『僕の心のヤバイやつ』連載インタビュー第8回(最終回):原作・桜井のりお先生|「アニメになってより生々しくなったなと思ったんです。リアルなものって感情がうごくんですよね。ラブコメに関してもリアルのほうがときめくと思うので、リアリティは大切にしています」
“声の力のすごさ”を再認識しました
──アニメの中で桜井先生自身がお好きなエピソードはありますか?
桜井:ここまでの段階では(インタビューは5月下旬に実施)、「【karte8】僕は夢を見た」で市川が風邪を引いちゃって山田が家に来るお話。原作では、市川を着替えさせるシーンや“あのあと”などはあえてぼかして描いていて。アニメでもぼかしつつではありますが、原作よりも湿度高めになっているなという印象を受けました。例えば、市川の部屋の薄暗さや雰囲気……匂いまでしそうな感じとか、すごく好きでしたね。
──市川が目覚めた時のおねえ(市川香菜)が本当に可愛かったです。
桜井:(笑)。原作では怖めの描写ではありましたが、アニメではどこか可愛らしくて、力強さもあって……声の力ってすごいですね。
──おねえは桜井先生もお好きなキャラクターでしたよね? 田村ゆかりさんの声を聞いたリアクション漫画では脳汁が……。
桜井:もはや脳が溶けていました。おねえは4話で初登場して「愛してるよ」って普通の声色で言うシーンがあったんですが、その段階でもう感動していました。声優さんはやはりすごいんだなと改めて思いましたね。
──皆さん本当にすばらしいお芝居ですよね。桜井先生は市川役の堀江 瞬さんと山田役の羊宮妃那さんの声の印象はいかがでしたか?
桜井:私はキャラクターの声をイメージして描くタイプじゃないんです。だからどういう声なのかイメージは全然ないままオーディションの声を聞いたのですが、堀江さんの声を聞いた時に「市川ってこういう声かもな」って感覚がありましたね。可愛らしい少年の声も好きなんですが、そういう声はちょっと違うなという気持ちがあって。かっこいい声でありながらも、気持ち悪さがある演技もすごくうまい、堀江さんが良いなと思いました。
──羊宮さんは音響監督・小沼則義さんが「羊宮節」と言われるほど、個性のあるお声で。
桜井:たくさんの方に山田役を受けていただいたんです。どの方の演技も素晴らしく、山田に合うなとは思っていたのですが、その中でも羊宮さんの声は個性があるなと感じて。“心に残る声”というところで、羊宮さんが飛び抜けていたように思いました。スタジオオーディションでも存在感があって。他にもたくさん魅力的な声優さんがいましたが、羊宮さんが一番目立っていたと思います。なによりささやきかけるような声がすごく良いなって。友だちとふざけてるシーンもリアルな中学生らしい声だなと思いました。
──このインタビューを羊宮さんが読まれたらきっと喜ばれると思います。キャラクターに声がついて動いて……と、完成されたアニメを見ることで、インスピレーションを得ることもありますか?
桜井:そうですね。結構あります。アニメになってより生々しくなったなと思ったんです。最終回に向けて、物理的にも距離が近づいていって……アニメになったことで、市川、山田をよりリアルに感じるようになりましたし、サブキャラのかわいさを再認識できました。原作でもフォーカスして描いていきたいなと。
──特にどのキャラクターですか?
桜井:小林(ちひろ/CV.朝井彩加)ですね。声もピッタリだし、原作よりもアニメの方がかわいく感じて。動いてる姿が良かったので原作でも頑張りたいなという気持ちです。
市川の心情の変化を楽しみにしていてほしい
──アニメの放送がはじまって、後半に進むに連れて、物理的にも心理的にも距離が縮まっていて、それに伴って反響も大きくなっていますよね。
桜井:「すごい」って思っています(笑)。原作もそうなのですが、徐々に盛り上がっていく作品なのでそこは素直に嬉しいです。
──アニメのクライマックスで楽しみにしてもらいたい部分はありますか?
桜井:山田に対しての……好きとか可愛いとかよりも一番大事な部分が描かれる予定です。そこの市川の心情の変化を楽しみにしていてもらいたいなと。これまでの市川の人生には屈折した気持ちがずっとあって、自分のことも理解していなかったけど、最終話に至るまでの変化を経て、ストレートに山田に気持ちを伝えられるようになった。そのシーンは見どころですね。
──桜井先生からすると「市川頑張ったな……」という感じですか?
桜井:そうですね、かなり。あの年代の男の子ってきっと素直になれないと思うんです。頑張ってるなと感じますね。
──確かに素直になれなかったり、強がってしまうことがありますよね。『僕ヤバ』はエモーショナルなところもありながら、コミカルな部分もすごく面白くて。ところで、担当編集である福田さんも桜井先生のギャグの引き出しがすごいとおっしゃっていました。ギャグの部分はどのようにインスピレーションが湧いてくるのでしょうか?
桜井:なんですかねぇ……。あんまり考えて描くことがなくて。「こうなったら面白いかも」「こういう人がこういうことをしたら面白いんじゃないかな?」って感じですかね。なんていうんだろう。ありえないことが起きるのではなくて、実際にも起こりそうな範囲で面白いことが起こる、というのが好きなんです。
──ギャグでも共感という部分を大切にされているのですね。リアリティのラインというか。
桜井:そこはいちばん大切にしていますね。「こういうこと起こるかもしれないよね」「こういう人いるよね」って共感できる範囲で変な人や変な状況を考えています。そのほうが夢があるような気がしています。