頑張っている時の表情はどちらも“花楓/かえで”──『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』石川界人さん&瀬戸麻沙美さん&久保ユリカさんインタビュー
2018年に放送されたアニメ『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』、そして2019年に劇場上映された『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』。そんなアニメ『青ブタ』シリーズの最新作『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』が、いよいよ2023年6月23日(金)より全国の映画館で公開となります。
アニメイトタイムズでは、公開に先駆け梓川咲太役の石川界人さん、桜島麻衣役の瀬戸麻沙美さん、梓川花楓/梓川かえで役の久保ユリカさんを対象とするインタビューへの参加機会を得られました。
「AnimeJapan 2023」のイベントで初公開となったPVの感想に始まり、花楓が主軸となる今回のエピソードへの感想、これまでのヒロインたちとは関わり方が変わらざるを得ない“妹”に対する咲太の手の差し伸べ方など様々な話題に切り込んでいます。
また、本作で初めて『青ブタ』に触れるみなさんに注目して欲しい点や、咲太たちと同年代のみなさんへの注目ポイントも伺っています。ぜひこれから『青ブタ』を見たい! という方にも注目していただければと思います。
花楓という女の子そのものを演じられている感覚が得られた
──「AnimeJapan 2023」でPVが出ましたが、まずはこちらの感想をお願いします。
梓川咲太役・石川界人さん(以下、石川):『青ブタ』の魅力は、キャラクターたちの表情が生き生きしているところだと思っています。公開されたPVではそれがより洗練されていて、花楓とかえでの表情もかなり違っているように思いました。
咲太を演じる身からすると複雑な気持ちはあるのですが、突き詰めていくと頑張っている時の表情はどちらも“花楓/かえで”で。それを感じさせる絵のお芝居が凄まじく、これまでの物語を映像から思い出させてくれるので感動しました。
桜島麻衣役・瀬戸麻沙美さん(以下、瀬戸):私はまず花楓が家の外に出ている事に不思議な感覚がありました。後は音楽の力も相まってなのか、これから起きる展開を知っているからなのか、よりひとつひとつのシーンにハッとさせられました。
映像を見た瞬間から胸がグッと締め付けられるような感情を得たので、ファンのみなさんの前なのに目頭が熱くなってしまいました。本編を鑑賞してから改めてこのPVを見ると、「あのシーンをピックアップしたんだ!」と驚くと思います。
梓川花楓/梓川かえで役・久保ユリカさん(以下、久保):私たちもあの時が初見だったので、ファンの皆さんに初出しするタイミングだし、短い時間のティザーPVなのかな? と思っていたので、予想に反して『おでかけシスター』の見どころがたっぷりと詰め込まれていたことにすごく驚きましたし、感動しました。
とても丁寧で『おでかけシスター』の魅力に溢れていて、「“かえで”から“花楓”へ」というキャッチコピーの意図が伝わってきました。そしてやっぱり『青ブタ』って本当に音楽が良いじゃないですか。その使い方にこみ上げてくるものもあって、気づいたら泣いていました。
さらに、花楓が悩んで、葛藤しているシーンが多めに使われていたこともあり、収録時や原作&台本をチェックした時の辛さや、苦しさを思い出して、胸が締めつけられました。PVだけでこんなにも心が揺さぶられているのに、本編を通してみたら、私は一体どうなってしまうのだろうとか……色々な感情が生まれて忙しかったです。
──アフレコで改めてキャラクターを演じていかがでしたか?
