冬アニメ『僕の心のヤバイやつ』第2期 連載インタビュー第2回:市川京太郎役・堀江 瞬さん✕山田杏奈役・羊宮妃那さん|「なんで付き合わないの?」という意見はラブコメにはつきものだと思います。でも踏み込めない一枚の壁があることは、ふたりの心理状況的に理解できるなって。
表現方法への飽くなき挑戦
――では14話のお話をうかがえたらと思うのですが……。
羊宮:実は14話にはオーディションと同じセリフがあったんです。
――へえ! どの場面ですか?
羊宮:杏奈ちゃんが自分の気持ちを打ち明けるシーンです。オーディションの中で杏奈ちゃんを演じるにあたって、この一連のセリフがいちばん苦戦したといっても過言ではないくらいで。
堀江:はいはい(笑)。
――山田の心の内を汲み取るのに苦戦したんでしょうか。
羊宮:そうです。泣いたかと思ったらケロっとしたり、笑顔を見せてくれたりと、普段いろいろな表情を見せてくれる杏奈ちゃんが、なぜここまで(怖さを)感じ取ることになったのか……。何がきっかけでそうなったのか、当初は原作を読んでいても答えを見つけられなかったんです。でも、とっても大切なシーンだったからきっとオーディション用のセリフに組み込まれていたんだと思います。
でも自分なりに汲み取った杏奈ちゃんの感情をオーディションではお芝居させていただいて。だからこそ思い出に残っていました。
14話の台本を改めて読んで……いろいろと準備はしていきましたけど、その場でディレクションをいただきつつ演じたことで、ふっと杏奈ちゃんの気持ちが分かったように感じました。終わったあと、自分の中で達成感がありましたね。オーディションを経て、現場でお芝居をできたことに幸せを感じました。
――本番ではどのようなディレクションがあったんですか?
羊宮:感情の面でのディレクションだったので、ものすごく細かいところではあるんです。いちばん難しかったのは、どこで涙を流して、どこで気持ちが崩れるのか……ってところで。杏奈ちゃんが家族以外と接する上で、愛をもらえていたのは当たり前ではなかったと中学生ながらに気づいたことについて、自分なりに考えて。でも自分だけでは表現しきれなかった部分をすごく助けていただきました。
遠藤プロデューサー(テレビ朝日):お話に割り込んでしまいますが、一発目から外されてなかったですよ。ただ繊細な演技が求められるシーンなので、難しかっただろうなと。微調整だけだったと思います。
羊宮:杏奈ちゃんを演じる身として、本筋が合っていたということがとても嬉しいです……。ありがとうございます。ただ、当初は他にも難しいことがあって。
堀江:ほお。
羊宮:落ち込みやすい子であれば気持ちを持っていきやすいんですけども……杏奈ちゃんは普段は明るいんですね。13話では後半に落ち込みだして、めちゃくちゃ涙を流すんですけど。でも(落ち込むような感情を)全て捨てないと、普段の根っからの明るさが出なくて。その切り替えは毎話、毎話悩むところですね。
堀江:確かに。
羊宮:私自身がすぐに切り替えられるタイプじゃないので余計に悩みます。でも市川くんの声を聞いたり、周りの人のサポートがあったりで、今のところはなんとか切り替えられていますね。
堀江:……なんか役者っぽくて、めちゃくちゃ羨ましい。
――堀江さんは気持ちの持っていき方に悩むことはあまりありませんか?
堀江:まったく。たまにそういう話を聞くじゃないですか。役とシンクロして自然と涙が出てしまう……とか。めちゃくちゃ憧れるんです。堀江瞬はただのネガなので、台本を開いているときのほうがネガの気持ちを忘れられるんです。どう言ったら良いのかな……。例えばですけど、プライベートで嫌なことがあった直後に「今日はこれからハイテンションな役か、大変だなぁ」とか思うこともなくて。
羊宮:すごい!
堀江:逆にありがたいと思うくらい。演じている間は、嫌だったことを忘れられますから。だから僕は、お芝居をしている間は日常から切り離してもらっている感じです。
羊宮:私も「声優の道を歩みたい」と思った出発点はそこだったんですよ。
堀江:へえ!
