アニメ『英雄教室』川島零士さん(ブレイド役)×ブリドカットセーラ恵美さん(マリア/マオ役)インタビュー|自身の陰と陽の部分が反映されているかもと感じたマリア&マオでの演技【連載第5回】
マリアとマオを演じる上で意識したことや、難しかったところ
――そんな両極端なマリアとマオですが、オーディションのときから両方のセリフがあったんですよね?
ブリドカット:ありました。今回、オーディションの原稿を持ってきたんですよ。最初に渡されたのはこの原稿に、原作小説の絵と、アニメの線だけのキャラ絵のみでした。マリアとマオが1枚ずつ。マリア/マオ役で受けて下さいとキャラクターの指定をもらっていたので、ほかのキャラは受けていないんです。
私は原作を読みすぎると下手をするジンクスがあって。今回も、原作を読みつつ、原稿と(資料でいただいた)この絵から受けた印象から自分ならこうするといった感じでやりました。アニメにするときは、どうしても脚本の段階でカットせざるを得ない部分が出てきますし、いただいた原稿も「アニメだからこうしました」といったところがあると思いますから。
――役作りはすんなりと?
ブリドカット:マオのような強いキャラクターは比較的演じることが多いんですけど、マリアのようなはかなげな役は普段あまりやらないので、マリアの方が心配でした。
川島:マオの方が心配になりそうですけどね。
ブリドカット:マオは好きに録りました(笑)。第5話に出てきた「ひれ伏せ! 畏れよ! 崇めよ!」のセリフも楽しく録っていて。実際のアフレコで山口さんからなにも言われなかったので、オーディションのときと変えず、余裕や魔王感はそのまま演じました。
川島:(オーディション原稿を見て)セーラさんはあまり書き込みをしないんですね。
ブリドカット:読み方とかを書き込むことはあるけど、原作を読んでストレートに入ってくるときは、敢えて書かないです。書き込みすぎるとそれに引っ張られて、ディレクションを受けたときに変えられなくなっちゃうので。新人のときは書き込み過ぎなぐらい書き込んでいましたが、ある程度やってきて自分のスタイルが生まれてからはこうなりました。もちろん作品によってはびっしり書くこともありますよ。今回のマリアとマオに関してはストレートに芝居ができたというか、ほぼこのままですね。
――マリアのような役は演じる機会が少ないとのことですが、やりにくいわけではなく?
ブリドカット:芝居的にやりにくくはないけど、ほかのキャラとどう差別化するかが難しかったです。例えば、キーが高すぎるとクレアとぶつかりますからね。その中で、音圧の強さをマオが出すとして、じゃあマリアのおどおどしたラインはどこまで出すべきか、どこまで削るべきか。マオはとにかく出して、怒られたら引っ込めればいいと思っていましたが(笑)、マリアの方は遊びすぎてはいけない、可愛くなければいけない、ドジっ子でなければいけない。その調整も難しかったです。
キャラクターを魅力的に見せるための提案やアドリブに感心
――川島さんは、こういう極端な演技を間近で聞いてどうでしたか?
川島:封印アイテムを外してマオが出てきたときの笑い声や、「ひれ伏せ!」のセリフは衝撃でした。こんなに音圧を出せる女性は初めてで、気持ち的にはテストでマオに殺されていたと思います。このままだとブレイドがやられてしまう、本番でマオを倒すためにはどのぐらいの気合でいったらいいんだろう? と感じ取れたのが面白かったですね。でも、ほんとに笑い声って難しいんですよ。
――泣く演技よりも笑いの方が難しいと言いますよね。
ブリドカット:泣く方がまだ簡単な気はします。
川島:オーディション原稿にも、1枚目から「ハーッハッハッハッハー!」とあったじゃないですか。気持ちが入っていないとこういう高笑いはハマらないのに、これをガツンとやったからこそセーラさんに決まったんだろうな、って思います。
ブリドカット:私は結構、高笑いキャラが多いので(笑)。悪く笑う役とか、高飛車に笑うお嬢様とか。私自身はそんなに強い人ではないけど、声質なのか、強気のキャラを演じることが多いんですよね。
川島:あと、別録りの人がいるときに、セーラさんが代わりに声を当ててくださることが多くて。やっぱり幅広いなと思いました。
――代わりに当てるというのは?
ブリドカット:その場にいない人のキャラクターを、テストでほかの人が声を当てて、なんとなく芝居感を合わせるようにするんです。『英雄教室』の場合は、2つのブースを使って同時に収録したので結構な人数でやれましたが、それでも足りないところは誰かが入れた方がいいと経験則でわかっていますから。誰もやらないときに私が入れていたんです。
川島:それでセーラさんがソフィやイオナの声をやられることもあって。この幅の広さがあるからこそ、マオの飛び抜けた強さとマリアの両方をやれるんだな、すごいなと。
ブリドカット:褒めても何も出ないよ? 飴ぐらいなら持っているけど(笑)。
――あれ? 大阪出身でしたっけ?
ブリドカット:違います(笑)。
川島:マリアの方は、自己肯定感の低い子だから謝るセリフがあるじゃないですか。台本には「す、すいません」しか書かれていないのに、拍の中にどれだけ「すいません」を入れるの? ってぐらいねじ込んでいるのを見て、感心したんです。
ブリドカット:そこは意識しているわけではなくて、おどおどしている人って緊張していると「あ、あの」とは言わないじゃないですか。言葉が出なくて「ぁぁ……あのぉ……」ってなるとか、「ほんとほんとほんとごめんなさい」ってなりますよね。それをやっただけなんです。書いてくださった脚本はもちろん大事にしながら、そのキャラをどうやって広げていくかが私たちの仕事だと思っています。もし、オーバーすぎたら監督や音響監督から修正を受けてきちんとすり合わせていきますよ!
川島:それがすごくて。そのキャラを魅力的に見せるにはどうしたらいいのかを考えて、セーラさんがご自身でアドリブを入れたり、誰よりも積極的に提案されたりする姿から学ぶところがたくさんありました。
――ゲームのテキストなどでも「あ、あの」とか「すすすすいません」みたいに書かれていることがありますけど、文字面そのままの言い方は実際にしないですからね。
ブリドカット:本当におどおどしている人って「すすすすいません」とは絶対に言えないですよ。そんなにサ行は言えないです(笑)。コミカルなキャラで、あえてそういう言い方をするのが面白いならいいんですけど、マリアみたいな引っ込み思案な人は「す」の音すら出ないですから。一生懸命出したのが最初と3番目の音だった、といった感じになればいいなと思って。これはあくまで論理的な分析として語れば、ですけどね。芝居をしているときは、そこまで組み立ててやってはいないです。
――こういう話は面白いですね。ちなみに、第5話ではマリアとマオの掛け合いもありますが、ここはそのまま録ったのですか?
ブリドカット:そうです。第5話のアイキャッチ以外は、全編通して別録りはしていません。
――すごいです。
ブリドカット:さすがに完全に被っているときは無理ですけど、『英雄教室』に関してはテストでやってみて大丈夫そうだったので、最終話まで別録りなしでやりました。技術的にちょっと遅れて出ても大丈夫であれば、2人の切り替えはできましたから。オーディションのところでも話しましたが、自然にお芝居ができる2人だったからこそ、やりやすかったのかなと思います。