映画
山田尚子監督が『きみの色』で伝えたいメッセージ【インタビュー】

「好きなものは好き」という気持ちはエバーグリーンなもの。「年齢や性別とかまったく関係なく、心(しん)で通じ合えるものってあると思うんです」ーー『きみの色』で伝えたい、山田尚子監督が描いたメッセージ【インタビュー】

ヒロインのトツ子は、人が「色」で見える。 嬉しい色、楽しい色、穏やかな色。 そして、自分の好きな色――。

山田尚子監督の最新オリジナル長編アニメーション映画『きみの色』が2024年8月30日(金)に公開されます。

『映画けいおん!』『映画 聲の形』などを手掛けてきた山田監督ならではの「音楽×青春」物語。第 26 回上海国際映画祭では金爵賞アニメーション最優秀作品賞受賞、またフランスで行われたアヌシー国際アニメーション映画祭2024長編コンペティション部門へ出品されるなど、世界中から注目を集めています。

初夏の匂いが漂いはじめた頃、山田監督に直接お話を伺えることに。本作についての想いを聞くと、トツ子が人に感じる淡いパステルカラーのような柔らかい口調で語りだした山田監督。しかし、その内容は原色のような力強さ。その創作過程が次第に浮き彫りになっていきます。

※本インタビューには、物語の結末に関する話題があるため、映画鑑賞後に読むことをオススメします。

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わたしが惹かれるのは、あなたの「色」。高校生のトツ子は、人が「色」で見える。嬉しい色、楽しい色、穏やかな色。そして、自分の好きな色。そんなトツ子は、同じ学校に通っていた美しい色を放つ少女・きみと、街の片隅にある古書店で出会った音楽好きの少年・ルイとバンドを組むことに。学校に行かなくなってしまったことを、家族に打ち明けられていないきみ。母親に医者になることを期待され、隠れて音楽活動をしているルイ。トツ子をはじめ、それぞれが誰にも言えない悩みを抱えていた。バンドの練習場所は離島の古教会。音楽で心を通わせていく三人のあいだに、友情とほのかな恋のような感情が生まれ始める。周りに合わせ過ぎたり、ひとりで傷ついたり、自分を偽ったり―やがて訪れる学園祭、そして初めてのライブ。会場に集まった観客の前で見せた三人の「色」とは。2024年夏、好きになる。作品名きみの色放送形態劇場版アニメスケジュール2024年8月30日(金)キャスト日暮トツ子:鈴川紗由作永きみ:髙石あかり影平ルイ:木戸大聖シスター日吉子:新垣結衣百道さく:やす子七窪しほ:悠木碧八鹿スミカ:寿美菜子作永紫乃:戸田恵子スタッフ監督:山田尚子脚本:吉田玲子音楽・音楽監督:牛尾...

“観ている人の心に寄り添える”ような作品に

ーー『きみの色』を拝見させていただきましたが、最後は涙が止まりませんでした。素敵な作品をありがとうございます。

山田尚子監督(以下、山田):嬉しいです。ありがとうございます。

ーーどのようなインスピレーションから、本作が生まれたのでしょうか?

山田:オリジナル作品に挑戦できることになって。とても大切にしたいところとして、“観ている人の心に寄り添える”ような作品にしたいと思いました。それでいて、知っている感情で在りたいという想いもありまして。だから、無理せず、大切なものを深く描きたいと考えました。……何と言うんでしょう。なるべくシンプルに、難しくなく、何か大切なものが描けたらいいなというところから始まりました。

ーー「無理せず」というワードは、どういう想いから出てきたものなのでしょう。

山田:スケールを大きく設定しなくてもいい映画と言いますか。もっと身近なもの。その中にも宇宙があるのではないかと思っていて。

ーー無理やり繋げてしまう形になるかもしれませんが、その「宇宙」を山田監督は「色」で表現した、とも言えますか。

山田:そうかもしれないです。1つの意味に限定しない、言葉にしてしまわないために色を選んでいます。色は光の粒子なので、間違いではないですね(笑)。

ーー本作が発表になった際、山田監督は「映像で観ていただくために言語化するということをしないようにと。時間と色と動きと、何か感覚的なものを受け取っていただける映画にしたかったんです」というコメントも寄せられていました。あえて言語化しない、というのは山田監督のこだわりなのでしょうか。

