制作は発見の連続、人生と同じだね——これからのピクサーを率いるピート氏が本作に込めた思いとは?|『インサイド・ヘッド2』チーフクリエイティブオフィサー、ピート・ドクターインタビュー
2024年8月1日(木)に全国公開される、ディズニー&ピクサーの最新映画『インサイド・ヘッド2』。
シリーズの主人公であるライリーとその感情たちの成長を楽しみ、そして思春期の彼女に訪れた新しい感情たちが繰り広げる"感情の嵐"に誰もが共感する本作は、ピクサー史上最大のヒットを記録しています。
アニメイトタイムズでは、前作『インサイド・ヘッド』の監督を務め、現在はピクサースタジオのチーフクリエイティブオフィサーであるピート・ドクター氏にインタビュー!
ピクサーを牽引するピート氏に、9年ぶりの続編となる本作に込めたメッセージ、想いをたっぷりとお聞きしました。
最大のヒットを達成した『インサイド・ヘッド2』、前作とは異なるピート氏のアプローチ
ーー『インサイド・ヘッド2』は全世界で大ヒットとなっています。ピートさんの現在の心境と、本作へどのように携わっていたのかを教えて下さい。
ピート・ドクター(以下、ピート):世界でのヒットは嬉しいことこの上ないです。アメリカでも、国際的にもピクサー史上でナンバーワンヒットということですが、作品がヒットするかどうかは、予期できないことです。大ヒットさせてやろうと思っても、中々できることじゃない。毎回最善を尽くして作っているんですけどね。
私は、前作の監督をしていましたが、今回はピクサースタジオのチーフクリエイティブオフィサーという立場で、作品の鍵となる瞬間に関わっていたと思います。
まず最初に、どんな映画にしようかと考えていた際に、ケルシー監督の方から「シンパイ」のアイデアが出てきたんです。また、「自分ってもしかしたら価値がないんじゃないか」という人間が抱いてしまう不安(心配)を描いてはどうかと。
私は、そのアイデアに対してGOサインを出して、そこから一歩退いて見ていました。徐々に、ケルシー監督のチームの方で脚本やストーリーボードが出来上がっていって、できたものを私に戻してくれる。
いわば、最初の観客として、観客の代理人として、監督等が作ったもの見て「ここはちょっと笑った」「ここはちょっと混乱した」「ここは感動したかったのに、なぜかできなかった」などと意見を出して、共に分析するチームの一員になりましたす。
もちろんアイデアを出したりすこともあったんですが、基本的には「作品に起こっている問題が何か」をクリアにして伝え、後は監督のチームに答えを出してもらう。そのような感じで、皆みなの背中を押していました。
ーー本作は、新しい感情たちが登場しますが、監督や制作チームからキャラクターたちのアイデアがあがってきた際に、驚いたこと、意外だったことはありますか?
ピート:やっぱりシンパイですかね。シンパイはキャラクターのデザインを見ても非常にユニークで、他のキャラクターたちとは違うデザインだったと思います。しかし、キャラクターを単体でデザインするわけじゃないんですよ。他のキャラクターとのバランスを見なきゃいけない。
例えば、ヨロコビやカナシミなど複数のキャラクターがひとつの画面に映ってることが大半なので、一緒にいる時にキャラクターを差別化して、成立させなければいけません。そんな中で、飛び出るような大きな目玉と、オレンジ色の髪の毛っていうそのルックスが最高でした。デザインを見た瞬間に「シンパイはまさにこうだな」と思いました。
ーー本作では、キャラクターアートディレクターとして、日本出身である村山佳子さんを起用されています。村山さんのお仕事に対する印象はいかがでしたか?
ピート:彼女のデザインするキャラクターは、本作に限らず素晴らしいですが、今回はハズカシが個人的に良かったです。
体があんなに大きくて、恥ずかしくて隠れたいのに大きすぎて隠れられないっていう、アイデアは最高だなと。イイナーも良かったですね。小柄なキャラクターなので、感情の操作パネルに手が届かなかったりとか(笑)。
自分にないものを欲しがっているキャラクターになっていて、目のデザインも日本のアニメに影響を受けたかのような、輝きというか、少女漫画的なものを感じました。自分が欲しいものに対してキラキラと憧れを抱いているのが、ビジュアルで伝わって来ます。
ーーピートさん自身もシンパイやイイナーと思うことはありますか?
