『クラユカバ』神田伯山さん&黒沢ともよさんインタビュー | 4年ぶりの共演を果たしたお二人が語る作品の魅力と凄さ「黒沢さんはヤバいです、本当に」
リアクションだけで15回ものリテイクが
――それぞれが演じられたキャラクターについてのお話もお聞かせください。自分も作品を拝見させていただき、タンネはなかなか掴みどころがないキャラクターという印象を受けたのですが、黒沢さんはどのように解釈されて演じていましたか?
黒沢:最初にいただいた設定資料だと「謎の少女」「謎のクダギツネを使っている」「何故かこの都市で列車長をしている」って、ほとんど「謎」しか情報がない状態だったんです(笑)。
なので現場で塚原監督にいろいろお伺いしながらの役作りだったんですけど、その中で出てきたのが「子供ではないけど大人でもない」「男でもないし女でもない」「軍人ではあるけど柔らかさは失いたくない」といった条件で。
そういういろんな要素の真ん中ぐらいの、思春期すぎるかなぐらいの年齢感の、女の子らしい声から男の子らしい声までを何通りかやって、その中から選んでもらった感じでしたね。
本編としては、今回は列車長としての責務を果たす時間がすごく長いストーリーになっていたので、軍人らしいというか、列車長としての振る舞いっていうのをすごく大切に演じさせていただきました。
――荘太郎についてはいかかでしょうか。
伯山:面白いキャラクターだなと思いました。探偵モノは結構好きで、僕の世代だったら『探偵物語』とか『古畑任三郎』とかのミステリーとか、そういうジャンルの王道的なキャラクターでもあるなと。ちゃんとした芯やニヒルなところもありつつ、この人にどんな過去があったんだろうと自然と想像したくなるような、分かりやすい探偵像というか。
探偵のお仕事って今でもちょっとグレーというか、幻想的な部分があるじゃないですか。そこに大正時代のような、それでいて昭和レトロ的な塚原監督の空気感があわさっていて。我々にとっての昭和もちょっと不思議でグレーな時代でもあるので、それがすごくマッチしていて、荘太郎というキャラクターが生きるのに、この昭和レトロな空気感はすごくいいんだろうなと。いわゆる、皆がイメージする王道的な探偵キャラクターだと僕は捉えていますね。
――結構、ダメなおじさん的な面もあるのも特徴ですよね。
伯山:そうですね、結構面白いところも多いです(笑)。僕も『シティハンター』とか、普段はダメな感じだけど芯は持っているというキャラクターをリアルタイムに見て育ってきたので、そこについても違和感はなかったですね。きっと荘太郎も、普段はあんな感じでも、いざという時にはやるんだろうという期待感みたいなのを抱かせてくれるキャラクターだと思います。
――今回の別々に収録されたとお聞きしていますが、収録時の音声や映像を見て、お互いすごいなって感じた部分がありましたら教えてください。
伯山:いや、もう……黒沢さんはヤバいです、本当に。僕がプロの声優さんに言うのは大変失礼なんですけど、その世界ずっと戦ってこられている方なので、勉強になることばかりでした。
ほんの一言で世界観を作っちゃうとういか、そのキャラクターがどういう存在でどういう世界観を持っているかっていうのを、一声目からもうバンと作っているんですよ。僕みたいな素人は、その台詞はよくても次の台詞を口にした時にちょっとブレて、イメージがだんだんズレてくるんです。
それがずっとブレないまま、どんな違う台詞を口にしても同じ世界観をずっと構築できる。それがプロの声優さんの特殊能力で、その中でも黒沢さんが際立っているところなんだと改めて驚かされました。
黒沢:私は伯山先生を心の師匠だと勝手に思っているので(笑)、そういっていただけるのはすごく嬉しいです。
私の方は伯山先生が先に録られたものに、後から自分の声を入れていくという形で収録させていただいてたんです。塚原監督がガイドを作ってくださっていて、そこの指針にお互い沿ってやったからこそでもあると思うんですけど、まるで歯抜けになっている伯山先生の講談の中に自分が入っていくみたいな、あらかじめ楽譜が決まっていたような感覚があったんですよね。
伯山:それを聞いて、先に録っておいてよかったなと思いました。先に黒沢さんは録られていたら、そっちに合わせるのは僕には能力的に無理ですから(笑)。
下手な僕の演技が先にあることによって、プロの皆さんにちゃんと神輿を担いでもらえるようになっているんですよ。実際塚原監督もそう考えられたと思っていて、結果的にもすごくいい采配だったんじゃないかと思います。
黒沢:塚原監督の采配で、すごくいい形にしてもらえたという部分は私も同意見で、伯山先生の声に乗せられるように喋れて、収録がすごく楽しかったんです。役としては温度感が低めで、ちょっとヘラっとしているというか、少し馬鹿にした感じの喋り方をする子ではあるんですけど、その中でできる表現はこれしかないみたいな感じで、伯山先生に導かれていたようなアフレコでした。
――印象に残った演技みたいなのはありましたか?
