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P.A.WORKS「お仕事シリーズ」最新作&初のオリジナル長編『駒田蒸留所へようこそ』吉原正行監督インタビュー|こだわったのはウイスキーのグラスとビン。作画と3Dの組み合わせという高い難易度に挑戦!
早見さんは芝居を超えたものを持つ声優。小野さんは光太郎の「before/after」に納得できる“根の良さ”をお芝居に盛り込んでくれた
――キャスティングはどのように決まったのでしょうか?
吉原:僕から「この方にしてください」とお願いしたのは琉生役の早見(沙織)さんだけです。早見さんとは以前、いくつかの作品でご一緒させていただきましたが、一番最初は神山健治監督の『東のエデン』で、僕は副監督として関わっていました。その時の早見さんは例えふてくされたセリフでも嫌な感じがしなくて。それは芝居を超えたもので、きっとご本人が持ち合わせているものであり、貴重で素晴らしいものだと感じていたので、琉生は早見さんで行きたいと思っていました。
他のキャストさんは現場でたくさんデモテープを聞きながら、「誰が一番この状態にふさわしいのか」をプロデューサー陣と話し合いながら、組み合わせていきました。
――光太郎役を演じる小野賢章さんも光太郎の年齢感や若者の葛藤を見事に演じられていたと思いました。
吉原:小野さんとは今回初めてご一緒させていただきました。まず光太郎の年齢や世代とシンクロしていたこともありますが、光太郎は「before/after」が顕著に出てしまうキャラクターなので、実は変わったり、成長した時よりもスタート段階のキャラクター性のほうが重要で。要はダメなヤツでふてくされているけど、「こういう子だからこれだけ変われた」という“本質的な根の良さ”みたいなものが芝居に出てくれないと、「こんなに変わるわけないじゃん」とリアル感がなくなってしまうので。小野さんは変わる前の光太郎をしっかり演じてくれました。
――琉生の兄である圭もキーになるキャラクターですが、中村悠一さんのお芝居はいかがでしたか?
吉原:こちらから「もっと、こうしてください」というオーダーを一切出さなくても、最初から出来上がっていて。中村さんはいい距離感で“大人”を演じてくださって。キャラクターを理解して、フィルムを評価してくださっているんだなと思いました。他のキャストの皆さんもそうでした。
――監督はアフレコ現場にも立ち会われたそうですね。
吉原:立ち会って、「絵作りでそこに到達していないけど、本当はこうしてほしい」とか「絵ではこうなっているけど、わざとこうしてほしい」みたいなオーダーは、その都度、音響監督に伝えて、やっていただきましたが、役作りについては特に言うことはなくて、助かりました。
――収録をご覧になってから絵にフィードバックされた点はありますか?
吉原:現場の収録から絵にフィードバックする時って、だいたいは状況が悪い時なので(笑)。絵がまだ出来上がっていなかったけど、「役者さんがこうしてくれたので、こっちの絵作りでいこう」というものも部分部分ではありましたが、たくさんはなかったです(笑)。
早見さんの圧巻の歌唱力が光る主題歌「Dear my future」や、琉生の母・澪緒役・井上喜久子さんの心打たれるお芝居にも注目!
――今回、早見さんが琉生として主題歌「Dear my future」を歌われていますが、まるでプロのジャズシンガーが歌っているみたいで。知らされていなければわからない方も多いんじゃないかと思うほどの完成度と雰囲気でした。
吉原:僕も「ED曲が完成しました」と言われて聴いた時は、早見さんが歌っているとは気付かなくて。早見さんが歌っていると知らされて「すごいな」と驚きました。
――完成した映画をご覧になった感想をお聞かせください。
吉原:作っている時にいくつかの不安要素があって。特に最後の琉生のお母さん、澪緒との絡みとか。実際に全部つながって、流してみないと自分でもわかりにくいところがありましたが、通して観てみて「うまくいったのかな」と。もちろん、「もう少しこうしたかった」というのはありますが、不安要素はクリアできていたかなと思っています。あと、澪緒役の井上(喜久子)さんのお芝居が素晴らしくて、収録の時から泣きそうになりました。いろいろと皆さんに助けられたなと。
――既に多くの国際映画祭に出品されていますが、反応や反響はいかがでしたか?
吉原:反応が海外のほうがわかりやすくて。フランスの「アヌシー国際アニメーション映画祭」に行った時、「ギャグのつもりでやってますよ」というところは、上映中に笑ってくれるんです。「ここで笑ったということは意味がわかっているということだよね。通じたんだ」と。あと純粋に見てくれて、本質的なところで瞬時に反応が返ってくるのはおもしろいし、嬉しいですね。
光太郎が成長する3年後までのプロセスを見てほしい。映画を観た夜はぜひウイスキーを!
――この映画の見どころや注目ポイントのご紹介をお願いします。
吉原:最後に3年後のシーンが描かれていますが、そこに光太郎が到達するまでのプロセスを映画として見ていただいて、僕らが伝えたいことを感じてもらえたらと思います。
――何度もくじけそうになっても頑張る琉生の姿と、家族がウイスキーを通して、元の形に戻るところはドラマチックでした。仕事を始めたばかりの人や壁にぶつかっている人にも見てほしいです。個人的にはライターを目指している人にも参考になると思います(笑)。ウイスキーを普段飲まれていない方もこの映画をきっかけに興味を持ってもらえたらいいですね。
吉原:そうですね。ハイボールが流行り出してからは女性の方もウイスキーを飲まれるようになりましたし、今盛り上がっているクラフトウイスキーもいろいろな味を出していますから。すでにウイスキーをたしなまれている方も、普段飲んでいない方も、この映画を見た夜くらいは他のお酒ではなく、ウイスキーを飲んでほしいです。
――最後に、公開を楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。
吉原:ジャパニーズウイスキーもジャパニーズアニメーションも海外からは一定の評価を得ているジャンルで、それらをコラボしてみた作品なので、公開を楽しみに待っていていただきたいです。
海外で評価されているジャパニーズウイスキーを一度も飲まないのはもったいないと思うので、この映画を通してたしなんでいただきたいです。すでにウイスキー党な方も、この映画を肴にウイスキーを楽しんでください。
『駒田蒸留所へようこそ』作品概要
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あらすじ
そこに、やりたいことも見出せず職を転々としてきたニュースサイトの記者・髙橋光太郎(たかはし・こうたろう)が取材にやってくるが・・・。
キャスト
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