TVアニメ『ゆびさきと恋々』糸瀬雪役・諸星すみれさん&波岐逸臣役・宮崎遊さんインタビュー!|逸臣のカッコよさは生まれ持った天性の才能……外国語シーンの収録裏話も
雪は相手のお芝居を“見て”演じているところがある
――雪の台詞は他のキャラクターに比べてかなり多い印象を受けました。収録で苦労はあったのでしょうか?
諸星:香盤表に書いてある台詞数は雪が40個くらいのところ、他のみんなは10~12個だったことがあったので、確かに圧倒的です。でも台詞ではあっても頭の中で考えていることを音にするモノローグなので、不思議と大変ではないんです。誰かに伝えるというよりも、自分の中で考えたことをポロポロと音にしている感じです。
けれど、雪を演じている時は普通に喋っている時と意識が違ってきます。普段のアフレコは相手のお芝居を聴いてそれを受け止めて返すの繰り返しだけど、雪は相手の台詞を聴いてはいけないといいますか、「聞こえているものではないけれど、それを受け止めたい気持ちはある」みたいな。どちらかというと相手のお芝居を“見て”演じているところがあります。
だから自分の精神を保って、音のない世界を想像する感覚を常に持続させることには結構エネルギーを使っています。普段と気を遣う部分がちょっと違うところは大変ですが、台詞量自体はもっと増えても大丈夫ですね!
――逸臣も雪との掛け合いのシーンは普段と変わってくるところがありそうですが……
宮崎:雪に対して逸臣が抱いている気持ちは特別なものなので、そこを踏まえれば出てくる言葉やその言い方は自然と変わってきます。彼女と出会った時から、逸臣は手話をはじめとするろう者の方とのコミュニケーションがどんどん上達していくんです。
最初の頃は慣れていないのですが、その不慣れなところから上達していくまでのグラデーションを表現したいという演出側の意図があり、そのあたりは収録でも大変でした。やり過ぎてしまうと慣れている感じが出てしまいますし、幼いころから手話を勉強している芦沖桜志とはまたちがったコミュニケーションの雰囲気にしたかったので繊細に演じています。
――おふたりは本作へどのような印象を持っていますか?
諸星:作中ではキュンキュンするようなポイントがたくさんあるのですが、そのひとつひとつの質が高くて奥深いんです。気持ちのやり取りがとても繊細で、緻密で、キュンとか言っていいのかなと思うくらいです。雪という女の子の成長物語でもあるし、恋愛だけじゃなくて、家族や友達だったり、色々な愛が詰まったとっても心が温まる作品だとも思います。
雪は全編を通して基本はモノローグになっていますけれど、その言葉が普段はしないような綺麗な言い回しで紡がれているので、演じる時は試行錯誤の連続です。私自身も新しい世界を見させてもらっているかのような感覚がありました。
モノローグについては、雪がどうしてその言葉に至ったのかキチンと噛み砕いてから演じることを意識してました。聞こえがいいだけのものにはしたくなかったんです。どうして今、雪は突き動かされたのか。雪は何を見たから気持ちに変化がおきたのか。そういう細かいところを私がちゃんと理解しないとこの作品の良さは伝えられないから、丁寧にキャラクターを作っていきました。
――宮崎さんは本作にどんな印象を持ちましたか?
宮崎:諸星さんがほぼ出してくださったので繰り返しになってしまいますが、誰もが日々を生きる中で感じるちょっとしたモヤモヤとかキュンとした瞬間みたいな。些細な心の変化を温かい足湯みたいなじんわりとくる温度感で、ひとつひとつ丁寧に描いていると思います。
僕は女性向けの恋愛漫画をこれまでほとんど読んだことがなかったのですが、原作を最初に読んで思ったのが「するっと読めた」「面白かった」だったんです。その理由を掘り下げていくと、やっぱりその温度感にあるんじゃないかなって。
普遍的なことをこの作品らしい独特な描き方で見せてくれているので、さっき諸星さんがおっしゃったように、一番の魅力であり一番大事なところをちゃんと掴めていないと、誤魔化しが利かなくなる。だから、そこは何よりも大切にしたいと思いながら演じていました。
――諸星さんなら逸臣、宮崎さんなら雪の印象も教えてください。
諸星:逸臣を好きにならない子はいないんじゃないかと雪も言っていましたけれど、まさしくその通りだと思います。彼の優しさやカッコよさは、作ろうとしたものを見せているのではなくて生まれ持った天性の才能なんだと思います。
もちろん世界を巡って色々な国の人と関わっている一面もあると思うのですが、その人が元々持っている性格とかって、内から滲み出てくるものじゃないですか。だから、これは作ろうとしてできるものではない、本当に難しい役だと思いました。
宮崎さんのお芝居が本当にピッタリで、声が付くことで逸臣というキャラクターがより立体的になっています。意図していないカッコよさや作り込まれていない素直な言葉、そういった雪に対するアプローチにも思いやりが感じられます。
そのアプローチにしても、どうしたら雪が喜ぶのか、生きやすくなるのかを考えてのことではなくて純粋な興味なんです。そういう部分が魅力なのですが、宮崎さんはそれをお芝居で表現されているので、作品を見たら絶対に好きになっちゃうと思います。