ピート:今はイイナーよりも、シンパイのほうが多く感じているかな(笑)。このふたつは、どちらもネガティブな感情として捉えられるけど、ポジティブな側面もあるっていうことを、この映画で表現しているつもりです。
例えば「その筋肉羨ましいな」「髪の毛が綺麗で良いな〜」って思った時に、そのままにしておくと良くないかもしれませんが、ジムに通い始めるとか、見た目を綺麗にしてみるとか、イイナーと思ったことを達成したい、目標を作ったり、実際に行動ができますよね。それは健康的なことだと思います、もちろん悪い方に転がることもあるけれどね(笑)。
制作過程は発見の連続。自己を受け入れるというテーマ
ーー前作『インサイド・ヘッド』から登場していたキャラクターの成長や変化を感じました。ライリーと共に、ヨロコビたちも成長するという展開は本作を制作する上で、意識していたのでしょうか?
ピート:はい、それは考えてました。例えば、今回の作品では、一作目で見られなかったヨロコビが怒るシーンとか、「どうしていいかわからない」と不安な気持ちになっていることを認めたりします。キャラクターたちが何を象徴しているのかを守りながらも、彼女たちの限界を押し広げたいという風にも考えていました。
ヨロコビには、「ライリーが成長しても、問題なんか起きるはずがない!」という盲目的といいますか、楽観主義的なところがあるじゃないですか。この作品では、思春期を描くということもあって、楽観主義的ではないヨロコビを描きたいと考えていましたね。
とはいえ、ルールや展開のリストをあらかじめ作ってから、物語や展開を決めていたわけではありません。どちらかというと感覚的。
みんなで探りながら、「これいい感じだな」「予想もしてなかった展開だけど、これは映画の核心なんじゃない?」という風に話しながら作っていました。
制作過程自体が発見というか、新しい何かをみんなで見つけ続けているような感じでした。人生と同じだね!
ーー監督のコメント等にもありましたが、本作は「自分自身を受け入れる」というテーマになっています。このメッセージはいつ発見されたのでしょう。
ピート:前作の公開後には、次の作品は一切考えてなかったんです。でもその後、ケルシー監督にいくつかアイデアを出してほしいとお願いして、出てきた一つが思春期でした。ケルシー監督は「前作のラストに出てきた思春期のアラームを鳴らしたい。そして「他にどんな感情があるのか、掘り下げてみたい」っていう風に言っていたんです。
ライリーの年齢的にも思春期を迎えるタイミングなんですが、例えば、生まれた時の私たちは親や保護者に愛されたり、支えられたりして生きることが多いわけです。ライリーくらいの年齢になると、ひとりで世界に飛び出していかなければいけなくなります。
そうすると、それまで自然と受け入れられてきたのに、今度は受け入れてもらわなければいけないわけですよ。誰かと共に生きるために頑張らなければいけない。だからこそ、他の新しい感情が現れるのだと思います。
自己意識のようなものが生まれはじめ、特定のグループに自分が合わないなとか合わせるために、ここは自分を変えなきゃとか色々考えてしまう。それをある程度するのは自然なことだと思います。やっぱり人間っていうのは、コミュニティ、集団、共同体みたいなものの一員でいるために、個人としてちょっと犠牲を少々払わなければいけないかもしれない。
それと同時に、ありのままの自分でいたいですよね。生まれつき、誰だってユニークな個性を持ち合わせていて、ある種人生のゴールというのは、そのユニークさをどう表現するかっていうことだと思うんです。
なんだけれども、ありのままの自分でありながら、その周りの世界にうまくフィットしていく。自分を受け入れてもらうというのは、誰もが抱えている物凄く難しい問題で、はっきりとした答えがないんですよね。だからこそ、本作のメッセージは多くの人に響くのではないかと思います。