井上和彦さんが初の自伝本を出版「お芝居は自分の生き様が全て、今の演技に活きてくるのではないかなと思っています」 『風まかせ 声優・井上和彦の仕事と生き方』インタビュー
井上和彦さんの少年時代
――本を執筆される際に、心がけた点はありますか。
井上:とにかく70年を振り返るのはすごく大変だったんですよ(笑)。けっこう忘れていることもあるし、自分で記憶を改ざんしていることもあるし、自分がどうやって今の井上和彦になったかというのをなるべくわかりやすく伝えられるように心がけました。
――井上さんの活動を見ていると、先輩とも後輩とも楽しくお付き合いされていて、多くの方に愛されていることが伝わってきます。本作に登場する子どもの頃の環境やエピソードも井上さんが愛される一因なのかなと感じました。
井上:そこが一番大きいと思います。子どもの頃から中学、高校を卒業するまでというのは、とても重要で、その人の個性を形成するんじゃないかなと思うんですよね。僕は横浜の下町で生まれ、周りの人がみんな親戚みたいな環境の中で育ちました。最近の子どもは、町や公園で知らない人に声をかけられても話してはいけないと聞きますが、僕はそういったことがない場所で育ったので、人に警戒心がなく育った少年時代だったと思い返しています。
本には書けなかったんですけど、子どもの頃に地域の子ども会というのがありまして、その会長さんが横浜市西区の子ども会の会長もされていたんです。僕が中学に上がる頃に、その会長さんがジュニアリーダーズクラブを作ることになって、参加しないかと誘われました。
ジュニアリーダーズクラブは、中学生が小学生の面倒を見るというクラブで、お兄さんお姉さんが子どもたちと一緒に遊んで、子どもたちを喜ばせるというものです。その中でいろいろなゲーム作って遊んだり、話したり、関わっていくという活動をしていました。そこで演劇活動をやっていたわけではないんですけど、よく考えると、演劇に少し結びついているのかなという気がしています。
今の声援団(※3)というボランティア活動をやっていて、あちこち行って、地元の人と触れ合ったりするのも、その時の経験がすごく活きていると感じていますね。
※3:井上和彦さんが立ち上げた、声優を中心に結成されたユニット。2011年の東日本大震災直後、東北地方の被害を見聞きし、「たくさんの声援を送りたい」という強い思いのもと結成された。活動は全国各地での炊き出し、チャリティーイベント、読み聞かせやライブなど、声優らしい方法で応援している。
井上和彦さんのこれからの夢
――本の中には先輩方とのエピソードもたくさんありますね。
井上:本に書ききれないほどあるんですが、先輩は書いておかないと、忘れちゃうんです(笑)。お亡くなりになった方もたくさんいらっしゃるので、これは残しておかないという思いもあるのかもしれないですね。
昔、先輩が「和彦、お前が売れるようになったら、恩返ししろよ」と言ったので、僕が「はい。稼げるようになったら、先輩におごりますよ」と伝えると、先輩は「ばかやろう。俺にじゃねぇよ。後輩にだよ」と言って、おごってもらっていたので、「かっこいいな~」と思っていました。昔はそういう先輩方がたくさんいらっしゃいました。
――本当に長くご活躍されている井上さんですが、今後の目標としていることや夢をお聞かせください。
井上:漠然とした答えをいうと、声優として死ぬまでたくさんの作品に関わって、いろいろな役で出演したいです。そして死んだ後、みんなに喜んでもらえるような……死んだ後でなくてもいいんですけど(笑)。みんなに喜んでもらえるような作品に出演したいですね。
今でもTVのロードショーを見ていると、昔の作品がやっていて、先輩方のお名前が出てきます。それを見て、普通に楽しんでいる自分がいて、「あぁ、先輩はこれを残してくれたんだな」と考えることがたくさんあります。自分がいなくなったとしても、そうやって見て、感動してもらえるような、喜んでもらえるような作品に1本でも多く出たいです。
心のどこかでは早く引退したいという気持ちもあるんですけど、「いつ引退するんだろうな?」と思いながらお仕事をしている。要するに、今やっている仕事が楽しいから、辞める気にならないんですよ。だから、きっと何かがない限りはやり続けるんでしょうね。
――ありがとうございました!
[インタビュー/宋 莉淑 写真/胃の上心臓]
井上和彦の自伝本『風まかせ』書籍概要
発売日:2024年3月25日(月)
出版社:宝島社
『風まかせ声優・井上和彦の仕事と生き方』 定価:1,980円(税込)
『風まかせ声優・井上和彦の仕事と生き方NFTデジタル特典付き』 定価:2,500円(税込)