羊宮:自分として生きるのではなく、その人として生きられることが、私の人生でいちばんの喜びだなって。死んでもいいからなってやる、って思ってきました。別の誰かとして日常を歩めるなら、私自身の特徴を失くしてでもその人になりたいですし、そこまで向き合える事に出会えた事もとても幸せだなって思っています。
――杏奈ちゃんは本当に素敵な人に、命をあずけられたんですね。
堀江:うんうん。
羊宮:そう思ってもらえたら本望です!
堀江:いい話だ。
――同じ役者でありながら、おふたりの少し違った考え方というのは、とても興味深いです。
堀江:ちょっと違うよね。
羊宮:私はキャラクターに引っ張られすぎてしまうところがあるんですよね。「ああ、しんどいなぁこれは」って。
堀江:ああ、なるほど。役を自分に持ってくるタイプなんじゃない? 僕は向こう側に行くタイプだから。そこが少し違うところなのかもしれない。
――堀江さんはキャラクター側に行くタイプ、羊宮さんはキャラクターを自分に引き寄せるタイプ。同じ役者ではありますが、役へのアプローチに絶妙な差があるんですね。
羊宮:自分でもまだまだわからないところはありますが……『私だからこそできる表現を出せるようになりたい』と日々模索しています。難しいですけど……。
堀江:なるほど。でもそういうエゴって大事だと思います。
変声期の市川を演じるにあたっては音色を重視
――市川の声変わりが怖い……とおっしゃっていましたが、つまり14話は堀江さんが恐れていた回でもあるということですね。
堀江:もっとも恐れていた回です(笑)。原作通り進めばいつかは変声期が来るだろうなとは思っていたので、14話の台本を読んだときに「ついにきたな」と。だからいつもと心持ちも違いました。普段はお芝居する上で、環境を大事にしたいと思っているんです。
――環境というのは、アフレコ現場での空気感や、掛け合いから生まれるもの、ディレクションなどを大切にされたいということですか?
堀江:そうです。ただ今回は音色を重視しました。……テクニックと言うとまるで“できる風”ですけど、共に作り上げていくものじゃないところで演じるのはあまり好きじゃなくて。でも声変わりの部分はそうも言ってられないので、音や聴こえ方の次に掛け合いを考えようというやり方をしていて。普段はあまり声のチューニングもしたくないんですけど、今回はそれもやりました。
羊宮:アフレコの時は声変わり前を先に収録して、チューニングされたあとに声変わり後を演じられていて。市川くんというキャラクターに徹されている印象がありました。
堀江:結構難しかったんです。話の時系列が原作と若干入れ替わっている部分があって、原作だと声変わり前の部分が、声変わり後になっているんです。だから想定外の場面でその最中になっているので、より難易度が上がって。皆さんがどう感じるかが今から怖いです(笑)。
羊宮:先日第1期を見直していた時に「そうか、市川くんってこんなに声が高かったんだ!」って思っていたんです。それくらい、声変わり後の市川くんの声がしっくりきてしまっていて。「そっか! こんなに変わっていたけれど、市川くんが存在し続けてるってすごいな!」って改めて感じました。
――変声期を挟んで、別の方が演じられることも珍しくないですものね。
遠藤プロデューサー(テレビ朝日):前代未聞じゃないかなとも思っています。堀江さんには、かなり無茶な注文をしてしまいました(苦笑)。実は、最初に堀江さんが持ってきてくださった声変わり後の声のラインを聞いたあとに、もうちょっと振り幅を探りたいということから、いろいろな声を出してもらったんですね。でも結局、最初に堀江さんが持ってきたラインがいちばん良くて。15話からは、声変わり後のニュートラルな声を聴くことができるので楽しみにしておいて欲しいです。堀江さんの役者としての見事なバランス感覚に僕らも驚かされました。
堀江:いやぁ……。若干、第2期のPV(第2期決定PV)の時とは(声が)違うんですよね。
遠藤プロデューサー:そうですね。第2期決定PVの時には「声変わりを意識してやってみて下さい」とお願いしていたんです。そこからは少し変わったかもしれません。羊宮さんはきっと感情の作り方が難しかったと思うのですが、素晴らしいお芝居でした。