「おジャ魔女カーニバル!!」は子供の素直な気持ちを表現してほしいという発注をしています―― 『おジャ魔女どれみ』ができるまで | 東映アニメーション 関弘美プロデューサーインタビュー【後編】
2024年に放送開始25周年を迎えたアニメ『おジャ魔女どれみ』。今も変わらぬ人気を誇る本作の、第1話が放送されるまでの話を伺うインタビュー企画「おジャ魔女どれみができるまで」。
前編では『おジャ魔女どれみ』という企画の立ち上がりや、クラスメイトの設定の裏話など、正に「おジャ魔女どれみができるまで」のお話を伺ってきました。後編となる本稿では、呪文や見習い服、タップやポロンなどの小道具、そしてあの名曲「おジャ魔女カーニバル!!」についてお話を伺いました。特に「AnimeJapan 2024」でお披露目された新作映像に込めた想いは必見です!
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「全部ぱ行で、ぱぴぷぺぽから始まるものでいきましょう」
――『おジャ魔女どれみ』というと、魔法の呪文も強く記憶に残っています。あの呪文にも何かモデルがあるのでしょうか?
関:佐藤順一監督の子育ての経験からなんですが、子供が一番最初に言いやすい言葉に「ぱぴぷぺぽ」があるんです。あとは「まみむめも」も言いやすいらしいですね。それで、子供の言葉は「パパ」「ママ」「まんま(幼児言葉でごはん)」みたいな喋りやすいもので構成されているんです。だから、呪文に関しても「全部ぱ行で、ぱぴぷぺぽから始まるものでいきましょう(※)」と話しました。
※編集部注:各キャラクターの呪文は以下の通り。
春風どれみ「ピリカピリララ ポポリナペペルト」
藤原はづき「パイパイポンポイ プワプワプー」
妹尾あいこ「パメルクラルク ラリロリポップン」
瀬川おんぷ「プルルンプルン ファミファミファー」
飛鳥ももこ「ペルタンペットン パラリラポン」
春風ぽっぷ「ピピットプリット プリタンペペルト」
ハナ「ポロリンピュアリン ハナハナピー」
――だから呪文は全部ぱ行で始まる形に統一されているんですね。
関:そうなんです。子供って唇を震わせて「プッ!」と怒るじゃないですか。唇を震わせるだけで音が出るから、言葉を理解していない子供でも言いやすい音なんですよ。そういった観察というか、みんなの子育ての経験だったり、あるいは自分の兄弟姉妹との話だったり、そういったものを全て話の中に入れ込んでいくんです。そういうのは誰にでも共通するような記憶なので、そこがみなさんに共感を持ってもらえているポイントなのかなと思います。
――先ほどからお話を伺っていると、スタッフのみなさんの思い出や体験が重要な要素になっているのをひしひしと感じます。
関:ただ、集まるスタッフの中には東京や神奈川みたいな都会で生まれた人もいれば、田舎で生まれ育った人もいるんですね。そうすると当然ですが、思い出にも若干の違いがあったりするわけです。
例えば、当時は田舎だと公立の小学校、中学、高校、という風に公立の学校で過ごすというのがメジャーな考え方だったんです。でも、東京のような都会だと私立という選択肢も出てくるので、受験などをかなり小さいときからやる人もいますよね。こういうことに関しては、スタッフとも都会と田舎の差をどうやって埋めるかみたいな話はしていました。
どれみたちが通う美空小学校は公立ですので、その近くに私立のカレン女学院という学校があって、関先生は昔そこを卒業したらしい(※)という設定にすることで、都会と田舎の差を自然に埋めていくようにはしていました。
そうすることで、はづきちゃんが小学校を卒業して進学先を考える時にも、カレン女学院を選ぶという選択肢を持たせておくことで、東京だけではなく田舎で見ている子供たちにも違和感なく受け止められるようにしたんです。
※編集部注:関先生はカレン女学院の出身で、その時に出会ったシスターに感銘を受けて教師の道を志している。
見習い服のベースはバレエのチュチュ
――そして『おジャ魔女どれみ』と言えば可愛い見習い服もあります。あの見習い服もデザイン検討を何段階も経て現在の形になっているのでしょうか?
