自分が本当にAIになったかのように演じています│アニメ『AIの遺電子』ジェイ役・岩中睦樹さんインタビュー【連載第4回】
AIが高度に発達した世界にはどのような幸せがあり、どのような問題があるのか。ヒトとは、ヒューマノイドとは、AIとは――。
ヒト、ヒューマノイド、AIの共生と問題点をエンタメ性たっぷりに描きながら、技術進歩の只中にいる私たちに思考のきっかけを与えてくれるTVアニメ『AIの遺電子』。アニメイトタイムズでは、本作を盛り上げるリレーインタビューを連載中です。
連載第4回は、主人公・須堂光をサポートする医療診断AI・ジェイを演じる岩中睦樹さんが登場。AIでありながらどこか人情深い一面を持つジェイを、どのように捉え、どのように演じているのか伺いました。
あくまでもAI。感情を込めすぎないように
――放送されたばかりの第8話はリサとレオンに関するエピソードでした。感想はいかがでしたか?
岩中睦樹さん(以下、岩中):個人的にこれまでの話数でも特に印象深くて、鼻をすするのをずっとこらえていました。レオンの思いがとにかく切なくて……。レオンを演じる山村響さんと一緒にアフレコできたんですが、なんて素晴らしいお芝居なんだと感動したのを覚えています。
――レオンは第4話の時点で何か隠しているのかなと思いましたが……。
岩中:明るくて、面倒見もいいお姉さん的な彼女が、これほどまでにリサに深い想いを抱いていた。その葛藤を想像して胸が苦しくなりました。
――第8話は、ジェイが須堂に意見する場面もありましたね。
岩中:レオンとリサの関係まで分析していたことに驚きました。レオンの心境を察して、須堂にちゃんとわかってますかと念を押すんです。ここまで人間の感情に対する細かい気づかいができるとは思わなかったので、このシーンはとても印象に残っています。
第8話は冒頭のバレンタインのシーンも面白かったです。ジェイが勝手にリサの質問に答え、「ジェイには聞いてないっ」って怒られるという。あれはiPhoneを使っていてSiriが勝手に反応するようなものですよね(笑)。コミカルでいいシーンでした。
――ジェイに感情があるかどうかはさておき、感情は理解できていそうな印象です。
岩中:機械的に理解できるという感じだと思います。本当に優れたAIです。
――ジェイの第一印象はいかがでしたか?
岩中:今お話ししたように、優れたAIだなと思いました。あとは結構、人間くさい部分があるなと感じたんですが、あくまでもAIなので感情を込めすぎないように気をつけました。
――なるべく無機質に?
岩中:そうですね。音響監督の小泉(紀介)さんも感情は消してくださいとおっしゃっていました。最初は少し人間っぽさを入れていたんですが、セリフの裏側にある感情や「何を思ってその言葉を発しているのか」というジェイの思考を完全に消してくださいと。それはすごく苦労したところですね。どうしてもセリフからジェイの感情や思考を感じ取ってしまうし、AIという役を演じるのは初めてだったので、それを消すのは大変でした。
――第5話で「情動系の調律」の話があったときは、冷めた須堂のほうがAIっぽく、それをたしなめるジェイのほうが人間っぽくもありましたよね。
岩中:そうなんです。須堂がはっきり「性格を無理やり変えちまうって話です」と言ったら、「その言い方は乱暴ですよ」と。この対比も面白いなと思いました。
――このシーンは情動系の調律を説明する結構長めのセリフがありました。
岩中:このシーンも大変でした。セリフ自体も長いですし、緻密な内容だったので、頭の中を整理しないといけないうえに、人間くささが乗ってしまわないよう一音一音はっきり喋らないといけないんです。本当に自分がAIになったみたいでした(笑)。
――普通に喋ると自然な抑揚があるものですが、ジェイは一音一音はっきり、フラットに演じる必要があるんですね。
岩中:フラットな調子で長いセリフを言うのは本当に大変で、確かテスト(リハーサル)で2、3回噛んでしまったんです。テストのあとは小泉さんがブースに入ってきて、役者陣にディレクションをするんですが、「ジェイはAIだから噛まないでね」と言われました(笑)。本番は噛まずに言えたのでよかったです。
――そんなジェイを演じる楽しさはどんなところにありますか?
岩中:すべての話数に出演しているわけではないんですが、登場すると説明であったり、アドバイスであったりと、だいたい俯瞰したセリフがあるんです。そういう役を演じる機会があまりなかったので、ジェイを演じること自体がとても楽しかったです。ただ、ジェイは状況を当たり前のように知っているので、僕自身も話数全体の流れや他のキャラクターの動向をしっかり追う必要があって。セリフ数が少なくても話数全体の把握やそのための予習はちゃんとするようにしました。
――では、ジェイと共に仕事をする須堂の印象はいかがですか?
岩中:最初は正直怖いなと思いました。いい人であることは間違いないんでしょうけど、特に第1話は冷めた印象が強かったので、この人は何を考えているんだろうって。でも、意外と感情的になるところもあれば、ちゃんと患者に寄り添うところもあって、人間らしい部分があるんだと思うようになりました。
第8話だとリサの手作りケーキを食べて、おいしいのかおいしくないのか言わず、うまくはぐらかしているところが面白かったです。リサにホワイトデーのお返しをしたときに、お店を聞かれて「その辺だよ」と返すのもカッコよくて。意外とそういうの(ケーキを手作りしたこと)を明かさないタイプなんだなと。自分も機会があったら真似したいです(笑)。
――(笑)。意外と茶目っ気がありますよね。
岩中:ケーキを作ったときに「術式完了」と言ったのも面白かったです。一見すると近寄りがたいタイプですが、実はお茶目なところがあっていいキャラクターだなと思います。
――リサについてはいかがでしょうか?
岩中:リサは大好きですね。めちゃくちゃかわいくないですか!?
――(笑)。かわいいです。
岩中:ヒトの須堂がクールなのに対して、ヒューマノイドのリサがとても明るいという対比が面白いなと思っていて、表情がころころ変わるところが特にいいなと思います。例えば、第2話の後半。ジェイに「ご機嫌斜め」と言われるくらいムスッとしていたのに、須堂が買ってきたお土産のケーキを見た瞬間、ぱあっと表情が明るくなるんです。でも、素直じゃないから慌てて渋い顔をする。リサらしいシーンだなと思いましたし、リサが大好きになりました。