黒沢:さっき聞いた話だと、荘太郎はリアクションだけで何回も取り直したシーンがあったんですよね。
伯山:そうですね、「んっ」という一言のセリフで15回くらい撮り直しました(笑)。全然嫌じゃなかったですけど。
黒沢:実は私が好きなのはそこで、荘太郎とタンネが合流して逃げる時、木の板が倒れて押しつぶされるシーンがあるんですが、その時に荘太郎が「いやん」みたいなちょっと変な悲鳴を上げていて。さっきまでずっとカッコいい感じだったのにって(笑)。
伯山:今言われて恥ずかしくなってきたんですけど、確か結構後半の方の収録だったんですね。その時に何パターンか録っていて、確か普通のバージョンも録ってたはずなんですけど、たぶん結構監督含め皆疲れていたんじゃないでしょうか(笑)。僕も出来上がったものを見た時「なぜそっちを選んだ?」と驚いたくらいで、面白かったですね。
黒沢:タンネとしては、それに対して直接反応はしてないんですけど、安否を確認しながらも少しだけ困惑したニュアンスを入れていました。けど、完成したものを見たら、本当に急に入ってくるのでもう声を出して笑っちゃって(笑)。
伯山:でも、そこがさっきの話じゃないんですけど、プロの方からみるとキャラクターとして統一されてないと感じられる部分というか。素人がやったからこその面白さなのかもしれないですね。
黒沢:むしろ私はそこにグッときました。すごく巧みなことをやられていたと思います。
――ちなみにその反応はアドリブで出てきたものだったんでしょうか。
伯山:たぶんアドリブでしょうね。その場で何パターンがやってみてくださいと言われて、思いついたものの一つを選んでいただいたという形で。実は夢中でやってたから、今日言われるまで気づいてなかったんです(笑)。
監督としても、「本当は荘太郎は言わないけど、伯山さんだしこういうのも言わせてみようか」みたいな考えで選んでいただいたのかなと、今改めて思いましたね。
――最後に、本作の見どころや魅力について教えてください。
黒沢:『クラユカバ』の魅力は、塚原監督の世界観に伯山先生や頼光先生の活弁が本当にバチってマッチしていることがまずひとつ。あとは塚原監督って2Dの絵を3Dに動かすのがすごくお上手な方だと私は思っていて、2Dを3Dっぽく見せるんじゃなく、2Dを2Dとして3D的な奥行きを演出するというのが、すごく日本画的で美しいんですね。
まるで紙芝居や人形劇を見ているような、平面なんだけど今にも画面外に飛び出してきそうな雰囲気があって、きっとそれは巧みな語りと世界観・音楽との融合の賜物なんだろうとも感じています。是非いろんな方に、そういった部分にも注目して見ていただければと思います。
伯山:まずすごく没入感があるということと、あとキャラクターが可愛いんですよね。塚原監督のキャラクターって、岡本喜八さんがお好きだからか、すごくシリアスな話でもポップで笑えるし、お面を被った敵キャラや戦車まで、どこかかわいいんですよ。僕は「細部に神宿る」という言葉がすごく好きなんですけど、まさに監督が初の長編アニメにどれだけ大事に思いを込めているかを、観客の方にも感じていただけるんじゃないかなと。
すごくこだわり抜いて作られた作品だと思うので、2回、3回と何度も見ていただきたいですね。回を重ねれば重ねるほど秘められた愛らしさに気づけますし、ミステリー的な要素も含まれていたり、何重にもなっている物語の構造もすごくいいなと思っています。老若男女が楽しめる作品になっているので、是非劇場に足を運んでいただければ嬉しいです。
――ありがとうございました。
作品概要