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アニメ『薬屋のひとりごと』は無意識を刺激する計算された一作/長沼範裕監督インタビュー

“無意識を刺激する”計算された画作り。一瞬に詰め込まれた意図の数々―― TVアニメ『薬屋のひとりごと』監督・シリーズ構成:長沼範裕氏インタビュー

ターゲットは老若男女

――今作は後宮と花街が大きな舞台となっていますが、それぞれ描き方に違いはありますか?

長沼:色の使い方を変えています。後宮は皆が足並みを揃えているようなトーンですが、花街は個性を出して客を取らないといけないので単体の色合いが強いです。ほかにも曲の使い方が違ったりします。

――ガラリと違いますよね。

長沼:後宮は四夫人が一番目立つので彼女たちを軸に色を統一しているんですが、花街は個性が強い人たちが目立つような作りになっています。

――全体を通して、シーンによって目の色や肌の色が変わっているのはなにか意図が?

長沼:それも無意識下で引っかかってもらうためです。シーンによって変えていますし、ここぞというときは目の光を強くしたり燻らせたりしていて。それは光と影、光量のバランス、面積のバランスなど演出的表現方法であったり、感情表現方法だったりします。

――感情表現が丁寧な印象です。

長沼:アニメーションは見る側によって見方が変わるんですよね。自分としては、今の小中高生が社会に出てもう一度この作品を見て、「あの時となんか感じ方が違って新しい発見があるな」と思ってもらえるようなアニメーション作品にしたくて。それは関わった作品でずっと意識していることなので、無意識下や感情という部分はすごく丁寧に作っています。

――ではこの作品のターゲット層は広く考えているのでしょうか?

長沼:そうですね。小学生からおじいちゃん・おばあちゃんまでを意識しています。もちろん原作のターゲット層に向けて作ることを前提の話ですが、それだけだと広がりが弱いと思って。やはり広くすることで長く見てもらえる可能性が高いと考えると、幅広くすることはすごく重要なことだなと。

個人の考えですが、原作があるアニメーションは“物事をいろいろな角度から見れるようにする窓口”なので、「薬屋のひとりごと」も色々な年齢の方達に見てもらうちょっとしたきっかけを作っているような感覚です。人によって環境や感じ方は変わりますが、でもそこにはちゃんとした軸と答えがあるからそれを提示していく、という作り方をしています。

今後の起点となった第8話

――第8話について「今後の展開を示唆する要素が多い重要な話数」と紹介されていました。テーマは「多重」とのことですがどんな意図が?

長沼:「多重」には人の裏表という部分はもちろん、ストーリーと重なっているものがあるんですよね。逆に、今後のお話の全ての起点になるものも含まれていて。猫猫、花街、羅門の謎を含めて「多重」と表現しています。

第8話は猫猫の原点である花街に一回戻り、状況を整理した上で物語を再スタートする意図もあります。気付いている方もいらっしゃるかもしれませんが、猫猫が看病しているシーンが出てきたり、その後お風呂のシーンがあったり。今後もこういったシーンが出てくるんですが、その際に猫猫はなにを思い言葉を発しているのかに注目してほしいです。逆に、そのシーンを切り抜いて繋げるだけでも猫猫の心情の変化、一番気にかけているものがわかるようになっています。

――第8話は全体的にオカルトテイストになっていて印象深いです。

長沼:経験した人もいるかもしれませんが、自分の意志と反してなにかをしていることってあると思うんです。それは一種の気の迷いかもしれませんが、自分としてはそんな意識外でなにかが動いてしまうことを“オカルト”と定義していて。

第8話だと禿が男を刺そうとしたところ。ここは姉ちゃんのかたきを討つならば違う方法があるはずなんです。でも殺す選択をしたのは周りの空気感に押されてしまっただけかもしれない。そういう意味でも自分の意識外で動かされているところはオカルト表現をしています。ほかにも回想シーンで妓女が男に毒を盛っているところは、普通よりもゆらっとした立ち上がり方にしていたり。ちょっとホラー的に見せることで得体のしれないものの怖さが表れるんですよね。

――客観的に見たからこそ、よりホラーに見えました。

長沼:自分以外のなにかに操られているんじゃないか?という見せ方のベースをこの第8話で作っています。そして風明や阿多妃とのシーンにも繋がるわけです。

――今後もオカルトテイストな表現は見られるのでしょうか?

長沼:出てきます。第8話ほど明確ではないですが、ところどころにドキッとするようなシーンはありますね。

――第8話で猫猫が離れでうずくまっていたシーンは一瞬ではありますが、すごくドキッとしました。

長沼:ここを強調するために前のシーンがお風呂だったんです。柔らかい温かい空間で梅梅の優しさが伝わってきた矢先、寒々しい中でギラッとした目が光る。かと思いきや次の日になっている。この一瞬を強調するための流れになっています。

――全体的にギャグシーンが思いっきりほんわかしているのもこういった意図があって?

長沼:もちろんです。重たい話をしていると集中して見てしまうので疲れるじゃないですか。視聴者的にはのめり込んで見ていたところにギャグシーンが挟まると、一度スッと離れて客観視できるんですね。そのあとに説明を入れるとよりわかりやすくなったりします。

――そんな意図があったんですね。ギャグシーンの演技はキャストにおまかせしていると伺いました。

長沼:そうですね。基本、叩き台はありますが、キャストやアニメーターさんにも自由に演じたり描いてもらっています。自分としては重たい雰囲気を抜くことができればOKですから。

――ほかのシーンでアニメーターに指示を出したり?

長沼:コンテの段階で固まっていますが、表情は一番気をつけました。声のテンション感と絵の表情が合っているか。合っていなかったら全部直しています。それ以外は流れで進めていたりするので、全てをチェックしているわけではないですね。

――任せるところは任せているんですね。

長沼:そうですね。そうしないと時間がいくらあっても完成しないので(笑)。

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