劇場アニメ『青春ブタ野郎はランドセルガールの夢を見ない』石川界人さん×瀬戸麻沙美さん×久保ユリカさんインタビュー|今回は咲太が心の奥底では何を考えていたのかが明かされる物語
電撃文庫より刊行中の鴨志田一氏の人気小説を原作とするアニメ『青春ブタ野郎』シリーズ。その最新作となる『青春ブタ野郎はランドセルガールの夢を見ない』が、2023年12月1日(金)より全国の劇場にて絶賛上映中!
アニメイトタイムズでは、その公開前のタイミングで梓川咲太役の石川界人さん、桜島麻衣役の瀬戸麻沙美さん、梓川花楓役の久保ユリカさんを対象としたインタビューを行いました。
本作によって原作小説における“高校生編”が完結を迎えるということで、その点についての心境や本作の収録におけるエピソードを中心に伺っています。
また、今回は主人公である梓川咲太が主軸となる物語となっていますので、石川さんにはこれまで演じてきた咲太という役についてもいくつか気になる部分をお聞きしました。ぜひ作品の鑑賞前にご一読いただけたら幸いです。
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咲太は精神的に大人であらねばならなかった
――本作でアニメ『青ブタ』シリーズ“高校生編”が完結となります。まずは今の心境を伺えますでしょうか?
梓川咲太役・石川界人さん(以下、石川):ついにここまで辿り着いたのかという、漠然とした想いが強くあります。TVシリーズから5年と考えるとあっという間ですが、原作では先の物語として“大学生編”があります。今回演じ切って次の展開がどうなるかまだわからないですが、この先もアニメ『青ブタ』が続いたらいいなという未来への願望は持っています。
桜島麻衣役・瀬戸麻沙美さん(以下、瀬戸):今年は『おでかけシスター』と本作が制作され、この2部作をもって高校生編が完結になります。本作のアフレコはもう済んでいるので、自分の中では一区切りになった感覚があります。もう後は作品の完成やファンのみなさんがどんな感想を持ってくれるのかを楽しみにしている段階です。
梓川花楓役・久保ユリカさん(以下、久保):『おでかけシスター』と本作の時系列は近いところがあるので、演じる側としては短いスパンでアフレコに臨めたのは、気持ちを作るうえでありがたかったです。ファンのみなさんにも、間を空けずに本作をご覧いただける状況を作ってもらえて幸せだと思っています。もちろん公開までの時間が空いたとしても素敵な作品ではありますが、熱い状況の内に次回作を公開するなんて中々できることではないと思いますし。
――前作『おでかけシスター』を経て印象に残ったことやご自身の演じられるキャラクターの変化を感じた部分はありましたか?
久保:時系列的にはそこまで進んでいないので急激な変化は無いはずなのですが、花楓自身がこの短期間に今までとは違うスピード感で確実に成長している感覚があります。何より変わりたいという想いがより強くなったと私は感じました。だからより花楓としての芯を持って、そして咲太の妹であるという部分を意識して『ランドセルガール』ではお芝居をしています。
『おでかけシスター』の時は舞台挨拶も含めて、終わるまで本当に『青ブタ』のことしか考えていなかったかもしれません。(※石川さん&瀬戸さんの様子を伺いつつ)今年はずっと『青ブタ』尽くしだったよね?
石川:(笑)。
瀬戸:そうだったね!
――石川さんと瀬戸さんはいかがでしょうか?
石川:これまでのエピソードでは思春期症候群で悩んでいる相手が他人だったので、その悩みを解決するために奔走して感情的になることはありました。けれど本作では咲太は自分自身の感情には疎いという部分がテーマになってきます。これまでだとかえでがいなくなった瞬間や翔子さんの思惑に気づいた瞬間、自分を犠牲にして翔子さんを助けると決断した麻衣さんとのやりとりなど、他人に対してなら感情的になることは描かれてきました。
本作では割と冷静に自分の置かれた状況を分析して、これまでの思春期症候群と照らし合わせて対応を考えたりするのですが、最終的に全部駄目そうなら諦めてしまう。何か達観したかのような、意図して冷静にあろうとしているように感じるところがありました。
瀬戸:麻衣さんは描かれていない部分の動きが多いと思っていたので、その部分を想像することをやめないようにしようと意識していました。元々なんでもできてしまう、努力も当たり前にする人だと思われがちな彼女ですが、『おでかけシスター』では咲太と花楓の兄妹関係に焦点が当たっていたことや、女優としてのお仕事をしていることから物理的な距離感があり、直接手を差し伸べることができませんでした。その物理的な距離感を感じつつ、麻衣さんは自分のことを頑張る。けれど咲太や花楓のことは常に心にあって、よりみんなのことを想ったり考えたりするのが当たり前になってきているのかなと思いました。
――収録はみなさんでできたのでしょうか? 掛け合う中で生まれたものはありましたか?
瀬戸:久々にほぼフルメンバーが揃っていて新鮮でした。ですがスタジオが広くなかったので、みんなの距離感がとても近くて。私は石川君の隣に座っていたのですが、多分今回は集中したいだろうなと思ってはいても最初にその距離感に触れざるを得なくて。
アフレコはテンポよく進みましたが、シーン毎にその都度作らなければならない心の動きがみんなあったので、休憩時間におしゃべりするみたいな雰囲気にはなりませんでした。麻衣さん目線として合っているかわからないのですが、石川君の後ろ姿を見て勝手に心配になったことを覚えています。無性に背中をさすってあげたくなるような感情に駆られたんです。
――石川さんは心配されていたようですが……!?
