秋アニメ『チ。-地球の運動について-』坂本真綾さん(ラファウ役)×津田健次郎さん(ノヴァク役)×速水 奨さん(フベルト役)座談会|津田さんいわく「この作品を見て、あなたの地球を動かしてください」
第26回『手塚治虫文化賞』のマンガ大賞ほか数々の賞を受賞している魚豊(うおと)先生の『チ。-地球の運動について-』がアニメ化し、2024年10月より放送中!
『チ。-地球の運動について-』は、15世紀のヨーロッパのある国は天動説が絶対で、地動説を唱える人はすべて異端者として処刑されていました。そんな中で飛び級で大学進学も決定していたラファウが、異端思想で捕らえられていたフベルトと出会い、天体と地動説にひきつけられ、異端審議官のノヴァクに目をつけられながらも自分の探求心に向き合い、純粋に地動説を学んでいく物語です。
アニメ化と放送開始を記念して、ラファウ役を演じる坂本真綾さん、ノヴァク役の津田 健次郎さん、フベルト役の速水 奨さん座談会をお届けします。アニメ化の前から本作を知っていた坂本さんと津田さんの熱意と、演じる前に原作を読まなくてよかったと語るほど強い影響を感じたと語る速水さんの語る言葉と、作品へのあふれる想いを感じてください。
アニメ化が決まって、想いの強さが自身に返ってきたという坂本さんと津田さん。演じる前に原作を読まなくてよかったと速水さんが思った理由とは?
――坂本さんと津田さんは出演が決まる前から原作を読まれていたそうですが、アニメ化が決まった感想と出演されることになった時のお気持ちをお聞かせください。
坂本真綾さん(以下、坂本):マンガがあまりにも素晴らしかったので、アニメ化すると知った時は「ちゃんとやってよ」と思ったと同時に「本当にできるのかな?」という気持ちでした。「この作品をアニメで動かすと、どういう風になるのかな」と思いましたし、セリフがそぎ下ろされているので「必要がないセリフがまったくないのに、全部詰め込んでできるのかな」と思ってしまいました。
そしてオーディションのお話をいただいた時に自分が関われるとしたらヨレンタさんしかないと思っていましたが、ラファウ役を女性が演じるというイメージがおありだったことは意外でした。でも難しい役だからこそ、すごくやりがいがあって、一生懸命やりたいなと思って挑みました。
現場ではすごく原作へのリスペクトを感じる作り方だったので、嬉しかったし、キャストも少なくて、一人ひとりのセリフがすごく多くて長いので、緊張感がある雰囲気もむしろ心地よくて。良い作品が良い形でアニメ化されるのは嬉しいなと思いながら携われる喜びも感じました。
そしてアニメ化される前に思った「ちゃんとやってよ」が自分に返って来て「お前ちゃんとやれよ」と気が引き締まりました。
津田健次郎さん(以下、津田):作品の中に漂う雰囲気をそのまま描写することや構成的なおもしろさをアニメではどう表現するのかなとか、アニメ化はすごくハードルが高いだろうなと思っていました。だからスタッフさんもすごく緊張するだろうなと思っていたら、スタッフさんの「絶対に良いアニメにするんだ」というめちゃめちゃ熱量の高さを感じました。
そして僕も真綾ちゃんと同じで、演じる人はちゃんとやってほしいという想いがブーメランのように自分に返ってきたので(笑)、しっかり頑張らなきゃと思いました。
――ノヴァク役が好きとのことでしたが……。
津田:ノヴァク役に決まって嬉しかったんですけど、同時に「これは大変だぞ」と(笑)。とても素敵な役で、特に第1話の収録はすごく覚えています。ノヴァクは作中で年をとっていくので、最初のほうは「あまり圧をかけないでください。生活人であるノヴァクのほうに寄せて明るくやってください」と言われたことがとても印象的でした。
――速水さんは原作を読まれたタイミングは収録に入ってからですか?