石川:これまでヒロインたちの色々な悩みを解決してきた咲太ですが、今回の物語は彼にとって最も身近な存在である妹・花楓の問題です。かえでも含めると彼女に焦点が当たるのは二度目ですが、さらに深い問題なので咲太を演じる自分としても精神的な重みを感じました。
台詞のひとつひとつ、麻衣とのやり取りのひとつひとつをとっても熟練度の高まりが感じられました。本当に物語の中でキャラクターたちが時間を重ねていて、咲太自身の成長も感じられて嬉しかったです。
瀬戸:キャラクター同士の掛け合いは久しぶりなので、私自身も収録を楽しみにしていました。私の声のトーンが落ち着いてしまい、オーディオコメンタリーの時に増井監督から大人っぽくなったと言われ「ヤバい!」と思ったのですが、それも成長で間違いではないとのことだったので胸を撫で下ろしました。
変わったように思えたのはキャラクター同士の関係値です。彼ら彼女らの時間も進んでいて、距離感が近くなっているところがありました。けれど良い意味で変わっていない部分もあったので、演じる上で大きな変化を感じる事は少なかったです。
久保:私は花楓としての日常を過ごした上で、他のキャラクターたちとがっつり掛け合うのは、今回の『おでかけシスター』でやっと巡ってきた機会みたいなところがありました。
目に見える形としては、「かえで」から「花楓」になったけれど、花楓の中ではまだ現状への理解が追いついていないはずなんですよね。だから個人的には咲太や麻衣のように、花楓の不安を取り除いてくれる人たちと、何気ない会話ができたのが嬉しかったですね。
嬉しいとか悲しいとか、この『おでかけシスター』を通して、花楓という女の子の考えや人間性をより深く感じることができたので、私自身もちゃんと「花楓」を理解しながら心で演じられている感覚が得られた気がしました。だからこうやって『おでかけシスター』がアニメになって、花楓を演じられてやっぱりすごく嬉しかったです!
──やはりお馴染みとなっている咲太と麻衣の掛け合いを楽しみにしている方も多いと思います。そのあたりで印象に残ったシーンやエピソードはありますか?
石川:僕も瀬戸さんもあまりにも会話が自然になり過ぎて、声が小さいのでもう少し出して欲しいと言われた事をよく覚えています。
瀬戸:アニメーションでは息を音にするお芝居が必要になるのですが、あまりに自然に喋り過ぎて音になっていなかったんです。本当にリアルな距離感になっていました。
石川君が話した場面がどこだか私は具体的に覚えているのですが、おそらく咲太の方は花楓の事でいっぱいいっぱいだけれど、麻衣はそんな咲太を冷静に見る立ち位置だからなのかなと。そうやって麻衣は空気を読んでは電話をかけてみたり、家に行ったり、隙間を見つけて自分から咲太の事を誘っていて。
彼女自身も大学受験やお仕事でかなり忙しいんです。実際作中で放送されるCMの収録があったりしたので、良いペースでキャリアを積んでいる事が窺えます。けれどそんな合間を縫ってまで咲太を誘っているので、割と麻衣の方が咲太に会いたい気持ちが強いのかなと感じました。
けれどせっかく誘っても、咲太には咲太の予定があり、断られてしまう場面も。それはもう仕方がないのだけれど、麻衣にも不安はあるとは思います。でも本当に自分で自分の心を管理するのが上手で、私としても尊敬するくらいです。押し引きを上手くコントロールしているなって感じています。
これまでのヒロインたちとは思い入れの意味合いが異なる
──今回のストーリーにはどんな感想を持ったのでしょうか?