石川:僕も演じながら、こいつのこのセリフの発し方は心配だなぁと思っていました。今回は咲太の芯に迫るようなシーンが多くて……芯だけに……
一同:(笑)。
石川:思いついちゃったので言っちゃいました(笑)。
話を戻すのですが、我々役者はテストでまず感情を爆発させて、その後で映像に乗せるときの微調整をします。ですがそうするとそちらに意識を割かれてしまって、テストの時の方がより感情がのっていたみたいなことがあるんです。
だから自分でも「最初からこんなにボロボロ泣いていて大丈夫か?」みたいな気持ちがあって……両親はもちろん、麻衣さんとの掛け合いの時はどうしようもないくらい泣いてしまいました。収録が終わった瞬間に、恥ずかしいと思いながら席に戻ったことを覚えています。
瀬戸:本当に石川君が演じている時に心を動かしていることがわかったので、後半のシーンでは絶対に瀬戸個人を出さないようにしなきゃと心に決めていました。心配はしましたが、ここで私が変に声をかけないほうがいいのではないか、麻衣さんや咲太のご両親に心動かされている時に余計なことをしてはいけないのではないかと思ってしまって。
ですが石川君はすごく素直で正直な人なので、「テストでこんなに泣いちゃった」「本番どうしよう」みたいに吐き出してくれたので、変にみんなが気を遣う事態にはならずやりやすかったなと。ずっと慣れ親しんだ現場ではあるけれど、アフレコではキャラクターが生きているから、新しい場面が来る度に新鮮な状況が訪れるんだろうなと感じていました。
――久保さんはいかがだったでしょうか?
久保:『おでかけシスター』の時はひとりでの収録でしたが、先に収録を済ませた咲太と麻衣さんの声は聴ける状態だったので、花楓が自分に向き合う状況に近いかたちで挑めて良かったと思っています。
本作では梓川家の家族としての部分が描かれるので一緒に収録できて良かったです。お父さんとお母さんとの収録は久しぶりで、下手すると初みたいな状況でしたがこれも粋な計らいだったのかなと。役者の気持ちを汲んでお芝居をさせてくれる環境でした。
石川さんの涙については、私は最後の最後まで意識しないようにしていました。花楓の前では見せないからこそ気を付けていました。
――本作は咲太が物語の中心かと思います。これまではヒロインたちを支える形でしたが、難しかったことやプレッシャーを感じたことはありましたか?
石川:基本的に『青ブタ』シリーズは、ヒロインたちがそれぞれの悩みに向き合っていく姿に心打たれるところがあると思います。そんなシリーズにおいて、主人公が中心のストーリーということに少しプレッシャーはありました。見てくれる人たちが楽しんでくれるだろうかという不安が無かったと言ったら嘘になってしまいます。ただ実際に演じてみると男女問わず楽しめる内容だったので、そのプレッシャーからは解放されたところがあります。
――今回の作品で咲太との向き合い方が少し変わったそうですが、どのように変わったのでしょうか?
石川:TVシリーズでは家族ではない他人と向き合うことが多く、最後の最後に咲太にとってより近い関係性の妹・花楓と向き合うことになりました。同級生や先輩、後輩、恋人とも違う家族としての距離感が『おでかけシスター』では描かれたので、演じ方が変わってきたんです。
本作では家族の中でも社会があって、関係性が変わっていくことが描かれます。もちろん花楓の兄であることは変わらないのですが、今回はついに咲太と花楓の両親と向き合っていくことになる。これまで見られなかった“息子”という属性が咲太に加わるので、その感情の表し方は意識して演じたところがあります。
――その変化はすぐ作れたのでしょうか?
石川:この点に関してあまり気負いはありませんでした。みなさんもそうだと思うのですが、同性の親と話すことってあの年頃だとちょっと気まずいじゃないですか。そういうメンタリティだと思うんです。自分自身その時のことは鮮明に覚えていましたし、現状と照らし合わせて今話してもこうなるだろうなという所も鑑みながら演じました。
――花楓とふたり暮らしで家のこともやりながらバイトもしてと自立している印象もある咲太ですが、両親との掛け合いはどのようなことを意識して演じられましたか?
石川:一歩、家族から引いた距離感を意識しました。咲太の場合は自分から望んであのような状況を選んだ訳ではなく、そうせざるを得なかったところがあるんです。精神的に大人であらねばならなかっただけで。今回はなぜそうあらねばならなかったのか、心の奥底では何を考えていたのかが明かされます。見てくれる方たちも自分と向き合うきっかけになると思うので、ぜひ注目していただければと。
――瀬戸さんと久保さんはそんな咲太を客観的にみていかがでしたか
瀬戸:『ゆめみる少女』の時もやっぱり力になれなかったので、今まで手を差し伸べてくれた咲太をようやく助けられるといいますか。麻衣さん自身一番傍にいたい時にいられなかったことが多分ずっと心に残っているので、咲太の力になるにはどうしたらいいかを考えているのかなと思います。
そうなったらもう全力を出したいと思っているし、アフレコではどういう風に声をかけるのかとか、自分のことになると無頓着になってしまう咲太に寄り添うベストな方法を考えながら演じました。
久保:「かえで」と「花楓」どちらにも、基本的に咲太は感情をそんなに見せないんです。花楓も「お兄ちゃんはふざけてばっかり」とか「ちゃんと聞いてよ」みたいなテンション感で、それは本作でも変わりません。
声を荒げたり号泣する姿を花楓の前で見せないのは、生々しい家族の距離感だなと思います。そんな妹とお兄ちゃんの距離感だからこそ見せたくないし、見せる必要がない。最後の最後までご覧になっていただくと少し変化があるのですが、花楓からの目線だと印象の変化はなかったです。
ただ私個人として見ると、ちゃんと人間をしているな……と。より感情移入して愛おしくなりました。