『夜のクラゲは泳げない』連載第8回：劇中歌＆EDテーマ作詞・作曲・編曲・40mPさん｜クリエイターを志す者なら、JELEEの4人の誰かに自分を重ねられる

JELEEの楽曲解説。アレンジ、歌詞に込めた想い

ーー「最強ガール」は、ピアノサウンド以外にも真っ直ぐな花音の歌声とコーラスが印象的でした。JELEEとして最初のレコーディングだったと思うので、花音のボーカルの方向性をどう決めていったのでしょうか。

40mP：アニメ作品などでのボーカルレコーディングでは最初にどのようにキャラに歌声を寄せるかを検討する時間が大抵あるのですが、「最強ガール」はJELEEでの最初のレコーディングだったにも関わらず、そこに時間をかけた記憶は特にないんです。それくらい、高橋さんの歌声がすでに花音そのものでした。

むしろ、その後の「月の温度」と「渋谷アクアリウム」のほうが、花音ならこの曲のこのフレーズをどう歌うかなど、たくさん相談させていただきました。

自分はディレクションで優柔不断になってしまうこともあるのですが、「じゃあ、こうしましょう！」と高橋さんに引っ張っていただくような場面もあって、花音とレコーディングしたらまさにこんな感じだろうな、とふと思ったりしました。

ーー「月の温度」のボーカルの魅力的な部分を教えてください。

40mP：「最強ガール」が構成もメロもかなりシンプルで、チェストボイスで強い表情を見せ続けたのに対して、2曲目の「月の温度」ではファルセットやウィスパーなど花音の色んな表情が見られるような展開を意識しました。

この曲は花音から3人に向けた「ありがとう」や「ただいま」といった飾らない言葉が出てきます。サンドーのセンターとしてたくさんの人に向けて歌ってきた花音が、目の前のまひるやめい、キウイに向けて歌う。花音にとってはおそらく今まであまりやったことのない歌い方であって、それらのフレーズをどんな温度感で伝えるべきか。高橋さんに何度も歌っていただき、曲のキーも変えたりしながら「これだ！」と思うテイクにたどり着きました。

ーー「渋谷アクアリウム」も歌詞のエモさはもちろん、フルコーラスでは後半に向けて気持ちが入っていくボーカルとギターアレンジも印象的でした。特にこだわった部分を教えてください。

40mP：「渋谷アクアリウム」は花音からまひるへの想いが溢れてできた曲で、たとえば2番で出てくるラップっぽいパートは元々めいが作ったメロの中には含まれてなかったけど、「どうしてもこの歌詞をいれたい！」と言って追加した。というように、花音が伝えたいことが先行して曲ができていくイメージで作りました。後半に向けては特にその傾向が強くて、歌詞に合わせてどんどんメロも展開していく形になりました。

歌詞を見ためいがどんな顔をしていたのかは気になるところですが（笑）。

JELEEのオリジナル曲のギターは自分がいつも制作でお世話になっている[TEST]さんに弾いていただいているのですが、あえてテクニカルなことはせず、コードバッキングやシンプルなリフを主体に、花音が頑張って弾いてる感のあるトラックにしていただきました。

サウンドも実機のアンプは使用せずアンプシミュレーターだけで作っています。これもネット音楽を意識したアプローチでしたが、結果的にキウイが作る打ち込みのリズムとの相性も良くまとまったのかなと思っています。

ーー「青一色」の、アレンジ・ボーカル面でのこだわりがありましたら教えて下さい。

40mP：JELEEが匿名アーティストとして駆け上っていく中、初ライブでお披露目する1曲。ということで、メンバー全員の熱量が最高点に達するようなイメージで曲作りをしました。めいのピアノのフレーズもキウイの打ち込みの手数もJELEEの楽曲で一番多くなっています。

また、重厚な雰囲気を出すためにコーラスを他の曲より厚めにしています。たしか、レコーディングではメインのパートよりむしろコーラスの収録の方が時間がかかったと思います。

