映画
『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』監督・増井壮一インタビュー

『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』スタッフインタビュー第3回 監督・増井壮一さん|絵コンテの段階からこだわったのはキャラクターたちの感情に寄り添ったお芝居

 

花楓とかえではお互いを背負う責任みたいなものを感じている

――ここから本作について伺わせてください。鴨志田先生とは『おでかけシスター』のシナリオを制作する上でどんなやり取りをされましたか?

増井:3年くらい前だと思うのですが、TVシリーズ、映画に続いてすぐに脚本制作に入ったので、改めて何かをお願いされたことは無かったです。ただ物語の構成上、違和感を持たれる原作読者の方もおられるだろうということで、あるキャラクターをここに登場させませんかとご提案をいただいたことがあります。

そういう所は気づけていないところだったのですが、改めて考えるとあって良かったと思っています。本当に鴨志田さんはこちら側の見落としを指摘してくださるので助かっています。

――頻繁にやり取りされているのでしょうか?

増井:シナリオ打ちは週1や隔週で行っていました。基本はその際にアイディアを持ち寄って意見交換をするのですが、たまにメールでやっぱりああしたい、こうしたいみたいな話をしたこともありましたね。TVシリーズの時は尺に苦しんでいましたが、今回は1冊のお話を1本の映画にまとめることからTVシリーズよりシビアではなかったので、作業的には余裕を持って取り掛かれました。

――花楓とかえでの違いや共通点を見せる上で気を付けたところを教えてください。

増井:決定的なのはどちらも相手を知らないことです。同じ体の人物ですが、花楓もかえでも会ったことがないし、気持ちを伝え合うことが出来ない関係です。だから本人たちからするとよく知らない人だと思っているんじゃないかと。

ひとつだけかえでが残したノートが花楓の手元に残っているのですが、それだけが手がかりになっていて。ただ、お互いに別の自分の存在を知っているので、戸惑いながらも近づかないといけない。人格的には似ていないのだけれど、そういう苦しみやお互いを背負う責任みたいなものを感じていると思っています。

 

 

――そんな花楓とかえでを演じる久保さんのお声の印象は、増井監督から見ていかがでしたか?

増井:花楓のお芝居については、久保さんに頼るところが大きかったです。花楓として感情的なお芝居をする機会はこれまでなかったと思うのですが、違和感なく演じてもらえるように、こちらから余計な事を言わないよう気を付けていました。もうお見事だと言うしかないと思っています。

こちらから何かをお伝えするまでもなく、久保さんの中で物凄く計算されているようでした。全く違う人柄を演じ分けているのは久保さんのお力です。後は作画的に表情を整理してくれている作画スタッフの絵の演技。花楓とかえでの演じ分けができているから、花楓とかえでを違う存在として表現できた気がしています。

――本作の収録にあたって声優陣とは改めてお話されたのでしょうか?

増井:実はほとんど喋っていません。石川さんや瀬戸さんとも、お久しぶりですとニコニコ笑ってご挨拶したくらいです。久保さんの時もそうだったのですが、気持ちの上でキャラクターがブレてしまうので、僕は役者のみなさんとあまりお話しないようにしていまして。

やっぱりみなさん長いこと身体ひとつでキャラクターを演じてこられた方なので、こちらから特に言うことはないですし。僕からすると石川さんが演じたら咲太は咲太の声だし、瀬戸さんが演じたら麻衣は麻衣の声なんです。

なので、絵と合わせるために都度細かいお願いをすることはあっても、そんなに大きなディレクションは必要ありませんでした。TVシリーズや『ゆめみる少女』とテンションやトーンが少し違うと思った時だけ、声をかけさせてもらったくらいです。

――辛いシーンが続く事も多いですが、『青ブタ』シリーズの収録はどのような雰囲気なのでしょうか?

増井:みなさんすごく前向きな印象です。特に石川さんはムードメーカーなので、いつも雰囲気を明るくしてくれます。だから収録現場自体は楽しい雰囲気ですし、みなさん確かな熱をもってアフレコに臨んでくださっています。

――アニメ『青ブタ』はキャラクターたちの表情ひとつとってもこだわりを感じます。そういった部分を絵コンテ・演出の段階から大事にされているのでしょうか?

増井:アクティブなアクションシーンのない静かなお話なので、日常描写では高校生たちの感情に寄り添ったお芝居が多くなります。絵コンテの段階からその感情は大事にしているのですが、田村さんが表情豊かにデザインを起こしてくれるので、最終的にアニメーターの方々が引き出してくれている部分が大きいです。

何気ない表情とか、泣いたり笑ったり、表情や表現の差を声にしても絵にしても皆さんとてもこだわって作業してくれています。花楓とかえでの差もそうやって付けて貰えている。物語として劇的ではないところで違いを表現できていると思っています。

 

 

TVシリーズではカットしていた部分でも劇場ではやっておきたい

――増井監督から見て作画や演出が良かったというポイントは?

増井:物語の中盤で新宿に行くのですが、画面の情報量が物凄く多い場面があって、あれは各方面に負担をかけていたのではないかと思っています。

地味だけど大変なカットって、人が多い、車が多いみたいな条件が重なって作業量が多くなってしまうんです。スタッフみんなでこなしてくれたので、そういった地味な部分にもたくさんの人の手が掛かっていると感じていただければ幸いです。

――細かなところまで手をかけられるのは、やはり劇場版だからなのでしょうか?