関:見習い服に関しては、私が「バレエのチュチュでいきたい」とリクエストして、バレエのチュチュをベースにデザインの候補を出してもらっています。余計な装飾はないけどパッと見てバレエのチュチュにのようで、なおかつアニメにした時に動かしやすいデザインにしてもらいました。
どうしてバレエのチュチュをベースにしたかというと、バレエを知っている国の人だったら、みんな共通項として思い描くチュチュのイメージがあるわけです。
例えば『セーラームーン』であれば、セーラー服というのはどこの国でも海軍や水兵さん、船乗りさんが着る制服なんです。日本人が着るセーラー服は知らなくても、海軍が着るセーラーカラー(前部がV字形に開き、背中に四角く垂れる大きな襟)の洋服というのは、みんな見覚えがあるんですよ。
だから、私は『どれみ』に関してはできるだけたくさんの国で放送してもらいたいと思っていましたので、無印の時には「バレエのチュチュでお願いします」という話をしています。
――ちなみに衣装といえば、無印の時は変身時に「音楽が鳴っている間に着替えないといけない」という制約がありましたが、面白い設定だなと思って見ていました。
関:それもやはり子供の生態からきています。子供は「この音楽が終わるまでに何々をしなくちゃいけない」みたいなことを、実は幼稚園の時にみんなやっているんですよ。お遊戯の時間などに、先生が弾くオルガンが止まった時に一緒にピタッと身体を止めて動いちゃダメみたいな遊びを、私が幼稚園や保育園に行っていた頃から今でもやっているはずです。
――今で言うところの「リトミック(音楽を通して子どもの感性や表現力を育てる教育法)」みたいなものですね。
関:そうそう。言い方はオシャレになっていますが、そういうことをやっていたわけです。だから、音が鳴り止むまでに着替えないといけない、みたいな制約が付くことが子供は大好きなんです。
子供向けの番組を作る人は、幼稚園や保育園とかをよく観察した方が良いですよ。ちゃんと観察していると色々とわかるってくるので、そういう子供の生態をどんどん作品に入れ込んでいました。
――先ほどの都会と田舎の話ではないですが、スタッフさんにも子育て経験の有無とかあると思いますので、そこに共通認識を作るのは大変そうですね。
関:それこそ二十代から三十代で独身の人、あるいは結婚はしているけど子供はいない人とかもいっぱいいたので、やはりそういう子供のことはわからないという人もいました。
そこで、2年目(おジャ魔女どれみ#)で子育てをテーマにやる時には、徹底的に動画を見ながらおしめの代え方とかを学んでいきました。動画と言っても今みたいにYouTubeで探したら一発で出てくるような時代ではないので、おしめを変える様子をカメラで撮影して、それをスタッフに共有していました。
3年目(も~っと!おジャ魔女どれみ)に帰国子女のももちゃんが出てきた時には「お菓子作り」があったんです。でも、ほとんどの男性スタッフはお菓子を作ったことがないんですよ。その時は、私が家からオーブントースターを持ち込んで、スタッフの前でお菓子作りをやってみせて、それを撮影してアニメーターなどに共有しましたね。
だから「今だったらもっと楽にできるのに」と本当に思います。でも、あの頃はそういう方法しかなかったんですよ。
サリーちゃんとアッコちゃんのセオリーで生まれた見習いタップとポロン
――「見習いタップ」や「ポロン」もデザインが可愛くて秀逸だと思っているのですが、あのデザインはどのようにして決まったのでしょうか?
関:これもうちの昔の作品が関係してきます。『魔法使いサリー』のサリーちゃんは魔法のステッキ、『ひみつのアッコちゃん』のアッコちゃんは魔法のコンパクトを使っていました。この二つの作品があったので「それならステッキとコンパクトの両方を出せばいけるんじゃない?」みたいな感じで登場させたんです。
だから、見習いタップは変身用の小道具、ポロンは魔法を使う時の道具、というようにサリーちゃんやアッコちゃんの時のセオリーをそのまま利用しています。
――東映動画時代からのセオリーがあるからこそ、25年経った今でもプレミアムバンダイさんからグッズが出るくらい愛されるんですね。
関:それこそ50~60年くらい前と比べて、おもちゃ自体は作品ごとにデザインが変わったり、ギミックがLEDのランプになったり、音質もすごく良くなったりしてどんどん素晴らしくなっています。ただ、基本はサリーちゃんとアッコちゃんです。