しかし、順風満帆に思えたJELEEの活動にも逆風が吹いてくる。そんな悲しみや戸惑いもサウンドやボーカルで感じられるような抑揚のある展開を意識しました。

ーー6月26日に発売される『JELEE BOX』はどんな作品になっていますか？

40mP：タイトルの通りJELEEらしさが詰め込まれた作品になっていると思います。

作中で生まれるオリジナル曲だけでなく「カラフルムーンライト」の弾き語りも収録されているのが嬉しいポイントです。JELEEが動き出すきっかけであり、その後も花音の内面を照らし続けるこの曲は、JELEEにとってもファンにとっても大事な1曲に違いありません。

アルバムタイトルは自分からいくつか案を出し、制作サイドでご決定いただきました。

「Jewelry Box（宝石箱）」のようにキラキラ輝く大切なものたち。JELEEのことが大好きな花音ならタイトルでも主張してきそう、とここでも花音視点で考えてみました。

【音楽】TV 「夜のクラゲは泳げない」ミニアルバム「JELEE BOX」/JELEE

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ーー第8話では、JELEEの配信ライブシーンはいかがでしたか？　そのほか、本作でお気に入りのシーンがありましたら教えて下さい。

40mP：現実を生きるまひるや花音たちの等身大の姿と、ネット（仮想世界）での彼女たちの姿。4人が生み出したJELEEというもうひとつの顔と、JELEEを見守ってくれるファンたち。それらの構図がこの配信ライブシーンに集約されているように感じられて、プロデューサーとしてだけでなくJELEEのイチファンとしても感動しました。

特に、4人で手をつなぐところが青春感溢れていて眩しかったです。

お気に入りのシーンはたくさんあり過ぎて難しいのですが、第1話で路上ライブ前に花音がまひるに耳打ちするシーン。第5話の水族館で指切りするシーン。そして、まだ放送前ですが最終話のラストシーンが大好きです！

ーーJELEEの音楽が好きなファンへメッセージをお願いします。

40mP：いつもJELEEの曲を聴いてくださってありがとうございます。

物語の中で花音やまひるたちはたくさん悩みながら作品を作り上げていますが、それと同じくらい自分も悩みながらJELEEの1曲1曲を作らせていただきました。その「悩み」は創作においてとても大事な工程なんだろうなと最近よく思います。

JELEEの4人もこれからまだまだ悩みながら活動していくことになると思います。

彼女たちの悩みと、そこから生まれる作品をぜひ末永く見届けていただけると嬉しいです。

［構成・塚越淳一］

40mP プロフィール

2008年より初音ミクを中心としたボーカロイド楽曲の制作、動画投稿サイトでの発表を開始。
2013年には楽曲「少年と魔法のロボット」がNHK『みんなのうた』にて史上初のボーカロイド曲としてオンエアされる。
自身の楽曲をオーケストラとバンド、歌い手で再構築するコンサート「虹色オーケストラ」を不定期開催しており、
2014年には国際フォーラムホールAにて開催、2016年には松崎しげる氏とコラボレーションした活動も展開。
2015年、『SNOW MIKU 2015』のテーマソング「Snow Fairy Story」を制作。
2017年、楽曲「トリノコシティ」が実写映画化（監督：山口ヒロキ）され、主題歌、劇伴音楽などを自身が手掛けた。
同年、伊藤園が楽曲「だんだん早くなる」を起用した野菜ジュースの販促活動を展開。動画制作などを自らが担当。
2019年、YouTubeチャンネルの動画総再生回数が1億回を突破。
現在はボーカロイド楽曲の制作の他、歌手、アニメ、ゲーム、CM、映画など各方面への楽曲提供や、
専門学校での特別講師、小説やエッセイの執筆・監修など幅広い活動を展開。

□40mP オフィシャルHP
□40mP 公式X

TVアニメ『夜のクラゲは泳げない』作品情報

あらすじ

“私”も誰かみたいに輝きたい。

明日話すべき話題も、今週買うべき洋服も、
全部スマホ（ルビ：トレンド）が教えてくれる。
何者かになってみたい——そんな願いを持つ間もないほどこの世界は忙しい。

活動休止中のイラストレーター“海月ヨル”
歌で見返したい元・アイドル“橘ののか”
自称・最強Vtuber“竜ヶ崎ノクス”
推しを支えたい謎の作曲家“木村ちゃん”

世界から少しだけはみ出した少女たちは匿名アーティスト“JELEE”を結成する。

自分じゃない“私たち”なら——輝けるかもしれない。