感情を科学的に分析し、ファンタジーへ昇華する。新たなヒット作を生んだピクサーのこれから|『インサイド・ヘッド2』ケルシー・マン監督&マーク・ニールセンプロデューサー、インタビュー
2024年8月1日(木)に全国公開される、ディズニー&ピクサーの最新映画『インサイド・ヘッド2』。
シリーズの主人公であるライリーとその感情たちの成長を楽しみ、そして思春期の彼女に訪れた新しい感情たちが繰り広げる"感情の嵐"に誰もが共感する本作は、ピクサー史上最大のヒットを記録しています。
アニメイトタイムズでは、本作の監督を務めるケルシー・マン監督&マーク・ニールセンプロデューサーにインタビューを実施!
大ヒットを記録した本作の制作現場、人間の感情をファンタジーに落とし込んだ本シリーズの魅力、おふたりの感情との向き合い方などをお聞きすることができました。
また、誰でも共感できる普遍的なテーマを描いてきたピクサースタジオのこれからについて伺いました!
新しいアイデアと、科学的なアプローチ、チャレンジングな脚本で作品は進化する
ーー前作の監督であるピート・ドクター氏からこの作品を預けられた時の心境はいかがでしたか?
ケルシー・マン(以下、ケルシー):まさに”ヨロコビ”でいっぱいでした!
まさか私がピクサーで監督ができるとは思っていなかったので、本当に嬉しかったです。世界中で愛された『インサイド・ヘッド』という作品の続編を自分が担当するとは予想もつきませんでした。
ーー前作『インサイド・ヘッド』のラストに「赤い思春期ボタン」が出てきましたよね。『インサイド・ヘッド2』ではそのボタンを鳴らして物語が始まります。導入として、素晴らしいアイデアだと思ったのですが、それは監督のアイデアですか?
ケルシー:先ほども言った通り、一作目には現チーフクリエイティブオフィサーのピート・ドクターが監督をしていて、元々のアイデアは彼のものです。
しかし、当時は続編のことなんて全く考えていなかったので、こういうボタンが出てきたら面白いな、というアイデアのひとつだったようです。
『インサイド・ヘッド2』の監督を任された際に、「観客として何が起こってほしいか」を考えてリストにしました。そのうちの一つとして、あのボタンが実際に鳴っているところを見たいと思ったんです。
やっぱりあるんだから、警報機を使わなきゃ駄目だよねっていうことです(笑)。また、ライリーの頭の中の司令部が一旦破壊されて、改築されるのも面白いんじゃないかと思ってリストに入れていました。
シリーズでライリーの頭の中で起こっていることは「科学」なんです。物語を作っていくにあたって、実際に専門家の方々に取材をしたり話を聞きながら進めていきました。10代の人間の頭の中って本当にいろんなことが起こってるんですよ。
脳神経が壊れちゃったりとか、新しいものが生まれて、それらがくっついたり離れたり、本当にぐちゃぐちゃな状態だそうです。その話を受けて、忙しい工事現場みたいだなと思いました。
ーー監督がピート氏のアイデアを膨らませていったんですね。本作では頭の中だけでなく、現実世界のキャラクターとのやり取りも多かったですよね。その頭の中の物語と現実世界での物語のバランスの配分と意識についてお聞かせください。
ケルシー:そのバランスを取ることに4年ほどかかりましたね。私達スタッフの間では、「三次元チェスをやってるみたいだ」と言われていました。本作の脚本を書くこともすごく大きなチャレンジだったし、編集を担当したスタッフもかなり大変だったと思いますね。
前作では、ヨロコビが主人公のようなポジションでしたが、本作ではライリーの人生も大事な局面に突入したり、新しい友人と古い友人の間で揺れ動いたり。
それにあわせて、頭の中でも新しい感情たちが登場して、彼らのことも描かなければならない。今振り返ってみても、本当にチャレンジングなことだったと思います。
不必要な感情は存在しない
ーー本作では、ヨロコビたちの他にも新しい感情たちが登場します。それによってヨロコビたちが追いやられていくような展開が印象的でした。複雑な感情が生まれると、ヨロコビのようなシンプルな感情たちが抑制されていくことは、実際に私達の体にも起きているのでしょうか?
マーク・ニールセンプロデューサー(以下、マーク):感情の科学的なことは、臨床心理士のリサ・デモーラ氏に相談し色々助けてもらっていましたね。
ケルシー:そうだね。私がこの映画を作る上で学んだのは、いろんな感情があるんだけども、それぞれ理由があって存在していて、どの感情も人間を助けるためにあるっていうことです。リサ氏曰く、「悪い感情はない」と。
シンパイやイイナーのように、付き合っていくことが難しい感情はありますが。その感情自体は悪者ではなく、適切なタイミングで適切な感情を味わうことが人間にとって大事なんです。
何かを不安に思ったり、心配する気持ちは誰でも持っていますが、その感情が私たちの命を守ることだってあるじゃないですか。如何に、感情をコントロールしていくのか、ですよね。
マーク:どうやってそれを手なづけていくかというのは、人間が一生をかけて行っていく仕事だと思います。ライリーの中でヨロコビたちの役割が減っているようにも思えますが、それは違います。
彼女は、これまでと違う種類の喜びを感じているわけです。成長した彼女は物語後半により成熟した喜びを感じている。それは小さい子どもがチョコレートを食べて「やったー!」というものとは違う種類の喜びになっていると思います。
ケルシー:確かにね。若い時は喜びは、すぐに味わえる思うんです。でも、大人になると自ら意図しないと喜びは来ません。喜びを感じることを意識的にやらないといけないですね。
例えば、私が今このインタビューを受けて緊張したり、心配していると感じることもできますが、「自分が誇りに思っている映画について話せる機会なのだから嬉しい!」とか、「日本は素晴らしい国だから訪れることが嬉しいな!」というふうに意図的に喜びを感じるようにしています。自分の人生において、意識的に喜びを感じるのは不可欠だなと思います。