宮崎:おそらく逸臣が雪に感じた魅力や好きになった大きな要素と、自分が雪を可愛いなと思う部分は一緒なんじゃないかなと思っています。彼は語学が堪能で海外の方ともコミュニケーションが取れるし、年齢の割に思慮深く何段階も周囲の人たちの事情を想像できる人なんです。きっと誰かとコミュニケーションをとった経験も人一倍多いと思います。
けれどそんな彼にとっても、電車で初めて会った時の雪は衝撃が大きかった。困っているところを助けてくれた逸臣に対して、心の底からのありがとうを一生懸命届けようとしてくれる。その姿は、色々な経験をしてきた彼にとっても特別なものに映ったはずです。そういうところが雪の魅力なんじゃないかと僕は思います。
ピュアという言葉だけでは言い表せないような純度の高いコミュニケーションで、単純なありがとうやごめんなさいですら凄く輝いて見える。雪には、誰とも比べられない良さがあるなと感じます。諸星さんのお芝居を聴くとその解像度が高いので、素敵だなって思いながらいつも隣で逸臣を演じさせてもらっています。
――雪と逸臣以外におふたりが気に入っているキャラクターも教えてください。
諸星:決められないくらいみんな魅力的で、それぞれにドラマがあるので悩んでしまいます。でもひとりを選ぶとしたら、雪にとって一番身近な藤白りんちゃん。彼女の存在は雪にとって本当に大きいと思います。声を担当する本渡楓さんがとってもピッタリで、原作を読んで思い描いていたりんちゃんがそこにいると思ったくらいです。
当たり前に雪とコミュニケーションが取れて明るく気遣いもできるなんて、やっぱりりんちゃんも演じるのも難しいと思います。本渡さんはそんなふたりの関係性を、お芝居から感じられるようにしてくれていて。雪とりんちゃんがキャッキャしているシーンは、私も演じていて楽しいですし可愛くて大好きです。また、京弥さんの前でのりんちゃんの可愛さには毎回キュンキュンしています。
宮崎:僕は桜志です。なぜなら、世の男子を逸臣か桜志に分類するとほぼ桜志になると思うからです。男なんて大半が不器用な奴ばかりで、女性に対する配慮や気遣いのレベルが高い逸臣が完璧すぎるんです。だから桜志には共感してしまいますし、何なら僕も彼みたいな不器用な立ち回りになってしまうだろうなと思っています。
物語が進むと桜志の見せ場もあります。大塚剛央くんとは何回か共演しているのですが、桜志が心の奥底に持っている煮え切らない部分を常に抱えていることが理解できるお芝居になっていました。その感覚が話数が進んでどう変わるのか個人的に楽しみにしています。
――本作の特徴にもなっている音のない雪の世界。おふたりはこれをどのように想像してキャラクターを演じているのでしょうか?
諸星:見えるものや触れるものへの感度が、とても高くなるんじゃないかと思っています。私たちは音が聞こえるとそっちに注意がいくので、見ているところが意外と無意識に流れていってしまいます。でも雪はそれをしっかり見ているし、ひとつひとつ感じるものがあるので、自分の目線や感情の動きと向き合うことに集中するのかなって思いました。
雪は私たちが普段何気なくスルーしてしまうものを素敵な言葉で表現したりするので、音が入ってこないからこそ感じられる日々の出来事への純度の高さが、モノローグを通して分かってもらえるのではないかなと。
外から見ているだけだと雪のモノローグはわからないと思うんです。音のない世界はやっぱり想像するしかないので、当事者でないとわからないものがあるなと強く思いました。けれど役を通してそういった世界を知り、考える機会をいただけて嬉しかったです。
先日、音が付いて完成した第1話を見させてもらったのですが、音のない世界の表現方法がとても工夫されているように感じました。こういった音にならないような振動みたいなものを、雪は聴いているのかなと想像できるようになっているんです。そんな音の表現には注目してほしいです。
宮崎:逸臣が雪に対して音が聴こえない感覚がどんなものなのか尋ねるシーンがあるのですが、その答えは「色々な音が混ざりあったかのような」というものでした。それを踏まえてなんとなくぼやっとして区別のつかないような鈍い音なのかな? と勝手に想像していたのですが、僕も1話の完成版を見て「こうやって表現したのか!」と驚きました。
それくらい音が混ざりあっていて、音になる前の振動のような音が体感できるんです。雪にはこういう風に聞こえているのかなという感覚が心にスッと入ってくるような表現が新鮮だったので、ぜひこの作品を見て下さる方に聴いてもらいたいと思うくらいです。
――放送を楽しみにされている方々へのメッセージをお願いします。
諸星:原作の素晴らしさを壊すことなく、アニメとして魅力的なものに仕上がっている実感があります。漫画で楽しんでいたものに音が付いて、よりこの作品が身近に感じられるようになったのではないでしょうか。ロマンチックな美しい世界ではありますが、みなさんがそれを本物に感じられるようなアニメになっています。ぜひ期待して待っていてください。
宮崎:みんなが普段の生活で感じる心の機微を凄く繊細に描いている作品です。僕も出演が決まった時にそこを伝えたいと思いました。僕が初めて原作を読んだ時の感覚を、女性だけでなく男性にも感じてほしいです。1話をご覧になってくださったら、きっと伝わると思います。じんわり温まるような優しい温度感を、最後まで楽しんでもらえるよう残りの話数もアフレコに臨みます。これからもっと頑張るので、楽しみにしていただけたら嬉しいです。
作品情報