TVアニメ『ゆびさきと恋々』村野佑太監督インタビュー|耳の聞こえない人がコミュニケーションに必要とするそのひと手間を、愛おしいものだと思えるように拘っています
映っているもの全てを雪たちの感情を表現するアイテムに
──雪が基本的に声を発するキャラクターではないためか、本作では声優さんたちによるお芝居や作画で表現される表情や仕草、情景描写や演出面に力が入れられているように思います。折り返しの第6話までで、改めてファンのみなさんにご覧になってほしいポイントをお答えください。
村野:今回はなるべく「声」という情報に頼らない画面構成を心掛けています。登場人物とそれを捉えるカメラとの距離感、フレーミング、光と影や降雪などのギミックによる感情表現などですね。降雪などもシーンによって降る速度は全て変えてあります。映像として映っているもの全てを雪たちの感情を表現するアイテムとして機能させている感じです。
ただあまりそういったことに着目し過ぎず、フラットに見てもらった上で「なんか面白かったな」と雪たちの感情に寄り添ってもらえると嬉しいです。
──物語が進むにつれて逸臣が徐々に雪とのコミュニケーションに慣れ、より距離を縮めて言っている印象を受けました。そんな逸臣の成長を描く上で、収録時のディレクションや作中の演出で気を付けたことは?
村野:雪と会話する人物は、人間関係の近さで話し方や速度を変えています。親友のりんちゃんと、挨拶をする程度の友人とでは発音や速度に差がありますし、それは当然逸臣もそうです。
雪と接する逸臣が、1話から12話まででどう声が変化していくかは段階的に計画してディレクションしているので、そこに注目してもらえるとより一層キュンと出来るような気がします(笑)
──トリリンガルの逸臣が話す外国語の数々は宮崎さんが別で収録されている、作中で登場する外国語を話すキャラクターは別の収録部隊がいるといった話を以前伺いました。外国語の収録にはどのような苦労があったのでしょうか?
村野:TVアニメにおける外国語の収録って、ガイド音声を耳コピして臨むことが多かったりします。ただ、逸臣のトリリンガルっぷりに未熟さがあると途端にカッコよさが失われてしまうので……ドイツ語に関しては、アフレコ前に宮崎さんにドイツ語スクールにみっちり通っていただきました。
アフレコ中にもネイティブの講師の方がいらっしゃって、発音面に関してのディレクションをお願いしています。その他英語に関しては、業界内でも英語を得意とされている声優さん達に集まってもらって、彼らにその都度レクチャーを受けながら進めていった感じです。元々宮崎さんが海外でバックパッカーをやられていたこともあって、英語の収録はそこまで苦労した記憶はないですね。
──第5話では自分の声にコンプレックスがある雪が、逸臣とのやりとりの中で思わず笑い声をあげるシーンがありました。ほとんど自ら声を発しない雪が珍しく声を出すシーンかと思いますが、収録での裏話はありますか? また、演出や作画面でのこだわりも聞かせてください。
村野:ここはニュアンスを掴むのが難しいだろうな、とアフレコ開始当初から気構えていたシーンだったのですが、一切リテイクも出ず一発OKだったんですよ。手話監修の米内山さんにはアフレコにも同席していただいているんですが、そのリアリティに感動して胸がいっぱいになっている様子でした。
1話のアフレコが始まる前にメインキャストと耳が聞こえない当事者の方達で意見交換する場を設けて理解を深める機会などもあったのですが、雪役の諸星さんは個人的ににまたそういった方との場を作っていたらしいんです。その求道精神が芝居にしっかり乗っていたんじゃないかと思います。
──オープニング&エンディングの映像は村野監督が絵コンテと演出を担当されていたかと思います。それぞれの制作時のこだわりやコンセプトをぜひ伺いたいです。
村野:今回はアバンからオープニング、そして本編を挟んでエンディングまでの視聴者の感情線をある程度コントロールしたくて、かなりコンセプトを作りこみました。
オープニングには「私とあなたの世界に境界線なんてない」を主軸に、世界の広がりを感じるマクロな曲を想定しました。恋愛で新しい一歩を踏み出した女性を祝福するようなイメージです。
エンディングは逆にミクロなイメージで、「夜眠る前に布団の中で今日一日の幸せをかみしめるような曲」というオーダーをしています。森下suu先生の持つ詩的な美しさや可愛らしさを歌詞に反映させたくて、そこを意識するようにもお願いさせていただきました。Novelbrightさんもチョーキューメイさんも自分の想像をはるかに上回る素晴らしい曲に仕上げてくださって、本当に感謝しています。
──最後に、最終回に向けて今後の見どころとファンのみなさんへのメッセージをお願いします。
村野:原作の魅力を守りつつ、アニメでは群像劇としてのアレンジも少しずつ加えてきました。後半のエピソードでそれらが集約していく中には、きっと全てのキャラクターに対しての新しい発見があるんじゃないかと考えています。森下suu先生にもたくさん協力していただいて作っているアニメです、最後まで楽しんでいただけると嬉しいです!
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