2ページ目：『夢中さ、きみに。』ミステリアスで気になる林＆二階堂をめぐる作品の魅力

本作の前半4編は『夢中さ、きみに。』のシリーズで、中高一貫男子校・鐘亀高校に通う高校2年生の林美良を中心とした物語。

1話目の「かわいい人」は、林が授業中に『クマと遭遇したら』という本を読んでいて先生に没収されるシーンから始まり、この様子を見ていたクラスメイトの江間譲二は「本を読んでた僕がかわいかった？」と林から特殊な絡まれ方をしています。

時は遡り、1ヶ月前のこと。運動会での借り物競走で“かわいい人”というお題を引いてしまった江間でしたが、周りを見渡しても男子校なので“かわいい”がひとつも見当たりません。ここは笑いに持ち込むかと考えていたところ、ふと視界の隅に入ってきたのが“なぜか網に絡まってる林”。

端正な顔立ちの林が無言で網に絡まりながら佇む姿は非常にシュールで、江間の視界の奥で静かに存在していて何とも言えないおかしさが生まれています。

そんな気になる状況になった経緯を本人から教えてもらったものの、江間はもう面倒くさくなってそのまま林を借りていくことに。それ以降、林はことある事に「僕かわいい？」と絡んでくるようになったのです。

行動や思考の読めない林に惹かれていく

ミステリアスな林は冒頭シーンから目を惹き、最初の数ページで彼の魅力に取りつかれるはず。しかし、さらに凄いのはここから。

林の生態が徐々に垣間見えるようになり、知れば知るほどに“この人何考えているんだろう”という興味や好奇心を掻き立てられていく。

「かわいい人」は江間の視点ですが、他の3編はそれぞれが別の人物の視点によるものです。男子校が舞台なので登場人物の大半は男子ですが、2話目の「友達になってくれませんか」では、読書を愛する女子高生・松屋めぐみが本を通じて林と交流していく展開に。

4人がそれぞれ林という人間が気になる存在となっていくなかで、読んでいるこちらもその魅惑的な人物像から目が離せなくなります。林のSNSのアカウント名や投稿センスも独特で本当に気になって仕方がありません。読み終わる頃にはきっとあなたも彼に夢中です。

妙な噂の立つ「二階堂」がうしろの席に召喚

続いて後半4編は、男女共学校の戸塚高校が舞台。妙な噂の立つ高校2年生の二階堂明と、彼の前の席になった目高優一との関係を描く『うしろの二階堂』シリーズを収録。こちらはシリーズを通して、主に二階堂と目高の奇妙な友情に焦点が当てられています。

ジメジメした不気味なオーラを纏い、クラスの内外から忌み嫌われている二階堂。噂というものは伝言ゲームのように形を変えて広まっていくもので、彼と関わるとその人は何かしら災難に見舞われるとして怖がられていました。席替えをして二階堂が“うしろの席”になったことで、目高は鬱々とした気分になります。

友情以上の感情が繊細に描かれる

ある日、目高は小学校時代の同級生と偶然再会し、同じ中学だったという二階堂についての信じがたい情報を入手。その後送られてきた写真を見て、目高は一気に二階堂への好奇心が高まっていきます。それからというもの、目高は積極的に二階堂と関わるようになり距離感も徐々に変化。

目高の二階堂に対する好意的な感情、一方で二階堂が目高にだけ見せるようになる顔もグッとくるポイント。本作前半の林もそうなのですが、二階堂も“かわいい”です。目高が二階堂をどう見るようになっていくのか、このあたりは明確に見える部分もあってドキっとしてしまいます。

秘密を一つ、二つと共有していく二階堂と目高。“友達以上の感情”が繊細に描かれており、二人だけの時間も愛おしいものです。絶妙な領域の萌えを与えてくれる本作は、時に笑いを誘い、ほんのりホラーも仕込まれていて、色んな意味で平常心でいられない濃厚な作品です。

コミックス『夢中さ、きみに。』

『カラオケ行こ！』『女の園の星』もオススメ

『カラオケ行こ！』『夢中さ、きみに。』の2作品のTVアニメ化が発表されて、キャストをはじめ今後の続報も気になるところですね。ぜひ原作コミックスも併せてお楽しみください。

さらに和山先生の代表作のひとつ『女の園の星』もオススメ！　秋の夜長に、和山先生の世界観にどっぷりと浸るのはいかがでしょう。

『カラオケ行こ！』『ファミレス行こ。』

『カラオケ行こ！』は、合唱部部長の中学3年生・岡聡実と四代目祭林組若頭補佐・成田狂児の深まる関係を描いた物語。絶対に歌が上手くならなければならない狂児は聡実をカラオケへと拉致し、歌の指導をしてもらうことに。

多くのファンから熱狂的に愛される作品で、狂児役を綾野剛さん、聡実役を齋藤潤さんが務めた実写映画（2024年1月劇場公開）も大反響を呼びました。現在「コミックビーム」（KADOKAWA）で続編『ファミレス行こ。』が連載中です。

『カラオケ行こ！』

〈あらすじ〉
合唱部部長の聡実はヤクザの狂児にからまれて歌のレッスンを頼まれる。
彼は、絶対に歌がうまくなりたい狂児に毎週拉致されて嫌々ながら歌唱指導を行うが、やがてふたりの間には奇妙な友情が芽生えてきて……？
話題の作品が描き下ろしを加えて待望のコミックス化!!

『ファミレス行こ。上』

　
〈あらすじ〉
あの、「地獄のカラオケ大会」から４年――。

大学１年生の岡聡実くんは、東京で「普通の大人」になるべく学業に勤しんでいた。
しかし、ひょんな出来事から始めた、深夜のファミレスのアルバイトをきっかけに奇妙な縁は、再びめぐり始める。バイト先のファミレスに現れるマンガ家・北条先生、マンガオタクでバイトの先輩・森田さん、そして、あの夏の日に出会ったヤクザ・成田狂児など、個性豊かなメンツが聡実くんの日常に関わってきて……。

『女の園の星』

現在「FEEL YOUNG」（祥伝社）にて連載中の『女の園の星』は、「このマンガがすごい！ 2021」オンナ編第1位をはじめ数々の賞を受賞している大人気漫画です。

とある女子高校の国語教師・星先生と生徒たちによって繰り広げられる日常がなんとも面白くて、声に出して笑ってしまうほど。登場する先生たちの本音やプライベートも気になる魅力の詰まった作品です。コミックスは現在第4巻まで発売中。

〈あらすじ〉
「声を出して笑った」の声、続出!!!
漫画賞総ナメ『夢中さ、きみに。』の和山やま初連載！
ある女子校、２年４組担任・星先生。生徒たちが学級日誌で繰り広げる絵しりとりに翻弄され、教室で犬のお世話をし、漫画家志望の生徒にアドバイス。時には同僚と飲みに行く…。な～んてことない日常が、なぜこんなにも笑えて愛おしいんでしょう!?どんな時もあなたを笑わせる未体験マンガ、お確かめあれ！

TVアニメ『夢中さ、きみに。』作品情報

イントロダクション

中高一貫の男子校に通う江間譲二は、体育祭がきっかけで風変わりなクラスメート・林美良から変な絡まれ方をされるようになる。

共学高校に通う目高優一は、校内で忌み嫌われている不気味キャラ・二階堂明が後ろの席になり、憂鬱な気分を抱えていた……。

思春期ならではの人間模様が織りなすオムニバス・ストーリー。

スタッフ