山田:そうですね。自分自身、言葉を使うのがあまり上手くないというのもありますが、発した言葉によって意味が限定されてしまうことがあるんですよね。「それが言いたかったんじゃなくて、側のところに本当の意味があったんだけどな」と思うような言葉でも、それが言葉として出てしまった限りは、やはり限定されてしまう……そういうことってあるじゃないですか。

ーー分かります。今のSNS社会で余計に痛感するところです。

山田:本当にそうですね。ひらがな1つでも方向性ががらっと変わってしまう。特に「そうじゃない」という方向に全力で行ってしまうことがあるので(苦笑)。そういった言葉で限定されたものは、意外と芯を食っていなかったりする。そこへの焦りや苛立ちがどうしてもあったので、もう少し無意識でもちゃんと感じてもらえる、想像してもらえる、限定しないものを求めていました。

ーーそれを最初はどなたに相談されたのですか?

山田:脚本を作る段階で吉田玲子さんに相談しました。

ーー音楽も大きな役割を果たしていますが、牛尾憲輔さんにも早い段階で相談されたのですか?

山田:今回はシナリオが決まってから具体的にお話をしました。(思い出すように)そうですね、うん。実はもう随分と前のことなんですよ。だから時系列がどうだったかなと。

ーーさきほどの言葉にまつわるお話は、コロナ禍でのコミュニケーションの取り方の変化も影響があったのかなと。

山田:あると思います。コロナ禍でSNSの普及が加速して、人が文字に頼ることが増えたように感じます。またコロナ禍という普段とは違う環境に置かれていることもあって「このひとはこういうことを考えていたんだな」と、思わぬ一面を見る瞬間もあって。直接話せないこともあり、どうしても人と人との心の距離が、一枚噛まれた状態になってしまうんですよね。どんなに仲の良かった人でも、良くも悪くも意外な一面が見えてしまうというか。未だにそれが尾を引いているところもあるんですよね。「ご飯誘って良いのかな?」とか。

ーー分かります。人との距離が遠くなってしまったと感じることが増える中で、気軽に声をかけて良いのかなと一歩立ち止まってしまうことも。

山田:そういった流れにモヤモヤしていたところがありますね。自分にとっての怒りではあるのかもしれません。人と人とがちゃんと話し合えたり、音楽を奏でたり……ちゃんと信用しあえる仲があるってとても大事だなと思っているので……ある意味、社会派?(笑)

ーー社会へのアンチテーゼと言えるかもしれない? 

山田:ふふっ。

ーーでも本当に、そう思うところがあります。それこそ、今回も信頼できる方々との制作といえるのではないでしょうか。

山田:はい、本当にありがたいことに。だからこそ落ち着いて作業を進めることができました。制作・プロデュースを手掛けてくださったサイエンスSARUさんは、前作「平家物語」(監督・絵コンテ等)やオリジナルショートアニメ(『Garden of Remembrance』監督・脚本)で一緒に制作をしていて。チーム感が出来上がってきたところだったので、そういった意味でも、安心して、背中を任せられる人たちとお仕事できたという感覚があります。

ーー吉田さんの存在も大きかったのではないでしょうか。

山田:はい。いつものことではあるんですけども(笑)、大きい存在です。吉田さんはいつも新しいことを考えていて。自分にとってはお姉ちゃんのようであり、孫悟空のお釈迦様的な存在でもあります(笑)。ああだこうだと言っても、吉田さんの手中といいますか、吉田さんの愛の中に在るような感じで、とても頼りにしています。

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