石川:原作から分厚く重たい内容で、関わるキャラクターたちも今までとは桁違いに増えています。なのでこれを劇場作品1本にするのは難しいのかなと思っていました。原作がこんなに落とし込まれているんだなという気持ちになりました。
本筋を追いながらそれぞれのキャラクターたちを拾って、みんなが影響し合って結末に至る流れ。それに納得できる丁寧な物語の落とし込み方は、TVシリーズや『ゆめみる少女』の頃から変わらず、増井壮一監督をはじめとするスタッフ陣の手腕が素晴らしいなと感じました。
今回はその精度がより上がっていたので、こちらとしても少しプレッシャーがありつつ演じ甲斐があるなと思っていました。アニメでは原作から切られてしまうシーンがどうしたって出てくる訳ですが、切ったシーンをあったことにして演じるかどうかを僕らに任せてくれるんです。
ストーリーに関しては、自分の人生を考える、胸を締め付けられるような内容です。これまでは思春期症候群をどう解決するかでしたが、今回はそうではないんです。咲太がこれまでの人生を全て見てきている妹の花楓に焦点が当たるので、これまでのヒロインたちとは思い入れの意味合いが変わってきます。
花楓の人生においての重大な決断が描かれる物語なので、そういう意味でも自分の人生はこれで良かったのかな……みたいな事も考えてしまいました。
瀬戸:ストーリーは知っていたのですが、台本をいただくのを心待ちにしていました。明るい気持ちで読み切れる本ではないと思っていたので、しっかり時間を取ってタイミングを決めて読み始めました。
そうして見えてきたのは、咲太が手を差し伸べるのではなく、咲太にこれまで関わってきた人たちが力になってくれる話だということでした。今回は花楓という身内の話なので、彼自身も大いに苦しい状況なんです。だからなのか、今まで咲太や花楓が築いてきた関係性や物語があるからこそ、色々な可能性が開けているんだと感じられました。
私は麻衣の声を演じているので、彼女の登場シーンや台詞に目をひかれます。そんな視点で読んだので、彼女も咲太たちの知らないところで頑張っていたり、咲太たちのことを想っていたり、ひとりで不安になることもあるんじゃないかと思ったんです。
けれどいざ演じてみようと麻衣さんの目線で台本を読んだら、彼女は自分でちゃんと息抜きをしているし、甘えたい時には咲太を求めているように感じました。
そうやって折り合いを付けている事に気づいてからは、麻衣が心配というより、登場していない時にどうしているのかを想像するようになりました。
久保:原作の良さをとにかく可能な限り詰め込んでいる感覚は私にもありました。小説と台本の違いも含めて楽しめます。原作は咲太のモノローグをはじめとする登場人物の心情の部分が読み取りやすいので、キャラクターたちがどういう感情で行動しているのか、細やかなところまで理解する上でとても助けられました。やっぱり自分の考えだけだと偏ってしまったり、足りない部分がどうしてもあるんですよね。
特に印象に残った場面は、花楓が受験の日に倒れてしまうところです。連絡を受けた咲太の行動が人間臭いと言いますか、とても生っぽくて……急いで電車に乗り込んでしばらくは、はやる気持ちを抑えられないのか、落ち着きのない様子がみえるのですが、電車の中ではこれ以上急ぐこともできない為、一度冷静になる。そんな何気ない描写でも、その行動がリアルに生きる「人」の持つ空気感! さらにそれを息だけで石川君は表現するのですが、それがまた……兄“咲太”の想いが伝わってきて、とっても素敵です。
シリーズが続いたからこそ、「あの役者さんはこう来るのか」って妄想してみたりもして。いざ収録に入ると私の想像なんて余裕で越えられてくるのが、また最高です。そういう、良いところを台本からそれぞれ感じ取って表現できる『青ブタ』が、本当に大好きです。
また、物語の方は花楓の目線で入り込んでいたので、体調を崩すくらい心を打ちました。目覚めてすぐ「今日からあなたは受験生です」と言われる事がどれだけ恐ろしいものか……。学校に行っていなかった時間も長過ぎましたし。
かえではみんなから勉強を教えてもらっていたけれど、自分自身もここからまた教えて貰ったとして、受験に間に合うのかなとか。そもそも周囲のみんなが今、こうやって勉強を教えてくれるのは、かえでが大切だからなのかなとか。落ち着かない気持ちだけれど、そんな不安で卑屈になっていたら、かえでやみんなの想いを無駄にしてしまうんだな……とか。多分色々な感情が渦巻いていたと思うんです。
私自身も“人の言葉の選び方”や“行動”を見ていると、とても気にしてしまうタイプなので、花楓に入り込めば入り込むほど、余計に彼女の敏感な気持ちが痛いほどわかってしまって……明るく振舞っていても気にする人はいるよなとか、この時はどんな気持ちで「おはよう」を言っていたのかとか、考え出すと止まらなくなるぐらい深い心情まで気になって、目眩がしました。