『僕の心のヤバイやつ』連載インタビュー第6回:テレビ朝日 プロデューサー・遠藤一樹さん×シンエイ動画 アニメーションプロデューサー・櫻井洋介さん|1話分のアニメを作るのに200人以上の方が関わってくれています。皆さんが真摯に作ってくださった結果が映像のクオリティにつながっているんです。
見ている方向は一緒だと確信していた
――企画書を作ったあと、本格的に準備が進み、秋田書店で桜井のりお先生を含めて打ち合わせをされたとうかがいました。櫻井さんも同席されていたのですか?
櫻井:はい。 遠藤さんと事前に何回か打ち合わせをしていたんですが、すぐに先生への質問事項が集まって。
遠藤:一瞬でWord3ページほどになりました。
櫻井:本格的に始動する前から制作現場の熱量が高くて。赤城監督も原作に対してとても興味を持っていたので、どんどんと聞きたいことが生まれてしまいました。
僕たちは『僕ヤバ』のことを1番理解している、くらいでなきゃいけないと思っていて。理解した上で映像として表現しないと、原作、アニメ、視聴者の間で意図しないズレが生じてしまうんです。そうならないように、アニメ制作を預かる身としては気になったところは全て聞きたいなと。とは言え、桜井先生とは初対面だったので、どういう印象を持たれるのか緊張していました。
遠藤:僕自身も桜井先生とお話するのは初めてだったので、最初は緊張していました。ただ、作品内容に関する細かいお話もかなりお聞きできましたし、制作現場の熱意も伝えることができたので、結果的に良い顔合わせになったなと思います。
――その後、櫻井さんと遠藤さんの間ではどのような話し合いがあり、また、そこではどういう共通認識が生まれたのでしょうか。
遠藤:どういうスタッフを集めるのか櫻井さんと密にお話した記憶がありますね。『僕ヤバ』のエモーショナルな部分や人間ドラマ、リアリティを大事にしたいといった話をお互いによくしていた記憶があります。その中で花田十輝さんの名前を挙げさせていただきました。
櫻井:僕としては遠藤さんから「『高木さん』のチームでお願いします」とお声がけ頂いた時点で、見ている方向は同じなんだろうなと感じていました。そこに対しては共通認識といいますか。良い状態でスタートを切ることができました。
皆さんの愛がフィルムに如実に表れている
――さきほどのお話とかぶるかもしれませんがお互いのお仕事の印象を詳しく訊かせてください。
遠藤:なかなか一言では説明できないのですが……僕も原作の大ファンのつもりではあるのですが、櫻井さんもかなり『僕ヤバ』を愛しているんですよ。僕が気づいてないところで「ここはこういうことじゃないですか?」とご指摘いただいくこともあり、とても頼りにさせていただいています。
また、作品のストーリーにあわせて、スタッフィングをしてもらっています。作品への深い理解と、真面目さ、繊細さもある方で、すごく安心感があります。櫻井さん以外との『僕ヤバ』の制作現場は想像できないほどですね。
櫻井:めちゃくちゃありがたいお言葉です。褒め合いみたいで恥ずかしいんですけど……。
――その褒め合いを見たくてですね……。
遠藤&櫻井:**(笑)。
櫻井:自分がずっと思っていたのは「遠藤さんっていつ寝てるんですか?」と。
――前回のインタビューでもその話題になってましたね(笑)。
遠藤:いや、僕も思っていますよ。「櫻井さん寝てますか?」と尋ねると「寝てます」って即答されるのですごいなと。僕も寝てますよ。
櫻井:遠藤さんはすぐに返信が来るので心配になります。ただ、そういうところも含めて、作品への愛を感じます。それと現場への理解がある方なんですよ。発注者と受注者という立場だと時には寄り添えないタイミングもあるんです。例えばスケジュールの問題だとか。
遠藤:そうですね。アニメを作っていく上では締切が当然あるのですが、いろいろなセクションにたくさんのクリエイターさんがいるので、工場のように決まったペースで作ることって難しいんです。
しかも皆さん愛を込めて制作してくださっている。スケジュール通りに行かないのは当たり前なんですよね。例えば何かにこだわるために、時間がかかってしまって、他のセクションに皺寄せがいってしまう……ということも考えられます。だから早めに櫻井さんから現場の状況を細かくうかがって相談して作戦会議をしていますね。
櫻井:遠藤さんには素直に現場の状況を伝え、スケジュールを含めて相談しています。
遠藤:僕だけでは現場の状況を把握できないんです。櫻井さんにしか見えない現場の景色があって。どの作品においても、制作が楽な現場なんてこの世に1つもないと思いますが、『僕ヤバ』の場合は現場の皆さんに愛されているからこそ、それぞれの葛藤やこだわりもあります。全体を見ながら舵取りをしていただいている櫻井さんには頭が上がりません。
――櫻井さんの目からは現場はどのように映っていますか?
櫻井:とにかく『僕ヤバ』を好きな方が多いイメージです。赤城監督もそうですし、 キャラクターデザインの勝又(聖人)さんも、各話数に入られているクリエイターの方々、僕が管轄している制作デスク、制作進行も「『僕ヤバ』のファンです」と口を揃えています。それだけの熱量があれば良いフィルムが出来るだろうな、と。
遠藤:皆さんの愛がフィルムに如実に表れているように感じます。ひとつのシーンを取っても各セクションで沢山のこだわりを乗せてきてくれるんですよね。
――作品を作っていく上で、櫻井さんから赤城監督や花田さんにリクエストをされることもあるんでしょうか。
櫻井:もちろんあります。シナリオ会議は花田さんが書いて下さったシナリオに対して発言していく場なので、その場でこちらからリクエストしていますね。赤城監督とは一緒にいることが多いので、制作体制や作品内容についてもよくお話しています。
――本当に素晴らしい制作メンバーが揃っていますよね。
遠藤:櫻井さんのご尽力のおかげです。
櫻井:そのまとめ方やめてくださいよ(笑)。
遠藤:いや、冗談じゃなくて本当にそう思っているんです。アニメーションプロデューサーって、人の心を動かす仕事だと思っていて。やはりクリエイターさんたちにも熱量は伝わりますから。その熱量が結果的に映像のクオリティにもつながっていると思います。
――インタビューで皆さんにお話をうかがってきましたが、共通しているのは熱量がすごいことで。
櫻井:やはり原作が魅力的だからですよね。
遠藤:それに尽きると思います。
――櫻井さんは原作ファンだったとのことですが、『僕ヤバ』にどのような魅力を感じていていたのでしょうか。
櫻井:1巻、2巻、3巻……と原作を読んでいく中で、これは市川の成長ストーリーなんだなと感じていました。市川と山田の2人の関係性も魅力なんですが、市川の成長が繊細に、そして緻密に描かれていたので、そこだけで十分面白いんですよね。かつ、山田とのやり取りも良い。
また、僕は2巻のあとがきに感動したんです。そこでは、桜井先生が「人を好きになった時とその気持ちに気づいたとき、初恋にはタイムラグがあるんだよ」というようなことを書かれていて。そこまで深く考えて描いている作品が面白くないわけがないよなと。