増井:そういった事情はあります。TVシリーズ第1話冒頭とかでも、学校に向かう生徒たちを作画やCGで大勢作ったのですが、基本的にそういう事はあまりしたくないと言いますか、作業的には逃げたい部分なんです。

通勤通学シーンもそうですし、新宿のような町はアニメではあまり行きたくない場所なのですが、今回の『おでかけシスター』はそういう所を経由して咲太が説明会にいく話でもあるので、負担をかけてしまう事は覚悟の上で描いておきたかった。本当にスタッフみんなが細かく丁寧によくやってくれたと思っています。

尺も関係してくるのですが、やっぱりTVシリーズではカットしていた部分でも劇場ではやっておきたい。合間合間の小芝居や表情も隙があれば見せたいと思っていたので、ちょっとした咲太の行動や移動中の表情も今回は描きました。

後は食事シーンも作画的には地味だけれど、実は大変であまりやりたくないところなんです。だけど今回担当された演出さんに、とにかく美味しそうに色々な食事シーンをやりたいとお願いしていました。今回だと花楓がオムライスやスクランブルエッグを美味しそうに食べるシーンがあるので、その通りに出来ていたらいいなと。

花楓の食事シーンは、かえでとの差を出すためにかなり作画的なカロリーを使っています。田村さんも箸の持ち方にこだわっていたようで、食事シーンは中々大変だと感じています。

――お箸や手のお芝居は難しいと聞きます。

増井:顔を描ける人は多いですが、手の表情を描くのは難しくて、自分で描いてみても上手くできないですね。特にお箸を口に持っていく動作は絵コンテで描いていても難しいです。

 

 

――最後に、公開を楽しみにしているファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

増井:アニメ『青ブタ』をTVシリーズや映画でご覧になってくださり、また改めてこの『おでかけシスター』を楽しみにされていた皆さんには本当に感謝しかありません。

ずっと待っていて下さった皆さんの期待を裏切らないよう制作を頑張っています。今回もTVシリーズや前の映画と同じように楽しんでいただけたら嬉しいです。

 

アニメ映画『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』作品情報

公開情報

2023年6月23日(金)公開!

Introduction

心揺れる少女たちとの切なくも瑞々しい思春期ファンタジー

原作は累計発行部数250万部を超える鴨志田 一の人気小説“青春ブタ野郎”シリーズ。
2018年にはTVアニメ「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」、劇場版「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」が公開。

可愛くて、切ない不可思議な物語が大きな反響を呼びました。
そして今、空と海に囲まれた街“藤沢”を舞台に新たな“思春期ファンタジー” が描かれます。

監督・増井壮一、脚本・横谷昌宏、キャラクターデザイン・田村里美、制作・CloverWorks、前作のスタッフが再集結し、かけがえのない“当たり前”が詰まった物語が幕を開けます。

Prologue

『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』

高校二年生の三学期を迎えた梓川咲太。
三年生の先輩であり恋人の桜島麻衣と、峰ヶ原高校で一緒に過ごせる学生生活も残り僅かとなった。
そんななか、長年おうち大好きだった妹の花楓は、誰にも明かしたことのない胸の内を咲太に打ち明ける。
「お兄ちゃんが行ってる高校に行きたい」
それは花楓にとって大きな決意。
極めて難しい選択と知りながらも、咲太は優しく花楓の背中を押すことを決める。
『かえで』から『花楓』へ託された想い。二人で踏み出す未来への物語。

Staff

原作:鴨志田 一(電撃文庫刊「『青春ブタ野郎』シリーズ」)
原作イラスト:溝口ケージ
監督:増井壮一
構成・脚本:横谷昌宏
キャラクターデザイン・総作画監督:田村里美
プロップデザイン:道下康太
美術設定:塩澤良憲
美術監督:大久保 聡
色彩設計:横田明日香
3Dディレクター:織田健吾 田中葉月
2Dワークス・特殊効果:内海紗耶
撮影監督:楊 暁牧
編集:三嶋章紀
音響監督:岩浪美和
音楽:fox capture plan
制作:CloverWorks
製作:青ブタ Project

Cast

梓川咲太:石川界人
桜島麻衣:瀬戸麻沙美
梓川花楓:久保ユリカ
古賀朋絵:東山奈央
双葉理央:種﨑敦美
豊浜のどか:内田真礼
広川卯月:雨宮天

公式サイト
公式ツイッター(@aobuta_anime)

原作情報

原作小説"青春ブタ野郎"シリーズが累計発行部数250万部を突破!
2023年7月7日には待望の最新第13弾『青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない』が発売決定!

電撃文庫刊「『青春ブタ野郎』シリーズ」著/鴨志田 一 イラスト/溝口ケージ
第1弾 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない
第2弾 青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない
第3弾 青春ブタ野郎はロジカルウィッチの夢を見ない
第4弾 青春ブタ野郎はシスコンアイドルの夢を見ない
第5弾 青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない
第6弾 青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない
第7弾 青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない
第8弾 青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない
第9弾 青春ブタ野郎はランドセルガールの夢を見ない
第10弾 青春ブタ野郎は迷えるシンガーの夢を見ない
第11弾 青春ブタ野郎はナイチンゲールの夢を見ない
第12弾 青春ブタ野郎はマイスチューデントの夢を見ない
第13弾 青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない(2023年7月7日発売予定)

『青春ブタ野郎』シリーズ特設サイト

 

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