速水 奨さん(以下、速水):初めてのこの作品のことを知ったのはオーディションの時で、収録が終わってから全巻読みました。
津田:じゃあ、ホヤホヤですね。
速水:うん(笑)。ヨーロッパのとある国を舞台に描いていますが、僕自身も収録ではフベルトをヨーロッパの人として演じていました。でも原作を読んでいるうちに、日本人の気持ちで読めたんです。むしろ今の日本の感覚や言葉、「ちょろい」など現代語をうまく取り入れていて。それが物語の悲しみや残酷さを緩和しつつ、でも言葉では緩和できない感情がずっと色濃く表現されているのが素晴らしいなと思ったし、演じた後に読んだことによって、「こうすればよかった」と一つも思わなかったことがむしろ幸いだったなと思っています。
一見異常に見えるノヴァクが実は「ノーマル」で、ラファウとフベルトが「異常」!?
――ご自身が演じるキャラの印象と演じる際に意識された点をお聞かせください。
津田:ノヴァクを演じるにあたって、重厚感があったり、恐怖の対象であることを強く意識していました。でも生活人である部分がより重要になってくるんだなと現場に入って改めて立ち上げ直した感じでした。現代日本に生きる僕らの視点からノヴァクを見ると非常に狂気を感じますし、異常性も高いとは思いますが、この作品の世界の中では彼がノーマルで、ラファウとフベルトのほうが狂人で異端であると描かれています。
だからノヴァクはノーマルの人であるところを重要視すべきで、流れの中で当たり前のこと……異端者を拷問することも追い詰めていくことも普通の仕事であって、警察官は犯人を捕まえることと同じことで、至って当たり前のことなんだというのが重要なんだと再認識して、立ち上げ直して、アプローチしました。
坂本:ラファウと同年代の子たちと比べると、ふかんで物事を見て、どうやったら大人にかわいがられるかとかどうやったら要領よく生きられるのかを直感的に知っていて。いろいろなことをわかったつもりで、周りの人よりは大人びたところもあるけど、フベルトと出会い、地動説に出会って、本当に夢中になれることに向き合った時に、段々ともっとピュアなものにそぎ落とされていって。
後半ではスッキリ自分で幕をひいていく時には後悔がまったくないところは空を見て美しいと思う延長線上にすべて迷いなく決断できるようになっていって。最初に比べると成長しているけど、逆にどんどんピュアになっていくところがおもしろい変化だなと思いました。
原作を読んだ時、男の人が演じるほうが正解だと思っていたので、女性が演じることは意外でした。でも、もしかしたらラファウはまだ子供で、幼さみたいなものも感じられることによって、コミック1巻の表紙になっているラファウがこんなに早く死を選ぶことはショッキングな展開だったと思いますが、こんなに若い、これからの人が死を選ぶのは幼さがあるからこそ際立つのかなと思うと、子供っぽさみたいなものもちょっとあったほうがいいのかなと演じながら考えていました。
最初は私とは違う年齢や性別をすごく意識していましたが、物語が進んでいくと共にスッキリとした目になっていく描写の中で、そういうことは忘れて、とにかく一つひとつのセリフを素直にウソがなくなっていく彼を、私も素直に演じられたらいいなと思いながらやっていました。
速水:台本を読んだだけではわからないことがありまして、リハーサルの映像を見てもまだわからなくても、スタジオに行ってみんなと一緒にマイク前に立ったらわかることが結構あります。
そういった意味ではフベルトも登場した時の絶対的な肉体の大きさを、しゃべる前にまず感じたので、そうすると発声の仕方も変わってきます。自分が2メートル近い大男で、屈強な肉体を持っているけど、痛めつけられて、いろいろなところにダメージを受けているけど、まずそこが第一印象として僕の中に入ってきて。「家でやってきたことと違うな」という違和感がありました。
そして坂本さんや津田さんの演技を聞きながら改めて感じたのは、「異端審問官がすべてを賭けて追いかける存在である異端者って何だろう?」と。でもそれは純粋であるがゆえにより敵視される中で「強さと何が必要なんだろう?」と演じながら考えていました。結局は純粋な好奇心と自分が得た知識をつなぐこと、そこにフベルトはいるんだなと。ラファウにつなぐわけですが、それは負かもしれないし、プラスかもしれない。でもつなぐことに純粋に生き、知を追究するために刹那を生きているピュアなところを演じられたらいいなと思っていました。