)のカバーが2曲目に収録されています。
緒方:エヴァ最後の作品となるテーマソング。宇多田ヒカルさんは、宇多田さんじゃないと歌えない楽曲を作られる方なので、どのようにしようかとみんなで考えました。
自分はもちろん宇多田さんのようにできるわけではないんですけど、この世界観を大事にしたい。『エヴァンゲリオン』は最後の最後まで、いろいろな部分を内包している作品だったのですが、その最後を掬って、包んでくださった宇多田さんのニュアンスをなるべく残しながら、自分の目線からの、『エヴァンゲリオン』という作品に対してのラブレター的な感じの歌にしようと考えていました。
──作品に対してのラブレターというのは、全曲通して感じていました。
緒方:ぶっちゃけて言うと全部それです。だからその一言で全曲終わってしまうんですけども(笑)。でも特に、『エヴァンゲリオン』は、作品とのお付き合いも長かったので。
──そうですよね。
緒方:声優みんな「誰も死なないうちに最後までやってください」って話をしてたくらいに長かった(笑)。特に清川さんはよく「僕が死ぬ前に作ってよ」って冗談めかして言われてましたけど、最後まで、誰も欠けることなく、つとめさせていただけたことも奇跡。本当に良かった。幸せな作品でした。
──3曲目は乙骨憂太役として出演された『劇場版 呪術廻戦 0』エンディングテーマ「逆夢」(King Gnu)です。
緒方:『呪術廻戦 0』。稀有な作品に出会わせていただきました。ジャンプの王道のような、とてもよくまとまっている作品で。芥見(下々)先生はこれが初連載ということでしたが、まったく信じられないと思うようなすごい漫画。
もともとパワーがある作品で読み手としてはとても面白いのですが、演る側になってみると、自分の役がすごく難しくて。成長の度合いがとても早い。ガワだけで言うことはできるけど、全体の芯を通してその言葉にたどり着く人にするには、どういう経路を通れば成立するのか、すごく悩みました。
「ここしかない」というキワキワのラインを辿ってなんとか演れた、という作品だったので、その分作品に対する感慨もひとしおでした。自分が培ってきたすべてを投入しないとできない、そういう作品に、この年齢になって出会わせてもらえたということがまずすごいことで、感謝しています。
乙骨憂太というキャラクターの心情に沿った歌詞の曲であり、King Gnuさんの“王道King Gnu”的な曲。いろいろな意味ですごい楽曲だな、とても好きだな、と公開されたときも思っていました。
アレンジをやってくれた盟友の中土(智博)さんとお話をする中で……もともとこの楽曲は、作品のラストの、希望を持ったシーンにイントロが流れてきて、エンドと同時に音が一度ブレイクし、歌声からエンドロールが流れる。だから最初のイントロが希望に満ちているんです。
そうではなく、もしも里香ちゃんの最後のシーンのところに被ってイントロが流れたとしたら? その気持ちのままで歌ったらどうなるんだろう? ってことを考えて。だとすると、冒頭はもう少しマイナーコードで出たい、という話になり、このようなアレンジに仕上げていただきました。
──4曲目は、医者役でご出演されたTVアニメ『アクダマドライブ』エンディングテーマ「Ready」(浦島坂田船)のカバーです。
緒方:『アクダマドライブ』は、ドロドロで、バチバチで、えらくカオスで(笑)。血もいっぱい出るようなマッドサイエンスな作品。
やばい展開の最後にいつもこの曲が掛かって、ちょっとホッとして、癒やされるところがあったので、そのホッとする感と言いますか。そういうものが伝わると良いなと思いました。ライブでもきっと、お客さんが楽しめるような曲に仕上げたいなって。
──軽快な雰囲気に合わせて盛り上がりそうです。
緒方:浦島坂田船さんが4人組なので、ひとりだと足りない、賑やかしが欲しい! と思い、弊社の若手声優に手伝ってもらって。とてもあったかくて素敵な楽曲になりました。彼らが歌ってくれた部分を、ライブになったらお客さんに歌ってもらって、みんなで楽しい時間を早く過ごしたいなと夢を見ています。
──そろそろ声出しも解禁になってきていますもんね。
緒方:はい。早くみんなと声をかけあいたい。最初にできた日はーー泣いちゃうかも(笑)。
もっけが参加した「No.7」
──5曲目に収録された、花子くん役などでご出演されたTVアニメ『地縛少年花子くん』オープニングテーマ「No.7」(地縛少年バンド)には、もっけ役の吉⽥有⾥さん、森永千才さん、⾦澤まいさんがコーラスに参加されています。レコーディングもにぎやかだったんだろうなと思ったんですがいかがでしたか?
緒方:もちろんです! でも本体のレコーディングは大変でした(笑)。コーラスを録るときは楽しかったんですけど、鬼速いラップがあるので。原曲を聴いていても音ハメが分からなくて、「歌いたいと自分から言ったんだけどこれどうすればいいのー」って(笑)。
それでディレクターがラップのコーラスの音だけを抜いたものを持ってきてくれてなんとかなりました。全体のアレンジは、もともと曲を作ったANCHORくんに頼みました。セルフリアレンジだったので、基本、彼のやりたいようにやってくれたら、って。
──すごく華やかな印象があります。
緒方:ね?(笑) とても素敵楽曲。もともとの音を奏でていたのは、彼がリーダーであるZiNGというサウンドクリエイターユニットで、ピエール中野くんなど実力派のミュージシャンが叩いてくれてました。
それを今回は、ボカロ世代の若いミュージシャン……堀江晶太くんがギターを弾いてくれて、ヒトリエのリズム隊(イガラシ、ゆーまお)が入ってくれて。そういう世代の人たちにスイッチしているので、音も若々しく爽やかで、それも華やかになっている一因だと思います。
コーラスはもともと大森靖子さんのところのZOC(現:METAMUSE)のメンバーが歌ってくれていたんですけど、今回は私(花子)がメインボーカルなので、せっかくだからもっけの声優陣に手伝ってもらおうと。それで、今の声優界でも屈指のハイトーンボイスの子たちに来てもらいました。
もっけ隊のコーラスがいちばん楽しかったかな(笑)。みんな「癒やされる~」ってニコニコしてました。自分はメインボーカルですけど、『花子くん』では花子・司・普という三役で参加しているので、裏でちょっとだけ(それぞれの役が)覗くように、かくしボーカルをキャラで入れて。大賑わいな楽曲になりました。
ミュージシャンの皆さんも暴れてくれているので、本当に音数が多くて。大変な楽曲になったので「どうやってミックスするの、これ!?」って言ってました(笑)。上手にまとめてくださって、最高です。
──ライブで絶対に盛り上がる1曲ですよね。
緒方:やばいですね、絶対やばい。もっけ隊がコーラスで呼んでくださいとは言ってたけど、まあ多分スケジュールが全員では合わないと思うので……合ったら嬉しいけど(笑)。レコーディングのあとはもっけ隊とご飯を食べに行ったんですけど、それも含めて楽しい収録でした(笑)。
また、『地縛少年花子くん』は今年からプロジェクトが再始動して、いろいろなことが動き出す予定。この作品に出ている役者たちがみんなこの作品が大好きなので、お客さんに楽しんでもらえるように、私たちも楽しい展開にしていけたら良いなと思っています。
──次なる展開も楽しみです。
緒方:どうなるのか、私もまだ分からないんですけどね(笑)。楽しみにしていてください。